職種その他2014.10.08

ウェークリーの窓から Camden Arts Centre 

London Art Trail Vol.28
London Art Trail 笠原みゆき


3年前に亡くなったインスタレーション・アートのパイオニアといわれる、Shelagh Wakely(1932 - 2011)。 彼女の回顧展(A View from a window)が北ロンドンのCamden Arts Centreで開かれていました。 ガーデンとカフェを伴設する落ち着いた雰囲気のギャラリーはFinchley Road & Fragnal駅から徒歩1分。

Camden Arts Centre

Camden Arts Centre

階段を上がり、最初の部屋に入ると壁に掛けられた幾つものドローイングや水彩画作品が目に入ります。 まるで彼女のスタジオを訪れ、スケッチブックを覗き見しているような不思議な錯覚。 床に置かれた焼成されていない陶芸作品は、作りかけのようですが実はインスタレーションで、1979年のICAでの展示を再現したものだそう。

Nymphs(1987)(部分)©Shelagh Wakely

Nymphs(1987)(部分)©Shelagh Wakely

隣の部屋には、編みかけの金属ワイヤー、切り抜きかけの金属箔、立体上に繋がれたテグスなどの作りかけのオブジェが並べられていて、作家が様々な素材で試行錯誤する様子が伝わってきます。 床にはファッション雑誌の香水の広告を繊細に切り抜いたインスタレーション “Nymphs(1987)”。 今ではよく見られるスタイルですが、30年ほど前の作品です。

Turmeric on Parquet, after Curcuma sul Travertino (1991/2014) ©Shelagh Wakely

Turmeric on Parquet, after Curcuma sul Travertino (1991/2014) ©Shelagh Wakely

何だかスパイシーな香りが漂ってきます。 お腹が空いているのかも?と考えながら向いの部屋に入ると、山吹色のパウダーが部屋一杯に広がりバッロック風の花模様状を描いています。どうやら匂いはここから来ている様子。 実はこれ、ターメリックのパウダーを敷き詰めた作品で、1991年にBritish School in Roma(*ウェークリーは1991年当時特別研究員でした)で展示された“Turmeric on Parquet, after Curcuma sul Travertino (1991/2014)”の再現。 “想像上のカーペット、芳醇な香りを放つ色の染み”とその6年前の彼女のスケッチにこの作品のアイデアが書き込まれています。

シルクに包まれた果実や野菜。ショーケースに入っているのは結構匂うからかも。。。 ©Shelagh Wakely

シルクに包まれた果実や野菜。ショーケースに入っているのは結構匂うからかも。。。
©Shelagh Wakely

バナナにグレープフルーツ、パプリカ、キュウリ、ズッキーニ、茄子と、シルクの服を着た生の果物や野菜。最初はぴったりだった服も今ではぶかぶか。ミイラのようにからからになり縮んで小さくなってしまった果物、野菜は、シルクの衣に抱かれて眠っている赤ん坊のようにも見えます。死と生の世界が同時に交錯します。

手前はブドウのネックレス。その奥はグレープフルーツかな? ©Shelagh Wakely

手前はブドウのネックレス。その奥はグレープフルーツかな? ©Shelagh Wakely

2枚の葉だけ残ってまるでトンボを描いたみたい。©Shelagh Wakely

2枚の葉だけ残ってまるでトンボを描いたみたい。©Shelagh Wakely

ウェークリーは金属ワイヤーでも同じような試みをしています。丁寧にワイヤーで表面をデッサンした果実や野菜そして木の葉。実は萎み小さくなり、木の葉は枯れ落ちても線描のようなワイヤーのラインはそこに留まります。

No Title (from the series As Yet Unnamed (1988-90)" ©Shelagh Wakely

No Title (from the series As Yet Unnamed (1988-90)" ©Shelagh Wakely

こちらは80号程の大きなドローイング画。 画面にとどまらない器や貝殻、花のメドレー。 絵を見ているというより音楽を聴いているような作品。 “ No Title (from the series As Yet Unnamed (1988-90)”

“Partial recreation of Paisagem Inutil (1997)” ©Shelagh Wakely

“Partial recreation of Paisagem Inutil (1997)” ©Shelagh Wakely

最後の部屋では床に広げられたシルクの布もトレイに載せられた果実もすべて金色! 黄金色で彩色された果実は、既にミイラ化しています。 死者の死後の世界での再生を願ってミイラを金で彩色した古代エジプト人の事がふと頭に浮かびます。金色に彩色された布には有機的な模様が線的に切り込まれていて、きらきらと光る海のさざ波に見えてきます。 作品は “Partial recreation of Paisagem Inutil (1997)”

“Rainsquare (1994/2014)” ©Shelagh Wakely

“Rainsquare (1994/2014)” ©Shelagh Wakely

外のガーデンに出ます。そこではウェークリーの作品だけでなく、彼女の友人や彼女の作品から刺激を受けた作家達、Susan Hiller, Tom Clarke, Richard Deacon, Tungaなどの作品“Coversation Pieces”が庭やカフェのあちこちに点在していました。

ウェークリーの作品は “Rainsquare (1994/2014)”という1994年にSouth London Galleryで展示されたインスタレーションの再現で、チェスボードのように格子状に並べられたガラス板にアルミ箔が置かれ、雨が降るとその雫が薄いアルミ箔を壊し有機的なパターンを作り上げていくというもの。 丁度雨上がりでその様子は見られませんでしたが、屋内で紹介されていた当時のビデオ映像では、雫が箔を破壊すると散り散りになった銀色の箔が命を持ったアメーバのように踊りだしていました。

晩年はホテルや病院などの公共施設のコミッションに没頭し、ギャラリーを中心としたファインアートの世界から離れていったというウェークリー。それはとらえきれない刹那的なものをとらえようと試みていたそれまでの制作に対する反動だったのかも知れません。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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