職種その他2016.11.09

歴史を証言する植物?! The Showroom

London Art Trail Vol.53
London Art Trail 笠原みゆき
The Showroom ギャラリーの外観

The Showroom ギャラリーの外観

地下鉄Edgware Roadを出てエキゾチックな水パイプの香りのする大通りを北に数分、脇に入ると白と黄色に塗られた倉庫のような建物The Showroomが見えてきます。ギャラリーは1983年から運営をしている非営利美術団体で、ロンドンで知名度の低い国際的なアーティストにプロジェクトを委託して展示の機会を与えるのを目的としています。過去には展示をきっかけにターナー賞にノミネートした作家も。今回の展示はUriel Orlowの“Mafavuke's Trial and other stories”。

The Showroomギャラリーの中の様子

The Showroomギャラリーの中の様子

中に入るとそこは小さな博物館といった趣。写真、映像に、ガラスケースに入ったケーキ、ドライフラワー、小さな書籍閲覧コーナーなど。

“The Crown against Mafavuke, 2016”(対の左のスクリーン) ©Uriel Orlow

“The Crown against Mafavuke, 2016”(対の左のスクリーン) ©Uriel Orlow

法廷でのやり取りは1940年代に南アフリカで実際に行なわれた裁判を再現したもの。被告はアフリカの伝統的な薬草師(漢方医)。メールオーダーなどを通じて白人に対して商いを行なっていたため、白人の薬剤師から、薬剤師の資格なしで白人に商いを行なったと訴えられたもの。更にアフリカの伝統的な薬草師だと主張するMafavukeに対して、薬草やその調合はインドや中国、日本などから伝わったものが多く、アフリカ独自の物ではないと責められます。撮影で使われた裁判所は、ネルソン•マンデラが終身刑となる判決を下されたのと同じ裁判所。

“The Crown against Mafavuke, 2016”(対の右のスクリーン)©Uriel Orlow

“The Crown against Mafavuke, 2016”(対の右のスクリーン)©Uriel Orlow

“The Crown against Mafavuke, 2016”(対の右のスクリーン)©Uriel Orlow

“The Crown against Mafavuke, 2016”(対の右のスクリーン)©Uriel Orlow

変わって対の隣のスクリーンへ。薬草採集者、取引業者、伝統的な薬草治療師、薬草や民間療法について学ぶ地域学校などが写し出されています。英語の字幕はなく、現地の言語そのままですが、都市部から田舎に渡って、南アフリカにおける薬草と人々のつながりを静かに描き出しています。作品は2つのスクリーンを対であわせて、“The Crown against Mafavuke, 2016"。(合わせて30分50秒)

“The fairest heritage, 2016” ©Uriel Orlow 左に精霊のように現れているのがMatshikiza。

“The fairest heritage, 2016” ©Uriel Orlow 左に精霊のように現れているのがMatshikiza。

広大な美しい植物園で花を愛でる人々。そこは祝賀会が催され、英国の伝統的な社交ダンスなどを楽しむ人の姿も見えます。さて、ここは英国の一体どこ?と思いきや、実はケープタウンの国立植物園。1963年に開かれた開園50周年記念祭と女王即位十周年記念祝賀会の様子を映したビデオで、国を挙げて行なわれた盛大な祭りもかかわらず、そこにいるのは白人の人ばかり。現地のアフリカの人はというと、植物園で働く労働者として登場するのみ。映像のフィルムはOrlowが今回の展示のリサーチにあたり、1963年以来植物園の書庫に眠っていた物を見付けたもの。Orlowはこれに女優のLindiwe Matshikizaのイメージを重ねることで、Matshikizaが当時参加出来なかった地元のアフリカの人々のかわりに祭りに参加しています。“The fairest heritage, 2016”。(4分18秒)

“Grey, Green, Gold 2015”©Uriel Orlow

“Grey, Green, Gold 2015”©Uriel Orlow

“Grey, Green, Gold 2015”©Uriel Orlow。

“Grey, Green, Gold 2015”©Uriel Orlow。
種子を食べ尽くされてしまわぬよう保護のために金網を掛けられたマンデラゴールド。

左には刑務所の塀の写真、右にはスライドから写し出される言葉、下には額縁に入った極楽鳥花の写真に花の種、そして拡大用のルーペ。ルーペを覗くと美しい黄色の花弁が見えます。カシャ、カシャと音を立て、1行ずつ写し出される言葉を拾っていくと。

“……。最終的に彼は600ページ(の原稿を)書き上げた しかしそれをこっそり持ち出すことは……。 オリジナルの原稿は オレンジ色の蓋を持った ココアの缶に納められ 庭に埋められた 庭は細長くて 刑務所のA房とB房の 壁の端と端の間にあって 約2mの幅だった……。”

読んでいくうちに、ああもしかしてネルソン・マンデラのこと?と薄々察しがついてきます。マンデラは政犯としてロべン島の刑務所に1964-1982年まで収監され、1976年に獄中で書いた自伝はこっそりロンドンの出版社に持ち込まれました(しかし出版されたのは1994年)。丁度同じ頃南アフリカの国立植物園では、珍しい黄色の花を持つ極楽鳥花が発見されます(南アフリカの極楽鳥花は通常はオレンジ色)。このため、植物園ではその後20年間手塩にかけて花粉の受精を行ない種の蓄えを増やしました。これが、偶然にもマンデラがロべン島収容所に入れられていたのとほぼ同時期で同期間であるため、この花はその後マンデラゴールドと名付けられたそうです。因にマンデラゴールドの種は英国からの植民地開拓者Cecil Rhodesが持ち込んだ灰色リスの大好物であったため、植物園で種を増やすのはこの略奪者(灰色リス)との戦いの20年間でもあったのです。作品は“Grey, Green, Gold 2015”。

南アフリカのみならず、アフリカの政治と植物が巧みに絡み合う展示で、この他にもまだまだ興味深い作品が沢山ありましたが、 今回はこの辺で。最後にOrlowとギャラリーが地元のコミュニティグループと1年間のワークショップを通して作り上げた薬草を使った民間療法のマニュアル、“医療の手引き”(4セットの冊子)を4ポンドで購入。早速家に帰って試してみることにしました。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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