8月末日は宿題記念日

第107話
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
Akira Kadota
門田 陽

夏休みといえば海へ山へと思うのは昭和生まれのクセですかね。日本中こんなに暑いと海や山へ行くのは危なそうですし、海へ行っても海の家は廃止されていたり(採算が取れないらしい)山へ行っても混雑しすぎで(トイレは行列らしい)自然を満喫するのはタイヘンな時代。子どもたちはプールへテーマパークへ、がせいぜいいいところで、それよりもネットでゲームやSNSで過ごすのが楽しい模様です。え~~!?それならふだんと変わらないじゃないですか。

子どもの頃の夏休みの記憶は濃く残っています。スポーツ(小学校では野球、中学はバレーボール)に明け暮れたのも、初めての一人旅も初めてのデートも初めての習い事もそして家出したのもどれも夏休みのことでした。

しかし、それよりも今でもぞっとするほど強く覚えているのは夏休みの宿題のこと。小学校時代、8月31日は毎年毎年地獄でした。
一気にやるタイプといえば聞こえがいいですが、単に計画的にできないだけでして、これは今でも変わっていません。いわゆる「夏休みの友」と自由研究が明日提出なのに何一つできていません。今年もまた絶体絶命。

8月31日、目覚めは早朝。まずは夏休みの友を開き日付に合わせて天気の記入。これは母親が日記をつけていたので、肩たたきを条件に全部教えてもらいそれを写します。次にざっと目を通して得意科目だった国語(主に漢字と作文)と社会を片付けます。ここまでは順調。「な~んだ、オレって天才かもね」と、母や妹に聞こえるくらいの独り言をつぶやきながら算数と理科のページを開くといきなり頭がクラクラします。ほぼわかりません。

何とか解ける最初の数問を書きます。そこからが浅知恵の見せ所。適当な答を一旦記入、それを消しゴムで消します。この行為を数度繰り返すと鉛筆の跡が少し残り、なんだかとても時間をかけて頑張った感が出ます。そしてその上から「わかりません」と書くのです。すると努力賞ということでお咎めなしになります。そんなこんなでお昼くらいに「夏休みの友」は終了。

昼ごはんはソーメンか冷や麦が多かったです。ツルツルっと食べたあとは最大の難関の自由研究。絵心はまるでなく(中学時代、スケッチ大会で提出した絵は教室の後ろに上下逆に貼られたのですが誰からも不思議がられませんでした)、手先は高倉健以上の不器用さのため図画工作は不調。小3のときは精度の低いピタゴラスイッチ的なものを小4のときは残念な人生ゲーム的なすごろくを提出。どちらもアイデアに仕上がりが追い付いてないと担任から酷評されました。そして小5の自由研究。家からスコップと水を入れたバケツ、ビニール袋、虫めがね、角砂糖を持ってすぐ隣の空き地へ。スコップで深さ15㎝×1m四方の穴を掘りその中央に盛り土をして角砂糖を置いたり、一箇所だけ深く掘ってそこに水を入れたりしました。それからその空き地で蟻を20匹ほど捕まえて今掘った穴に入れて観察。列を連なり歩くことや水は恐れず泳げることや砂糖に群がることなど、見たままをつぶさに書いて提出したところ花丸をもらい大いに褒められました。翌年は小学校最後の夏休み。しかし懲りずに宿題は8月31日オンリー。そしてこの年は自由研究が何も思い付かず、なんと去年と全く同じ蟻の観察記をしかも去年のノートの丸写しで提出。バレないはずがありません。だって5年6年はクラス替えがなく担任も同じ先生。「門田くん、こんなことをしたらほんとにダメな人間になりますよ。この一年、1ミリも成長していないじゃないですか!」と言われた言葉は忘れられません。なんでそんなことをしたのか、今でもわかりません。あれからもう半世紀。
この時期が来ると必ずあの蟻の観察記のことを思い出します。

さて、今年ももうほとんどの子どもたちは夏休みです。ここ数年僕は夏休みに小中学生の落語の発表会を見に行くのを楽しみにしています。ふだん仲良くしてもらっているご夫婦の長男が落語好きで出演するのです。芸名も付いていて江戸川亭圓蔵くん。

写真①

小学生の頃は小さくてかわいくて(※写真①)だったのが、今年はもう中学2年(※写真②)。声変わりもして背も伸びて僕との会話は弾みません。

写真②

中二病かよ、と言いたいところですが本物の中二だから当然です。持ちネタも増えて「寿限無」や「平林」などはもちろん「青菜」「死神」「親子酒」までこなしてしまいます。もしも「金の斧銀の斧」の女神が現れて何か一つ願いを叶えてくれるなら子どもの頃の自分になって圓蔵くんと一緒の舞台で落語を演じて、帰り道に打ち上げをお酒は未成年なのでコーラでもってやりたいです!

ところで、今回のこの原稿も締め切りギリッギリで入稿しましたという話はまたの機会に。

プロフィール
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
門田 陽
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州、(株)電通を経て2023年4月より独立。 TCC新人賞、TCC審査委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

門田コピー工場株式会社 https://copy.co.jp/

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP