「人の心を動かす」映像で届け、お客さまの想い。映画監督を目指した先に開いた道

大阪
株式会社Matchcut 代表取締役・ディレクター
Joe Taniguchi
谷口 譲

テレビ・WebのCMや企業・商品紹介、イベント映像、ミュージックビデオなどさまざまなジャンルのプロモーション映像制作を手がける大阪の株式会社Matchcut(マッチカット)。企画立案から演出、編集までを担当する代表取締役の谷口 譲(たにぐち じょう)さんは、もともと映画監督を志すも方向転換して映像制作の世界に入った経歴があります。独立に至った背景や会社立ち上げに向けた想い、今後の展望についてお話を伺いました。

自主制作で映画監督を目指すも、方向転換。思いがけず、独立へ

谷口さんはもともと映画制作の仕事に就きたかったそうですね。

高校時代から映画鑑賞が好きで、気になる作品を2回、3回と観るうちに演出や編集、脚本上の意図の奥深さに感動して、映画を撮る側になりたいと思うようになりました。
専門学校卒業後は短編の自主映画を数本制作し、映画祭で審査員特別賞を受賞しました。「映画監督として食べていけるかも」と手応えを感じて、次のステップとして長編を撮りましたが、数百万円をかけても自分の納得がいく出来ではなくて。シネヌーヴォという映画館で映写技師のアルバイトをしていた関係で日本映画の監督の方々と舞台挨拶に来られた際にお話を伺う機会も多かったのですが、しだいに映画作るだけで食べていくのは自分の能力では難しく、映像でお金を稼ぐ何かを見つける必要があると実感したんです。次の作品を撮る資金も体力もなかったため、27歳で就職を決めました。

その後、映像制作で独立したのはどんな経緯がありましたか?

入社した大阪の映像制作会社では、映画制作で培った演出や編集経験を生かしながら、テレビ番組やCMを含めてさまざまなジャンルの商業映像の制作工程に一通り携わりました。社員が少人数だったのもあって、早くから色んな案件を担当させてもらい、実務経験を積みながら学び、経験を積ませて頂きました。この期間は休みもあまりなく働いていましたが、特に苦に思うこともなく、今でも感謝しています。
しかし数年間勤務した後に、先が見えなくなってきたというか、変化していかないと腐ってしまうと思ったんです。それで無理言って退職させてもらい、転職活動を始めました。
その期間にお世話になった取引先の方から仕事の依頼をいただくようになり、2014年に独立という形になりました。もともと独立は考えていませんでしたが、仕事を受けるうちにありがたいことに忙しくなっていき、おかげさまで9年が経った感じです。さらなる業務拡大のため、22年に株式会社Matchcutを立ち上げました。

独立の出だし好調。社名「Matchcut」に込めた想いとは?

独立してから大変に感じたことはありますか?

正直、1年目は合う会社があれば就職しようと考えながらやってきましたが、2年目に入ってこのまま続けても大丈夫だと確信しました。2週間ほど予定が空く時は不安になることもありましたが、金銭面で大変だとは思いませんでした。
ただ、大切なお客さまの期待に応えようと、スケジュールや金銭面が厳しくても、無理して仕事を引き受けてしまうことがたまにあります。関係を良好に保ちながら交渉する難しさを感じています。

Matchcutの社名にはどんな想いが込められていますか?

マッチカット(Match cut)とは、本来時間も場所も関連していない異なるシーンを視覚的にマッチングさせる映画の編集技術で、イギリスの映画監督であるアルフレッド・ヒッチコックもよく使用した手法です。
もともと映画制作を志していたことから、専門用語を社名にしました。また、クライアントの想いをターゲットとなる顧客に届けるためにマッチした映像を作りたいという想いも込めています。

時間と予算の範囲内で最善のものを提案。今も映画から技術を学ぶ

現在の事業内容と業務体制についてお教えください。

テレビ・WebのCM、企業・商品紹介、イベント映像、ミュージックビデオなどあらゆるジャンルのプロモーション映像制作を行っています。企画立案から制作をまるごと受けることもあれば、「編集だけ」「撮影のコーディネートだけ」「イラストをアニメーションで動かしたい」など、お客さまのご要望に合わせて対応が可能です。
編集も含めて基本的に私が担当しています。案件により客観的な視点が必要な場合はほかのクリエイターに依頼することもありますし、逆にカメラマンが撮影するところを自分で行うこともあります。

大手企業の案件も多く手掛けておられます。これまで仕事が途切れず続くのは、御社にどんな強みがあるからだと思いますか?

私自身、映画やテレビドラマの現場も経験してきたことでしょうか。何かに特化せずあらゆるジャンルに対応できることや、ディレクションだけでなく編集も含めた一連の工程をワンストップに任せられることが大きいと思います。
また、限られた予算の中でも、相手が求める以上のいいクオリティを出す自信はあります。依頼する企業からすると「この人に頼んで安心感があるか」「淀みなくやり切れるどうか」を重視しているように見受けられますね。「おしゃれに作ってほしい」と依頼されることもありますが、ファッションショーの映像も経験していた私なら期待通りにできると思われるのかもしれません。

いいクオリティに仕上げられると言えるのは、なぜでしょうか?

演出や機材の面などで、「どうやったら良く見えるか」のノウハウをある程度わかっているからです。やはり私の場合、映画がベースにあるからだと思います。20代は1日3本、年間400~500本もの作品を観ていましたから。最先端の映像技法は映画やミュージックビデオが参考になるので、今も勉強というよりは好きで観るようにしています。

映像を「こだわりすぎるのも良くない」?フェリーの広告映像に熱意

仕事においてどんなことを心掛けていますか?

限られた時間と予算内で最善のものを提示することです。私は昔から映画監督の中でもアメリカのウディ・アレンが好きで、年に1本は撮っているのにクオリティは常に70点以上をキープしているところが尊敬に値します。
私自身も仕事において70点を切らないように意識しています。もちろん100点に近づけたいですが、自分の中の100点が皆にとっての100点とは限らない。こだわりすぎるのも良くないと思っているんです。例えば、1日で撮影しないといけないのに、現場でこだわるあまりに時間をかけすぎると、たくさんのスタッフが関わる現場では、みんなテンションが落ちてしまうことがあります。予算のこともあります。時間との闘いだからこそ70~80点でもトータルで“より良いものを“を意識しています。「そこまでしなくていいよ」と思われるより「思った以上にスムーズにいきましたね!」とクライアントに思ってもらえる方がいいと思っています。それでいて、クオリティもちゃんと担保している、だとなおいいじゃないですか。

これまでに手掛けた映像で印象に残っているものは何でしょうか?

最近制作した、阪神地区と北九州地区を結ぶ阪九フェリーのプロモーション動画「私たちがフェリーで行く理由」(https://www.youtube.com/watch?v=_-VRykgGLCE)ですね。2人の女性社員が出張で初めてフェリーを利用したことで船旅の魅力にはまり、友情が育まれていくWebドラマで、企画構成と監督を務めました。できるだけ広告色や説明っぽさを出さないように、ドラマとして引き込まれながら自然にフェリーの特徴を伝えられるように意識しました。

周りに恵まれた今こそ、業務拡大に向けて新規営業に挑戦中

Matchcutを立ち上げてから、新規営業も始めたそうですね。

これまでは周りに恵まれていて、以前の取引先や、そこからの紹介のみで仕事をしてきて、営業をかけたことがありませんでした。業務を拡大させようと最近新規営業を始めたところですが、正直大変だと感じています。営業代行や見積サイト制作、SEOで売り込みを始めましたが、成約に至るのはなかなか難しいですね。
しかし、大手企業の制作実績も多いことは当社の強みになるので、問い合わせを増やすためにも今後Webサイトをもっと充実させていこうと思っています。

若いうちに修業と思って現場に飛び込む勇気を

クリエイターにはどんなことを求めますか?

どんなポジションでも自分事として捉え、行動できる自主性が大切ですね。たとえ社長に言われても鵜呑みにするのでなく、それに対して「こういうことではないか?」と自分で常に考えることを意識して行動するのが、“できるクリエイター”だと思います。
あとは「自分がやらなきゃ」という使命感やタフさも大事ですね。長時間仕事することがあっても苦にならない人なら、独立してもギャップが少ないと思います

クリエイターの皆さんに向けて、アドバイスをお願いします。

できれば20代のうちにいろんな人と知り合ったり、制作会社に入ったりするなど勇気を出して現場に飛び込んで経験を積む方がいいですね。トップクリエイターの仕事のやり方を知ると知らないとでは、その後の成長に大きな差がつきますから。3年も身を置いて学べば自信につながります。私自身、最初は「自分でできる」と決め込んで映画制作の現場に飛び込まず、自主制作をした経験から、そこは遠回りしてしまったなと今となっては思います。まずは修業期間と思って飛び込み、自分のできることもできないこともなんでもチャレンジしてください。

自分が本当に作りたい映像を能動的に発信したい。映画制作にも意欲

今後の展望をお聞かせください。

これまでは基本的に受け身のスタンスでやってきましたが、トップクリエイターはもっと能動的に働きかけて作っていると思うんです。つながりと実績だけで9年間やって来れた今こそ、これからはもっと自分から「こんな映像を作りませんか?」と提案できる会社にしていきます。
また、映像を“仕事”ではなく、“ライフワーク”にしていきたいです。自分が本当に作りたいと思っている映像を日々発信し続けていくことで、「なんかこれいいね」「感動した」などと、人の心を動かしていく。映像でおもしろいことをやっている会社として認知してもらえたらと。それが結果的に依頼や問い合わせにもつながると思っています。

いつか再び映画を撮りたい気持ちもありますか?

今は42歳ですが、40代のうちに映画をまた撮りたいと思っています。今度は自主制作ではなく、企画書を作ってプロデューサーと組んで商業映画を作りたいです。これまで広告映像を手掛けて、課題を見つけてそこにどうアプローチしたらいいのかを考えるようになったことで、昔に比べてより良い映画づくりができると思っています。ただ映画作りはチームなので、いいチームビルディングができないといけないと思っています。もともとこの世界に身を置いたのも映画を作ろうと高校時代に思ったのがきっかけなので、それは実現させたいですね。

取材日:2023年5月2日 ライター:小田原 衣利

株式会社Matchcut

  • 代表者名:谷口 譲
  • 設立年月:2022年2月17日
  • 資本金:1,000,000円
  • 事業内容:映像・動画企画・制作・オンライン配信・デザイン制作・映画制作
  • 所在地:〒550-0002 大阪府大阪市西区江戸堀1-6-13 肥後橋堀田ビル403
  • URL:https://matchcut.jp/
  • お問い合わせ先:上記Webサイトお問い合わせフォームより

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