テレビとSNSを横断する映像制作会社quon 記憶に残る映像制作の哲学と展望
テレビ業界の過酷な労働環境に疑問を抱き、2年目でチーフAD、4年目でディレクターへと駆け上がった横田 裕昌(よこた ひろあき)さん。その後、独立を果たし立ち上げたのが、テレビ番組などの映像作品の企画、編集、制作を手掛ける株式会社quonです。激変するメディア環境の中で、過酷な下積み時代からいかに独立を決意したのか。「記憶に残る映像」へのこだわりと、テレビとSNSを融合させた事業の展望を伺いました。
テレビ業界の過酷な下積み時代の「気づき」

映像業界に足を踏み入れたきっかけと、テレビ局への出向当時の様子からお聞かせください。
私が本格的に映像の世界へ関わるようになったのは、大学時代のことです。当時は外国語学部に在籍しており、海外で仲間たちと自主映画の制作をしていました。そんな折、お世話になっていたクライアントから「テレビ局の現場で人が足りないらしい、少し手伝ってみないか」と声をかけられたのがきっかけでした。
当時のテレビ業界は、今では考えられないほど過酷な労働環境が常態化していました。「働き方改革」のような意識はみじんもなく、テレビ局に泊まり込むのは当たり前という時代です。当然、新入りの私にとっても限界を試されるような日々が続きました。しかし、ただ過酷な日々に流されるだけではなく、私はその異常とも言える環境の中で、ある「気づき」を得ることになったのです。
具体的にどのような気づきがあったのでしょうか。
毎日、睡眠時間を削って働きながら「この環境は何かが間違っている。効率化すれば、もっと人間らしい働き方ができるはずだ」という強い疑問を抱くようになりました。先輩たちが無駄に会社に居残り、非効率的な作業を重ねている姿を見て、怒りにも似た感情を覚えたのです。そこで私は、自分が現場を仕切る立場になったら、絶対にこの仕組みを変えてやろうと心に誓いました。
実際にチーフADというポジションを任されたとき、私は即座に行動へ移しました。自分の班は「遅くても19時、20時までには全員業務を終了して帰宅すること」というルールを設けたのです。当時は、周囲からは白い目で見られることもありました。しかし私は、時間を区切るからこそ集中力が増し、結果として仕事のクオリティはあがるという確信を持っていました。
私がタイムスケジュールを管理し、無駄な居残りをなくしていった結果、私たちの班が時間を理由にクオリティを落とすことは一度もありませんでした。この経験が、私のマネジメントの原点となっています。
ディレクターとしての葛藤と、独立への決意

ディレクターになられてから独立という道を選ばれるまでの流れを教えてください。
プロデューサーに認めてもらい、入社4年目にはディレクターになりました。しかし、それは同時に新たな葛藤の始まりでもありました。私はテレビ局へ派遣されていたため、どれだけ実力をつけても、基本的にはその特定の番組や局の仕事しかできないという大きな制約に縛られていました。しかし、私の中には「もっと多種多様なジャンルの映像に挑戦したい」という強い欲求がありました。
幸いにも、当時の所属会社は理解のある会社で、会社に籍を置きつつ、自らの足で新しい仕事を外部から獲得した場合、その成果を給料に反映させてくれたのです。私は次第に自分自身で開拓した案件でスケジュールを埋め尽くすようになっていきました。当然、それに伴って収入も増加していきました。
しかし、収入が増えたことで、今度は別の現実的な問題に直面しました。税金や社会保険料の負担が想像を絶する金額になり、個人の給与所得者としての限界を感じ始めたのです。そこで社長に相談したところ、「だったら、いっそのこと独立したら」と言ってくれたのです。当時、私は32~33歳で、その会社にはおよそ9年間お世話になっていました。社長のその一言が、私の背中を押してくれました。
株式会社quonの設立と、社名に込めた不変の哲学
会社を設立されるに至った経緯と社名の由来について教えてください。
「quon(クオン)」という言葉の由来は、日本語の「久遠(くおん)」、つまり「永遠や、はるか遠い過去・未来」を意味する美しい言葉から取っています。ではなぜ映像会社が「久遠」なのか。そこには、現在のテレビメディアが抱える最大の弱点に対する、私なりの挑戦状と、私たちが映像ビジネスを行ううえでの不変の哲学が込められています。
テレビ番組の制作には多くの人が関わり、すさまじい時間と労力、予算が投じられます。クリエイターたちが命を削るようにして、細部までこだわり抜いて1本の番組を作りあげるのです。しかし、それほどまでに情熱を注ぎ込んだ作品であっても、地上波のテレビでは一度放送されてしまえばそれで終わり。今でこそ見逃し配信などで見ることはできますが、その一瞬が過ぎ去れば、当時は二度と人々の目に触れることはありませんでした。
私はAD時代から、この「消費されていく映像」に対して、もったいなさを感じていました。だからこそ、私たちの会社で作る映像は、一瞬の流行りで消費されるものではなく、人々の「記憶」の中に永遠に残り続けるものであってほしい。久遠の彼方まで色褪せない価値を提供したい。その強い意志を込めて、「quon」という名を会社に冠したのです。
多角化する事業――テレビから省庁、SNS運用の最前線まで

現在の事業内容について、詳しくお聞かせください。テレビ以外の領域へも大きく広がっているとお聞きしました。
現在のquonは、単なるテレビ番組の制作会社ではありません。地上波のテレビ番組制作はもちろんのこと、企業のSNS運用代行、YouTubeチャンネルのプロデュース、インターネット配信番組の制作、そして中央省庁や行政機関の映像案件にいたるまで、多角的に事業を展開しています。
テレビの領域においては、現在も、自社で一括して請け負っています。また、デジタルメディアの領域ではYouTubeチャンネルの制作を手がけており、私自身が総監督として現場を指揮しています。
そして、他社との明確な差別化となっているのが、中央省庁や行政機関の案件です。これらの仕事は、一般的なバラエティ番組とはまったく性質が異なり、極めて厳格な内容で扱うテーマも非常に複雑です。
こういった映像は、一般の国民に向けた分かりやすさと同時に、専門家が見ても間違いがないという高い専門性を同時に満たさなければなりません。台本を作るだけでも、膨大な資料を読み込み、法律や制度の文脈を完璧に理解する必要があります。当社の社員はバラエティ出身者が多いため、最初は戸惑うこともありましたが、今ではこの緻密な映像制作こそが、当社のブランドを高める重要な柱となっています。知らない世界を徹底的に学び、それを映像で誰もが理解できるようにかみ砕くプロセスは、クリエイターとしての知的好奇心を刺激してくれる面白い仕事です。
テレビとSNS、両者の特性を理解しているからこその唯一無二の強み

多くの制作会社が存在する中で、クライアントから支持される強みはどこにありますか。
私たちの強みは、「テレビ」と「SNS」という、異なる両者の映像を理解し、それらを自在に融合させることができる点にあります。
世の中にある多くの制作会社は、「テレビ番組は作れるけれどSNSのスピード感やアルゴリズムが分からない」という会社もあれば、「SNSの動画は作れるけれど、テレビ番組のような緻密な構成やクオリティ、コンプライアンスに対応できない」という会社もある。どちらか一方に偏りがちですが、私たちはその両方を持ち合わせています。
SNS動画において重要なのは「初速」です。最初の1秒でユーザーの目を引き、視聴を維持させるための強烈なフックと設計がなければいけません。
一方で、テレビにおいて最も求められるのは「長時間の視聴耐性」です。1時間の番組であれば、視聴者を飽きさせずに最後までテレビの前に釘付けにしなければなりません。そのためには、緻密な構成が不可欠です。私たちは、長年のテレビ制作で培ったこの重厚な構成力を、ほかの動画や企業案件にも応用しています。
つまり、SNSの瞬発力と、テレビの持久力。この二つを掛け合わせることで、どんなクライアントに対しても、最も高い成果を出す映像を提供することができる。これが、他社にはマネできないquonならではの強みです。
目指す未来のキーワードは「サボり力」

これからの映像業界で必要となる力は何があると思いますか。
私がこれからの映像業界、そしてquonのメンバーに最も必要だと考えているのは、実は「サボり力」という能力です。誤解を招く表現かもしれませんが、これは決して仕事を怠けるという意味ではありません。映像制作という仕事は、こだわり始めればきりがなく、24時間365日、すべての時間を飲み込んでしまう魔力を持っています。しかし、常に緊張の糸を張り詰め、全力疾走を続けていれば、いつか疲弊し、クリエイティビティは枯渇してしまいます。だからこそ、「どこで100%の力を出し、どこで力を抜いて脳を休ませるか」という、仕事の波を自分でコントロールする力が重要になり、それを「サボり力」と表現しています。当社の公式ホームページにもこの思想は掲げていますが、quonで働くクリエイターたちには、常に自分の健康と脳の余白を大切にしながら、長く輝き続けてほしいと願っています。
最後に、今後のビジョンについて教えてください。
映像の枠にとらわれない新しい技術やビジネスの開拓に貪欲に挑戦していきます。その一つがドローンを使用した事業の本格化です。また、飲食店に特化したSNS動画サービス「BUTSUDORI(物撮り)」の全国展開や、アーティストとのつながりを活かした「大規模なライブイベントの制作・演出」への参入も具体的に動き出していきたいです。映像の力を使って、人々の心を動かし、ビジネスを加速させるためであれば、私たちはどんな新しい領域へも飛び込んでいきたいと思っています。
テレビであろうと、SNSであろうと、あるいはまだ見ぬ新しいメディアであろうと、私たちが作る映像の根底にあるのは「久遠の彼方まで、誰かの記憶に残り続ける価値を創る」という情熱です。その哲学を胸に、私たちはこれからも映像の未来を切り拓き、走り続けていきます。
取材日:2026年6月24日 ライター:徳永 卓司
株式会社quon
- 代表者名:横田 裕昌
- 設立年月:2023年1月
- 資本金:500万円
- 事業内容:テレビ番組など映像作品の企画、編集、制作、SNS動画作品の企画、編集、制作、運営
- 所在地:〒106-0031 東京都港区西麻布1丁目15-1 森口ビル8階
- URL:https://quon-cr.com/
- お問い合わせ先:https://quon-cr.com/contact/






