「うなぎおいし」
今月(7月)に入ってから、無性に鰻が食べたい日が何日かありました。先月まではそんな症状はなかったので原因を考えたらすぐに思い当たりました。街ぐるみのサブリミナル効果。近所の駅前(JR御徒町駅)のすき家は今月は牛丼よりもうな丼やうな牛を前面に押し出しています。毎日通うローソンもセブンイレブンも入り口に鰻予約のポスターやチラシが目立っています(※写真①)。
スーパーの生鮮食品コーナーもこぞって鰻推し。そうです、今年は7月30日が土用の丑の日なのですね。
今からもう35年前。当時僕は福岡の西鉄エージェンシーという会社に新卒でコピーライターで入社しました。その1年目だったか2年目だったか。地元の広告業協会が主催で天野佑吉さん(当時はまだ雑誌「広告批評」の編集長をされていたと思います)の講演会がありました。会社からチケットが配布され(もちろん有料でも行ったと思いますが)参加しました。場所は確か天神の裏手の都久志会館だったはず。そのときの講演のテーマが「日本の元祖コピーライター平賀源内」で一番印象に残っているというか唯一覚えているのが鰻の話。
鰻の旬は実は秋から冬なのだそうです。まだ養殖の技術などなかった18世紀。夏の鰻は人気薄。困った鰻屋さんが蘭学者で本草学者で戯作者でエレキテルの製作などアイデアマンとしても有名だった平賀源内に夏に鰻を売る方法を尋ねました。すると「本日丑の日」という貼り紙を店頭に出すように言われ実行したところ鰻がバカ売れしたそうなのです。この「本日丑の日」というキャッチコピーには「土用の丑の日うなぎの日、食すれば夏負けすることなし」という短いボディコピーも付けられていたそうで、この手口はまさにコピーライターの仕業だと思います。それにしてもこの「本日丑の日」や「土用の丑の日」というコピーは令和5年の今の今も全国各地のお店で現役バリバリに使われています。ざっと計算して250年以上の使用期間。これだけ息の長いコピーは他に知りません。因みにJR東海の「そうだ京都、行こう。」が最初に使われたのが1993年なので丸30年、ロッテの「お口の恋人」が1958年頃から使われていたそうでそれでも約65年。世界中だともしかすると他にあるかもですが、日本の中のロングセラーコピーでは間違いなく一番古くからずっと使われていると思います。
さて、それにしても最近の鰻の値段高騰はひどくないですか。お店で食べるとなると安いところでも、鰻重が3~5,000円くらいはします。老舗や高級店だと平気で1万円超え。コンビニでもローソンの「鹿児島県産特上うなぎ蒲焼重1尾」が税込3,866円でセブンイレブンの「鹿児島県産炭火焼うなぎ蒲焼重1尾」が税込4,622円。とてもコンビニ弁当の値段とは思えません。そんな中、家のそばの100円ローソンで見つけてしまったのが「うな蒲ちゃん」税込322円!何だ、こりゃ?と思いながらも手に取り、騙されてもこの価格ならと購入(※写真②)。
家のレンジでチンして食べて驚きました。蒲鉾のチカラ恐るべし!!僕の非食通のアホ舌にはまるで鰻の蒲焼きにしか思えない味なのです。もちろん僕は本物の蟹とカニ蒲の違いがわからない男であります。全く話は逸れますが、鰻の蒲焼きって、要はタレの味ですもんね、とか言ったら怒られるんだろうなぁ。「蟹って、要はポン酢の味ですよね」と言ってかに道楽で先輩にこっぴどく怒られたことを思い出しました。
あッ!!思い出したといえば、その講演を聞いてから7年か8年後。福岡の蟹料理屋さんで天野佑吉さんとご一緒する機会がありました。そのとき「僕が新入社員のとき、天野さんの講演で平賀源内の話を聞いてとても面白かったです」と伝えると、「あ~、あの講演会は盛り上がりましたね。蒲焼きの話だけにバカ受け、ハハハハ」と言われ背筋がゾクッとしました笑。そのあと天野さんはけっこうな下ネタを言われましたが、それは胸に閉まっておきます。あれからずいぶん経ちました。天野さんが亡くなられてからもうすぐ10年。土用の丑の日が近付くと、平賀源内の話を聞きに行ったあの頃のことを思い出します。あ~今年もまた暑い夏が来そうです。
ところで、今回のタイトルの「うなぎおいし」は、人のことなど言えない単なるオヤジ的ダジャレに過ぎないという話はまたの機会に。
※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。