グラフィック2025.06.11

ブランディングで「山を整える」。美容業界の知見を生かし、感性×ロジックのメソッドで心を掴む

名古屋
合同会社クラッチワークス 代表社員
Naoyoshi Nagaya
永冶 尚義

名古屋を拠点に、ブランディングデザインの力でクライアントの課題を解決する合同会社クラッチワークス(CLUTCH WERKS LLC.)。代表の永冶 尚義(ながや なおよし)さんは工業高校を卒業後、工場勤務、出版社、美容関連企業を経て、2017年に3人で独立を果たしました。全国区を目指す同社の強みやブランディングデザインの考え方、クリエイターへのメッセージなどを伺いました。

軽い気持ちで受けた面接がキャリアの転機に

学生時代、どのような未来を思い描いていましたか?

実は、明確な夢や目標は持っていませんでした。岐阜県出身で、工業高校に進学したのもバスケの強豪校だからという理由だけです。工業系の知識やものづくりに特別な興味があったわけではなく、将来について深く考えることもありませんでした。
卒業後は大手メーカーに就職して工場勤務を経験したのですが、仕事にやりがいを見いだせず、辞めたいと思い続けた4年間でした。23歳頃になってようやく「仕事と真剣に向き合わなければ…」と考えるようになったんです。

その後、どのように進まれたのですか?

メーカーを辞め、半年ほど失業保険をもらいながら過ごしました。それから自分は何をしたいのかと自問する日々が続きました。
当時、唯一興味を持っていたのがファッションで、岐阜や大須でよく買い物をしていました。東海エリアで人気があった「SpyMaster」というファッション雑誌があったのですが、スナップ撮影企画でカメラマンと編集者に声をかけられ、人生相談のような話をしたんです。すると「この仕事は誰でもなれるよ」と言われ、軽い気持ちで面接を受けたところ、採用されました。それがキャリアの大きな転機でした。

出版社で企画の醍醐味を知る

出版社ではどのような経験を積まれたのですか?

「SpyMaster」のセールスプロモーション部門で、企画立案や販促活動に携わりました。当時、読者モデルが流行っていて、彼らを起用したファッションショーやイベントを企画し、雑誌の認知度向上に努めたんです。5年間の経験を通じて、企画を考える楽しさや、チームでアイデアを形にしてお客さまの反応を見る喜びを知りました。カメラマンや編集者との協業も刺激的で、この時期の経験が今の私の基盤を築いたといえます。

その後、美容業界に進まれたきっかけは?

出版社で5年ほど働き、そろそろ次のステップを考えていた時期に、美容室を母体に飲食店やネイルサロンなどを展開する複合企業から「うちに来ませんか?」と誘っていただいたんです。出版社で培った販促のノウハウを生かして美容業界で新しい挑戦を始めました。

美容業界で磨いたプロモーションの知識と実力

その企業ではどのような役割を担ったのですか?

広報担当として出版社での経験を美容業界に応用しました。当時、美容業界ではプロモーションの専門知識を持つ人が少なく、私が制作したパンフレットや美容学生向け就職フェアのブースデザインが注目されたんですね。就職フェアではきちんとしたパンフレットを作成したことで「なぜこんなことができるのか?」と驚かれたんです。
その結果、他社のサロンや美容関連企業から「手伝ってほしい」と依頼が来るようになり、広報だけでなく制作部のような役割も担うようになりました。美容業界の課題解決に取り組む中で、女性をターゲットにしたブランディングのコツを学びました。

そこから独立にいたった経緯は?

その企業での仕事は充実していたのですが、心から一緒に仕事をしたいと感じる仲間と、もっと気持ちよく働ける環境を作りたいという思いが強くなり、デザイナーの小澤と営業の加藤、そして私の3人でCLUTCH WERKSを設立しました。
元々いた会社のグループ企業として将来的に独立するという道もありましたが、起業を選びました。加藤が営業とマーケティングを担い、小澤がデザイン、私がディレクション&プランニングを行えるということで役割分担も明確でしたし、3人なら信頼し合って気持ちよく働けると確信できたので思い切って起業することにしました。

3人で始めたCLUTCH WERKSの物語

CLUTCH WERKSの社名の由来やロゴへのこだわりを教えてください。

「クラッチ」は「掴む」という意味で、小澤が提案してくれました。そこから「クラッチワークス」の語感がいいなと感じて、調べていくうちにワークスの「o」を「e」に変えるとドイツ語で「作業場(werke)」という意味になることを知って決断しました。社名には「世の中の心を掴むアトリエのような作業場にしよう」という思いが込められています。
ロゴタイプのCの文字は正円を45度にカットしたシンプルなデザインで、回転しても美しく見えるようにこだわっています。

3人の強みはどのように生かされていますか?

加藤は、前職で数億円もの売り上げを短期間で作った営業のプロです。そして小澤はデザインのクオリティーに徹底的にこだわる職人肌。私はその間を取り持ち、クライアントの課題を整理して提案する役割。3人とも前職のチームメイトだったので、信頼関係が強固でした。少数精鋭で、クライアントと真剣に向き合える会社を目指しました。

創業からの8年間はいかがでしたか?

20年のコロナ禍は本当に厳しかったですね。仕事が一気にゼロになり、カレンダーが空っぽに。「このまま潰れるかもしれない」と本気で焦りました。
当時は美容業界全体が「営業継続か?」「休業か?」の選択でギスギスしていて暗い雰囲気だったんです。その空気を変えたいと強く思いました。

どのように乗り越えたのですか?

人気イラストレーターとコラボして、美容室向けのPOPを無料で配布するプロジェクトを始めました。美容師が伝えたいのは、お客さまの美しさやスタッフの安全を守ること。そういうメッセージをPOPで発信すれば、業界の空気が変わると考えたんです。
結果、POPが全国の美容室、ネイルサロン、エステ、美容メーカーなどで使われてSNSでバズり、取材も入りました。コロナの少し前から、グラフィック中心だった事業をWebにシフトしていったのも功を奏しました。振り返ってみるとコロナ禍が事業の幅を広げるきっかけになりました。

ブランディングは「山を整える」こと

CLUTCH WERKSの事業内容を教えてください。

私たちは「ブランディングデザイン」を主軸にしていますが、単なるデザイン会社ではありません。クライアントの目的や課題をヒアリングし、ゴールに近づけるプランニングやコンサルティングが中心です。
影響を受けたのは、good design companyの水野学さんのブランディング理論。ブランディングは、河原の石で山を作るようなものだと考えています。ロゴ、接客、空間、サービスなど、すべての要素がバランスよく積み重なって美しい山になる。私たちは、クライアントの山が崩れている部分を見つけ、クオリティを上げて整えるんです。

具体的な事例を教えてください。

工務店からの依頼で、女性向けメゾネット物件のブランディングを手掛けたことがあります。
働く女性に向けた物件にしたいという相談だったので「クラスワーク」という名前を提案。スタジオを借りて女性が働く・暮らすシーンを撮影し、SNSでPRしたところ、不動産の広告媒体に出さずとも予約が殺到。「こんな状況は見たことがない」と驚かれました。
私たちは10年以上の美容業界経験があるので、女性をターゲットにしたエモーショナルな打ち出し方が得意なんです。このノウハウが他業界でも通用すると実感しました。

強みはどこにありますか?

私と加藤はデザイナーではありませんが、ロジカルなマーケティングとエモーショナルな視点でデザインを生かすことができます。そして小澤のデザインチームがクオリティーを支えています。美容業界での経験も大きく、女性向けのビジュアルやPRは他業界では珍しいアプローチ。ロジカルとエモーショナルを両立できるのがCLUTCH WERKSの特徴ですね。

ブランディングデザインで全国区の会社を目指す

今後の展望を教えてください。

現在は10人ほどの組織ですが、規模拡大より質を重視しています。名古屋を拠点に全国区のクリエイティブカンパニーを目指したいと考えています。遠方のお客さまでも「ぜひCLUTCH WERKSに頼みたい!」と言われる会社になるのが目標ですね。

クリエイターが価値を高め合えば、業界全体がよくなる。同志が集まるイベントを企画

最後に、世の中のクリエイターにメッセージをお願いします。

CLUTCH WERKSでは「クラッチバー」というイベントを不定期で開催していて、デザイナー、カメラマン、コピーライターなど50人以上が集まります。
クラッチバーは、会社にのれんをかけて仮のバーにして、クリエイター同士が仲間として語り合う場。競合ではなく、仲間として価値を高め合えば、業界全体がよくなると思います。
クリエイティブ業界は華やかに見えますが、パソコンに向かって黙々と作業する地味な仕事です。マンネリ化したり悩んだりしたときは、同業種の仲間と話すと気持ちが軽くなりますよね。もしクリエイターとして何か悩みや課題を抱えていたら、ぜひクラッチバーに来てください。一緒に飲んで、悩みを解決しましょう!

取材日:2025年4月21日

合同会社クラッチワークス

  • 代表者名:永冶 尚義
  • 設立年月:2017年4月
  • 資本金:200万円
  • 事業内容:ブランド構築、及びコンサルティング/グラフィックデザイン/デザインコンサルティング
  • 所在地:〒460-0012 愛知県名古屋市中区千代田1-8-1 千代田ブリックス 2F
  • URL:https://www.clutchwerks.jp
  • お問い合わせ先:https://www.clutchwerks.jp/contact/

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP