映像2020.08.26

真夏の夜の爆発する夢

第60話
とりとめないわ
Akira Kadota
門田 陽

ときどき見る同じ夢があります。ときどきと言っても何年かに一度くらいなのですが、今日久しぶりにその夢を見ました。それは夢の中で昔のコマーシャルが流れるのです。なので、夢というよりもコマーシャルを見ている感じ。ただコマーシャルは短いはずなのにやたらと長く感じる夢なのです。

 

そのコマーシャルは岡本太郎(敬称略でごめんなさい)がグランドピアノを弾きながら真上を向いて「芸術は爆発だ!」と叫ぶ一世を風靡した有名なものです。その後、ビートたけしがこのモノマネをして流行語にもなったCMです。

 

便利な時代になりましたね。著作権の関係で載せられませんがYouTubeで調べたらすぐに見つかりました。マクセルのビデオテープのCMでした。正直、商品名は今初めて知ったくらいです。オンエアは1981年。こういうエリマキトカゲ的CMは当時けっこう非難されたような記憶がありますが、何かひとつだけでも印象に残っているのは凄いことだと時代を隔ててわかります。それはともかく、今朝のこの夢のことが気になります。若い頃から何度も見る同じ夢。

確かに最近、大型書店で特集されたり(※写真①)、オリラジの中田敦彦のYouTube大学やNHKの番組でも岡本太郎が取り上げられて、いずれも面白く見ました。ただその中ではこのCMの話はなかったと思います。なぜ僕はときどきこの夢を見るのだろうか?気になると眠れない性分でして(寝ないと夢は見なくて済みますが)、岡本太郎について詳しく知りたくなりました。

写真①

岡本太郎は各所で「芸術は特別なものではなく身近に存在するもの。芸術はピープルのもの」と言ってパブリックアートを好みました。「パブリックアートはいいよ、そこに行きさえすれば、いつでも誰でも、タダで観られるんだから。まるで自分のもののようにね。芸術とはそういうもの。道ばたの石ころとおんなじなんだよ」とも言っています。そして彼は有言実行、多くのパブリックアートを作っています。

有楽町の駅からほど近い数寄屋橋公園にある「若い時計台(※写真②)」。以前このすぐそばに行きつけの飲み屋さんがあったのでここはよく待ち合わせ場所に使いました。今でもたまに前を通りますが、スマホ世代はあまり待ち合わせをしないようです。

 

写真②

そういえば閉館した青山のこどもの城の所にあった「こどもの樹」はどうなっているのか、久しぶりに見に行ったらそのままの姿でありました(※写真③)。

写真③

こどもの城の跡地は塀で囲われていてまだ何もできていません。ここには2015年まで円形劇場があって、つか作品やナイロン100℃や名前は忘れたけれど前衛的なパフォーマンス集団の踊りを観た記憶が甦りました。その近くの渋谷駅にある巨大なアート「明日の神話」。ユーロスペースで映画を見たりユーロライブで落語を聴くときに横を通りますが、毎回足を止めて魅入ってしまう絵です(※写真④)。この巨大な作品はメキシコで描かれたあと行方不明になるなど紆余曲折あってこの地に飾られたと聞いています。

写真④

あともうひとつ、数年前まで仕事でよく伺った横浜のそごうデパートの屋上にも岡本作品があります。タイトルは「太陽」(※写真⑤)。仕事がボツった後、この屋上で随分長い時間、空を見上げたことを思い出しました。

写真⑤

しかしどのオブジェも夢で見るCMとはどこかトーンが違います。そこでもっと知りたくなって、南青山の岡本太郎記念館(※写真⑥)と川崎の岡本太郎美術館(※写真⑦)に行ってみました。どちらも訪ねるのは初めてです。

写真⑥

写真⑦

結論から言うと夢のCMのヒントは得られませんでした。いずれも佇まいはもちろん、すばらしい展示の数々で十分満足しましたし何より元気をもらいましたが夢と結びつくものは見当たりません。家に帰ってパピコを割って片方をおでこに当ててもう片方を食べながら美術館で手に入れた資料をパラパラ見ていると、「あれ?もしかしたら?」と思うことが甦りネットで調べたら地元福岡の古い新聞広告(※写真⑧)が見つかりました!

写真⑧

時は昭和56年。つまりあのCMと同じ1981年に僕もよく通った福岡の商店街(新天町)で岡本太郎のトークショーが開かれました。完全に思い出しました。それはテレビニュースでも取り上げられたのですが、その場の勢いで岡本太郎は即興で絵を描くことになり突然の事態に狂気した姿に当時高校生だった僕は衝撃を受けたのでした。描かれた絵はその後ずっと今でも新天町の食堂に飾られています。僕も何度も何度もこの絵の横でご飯を食べました。その絵(※写真⑨)があのCMのイメージに近いのです。

写真⑨

時代も同じですしCMの中に出てくる絵とよく似ていました。あ~、ときどき見る同じ夢の原因はこれかもなぁ、と妙に納得してすっかり溶けたおでこのパピコを味わいながら寝た2020年の真夏の夜でした。

ところで、最近お世話になった泌尿器科の先生にこの夢の話をしたら「暑さのせいじゃないですか」と軽く言われた話はまたの機会に。

プロフィール
とりとめないわ
門田 陽
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。 TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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