若い頃は、迷いが多い日々を過ごしていました。大学受験がうまくいかなくて、2浪していたんです。今思えば、目の前の楽しさに流され、2浪目はアルバイトに一生懸命になっていました。
20歳の時に大学進学を諦め、親の勧めで地元の印刷会社に入社して、そこで3年間、営業や印刷の基本を学びました。仕事は楽しかったのですが、「自分のやりたいことをやってみよう」という思いが募ってきました。当時は海外で暮らしてみたかったので、その資金を貯めるために自動車部品製造会社の期間工になりました。2年勤めて貯めたお金をもとに、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアに行き、そこで1年弱過ごしました。オーストラリアでは遊んでばかりでしたが（笑）。それでもずっと憧れていた「海外で暮らす」ことを成し得たという達成感がありましたし、腑に落ちたというか、日本に戻ってまた社会人として働いていこうと思うようになりました。

ご縁ですかね。帰国して知り合いの写真家のところで営業として働いていました。仕事を続けるうちに、現在の会社のルーツとなる有限会社クリエイターアクトに声を掛けてもらって。そこで十数年、営業としてさまざまな案件に関わらせてもらいました。
その社長との出会いは、私の人生にとって大きな出来事でした。後に彼と一緒に今の会社を設立して、彼が70歳で引退するまで、25年以上一緒に働きました。

独立しようなんて一切考えていませんでした（笑）。2010年にクリエイターアクトが別の会社と合併したのがきっかけです。仕事仲間は一緒に新会社へと移行して、社長もそのまま彼が続投していたのですが、新しい人間関係や会社の方針に馴染めなかったり、自分たちがこれまで当たり前と思ってやっていたことが、できていない気がしました。
それまでお客さまに寄り添って広告の制作をしていた自分たちのやり方が生かせずにいたことから、この状況で続けるよりも、社長や思いを一緒にする仲間と独立することを選び、アクトを設立しました。その時のメンバー4人は今も一緒に働いています。

一言でいうと、企画制作会社に近い広告代理店でしょうか。年数を重ねるうちに仕事の幅が広くなってしまって、できないことはないのでは、というくらい多岐にわたっています。
テレビやラジオなどメディアをはじめとした広告業はもちろん、印刷物の企画から制作、パッケージのデザイン、販促のイベント企画もやります。もちろんWebサイトも手掛けていて、企画から制作、運営管理、コンサルティング、システム開発も自社でやっています。店舗の空間デザインや書籍の企画・販売なんかもやりますよ。

徐々に変わってきましたね。会社を立ち上げたときと今ではお客さまがまったく変わりました。当初は一般企業のイベントチラシの制作などがメインだったのですが、農業団体関係のお仕事をするようになってから、当社の仕事内容が変わっていきました。
そして企画の段階から一緒に考えて、さまざまな媒体を使いながら形にしていく今のスタイルが確立されました。その他のクライアントからも「困ったことがあったら、まずはアクトに相談してみよう」とお話をいただくことが多いですね。

お客さまのことをよく知ることではないでしょうか。たとえば、農業団体さんで他県産のお米を扱うことがあったとき、東北地方での商談に連れて行っていただいたことがあります。こういうことをする業者は少ないかもしれませんが、お客さまに深く関わることで、困っていることや大切にしていること、叶えたいことなどを知ることができます。
うちは少数精鋭でやっていますから、スタッフ一人一人がプロです。業務はもちろんですが、お客さまの裏側にあるニーズに気付く視点を全員が持っていて、要望に応えていけるというのが強みだと思っています。「こういうことをしてみたらどうですか？」と、お客さまの懐に入り込んで一緒に考えて「やってみましょう」と少々タイトでも一緒に汗をかけるのが当社の良いところだと思っています。

いつもではないですよ。お客さまにとって、本当にやった方がいいと思うことは見切り発車してでも取り掛かったり、タイトなスケジュールでも引き受けたりすることもあります。先日もG7広島サミットの開催が迫る中で英字の地産地消メニュー表が必要になったことがありました。翻訳して印刷にまわして前日になんとか納品できるかというタイトなものでした。もともと広島の地産地消推進に関わる仕事もしていたこともあり、お客さまの思いに応えたくて頑張りました（笑）。

仕事の内容の幅が広すぎて、人材の育成が難しいですね。営業を強化したいなと思うこともあるのですが、なかなか余裕がありません。営業としてありとあらゆることを説明できないといけないし、そのためには一朝一夕では成し得ない膨大な知識が必要になります。新しい風を入れたい思いもありつつ、育成の難しさを感じています。

自分の仕事を通じて、広島の豊かな自然を守る一端を担えていると感じるときですね。たとえば先ほどお話しした地産地消関係で、農家さんの取材のために田んぼに行ったときには、川が流れる長閑な田園風景が広がる景色に心を奪われました。趣味でトレイルランニングをしているのですが、山頂から見渡す広島の海や山、この素晴らしい自然がとても愛おしくなります。この美しさは、生産者さんなど関わる人たちの日々の努力があって保たれているものです。何もしなかったら荒れていくばかりです。この風景を守っていただいている方々には、感謝しかないですよね。私たちもその人たちの営みを広く伝えていく仕事を通じて、この自然を守る一端に関われていることをうれしく思います。しかも一過性ではなく継続して関わっているので、勉強にもなりますし、なにより楽しみながら取り組めているのがいいですよね。

当社の事業が幅広くなってしまったため、新しい事業をするときは誰かとタッグを組んで別会社で運営していくことも検討しています。最近ECコンサルの会社を別で作りました。コンサルタントとして非常に優秀な人材がいるのですが、営業のノウハウがないことから、われわれが事業をサポートできるのではないかというのが始まりでした。こんな風にお互いにプラスになる人と事業を拡大していければと思います。

やはり強みを持つことでしょうか。この分野なら負けないよ、というものを持ってほしいですね。いま、一緒に仕事をしている人たちは、みんな何かしらに特化している強みがあります。それがあれば「あの人に聞いてみよう」ってなるし、仕事も広がっていくと思います。

仕事にゴールはないですから、常にアンテナを張っていてほしいですね。そのためにもネットだけではなく人に直接会うことを心掛けてほしいです。リアルな付き合いから生まれる仕事の方が断然多いですし、満足度も違うのではないでしょうか。
ほかには自分の引き出しを増やしておくことも大切です。たとえば、プライベートでご飯を食べに行っても、そのお店を観察してみる。こういうことに困っていないかなと想像してみたり、今すぐ解決できる課題はなにかと考えてみたりするのもいい練習になります。あとは自分と違うタイプの人と話すこともいいですね。見聞を広められるし、仕事にも生きてくると思います。