コマ撮りから自社コンテンツへ キャラクターアニメーションスタジオが描く日本文化の未来
テレビ番組のADからキャリアをスタートし、CM制作のプロデューサーを経てアニメーションの世界へと身を投じた錦織 毅さん。2006年の独立以来、2D・3Dから職人技の光るコマ撮りまで、多彩な表現で業界を魅了し続けてきました。映像へのあくなき情熱と、若手を育む温かなまなざし、日本の伝統文化としてのアニメにかける未来の展望を伺いました。
過酷なテレビADからCM業界、そしてアニメへの転身

錦織さんが映像業界に入ったきっかけを教えてください。
子どものころからかなりのテレビっ子で、放送系の専門学校に進学しました。入学して1年ほどがたったとき、「深夜番組のADのバイトが足りない」と先輩から声をかけられたのを機に、現場実習という名目でプロの現場で働き始めました。仕事はサードADで「雑用のすべて」です。月に2〜3回ほどしか自宅に帰れず、スタジオやロケ車で仮眠を取る日々を半年ほど続けました。
そんな中、1989年の初頭に昭和天皇が崩御され、テレビ業界全体に放送自粛の波が押し寄せました。深夜番組が軒並み休止や打ち切りになり、アルバイトだった私の仕事も一瞬でなくなってしまいました。
しかし、一度現場の味を知ってしまうと、普通の学生生活では物足りなくなります。そこへ再び、別の先輩から声がかかりました。今度はテレビCMの制作会社のアルバイトでした。すでにテレビ番組の現場でもまれていたので、即戦力として非常に重宝されました。
CM業界は深夜番組を作っていたころに比べて、労働環境が格段に良かったのです。カルチャーショックを受けましたね。ここで仕事の基礎をたたき込まれ、20歳のときに別のCM制作会社へ社員としてステップアップしました。
CM制作からアニメ業界へ転身した理由は何だったのでしょうか。
それから約7年、必死にキャリアを積んでアシスタントプロデューサーまで昇進しました。
ただ、20代後半に差し掛かるにつれて違和感が芽生え始めました。CMは企業の販促活動であり、15秒や30秒の中で表現できることには限界があります。もっと「人の心を直接動かす映像」を作りたいという思いが強くなっていきました。
その後27歳のとき、スタジオジブリの『耳をすませば』に出会いました。実写のドラマで本物の俳優さんが演じたら、生々しくなりすぎてお芝居が臭く感じられてしまう。そんな純粋さが、アニメーションというフィルターを通すことで、なんの引っかかりもなくストレートに心に突き刺さってきた。表現としての純度があまりにも高いことに気づかされたのです。そこからアニメ業界への転身を心に決め、アニメーションスタッフルームという会社に入りました。
独立を決意した背景を教えてください。
当時、現場のチーフを任されていたんですが、会社を閉じるかもしれないという内情を明かされたことをきっかけに、自分で理想のスタジオを作ろうと決意しました。取引先だったCMプロダクションの社長さんから支援をいただき、2006年8月に会社を立ち上げました。最初は出向やマネジメント主体でしたが、自分たちの「色」や「個性」を見せるために自社のクリエイターで作品を作らなければ生き残れないと痛感していた時期に出会ったのが、「スタジオプラセボ」という4人組のクリエイターチームでした。彼らは2DアニメもCGもこなすマルチな才能を持っていましたが、何よりも「コマ撮り(ストップモーション)アニメーション」において突出した技術を持っていました。
彼らのものづくりに対する純粋な姿勢を見て、「この素晴らしい才能を、マンションの一室に眠らせておくのはあまりにももったいない」と強く感じ、経営や営業、資金面の交渉は自分が引き受けると声をかけ、2014年に制作機能を持ったスタジオとしての新たなスタートを切りました。
コマ撮りアニメーションが持つ「不完全さ」の美学
CG表現が進化する中で、コマ撮りならではの魅力はどこにあるのでしょうか。
コマ撮りというのは、本当に不思議な表現です。今やCGを使えば多様な表現ができる時代ですが、人間は「実際にそこに存在するもの」が放つ温もりに引かれると思います。
コマ撮りは、実際に手で触れられる人形や小道具を、1コマ(1コマは24分の1秒、あるいは12分の1秒)動かしてはシャッターを押し、また微調整してはシャッターを押す、という気の遠くなるような作業の連続です。そこには、どうしても手仕事ゆえのわずかなズレや不完全さが生まれます。しかし、それこそが映像に独特の命を吹き込み、何年たっても色あせない普遍的な価値を生み出すのです。
コマ撮りの強みが実際の仕事で生きた事例はありますか。
例えば、私たちが8〜9年前に手がけた住宅ローンの15秒CMがあります。これが大変好評をいただき、今年も契約更新を迎えました。実写のCMは、出演者やファッションなどに時代性が出やすいです。またCGも、技術の進歩が早いために、5年前のクオリティが今ではチープに見えてしまうことが多々あります。しかし、コマ撮りアニメーションは時代性に左右されにくいという特徴があります。
もちろん、ビジネスとして成立させるには、コマ撮りは非常にハードルが高いジャンルでもあります。問い合わせは多いものの、制作期間やコストの面で断念されるケースが少なくありません。実際、私たちのスタジオでも、日常の売り上げを支えているのは2Dの作画アニメーションやCGの案件であり、コマ撮りの仕事は全体の2〜3割程度です。
それでもコマ撮りにこだわり続ける理由を教えてください。
そこにしかない「表現の力」を信じているからです。照明による影、人形の質感、一コマ一コマに込められた作り手の思いが合わさることで、子どもから大人までワクワクする映像になります。その笑顔が見たいからこそ、私たちはこの一見、非効率とも思えるものづくりにこだわり続けています。
失敗を恐れない若手に伝えたい「知行合一」の精神

若手クリエイターの育成で、大切にしている考え方はありますか。
私はよく、人生の先輩からいただいた「知行合一(ちこうごういつ)」という言葉を大切にしています。知識として「知っている」ことと、実際にそれを「行う」ことは、一体であり、行動が伴って初めて本当の知恵になる、という意味です。今の若い世代を見ていると、インターネットやSNSで情報が簡単に手に入る分、頭の中だけで分かった気になってしまい、最初の一歩を踏み出せない、あるいは失敗を恐れて行動に移せない人がとても多いように感じます。
面接のときにも「2Dしかやりません」とか「CGのこのソフトしか使えません」というふうに、自分の可能性を最初から狭めないでほしいと伝えています。弊社は少数精鋭ですから、入社したらさまざまなことに挑戦してもらいます。作画のアニメーターとして入ってきた人が、ある日突然「クレイ人形でアニメーションを作って」と頼まれることもあります。実際「やってみる?」と振ったら、「私、やります!」と二つ返事で引き受けてくれました。
それに一昨年、スタジオで初めてテレビシリーズのグロス請けをやった際、当時まだ3年目だった若手アニメーターが大化けしました。今や作画監督のレベルまで一気にスキルを引高めたのです。まさに「知行合一」を体現してくれたわけです。
若いころの失敗なんて、経営者である私がいくらでも頭を下げてリカバーできます。だからこそ、失敗を恐れずにどんどん打席に立って、バットを振ってほしい。
それに、今の日本人に最も足りないのは、誇りと自信、そしてワクワクする心だと思っています。私は自分のことをかなりアイ・ラブ・ジャパンな人間だと思っていて、日本人が本来持っていたはずの「武士道」や「大和魂」のような、凛とした精神性を、アニメーションを通じて取り戻したいという密かな野望があります。
自社コンテンツの発信と、日本の伝統文化としてのアニメへ

今後、どのようなビジョンを描かれていますか。
これまでは受託の仕事が中心でしたが、20年目を迎え、今、私たちの心の中に「自分たちでオリジナルの作品、自社コンテンツを作って、世界に発信したい」という新しい夢ができました。
幸いなことに、私たちのスタジオには作画、CG、そしてコマ撮りの技術まで、あらゆる技法がコンパクトにそろっています。この強みを生かして、まだ誰も見たことがないような、人々の心を一瞬で引きつけるキャラクターコンテンツを、自分たちの手で世界へ送り出したい。現在も、いくつかの企画を温めており、実験的な制作を始めています。
そして、私の最終的なゴールは、ホームページにも掲げている「アニメーションを日本の伝統文化に」です。歌舞伎や能、浮世絵が、何百年という時間を超えて日本の誇りとして受け継がれているように、アニメーションもまた、数百年後の人類から「かつて東洋の島国で生まれた、素晴らしい伝統芸能だ」と称えるような、そんな高い次元の文化にまで引き上げていきたいと思っています。
そのためには、ただ消費されるだけの映像を作るのではなく、作り手の魂が宿った本物の作品を作り続ける必要があります。そして、それを次世代につないでいくために、若い才能たちが「アニメーターになって本当によかった」「この仕事が誇らしい」と思えるような、経済的にも精神的にも自立できるスタジオの環境を、私が先頭に立って作っていかなければならないと思っています。
取材日:2026年6月23日 ライター:徳永 卓司
キャラクターアニメーションスタジオ株式会社
- 代表者名:錦織 毅
- 設立年月:2006年8月
- 資本金:670万円
- 事業内容:デジタルアニメ事業、クラフト事業、商品撮影事業、サブスクリプション映像事業、医療・医薬品向け映像事業、委託型ポスプロ事業、ブランド事業、映像コンテンツ事業、アニメーション制作事業
- 所在地:〒135-0022 東京都江東区三好3-2-10 第二井口ビル2階
- URL:http://www.cas-inc.co.jp/
- お問い合わせ先:http://www.cas-inc.co.jp/contact.html






