グラフィック2026.08.26

創業68年の印刷会社を受け継ぐ次期社長が描く、学会サポートと人づくりへの挑戦

沖縄
有限会社福琉印刷 専務取締役
Naoya Kikuzato
喜久里 尚哉

創業68年の歴史を持つ沖縄の印刷会社、有限会社福琉印刷。長年培ってきた文字組み印刷の技術を強みにしながら、近年は県内唯一の学会運営サポートシステムを武器に新たな事業領域を切り開いています。専務取締役の喜久里 尚哉(きくざと なおや)さんに、学会サポート事業への挑戦、人材育成への想い、そして「印刷会社」の枠を超えた未来について伺いました。

68年の歴史を持つ印刷会社が、学会運営システムを開発

会社の成り立ちを教えてください。

1955年頃に、私の祖父が義理の弟と共同で印刷会社を立ち上げました。それから3年後、祖父が独立して今の福琉印刷ができ、1996年に法人化。2001年に父が2代目の代表となり、今に至ります。
社名の「福琉(ふくりゅう)」は、共同創業者だった祖父の義理の弟が福岡出身だったことに由来していて、福岡と琉球を合わせて社名にしたようです。

喜久里さんご自身が専務に就任された経緯を教えてください。

以前は、東京や埼玉で全く違う仕事をしていて、10年ほど前に社長である父から帰ってくるように言われてUターンしました。専務になったのは2025年10月からで、まだ8カ月目です。
社長にはすでに「継ぎたい」と伝えており、現在は社長とともに経営に携わるようになってきています。

現在の主な事業内容を教えてください。

印刷全般で、特に強いのは冊子類です。会報誌や機関誌といった、ページ数の多い文字組を中心とした印刷物が得意です。
そのなかでも医療系とのご縁が深く、沖縄県医師会とのお付き合いが何十年もあり、毎月100ページに上る会報誌のお仕事をいただいています。那覇市医師会や南部地区医師会の会報誌も制作しており、弊社の大切な柱となる事業です。

学会の運営サポートにも注力されていると伺いました。どのような経緯で始まったのですか?

医師会とのお付き合いが増えていくなかで、学会というものが無数にあることを知りました。学会では、先生方の演題と呼ばれる論文を集めて1冊にまとめた抄録集(しょうろくしゅう)を制作するのですが、その印刷のご依頼を度々いただいていました。その際、学会の事務局が先生方から演題を集めることに、非常に手間がかかっていることを知りました。その手間を削減するお手伝いをしたいと、演題収集に特化したシステムを開発したのです。

システム開発というのは、印刷会社としては異例の取り組みですね。

幸運にも親戚にシステム開発会社の経営者がおり、共同で開発することにしました。開発費に400〜500万円ほどかかったのですが、補助金も活用しながら独自システムを完成させることができました。Web上でアンケートに答えるような感覚で名前や所属、演題を入力してもらい、集約したデータをそのまま抄録集に流し込む仕組みです。本土には同じようなサービスを展開している会社がありますが、県内でこのシステムを持っているのは弊社だけです。

そのシステムを軸に、さまざまなサービスが広がっているようですね。

演題登録だけではなく、学会への参加を募る申込フォームを作成し、申込から参加費のクレジット決済までWeb上で完結できる仕組みにしました。現在では、ホームページ制作から事前参加登録、演題登録、抄録集制作、そのほかの販促物まで一貫して請け負う「学会サポート」というサービスとして打ち出しています。
今では年間約15件のご依頼をいただいています。準備期間も含めると1件につき2年ぐらいかかり、短期的な売り上げは立てづらいというデメリットはありますが、翌年の売り上げを確保する上での安定した事業ではあります。

少数精鋭だからこそできる、社員への気配りと工程管理・顧客への寄り添い

ほかの印刷会社とは異なる、御社の強みを教えてください。

社員数が少ないからこそ、業務の細かいところにまで目が届くということだと思います。10人の社員一人ひとりと、いつでも対面で話ができる環境がサービス向上につながる一つの要因です。機械のクオリティーはどの印刷会社もそう変わりません。だからこそ、商品が仕上がるまでの工程をどれだけ大事にするかが商品の品質を左右します。お客さまに寄り添い、それを形にしようと頑張ってくれるスタッフ全員の業務をしっかりサポートすることで、お客さまの要望を再現できるよう努めています。

新人デザイナーの成長と対応力

これまで特に印象に残っているエピソードを教えてください。

二つあります。一つは学会の抄録集の表紙デザインを作成したときの話です。デザイナー3名が一案ずつ案を提出し、その中から先方が選ぶという、とてもシビアなお仕事でした。そのうちの一人は、入社半年ほどでまだまだ経験は浅いものの、やる気のあるデザイナーでした。最終的にそのデザイナーのデザインは選ばれなかったのですが、最後まで候補に残り続けて、お客さまから「表紙では使えないけど横断幕にデザインを使いたい」とご提案いただきました。本人に伝えた時の照れながらも本当にうれしそうな表情が忘れられません。成長を感じられた瞬間でした。
もう一つは失敗談で、学会の当日に会場へ垂れ幕を設置したところ、しばらくして「垂れ幕が落ちた」という電話を先方から受けたのです。粘着が不十分で落ちてしまいました。休日でしたが、他のスタッフも駆け付けてくれて、すぐに対応しました。当初はお客さまからお叱りを受けたものの、早めの対応が逆に信頼につながり、今でも継続してお仕事をいただいています。

社内コミュニケーションの活性化へ着手

人材育成については、どのように取り組んでいますか?

外部で開催されるスキルアップ研修の情報を社員に発信し、受けたい人は受けるようにと促しています。費用は会社で負担しています。
日々の技術的なスキルアップについては、部署内のメンバー同士で教え合ってくれているのが一番大きいですね。案件の中で出てきた新しい知識があれば自然と共有されますし、分からないことがあれば先輩にすぐ相談できる環境なので、実践を通じて成長していけると思います。

印刷業界の転換期を見据え「何をしても崩れない組織」を目指して

今後の展望を教えてください。

昨今の紙媒体離れや印刷不況を鑑みて、印刷業に重点を置いた会社運営を変えるフェーズに直面しています。具体的には、保有している一番大きな印刷機が約3年後に寿命を迎え、それにかかわるスタッフも定年を迎えます。それを機に、維持費も修理費も高額な大型印刷機を廃棄したうえで、小ロット対応のスピード感ある印刷機を1台新たに導入し、それでカバーできない分は外部の協力会社に委託して印刷業をスリム化していく方針を取ろうと考えています。
学会サポートの比重を増やし、さらに新しい事業の柱をもう1本見つけたい。だからこそ、力を入れるべきなのは、デザイナーやクリエイター、営業などの人材育成です。特定の事業に頼るのではなく、どんな時代でもお客さまの課題解決に貢献できる人材を育て、変化に強い組織を作りたい。社員一人ひとりが幸せになり、お金だけではなく人間として、社会人として幸せを掴んでほしい。それが経営者として絶対にやらなければならないことだと思っています。

どのようなクリエイターと一緒に働きたいですか?

営業や、そのサポートができる方を募集していますが、お客さまの立場で考え、目的意識を持ち、自身の成長に向上心を持っている方と一緒に働けたらと思っています。新卒・中途のこだわりはなく、どちらも歓迎です。
私たちは、採用を単なる人員補充ではなく、会社の未来を一緒につくる仲間探しだと考えています。そのため、募集の有無にかかわらず、よいご縁があれば積極的にお話ししたいと思っています。スキルだけでなく、ものづくりに対する考え方や、お客さまに向き合う姿勢を共有できる方と一緒に成長していきたいですね。

取材日:2026年6月11日 ライター:仲濱 淳

有限会社福琉印刷

  • 代表者名:喜久里 均
  • 設立年月:1958年4月
  • 資本金:1,000万円
  • 事業内容:学会・イベント支援(演題登録システム / 参加登録、決済システム / ホームページ作成)、デザイン・企画・印刷・製本・特殊加工(PP加工、カッティングプロッター)、その他付帯サービス
  • 所在地:〒900-0012 沖縄県那覇市泊2-19-8
  • URL:https://fukuryu.jp/
  • お問い合わせ先:098-867-1989

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