テレビ創成期から半世紀。手書きテロップが紡いだ「番組の顔」を、CGの最前線で守り続ける
名古屋市東区に本社を置く株式会社東海タイトル・ワン。1976年の設立以来、テレビ放送のタイトル・テロップ制作を軸に、番組の「顔」を支え続けています。代表の平澤 敦(ひらさわ あつし)さんは物理学科出身という異色の経歴を持ち、手作業全盛の時代から写植機、ワープロ、そしてCG・3DCGへの技術革新を現場でリードしてきました。平澤さんに創業のルーツからキャリアの軌跡、現在の挑戦、そして次世代へのメッセージまでを伺いました。
テレビ局美術部門の独立から生まれた創業の歴史
会社の成り立ちとこれまでのキャリアを教えてください。
東海タイトル・ワンは、名古屋のテレビ局の美術部門で働いていたスタッフが1976年に独立して立ち上げた会社です。その設立者である美術スタッフが働いていた1950年代後半は戦後のテレビ創成期で、いろいろな業界から才能をかき集めて番組を作っていく時代でした。テレビ局に入る前は、映画の看板を描く職人だったそうです。
その後、テレビ局の体制が形づくられていくなかで、局内でも「今後どうしていくか?」という話になったそうです。そこで、独立を選んだ人々がこの会社を興したという経緯を聞いています。
筆とポスターカラーから始まったアナログ時代の記憶

入社時の仕事や当時の技術について詳しく聞かせてください。
入社当時は手書き班と写植・写真班で作業していて、私は写植・写真班に配属されました。もともと、番組内のフリップや地図、テロップは、すべて筆とペン、ポスターカラーを使って手書きで制作していました。「溝引き」という素早く正確に描く技術で線を引いたり、黒紙に白いポスターカラーで文字を描いたり。写真ほどの大きさの紙に、テレビ画面へきれいに映る範囲を意識しながら文字や図を描いていたんです。
その後、写植機が出てきてからは、文字をフィルムに投影・現像し、切り貼りしてテロップにする時代になりました。しかし、機械で文字が扱えるようになったとはいえ、文字間隔も細かく調整するなどまだまだ手作業の多い時代でした。
やがて、コンピューターグラフィックス(CG)が登場し、テレビ局でもテロップ制作がデジタル化。私もその波に乗り、報道番組を皮切りに、2DCGから3DCGへと表現の幅を広げていきました。1980年代後半には約3000万円のCG機材が導入され、後輩と試行錯誤を重ねながら、実写映像とCGを組み合わせた番組オープニングタイトルなど、新しい表現にも挑戦しました。

物理学からテレビの世界へ。意外な入社のきっかけ
子ども時代や学生時代、どんな夢を持っていましたか?
子どもの頃は、発明家のような科学者か漫画家に憧れていました。特に好きだったのが、映画『ゴジラ』に登場する芹沢博士。未知の技術を生み出そうと研究に打ち込む姿にひかれていました。漫画家でいうと、なんといっても手塚治虫先生でした。
大学では物理学を専攻し、「光や時間ってどんなものなんだろう?」と考えながら勉強していましたが、数学の難しさに自分の限界を感じていました。そこで、もともと好きだった“絵を描くこと”を生かし、「目に見えて、楽しいものを作ろう」とこの世界に入りました。
大学での学びと入社の経緯は?
大学の卒業研究では教授のホログラフィー実験装置を使い、レーザー光線でプラスチック製の模型を撮影・解析する論文を書きました。
新卒で東海タイトル・ワンに入社したきっかけは、大学の先生と会社の先輩が茶飲み友達だったことです。先生が「研究室に面白いやつがいるから面倒を見てくれ」と紹介してくれたそうです。実は大学2年までテレビを持っていなかったので、当時のテレビをあまり見たことがないまま入社しました。
そこから現場を中心にキャリアを重ね、代表に就任したのは2006年のことです。

現在の事業内容と3本の柱
現在の事業内容と強みを教えてください。
テレビおよび映画のタイトル・フリップ・テロップ作成、そのオペレート、各種宣伝、広告のデザインが主な事業で、従業員26人で回しています。報道、制作、そしてスポーツ(プロ野球中継などの生放送)の3本柱でいかに私たちならではの価値を発揮していくかという問いに向き合い続けています。
私たち自身の強みは、歴史に裏打ちされた母体の安定と「臨機応変さ」だと思います。今までも世のニーズに合わせてどんどん変わってきました。放送の本番中に急な修正が入ることもありますが、「なんとかしよう」と現場力で対応します。テレビ局の内部で番組制作を支える立場だからこそ、一般的な制作会社では対応が難しい仕事まで担えると感じています。
AI時代への向き合い方とテレビの未来
新しい事業領域やAIへの取り組みはありますか?
今は、AI時代におけるテレビ業界の変化に食らいついていく状況ですね。公共の電波でお伝えしている以上、AIの使用は正確性や著作権を厳しく考えなければなりません。個人で使う分にはAIは便利でいいのですが、スタッフとともにAIの適切な活用方法を模索し始めています。手間が省ける部分は間違いなくあるので、うまく使いこなしたいですね。
「正しく・速く・美しく」をこれからも
これからどんな会社にしていきたいですか?
変化に強くなければ生き残れないと思っています。ただ、仕事をする上で「正しく・速く・美しく」という三つは変わらず大事にしていかなければいけない部分です。
テレビ局は、情報の「正しさ」が命。私たちはその信頼の土台を支えつつ、美術的な見栄えの「美しさ」、速報性に応える「速さ」を追求しています。この三つはどんなに時代が変わっても外せません。
これは昔から言っていたことですが、今回のインタビューで原点を再確認しました。そこだけは忘れてはいけないアイデンティティです。

一緒に働くスタッフに求めることはありますか?
コミュニケーションをしっかり取れるようになってほしいと思っています。昔は職人さん気質の社員がそれぞれ独立して役割を担っていましたが、CG制作の時代になると分業化が進み、チームワークが重要となりました。忌憚(きたん)なく意見を言い合える関係が理想ですね。
採用は中途よりも新卒が多い状況です。特殊な機材を扱う、唯一無二の仕事だからこそ、デザインの基礎能力があれば社内で教育していくスタイルにしています。
AIに使われず、使いこなす。新しい段階に進むことを忘れないで
最後に、世の中のクリエイターへアドバイスやメッセージをお願いします。
これからは「クリエイター」を名乗るのが非常に難しい時代になっていくと思います。「AIと比べてどうなの?」と常に言われるでしょう。でも、AIをどんどん使い、使い倒して、さらにその上を目指すしかありません。使われるんじゃなくて、使いこなす側に立つことが重要です。AIにダメ出しできるのは人間だけだと思います。
私は今65歳ですが、チームメンバーとともに次世代のDX化を始めています。若い方々には、常に挑戦し、新しい段階に進むことを忘れないでほしいですね。AI時代になってもあきらめず、ちょっとずつでも前に進んでいきましょう。
取材日:2026年7月22日
株式会社東海タイトル・ワン
- 代表者名:平澤 敦
- 設立年月:1976年
- 資本金:300万円
- 事業内容:テレビおよび映画のタイトル作成/各種宣伝/広告のデザイン
- 所在地:〒461-0005 名古屋市東区東桜1丁目5-12-207
- お問い合わせ先:052-961-3386
- メール:






