“地域からのご恩”を音効事業で返したい。亡き夫の事業を受け継ぎ、周りに支えられた日々

名古屋
株式会社ビー・ブルー 代表取締役
Kaori Aoki
青木 香織

映像作品などに欠かせない「音楽効果」を専門に手がける株式会社ビー・ブルー。地元・名古屋を中心に多くの顧客から信頼が寄せられ、東海圏のさまざま情報番組やテレビCM、有名なゲームの音楽効果も担当しています。ビー・ブルーを立ち上げた夫・信之さんの意志を継ぎ、マネジメントを手がける青木 香織(あおき かおり)さんは総合商社で20年以上のキャリアを重ねてきたビジネスパーソン。ビー・ブルーのビジネスに携わるようになったきっかけや会社の強み、仕事への向き合い方などをお聞きしました。

夫のすい臓にがんが見つかり、すぐ近くで支えることに。畑違いの業界に戸惑う、妻の決意

青木さんが代表に就かれたいきさつを教えていただけますか?

ビー・ブルーは私の夫が2003年に設立したサウンドデザインの会社です。私自身は総合商社に23年勤めていました。
総合商社での仕事は楽しく本当に大好きだったのですが、夫にすい臓がんが見つかったことがきっかけで退職を決意しました。闘病する夫を支えながら仕事を続けるのは難しいと感じたことと、互いに仕事がずっと忙しく、一緒にいる時間も短かったので最期の時間を悔いなく過ごそうと思ったんです。
私は18年からビー・ブルーに入り、夫が他界した19年に会社を受け継ぎました。

旦那さまが起業されたきっかけも教えてください。

夫は学生時代のアルバイトで音楽効果の仕事に触れ、その面白さを知って天職だと感じたようです。音楽効果の会社で10年ほど社員としてお世話になっていたのですが、ある時突然「自分の会社を持ちたい!」と伝えられました。本人はいろいろ考えての決断だったと思うのですが、私自身はそこまで深く考えずに「やりたいのであれば」という感じで背中を押しました。

起業されてからはいかがでしたか?

このビルの2階にある小さめの部屋に事務所兼スタジオを設けてビー・ブルーはスタートしたのですが、そこから10年で3階と5階にもスタジオを拡張し、さらには東京にもスタジオを構えました。
夫は口を開くと仕事の話という感じで情熱を傾け、いいお客さまにも恵まれて事業を広げていきました。

代表を継ぎ、コロナ禍も耐えて今がある

ご病気が見つかってからのことをお話しいただけますか?

東京スタジオを設けた直後に、すい臓がんが見つかりました。すい臓がんは治療がとても難しく、多くは数ヶ月の命なのですが、夫の場合は手術ができて、3年弱頑張ってくれました。
しかし、長年商社に勤めてきた私にとっては畑違いの業界で戸惑うことばかり。夫が他界してすぐにコロナ禍も来て、途方にくれたこともありました。
東京のスタジオも手放すことになり、たくさんの仕事も失いましたが、お客さまに助けていただいて、やっと事業が安定してきた感じです。

経験豊かなスタッフと蓄積されたライブラリーが宝。社名に込めた思いとは

ビー・ブルーで手がけられているビジネスと、強みを教えてください。

さまざまな媒体のコンテンツ映像やイベントにサウンドデザインを行う「音楽効果」が私たちの仕事です。映像に合わせて音を作る「フォーリー」やナレーションなどの音声収録、「マルチオーディオ」という音の編集作業などを行っています。
当社の一番の強みは、さまざまな媒体や表現作品に対して音のデザインができる経験値豊かなスタッフがそろっていること。さらに、設立から蓄積された膨大な量のサウンドライブラリーがあることです。経験値豊富なスタッフと確かなサウンドライブラリーの掛け算によって高品質な音楽効果を提供できています。
業界内で「音効さん」と呼ばれるスタッフがマルチオーディオミックスまで対応することで細やかな表現対応が行え、自社スタジオも3部屋備えています。

ビー・ブルーの社名の由来も教えていただけますか?

名前が「青木」ですので、そこから「ブルー」としています。夫の好きだった「BOOWY」の楽曲「B.BLUE」から社名を決めたのかとよく聞かれるのですが、私としましては、青い空や海のような清々しいイメージや、青が象徴する安定感や誠実さを社名から感じ取っていただけるとうれしく思います。
青は“穏やかさや安らぎをもたらす色”とも言われています。名は体を表して、当社のスタッフはみんな、穏やかで安らぎをもたらす雰囲気の人だとも思っています。

多くのすばらしい作品に携われる幸せ。好奇心を持てば、世界はカラフルに

これまでで印象深い仕事はありますか?

スタッフにアンケートをとってみたのですが、毎回すばらしい作品に携わらせていただき、それぞれに印象的だという答えでした。私としては、複数のスタッフで作り上げるTV番組制作の音を任せていただいていることをありがたく思っています。
当社が関わったCMが、不意にテレビで流れるのを見るとうれしいですし、誰もが知っている有名なゲームのフォーリー(音作り)に携われたのも貴重な経験でした。

音楽効果で大切にしていることは?

音楽効果は視覚効果を補完する、映像や会話だけでは表現しきれない感情を補完するなどの役割を果たします。環境や状況をイキイキと表現することで観る方々に臨場感を与えるほか、重要なポイントを強調したり物語の流れを音や音楽が補完したりすることで不可視の要素を明らかにする役割も果たします。そのため、対象作品やコンテンツが「誰に対して何を提供したいのか?」「それをどのように伝えたいのか」を理解する力が非常に大切です。
作品の制作に携わるほかの方々の思いを汲み取るコミュニケーション能力も必要で、その能力には相手や作品世界に対する想像力と言語化能力も含まれます。
また、歴史や作品の背景などを調べてみたいと思う気持ちも大切。常に好奇心を持って作品に接することができる人の世界は、どんどんカラフルになっていくと思っています。

持続可能なビジネスを推し進めていくために。ご恩を「仕事でお返しできれば」

クリエイターとして大切にすべきことは何ですか?

技術やトレンドは常に変化しているので常に新しい知識やスキルを取得し成長しようとする姿勢も極めて重要ですし、作品の伝えたいことや世界観の中に独自の視点や考えを表現するバランスも大切だと思います。
そして、持続可能な活動を行うためには、長期的な視点で健康に気を遣うことも必要です。私は夫を病気で亡くしているので特に感じることです。
「持続可能性」に関してもう少しお話しすると、当社は当社だけで完結できる仕事を行っているわけではないので、ほかの制作段階にも思いを馳せ、無理のない時間配分や全員が良い仕事ができる環境を心掛けることも大切だと思っています。前職の商社時代では、「お金を回収するまでが仕事である」としつけられました。趣味ではなくプロとしてやっていくためには、このような時間やお金の管理にもきちんと目を向けることも重要ではないかと思います。

企業としての展望を教えてください。

持続可能性を高める点でも、足腰のしっかりした体力のある会社にし、そのうえでスタッフが「仕事が楽しい」と感じられる会社であればいいなと思います。
将来的にもう少しスタッフを増やして、作曲や音作りのような仕事の幅も広げられたらと考えています。ビー・ブルーには音大を卒業した社員もいるのですが、音の世界を心から楽しみながら、必要な要素を直感でとらえ、それを論理的思考でアウトプットしており、若手ながらすごく活躍してくれています。
先の社長が亡くなった時期が、コロナ禍と重なったこともあって手放したことも多くありました。正直心が折れそうでした。しかし、これまでお世話になってきた同じ地域で働く方々の支えがあって、会社を続けられました。人の優しさを心から感じられ、今でも本当に感謝しています。これからは、当時手放した仕事を一つ一つ取り戻していき、その時のご恩を仕事で皆さまにお返しできればと思っています。

経験や感情がすべて、自分を構成する糧となる

最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

楽しいことやうれしいことはもちろん、つらいこと悲しいことも含めたさまざまな経験や感情がすべて自分を構成する糧になり、表現の幅や深みになると思います。
あとから振り返ってみると「あの時、あのことがあったことが今につながっているんだ」と感じることもあると思います。それは、未来になってみないとわからないことかもしれませんが、やっぱり人生に無駄な経験はないのだと思います。
自分自身を思いやるように、他者の思いや考えを尊重し、他者への感謝を忘れずにたくさんの経験をしてください。

取材日:2024年1月30日

株式会社ビー・ブルー

  • 代表者名:青木 香織
  • 設立年月:2003年10月
  • 資本金:2000万円
  • 事業内容:各種コンテンツのサウンドデザイン・MAスタジオ運営
  • 所在地:〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3丁目17番4号 第11KTビル201
  • 電話番号:052-951-3340
  • URL:https://beblue.co.jp
  • お問い合わせ先:https://beblue.co.jp/contact/

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