職種その他2014.03.12

囲い込まれた風景? Danielle Arnaud

London Art Trail Vol.21
London Art Trail 笠原みゆき
ギャラリーの入り口

ギャラリーの入り口

南ロンドン地下鉄Lambeth North駅から南へ5分程、帝国戦争博物館から目と鼻の先にあるジョージアン様式の住宅。一見普通の住宅のようなのですが、実はここがギャラリーDanielle Arnaud

“Holyland (Beit Arye)”2014 © Gabriela Schutz

“Holyland (Beit Arye)”2014 © Gabriela Schutz

中に入ると落ち着いた雰囲気の品のある家具がさりげなく置かれ、現代美術作品が展示されています。 今回の展示のテーマはEnclosure(『囲い込み』)。

まず目に入るのが壁一杯に展示されているGabriela Schutzの木炭画。一瞬、ロサンゼルスのハリウッドのサインとその周辺の森を描いた描画?と思ってしまいますが、中央に掲げられた文字はHollywoodならず、“Holyland”。タイトルをみると“Holyland (Beit Arye)”とあり、Beit Aryeを検索してみると紛争の続くパレスチナ自治区の一部であるヨルダン川西岸地区に移住した、僅か3千人程のイスラエル人の小さなコミュニティーが浮かび上がってきます。現在、彼らのバレスチナ定住は国際法では認められていませんが、イスラエルは支援しています。 作者であるSchutzはロンドン在住のイスラエル人作家なのです。

“Castle”2005 © Sarah Woodfine

“Castle”2005 © Sarah Woodfine

その先に進むと部屋の真ん中には巨大なスノードームが! スノードームといえば手の平サイズの透明のドームの中にミニュチアの建物や人形が閉じ込められていて、それを振るとミニュチアの世界に雪が降り掛かるのを眺められる楽しい玩具。一説には19世紀の初頭にペーパーウェイトとしてフランスで生まれ、パリ万博でエッフェル塔のミニュチアが入った物が紹介されたのを契機にヨーロッパ各地に広がったのだとか。 でもこのスノードームは直径40cm程も。 友人と、「振っていいのかな?」「いやまずいだろう。すごく重そうだし。」 ・・・ということで、結局振らず仕舞い。仕方なくドームの周りをぐるりとまわって眺めてみると!繊細な鉛筆で描かれた中世ゴシック様式の城の風景が一瞬消え、また別の城が現れるイリュージョン。 作品は、Sarah Woodfineの作品“Castle”。

"Nova Utopia" 2013 © Stephen Walter?

"Nova Utopia" 2013 © Stephen Walter?

次の部屋の奥では女性が家具の穴?を覗いています。 順番を待って中を覗いてみるとそこにあるのは異国の地図の世界!穴には地図の細部が見えるよう拡大レンズが埋め込まれていて、その下にはレンズを上下左右にと動かせるように、小さなハンドルが付いてます。

"Nova Utopia"2013 © Stephen Walter

"Nova Utopia"2013 © Stephen Walter

レンズ越しに見る綿密な鉛筆画は、一見普通の地図のようですが、農場があってこの辺はのどかな感じだなあ・・・などと眺めているとその先にポスト唯物主義美術館があったり、美しい湖のウォーキングコースの反対側には複合汚染地区があったりと、次第に色々な問題を秘めている事が明らかになっていきます。 作品は、Stephen WalterのNova Utopia。 手法は異なりますが、トマス・モアが虚構の島の全く価値観の異なる社会を描く事によって当時の社会問題を浮かび上がらせようとした、“ユートピア”(1516)を彷彿とさせます。 Stephen Walterのサイトでも、作品をズームしたりして疑似鑑賞できますので、是非ご覧ください。

"Everglade"2003 © Marion Coutts

"Everglade"2003 © Marion Coutts

上の階へのぼると、スクリーンに緑豊かな英国の風景をハサミで切り抜いたような映像が映っています。じっと見ているとそれが止まった映像ではない事に気づかされ、 更に時折人が歩いていたり、動いているのに気づかされます。そしてまるで虫かごに入れられた小さな昆虫の様子を観察するかのように、ミニュチアの人間を観察しているような、そんな不思議な錯覚におそわれます。作品はMarion CouttsのEverglade。 動く様子はこちらのサイトで紹介されています。 ■ Everglade | Commissions | Projects | Film and Video Umbrella

トマス・モアも異議を唱えた、15世紀後半に始まり開放耕地制度を終焉させた『囲い込み』は、当初は一部の領主や地主が非合法に土地を囲い込んだものです。市民からの反発が大きかったにも関わらず、18世紀には政府主導となり、続く産業革命と相まってイギリスの社会システムを根本的に大きく変化させました。 このギャラリーの建物も実はそんな時代の真っ只中に建てられたものだったりします。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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