スペース2026.06.24

こだわるべきは物事の「ディテール」画材に囲まれた幼少期から、領域を横断するデザイナーへ

東京
株式会社ジェットデザイン 代表
Tetsuya Ueno
上野 鐵也

空間とプロダクトのデザイン、さらには、企業の礎となるブランディングやCI(コーポレート・アイデンティティ)のマネジメントまで包括的に手がける東京の株式会社ジェットデザイン。建築家の父の影響でデザインの世界にのめり込んだという代表の上野 鐡也(うえの てつや)さんは、自身の経験から「目の前で考えながら手を動かすだけがデザインではない」と語ります。これまでの歩み、デザイナーとしての生き方などを聞きました。

建築家の父を持ち、幼い頃から画材に囲まれて

株式会社ジェットデザインは「空間とプロダクトを軸にしたデザインマネジメント」を主力事業に掲げています。具体的にどのようなことを行っているのでしょうか?

主な領域としては空間とプロダクトですが、グラフィックやWebにも携わっています。「クライアントの資産であるデザインの運用サポート」がメインであるため、企業のブランディングやCIにも深く関わっています。僕も便宜上は「デザイナー」と名乗っていますが、実務上の職種は多岐にわたります。

幅広い事業の礎には、上野さんご自身が「デザインの道」へ進もうと決めるきっかけがあったかと思います。

父の影響が強かったですね。都市計画建築家の父は、僕が幼い頃に知人とデザイン会社を創業して、日本におけるCIデザインの先駆けとして活動していました。父の事務所は学校の近くにあり、製図用のシャープペンやマーカーなど、画材がたくさんあったんです。僕も興味の赴くままにバイクの絵や空想の乗り物の絵などを描いていました。当時のスケッチブックは今もまだ実家にあると思います。木の板や発泡スチロールなどの材料もあったので、建築物の模型や学校の工作も作っていました。

本格的にデザインを学びはじめたのは、東京造形大学への進学後だったのでしょうか?

そうです。趣味として絵やプラモデルに没頭しながらも、青春時代はバンドやスケートボードで遊びまくっていましたから(笑)。母校のカリキュラムは美術大学としては特殊で、選択できる授業の分野が自由だったんです。僕の場合は建築、プロダクト、グラフィックなど、幅広くデザインを学びました。

大学生の当時から、将来の独立は考えていたのでしょうか?

考えていました。ただ、なんとなくです。一般的なイメージにもあてはまると思いますが「デザイナーは自分の会社を起こすもの」と漠然と考えるのみで、お客さんは誰なのか、仕事をどのように獲得するのか、何で稼ぐのかも分からなかったですね。就職活動も真剣にやっていなかったので、デザインで働くことのリアリティはありませんでした。

恩師に教わった「ディテール」を知る大切さ

大学卒業後は、銀行のような金融店舗、オフィス、展示会などの空間を手がける株式会社秀光に就職されましたね。

僕が配属されたのはオフィスや展示会を主に手がける部署で、空間だけではなく、オフィス家具などのプロダクトデザインも経験しました。就職から退職までの約5年を振り返ると、若気の至りもありかなりダメな社員だったと思います。ただ、いつクビになってもおかしくない社員ではありながら、当時の社長がかわいがってくれたんです。デザイナーとして大切なことを、たくさん教わりました。

例えば、何を教わったのでしょう?

デザインを仕事にしたいなら「ディテールを学びなさい」と教わりました。身近なプロダクトにしても、材料は何か、材料の加工方法には何があるのか、工場ではどのように加工するのかを知りなさいと言われたんです。デザイナーは、自分で描いたものを何でも形にできる華やかな職業だというイメージもあると思います。ただ、想像力だけで突っ走ってしまうと、実際に出来上がったものは軽くて、薄くあまり魅力や価値がないことが多い。また、描いたものを実際に形にしてくれる方々や、それをオーダーしたクライアントと意識の共有が難しいんですよ。ですから、社員だった当時は、会社のプロダクトを手がける工場へ何度も足を運び、“ディテールがなぜ大事か”を現場で身をもって体感しました。
また、当時の海外出張でも社長から教わったことがあります。当初は会社で予約してくれたホテルに泊まる予定だったのですが、社長に「デザイナーだったら、自腹を切ってでもワンランク上のホテルに泊まれ」と言われたんです。要するに、会社で出してくれる宿泊費に自分で足りない分を出費して、よりホスピタリティの高いホテル空間に“何があるのか”を学べということだったんですよね。
賞与も「自分へ投資するために使え」と言われていましたし、とにかく、デザイナーとしてのマインドを叩き込まれました。

洗濯機をきっかけにプロダクトデザインに領域を広げて

秀光での約5年を経て、2000年に株式会社ジェットデザインを設立されました。

独立志向はありましたが、独立する準備やデザイナーとして生計を立てる根拠はありませんでしたので、タイミングとしては完全に見切り発車で、資金もありませんでした。けれども社長は「がんばれ」と背中を押してくれました。 創業当初から付き合いのあったお客さまから仕事をいただけるなど、環境には恵まれていたと思います。

独立後、家電などのプロダクトデザインにも関わりはじめたのはなぜでしょう?

あるカーメーカーの展示会のブースデザインをしたことがきっかけで、家電製品などもプロデュースするコンセプターと出会いました。そのコンセプターに「デザインをうまく運用している企業は展示会ブースはもちろん、オフィスなどの空間デザインもその企業の理念や製品イメージを踏襲していて非常にわかりやすいですね」というような話をしたら共感してくれたんです。「そのような視点で、家電のデザインをお願いしたいのですが、いかがですか?」と誘っていただき、プロダクトデザインにも関わるようになりました。元々家具デザインを行っていましたし、デザインの領域はあまり限定しないほうが良いと考えていたので、抵抗はなかったですね。

とはいえ、畑違いの分野ともなると、完成までの苦労もあったのではないでしょうか?

多少の苦労はありましたが、コンセプターからは「家具のアプローチで」とアドバイスされていたので、過去の経験を生かせたんですよね。秀光時代に学んだ「ディテール」への関心があったから、新たな分野であってもすんなり順応できたのだと思います。
はじめて手がけたのは洗濯機でした。洗濯機のブランドロゴ、家電量販店で売るための販促物、Webサイトのディレクション、ポップアップストアのデザインと、領域を広げられたことが会社の発展につながりました。

Photo by Haier

デザイナーは「考えながら手を動かすだけの仕事」ではない

今後、どのようなクリエイターと一緒に働きたいと思いますか?

自分の好き嫌いではなくて「なぜそれをやるのか」を説明できる人と仕事をしたいですね。例えば、プロダクトの色合いを決めるにしても「この色が好きだから赤にしました」ではなく「こういうストーリーがあるから赤にしました」と言える人は、結果として、クライアントや社会ともきちんと向き合えると思うんです。デザインは絵を描く仕事だと思われがちですが、本質は社会にある課題を解決するための手段です。だから、社会や相手が何を必要としているのかを考えながら、コンセプトを言語化して形に落とし込める人と一緒に働いてみたいです。

Photo by Forward Stroke Inc

デザイナーとして成功するために、欠かせないものとは?

成功かどうかはそれぞれによって判断が違うと思いますが、良いデザイナーの条件はコンセプトを作る発想力と、それを実際のモノにする実現力の両方が必要だと思います。現代はAIを使えば、ある程度のビジュアルやアイデアは誰でも作れる時代ですので、デザイナーとしてどのような価値を社会に提供できるかが、いっそう求められるようになっています。だからこそ、「ディテール」を知ることが大切で、目の前で考えながら手を動かすだけではなく、空間やプロダクトが誰の手によってどう作られているのか。現場を見て、工程を理解することがこれからのデザイナーにとって、より重要になると思います。実は最近、ニワトリを飼い始めたんですが、これが全く自分の思い描いたようにならない。そこが実に面白いんですよ、相手は生き物ですし。イメージに近づけるための試行錯誤はデザインのプロセスと同じで、多くの失敗と学びがあります。そうして生まれた卵は本当に美味しく、お配りした方にも「美味しいね」って言ってもらえると自分も社会の一員になれたような気がします。

最後に、活躍を夢見るデザイナーの方々にメッセージをお願いします。

Photo by Tanseisha

社会と自分がデザインでどのように関わるのかを考えてください。例えば、建築の世界では、「見た目がかっこいいから」だけで建物を作るわけではありません。周囲の街並みや、そこに住む人たちの暮らしまで考えて設計します。欧州では建築家やデザイナーのことを「アーキテクト」と呼び、社会的責任の実装者という立場です。「アーキテクト」は社会に不要で不適切な建築物はデザインしません。仮にそのような依頼が来た場合、クライアントに対し「必要ありませんよ」と断る社会的責任を負っています。
デザインは単なる表現ではなく、“誰かの課題や問題を解決するためのもの”。その意識を忘れずにいてほしいです。

取材日:2026年4月23日 ライター:カネコ シュウヘイ

株式会社ジェットデザイン

  • 代表者名:上野 鐵也
  • 設立年月:2000年4月1日
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:空間デザイン、プロダクトデザイン、デザインマネジメント
  • 所在地:
    ・東京オフィス
    〒155-0033 東京都世田谷区代田4-29-7-302
    連絡先:03-6379-5311
    ・中国オフィス
    116012 辽宁省大连市沙河口区三春街45号7栋一单元308室
    連絡先:159-9866-6503
  • URL:https://www.jetdesign.co.jp/

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