「QRな日々の中で」

第130話
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
Akira Kadota
門田 陽

僕の行きつけと言うほどではないけど、ひと月に一、二度通っている近所のへぎ蕎麦屋さん(繁盛店)がこの春に様変わりしました。別にリニューアルや改装をしたわけでも、メニューが新しくなったわけでも値上がりしたわけでもありませんが大きな変化。特に年配の常連さんには劇的な出来事。事件とも言えます。

客席での注文がQRコードになったのです。いやいやそんなことは今どき珍しくも何ともないことと思いますよね。しかし、ここは昔ながらのお蕎麦屋さんで店員のお姉さんたちとのバカっ話もつまみにしながら酒を酌み交わすお店。その肝心のコミュニケーションがなくなってしまうと味は変わらずおいしいのにまるで別のお店になる印象です。

正直なところ昭和生まれの僕はQRオーダーは苦手というか好きになれません。大きなチェーン店ならともかくすぐそこに顔なじみの店員さんがいるのになぜ?な気持ちになってしまいます。お店によってはLINEの友達申請をしないといけない所もありますよね。Z世代やα世代は抵抗ないのかな。フシギです。

先月、大阪に出張で行った際、お昼に時間が空いたので一人で梅田駅の近くのスシローでランチをしました。お昼時を少し外して行ったにもかかわらず長蛇の列。列といっても椅子があるのできつくはないのですが、隣に座った同年代くらいのおっちゃんが「あんた入口の機械で予約してきとんのか?」と尋ねてきたので「いえ、してないです」と答えると「はよしてきた方がいいよ、ここ取っといたるから」と言われあわてて予約を済ませました。

15分くらい待つと機械音でナンバーが呼ばれ指定のカウンター席につくとオーダーから会計までオールタブレット。お寿司もサイドメニューも飲み物も全てレーンとロボで目の前に登場。食事が終わり会計のコーナーへ。ここでQRコード決済を行い(※支払方法は多数あります。但しいずれもセルフ)入店から約30分で退店。この間なんとお店の人とのコミュニケーションは皆無でした。スゲーな令和。この数年で世界は加速して斜め上に向かっていませんか。実はすでにいつの間にか22世紀なのではないでしょうか。

子どもの頃、テレビや雑誌や新聞で21世紀の特集をよくやっていましたが、明らかにもうその頃の人間の想像を超えた世の中な気がします。アトムにはとっくの昔に、ドラえもんにもすでに会ったような気がします。車は空を飛んではいませんが、物理的にはもう飛ぶことはできるはずです。どこでもドアは無理でしょうが、ネットの中ではどんな世界にもすぐに入ることができます。犬や猫とはまだ喋れませんがときどき喋っている人は見かけますし笑、もうこれ以上文化が進化するのを見るのは恐いです。人間に限界はないのでしょうか。

つい先日見た映画『サンキュー、チャック』(スティーブン・キング原作、マイク・フラナガン監督)は近未来の場面から始まります。地球温暖化が進み世界中で天変地異が起き、インフラが破壊されインターネットが使えません。スマホも電話機能以外は何もできなくなりました。すると人間は気力がなくなりボーっとしてしまいます。腑抜け状態の人が増加していきます。家でも会社でも学校でもネットがないのでうまく事が運びません。勉強もはかどりません。紙の本で調べたりノートに鉛筆で書く昔の暮らしには戻れなくなっているのです。

一度手に入れてしまうとなかなか元に戻すことは難しい。一度手を繋いだらもう次に会うときは手を繋ぐだけではドキドキしません。一度キスをしてしまったらもう次に会うときはキスだけでは我慢できないのが僕たち人間の悲しいサガなのです。ある意味人間はポジティブな生き物なのかもしれないな、と考えさせられました。

ついこの前までスマホも携帯もピッチ(PHS)もポケベルもなくて出張先で羽をのばす植木等なサラリーマンは結構な数いました。僕もその内の一人だったと思います。その頃の自由は人間が人間のために作ったはずの便利な文明の利器によって破壊されました。もし今生きていたら133歳の婆ちゃんに令和を見せたらほんとに腰を抜かすだろうな。口グセの「こりゃ、たまがった~(大分弁)」が出ただろうな。

さて、冒頭のへぎ蕎麦屋さんの話に戻りますがちょっとしたオチがありまして。このお店は道路から少し入ったところにあって以前から店の奥の席は電波が悪くて特にドコモは繋がらないのでQRコードはその効力を発揮できません。結局店員さんに直接注文するお客さんが多いのが今日現在の状況です笑

ところで、QRコードって日本人の発明なんですよね!スポーツ選手や有名人もいいけどこういう人にも国民栄誉賞を与えてほしいな、という話はまたの機会に。

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

プロフィール
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
門田 陽
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州、(株)電通を経て2023年4月より独立。 TCC新人賞、TCC審査委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

門田コピー工場株式会社 https://copy.co.jp/

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