「今日は何を食べようか?」に応える“献立アプリ”。代表が語るヘルスケアへの使命
管理栄養士監修のレシピや献立を提案してくれるアプリ「おいしい健康」は、今日も全国の患者さんや健康意識が高い人たちの食卓をサポートしています。同アプリを手がける東京の株式会社おいしい健康の代表取締役CEO・野尻 哲也(のじり てつや)さんは、未知だったヘルスケア分野への情熱を注ぎ、努力を重ねてきた1人です。誰もが持つ「今日は何を食べようか?」の問いへ、答えるために。野尻さんの抱くプロダクトへの信念、クリエイターへのメッセージなどを聞きました。
素人ながら医療は関わると決めて必死に勉強を
経歴として、過去には大手レシピメディア「クックパッド」に関わっていらっしゃったそうですね。
はい。それまでは自分のコンサルティング会社で出版社や自動車メーカー、大手広告代理店、プロ野球球団の経営に関わっていました。
その後、2010年12月出版の著書「成熟期のウェブ戦略: 新たなる成長と競争のルール」をきっかけに、クックパッドの代表者から「レシピ以外の分野を伸ばしたい」と相談を受けたんです。それをきっかけに、初めの8カ月ほどコンサルタントでジョインして、スーパーと連携した買い物事業や求人系事業、ヘルスケア事業などを複数提案しました。
その後、社員として働き始めたクックパッドでは、糖尿病や高血圧の方に向けたサイトも担当されていたと伺いました。
前任者の作った既存サービスを、私が引き継いだんです。既存のサービスでは利用者が少なく、根本的な見直しが必要だったので、リニューアルしました。レシピ提案だけでは不十分と判断し、日常的な献立管理、栄養を計算できるツールなども組み込みました。
現在の事業にもつながっている印象ですが、人の健康を支えるサービスへの情熱もあったのでしょうか?
当時は私も医療の素人でしたが、誰かに健康被害を与えないように必死で勉強していました。多くの医師と意見交換も重ねて、食事に対する考え方も大きく変わりました。
そのなかで、病気に対する社会的な認識の変化も体感してきました。例えば近年、糖尿病などは食生活や運動不足といった生活習慣だけでなく、遺伝的な要素も関与しているとする説もあり、「生活習慣病」の呼び方が見直されてきているんです。
現在の自社開発サービス「おいしい健康」ではクックパッド在籍当時の知見を生かして、それぞれに合った適切な食事を提案。ユーザーが健康で生きられる環境づくりを重視しています。
身近な「健康」にアプローチする企業は意外に少ない?新たな挑戦にやりがい
現在の株式会社おいしい健康を設立されたのは、2016年7月でした。経緯などを教えてください。
クックパッドのヘルスケア事業からスピンアウトした流れです。当時は30代半ばで、新たな分野に挑戦する機会を失っているという実感もあって、IT業界をリードするクックパッドの環境でたくさんの刺激を受けました。なかでもヘルスケア事業は難易度が高く、代表者から「事業を大きくしてほしい」と期待されていたこともあり、僕自身は新たな挑戦にやりがいを感じていました。
ヘルスケア事業に没頭できた理由を、どのようにお考えですか?
ヘルスケアないし医療という分野そのものが、事業として純粋に面白いからです。サイエンスとテクノロジーは相性が良く、当初から大きなビジネスになる可能性を感じていたんです。一方、世界的に身近な課題ではありますが、取り組んでいる企業がそう多くありません。
あとは、未知の分野であっても「誰よりも詳しくなる」という自分の理念にのっとって、がむしゃらにやってきたのみです。
どのような環境で働いていたんですか?
事業部の責任者であった私には、部下が40人程度いたので一人ひとりの相談を受けるだけでも1カ月はかかっていました。細かな業務もたくさんありましたが、若さもあって勢いで乗り切っていましたね。仕事の合間で医療の知識を徹底的に叩き込んで、今では、学会や講演会にも登壇できるようになったんです。第一線で活躍する医師の方と議論しながらの仕事は勉強にもなりましたし、医師の方から「おもしろい」と言ってもらうたびに、モチベーションも高まっていました。現在も、医師の方々と一般ユーザーの方々との橋渡し役となれるように、知見を蓄えています。
疾患を抱える患者をはじめ、すべての人の健康な生活に寄り添う
現在、注力するAI献立提案・栄養管理アプリ「おいしい健康」のサービス内容を教えてください。
病気の予防や管理、ダイエットなどを目的とした方に向けて、管理栄養士監修のレシピ検索、献立作成のサービスを提供しています。利用者の7割は実際に何らかの疾患を抱えている患者さん、健診で健康上の課題を指摘された方が2割で、残りはダイエット目的の方もいます。主治医の指導を家庭で実践するのが難しいため「アプリが役立っている」という、うれしい声をいただいています。意見を寄せてくださる方の中には、耳なじみのない疾患を抱えていらっしゃる方、スポーツざかりの子どもを持つ親御さんなどもいらっしゃいます。毎日、何十件と問い合わせが寄せられるので、食事に悩んでいる人が想像以上に多いことを、日々痛感しています。
競合はいらっしゃるんでしょうか?
いえ。サービスとして、国内外でほぼ前例がないと自負しています。食事記録アプリと比較されることがあるのですが、我々のアプリは「今日は何食べようか?」と迷う人を支えるのが主な目的のため、競合ではないと考えています。食事を記録する行為は本来「自然」ではないんです。健康になる、疾患を予防するという生活の上では、新しい習慣を無理に増やすのは得策ではないとの考えもあります。アプリを通して、献立を考える手間が減り、自然と健康が日常に寄り添う生活をユーザーが過ごしてくださるのが理想です。
アプリでは「AI」よる献立づくりがうたわれていますが、どのように活用されているのでしょうか?
近年は生成AIやLLM(大規模言語モデル)を導入していて、複数のAI技術を組み合わせた「コンポジットAI」の手法がベースとなっています。LLMはチューニングして「おいしい健康」に組み込んでいますが、正確性への課題があるため、部分的に従来型AIも採用しているんです。以前は、膨大な手間と時間がかかっていた食事解析もLLMの発達で迅速になりましたし、テクノロジーの進化は常に追いかけています。
健康な生活をサポートして医療費削減への貢献も
今後の展望を教えてください。
過去に関わってきた分野で、ヘルスケア分野が一番長くなりました。経営者としての使命感はもちろんありますが、何より、興味を持ってから「何が何でもやる」と意気込んできた分野なので、これからも全力で取り組む覚悟です。すべての人が「今日は何を食べようか?」となったとき、手に取っていただけるアプリへと成長させていくのが理想で、食事で健康を維持できる生活をサポートしながら、ひいては、社会的な課題にある医療費の削減にも貢献できればと思っています。
エンジニアの方などが働かれていますが、クリエイターに向けてのメッセージもお願いします。
一緒に働くなら、ポジティブな人がいいです。何か課題があっても「まあ、1カ月もすればいい方向へ向かえるはず」と切り替えられるイメージですね。新たな施策を練っていく中では技術やスキルよりも大切で、正解がない業務に直面しても、自力で乗り越えられる人はきっと弊社で活躍できます。エンジニアといっても、弊社ではコーディングができればいいのではなく、プロダクトやサービスの舵取りをするなど、幅広い業務があるんです。これからはAIがコードを書く時代に入っていくはずですし、体験や価値をいかにして「ユーザーへと届けるか」を、考えられる人を求めています。
取材日:2025年5月23日 ライター:カネコ シュウヘイ
株式会社おいしい健康
- 代表者名:野尻 哲也
- 設立年月:2016年7月
- 資本金:1億円
- 事業内容: ITを活用したヘルスケア事業、生活メディア事業
- 所在地:〒103-0024 東京都中央区日本橋小舟町3−2 リブラビル3階
- URL:https://corp.oishi-kenko.com/
- お問い合わせ先:公式サイト「contact」より