グラフィック2008.07.24

人々の生活の中に入り込む ものをつくることへの責任を 感じながら仕事をしています

Vol.42
パッケージデザイナー/有限会社フェイスデザインワーク代表取締役 本田和男(Kazuo Honda)氏
 
広告デザインが壮大な打ち上げ花火なら、パッケージデザインは線香花火――本田さんは、あえてそういう表現を使いました。もちろんそれは、自分の仕事を卑下するためではなく、「華々しさだけがデザインではないのだ」という自負をこめて。 人の目を奪うことよりも、人の生活のすぐ近くで、使い勝手の良さや、そこにありつづけることの自然さや、なくなってみるとさみしく感じるような親しみやすさをデザインすることに充実感を感じる。パッケージデザインとは、そんな、とても素敵な仕事なのだということが本田さんと話してよくわかりました。この道30年。重鎮とか、大御所とか言われても不思議のないポジションだし、実績なのに、まったくもって若々しくて、お話も軽妙。いい仕事が、いい顔をつくるのだなあとつくづく思い至ったインタビューでした。
カネボウ化粧品

カネボウ化粧品/
AQUA(中国市場向け基礎化粧品)

サントネージュワイン

サントネージュワイン/
ワイン物語

片岡物産

片岡物産/
トワイニング ティーバック

カルビー

カルビー/
2007年 夏ポテト

 

中でもパッケージデザインは、 より深く人の生活に入り込む。

フェイスデザインワークは、どんな会社ですか?

私の他に、スタッフが2名。仕事は、ほぼすべてがパッケージデザインです。私のキャリアとして言えば、約30年、パッケージ一筋に歩んできた。そういう説明になります。

パッケージデザインの世界に進んだ、きっかけは?

武蔵野美術大学を卒業する時に、恩師から「パッケージデザインに進んだらどうか」と勧められ、この世界に入りました。在学中、勉強としてデザインを学んでも、アルバイトなどで実際の仕事に触れても、広告の仕事は、どうも性に合わないと感じていた。僕のそういうところをよく知っていてくれた先生だったので、いろいろと考えてくださったようなのです。

味の素ゼネラルフーヅ

味の素ゼネラルフーヅ/2005年  SUMMER GIFT

資生堂

資生堂/ローヤル ゼリー

片岡物産

片岡物産/
トワイニング クオリティ リーフティー

 

「パッケージデザインの世界に進む」とは、具体的にはどんな進路?

当時の僕も、そういう感想持ちましたよ(笑)。なにしろ、パッケージの年鑑さえない時代でしたから。先生の勧めで就職したのは、製紙会社でした。販売促進部門であるパッケージングセンター・デザイン室というところに配属されました。

それで、8年在籍して独立したのですね。

8年勤めて、そのままサラリーマンをつづけるか、力を試すかの岐路だと感じた。そこで、一念発起しました。退社後約2年、フリーランスで活動してからフェイスデザインワークを設立しました。

本田さんにとって、パッケージデザインの魅力はどんなところにある?

まず、デザインには、広告にも、工業デザインにも、共通して「人が生きていく上で必要なもの」という役割がありますが、そんな中でも、パッケージデザインは、より深く人の生活に入り込むものです。もちろん、「売るため」にデザインする側面もあるのですが、それ以上に、買っていただいた後に、中身がなくなるまで使っていくものをデザインするところが、難しくて、おもしろい。基本的に僕は、パッケージデザインの、そういう部分がとても気に入っています。

なるほど、とてもよくわかるお話です。

いろいろな意味で、責任もありますからね。間違った内容や嘘を表記してはならないという基本的なことはもちろんですが、同時代に生きる人たちの生活の中に入り込むものをつくることへの責任を感じながら仕事をしています。

パッケージデザインも人間が相手です。 人間が好きになれないと、やっていけない。

本田さんのデザインには、「本田的な」というようなものはあるのでしょうか?

少なくとも僕は、自分のスタイルはないと思っています。パッケージデザインは、まず中身、商品ありきだと考えていますから。大切なのは、商品の特徴や特性をしっかり理解すること。その理解の上に、「パッケージはこうあるべき」を提案するのがパッケージデザインだというのが僕の考えです。

デザインをする上でのポリシーは?

質問に答えることになるか微妙ですが(笑)、自己分析した上での反省点はあります。「もう少し手を抜いてもいいのかもしれない」と、最近つくづく感じてます。ちょっと、肩に力が入りすぎているんですね、僕のデザイン。いわゆる、徹底的に突き詰めないと気が済まない性分なんです。それが「シックなデザイン」と評価していただけるようなことにつながってもいるとは思うのですが、すべての仕事に同じやり方でいいのかと、悩んでいるところです。

パッケージデザインの将来についての質問を。この分野では、次世代を担う人材は育っているのでしょうか?

僕は、母校である武蔵野美術大学で教鞭をとっていて、その質問に答える材料は持っていると思います。今、僕の教室の学生の男女比率は9対1で女性のほうが多い。僕の学生時代は6対4で男性優位だったのだけど、まさに時代を感じさせる数値です。で、その女性陣は、パッケージデザインにとても興味を持ってくれて、しかも感性がパッケージデザインにとても向いている。いい意味での「生活感」が、この仕事によく合います。もちろん、学生が全員パッケージの世界に進むわけではないですが、これからの主力になっていくのは確実です。

なるほど。日常生活に向ける視線や視点、感性は、男性より女性のほうが優れているような気がしますね。

これはあくまで個人的な体験値による感想ですが、デザインの現場に求められる忍耐力なども、実は女性のほうが優れたものを持っていると感じています。

「男だから」、「女だから」ではなく、身のまわりの諸事に興味を持てないといけないんでしょうね。

その通りですね。他のさまざまな仕事と同様に、パッケージデザインも人間が相手です。人間が好きになれないと、やっていけないですね。さらに言うなら、みなさんが想像する以上にアクティブな特性も求められます。参考となる商品がある場所に足しげく通う努力などは、この仕事には必須ですからね。時には、ネットを通じて必要な情報を探し出すことも必要で、とにかくそういう陰の努力が苦にならない人でないとやりとげられないでしょう。

そういう意味では、本田さんはいわゆる「性に合う」、天職に就かれたわけですね。

さきほどお話した大学の恩師は、実は、遊具、演劇などを通した人と人の環境デザインで高名な方です。僕は、その先生のもとで2年間勉強して、進むべき方向を見つけたと言っていいですね。特に、子供たちが新しい遊具でどう遊ぶかや、彼らに段ボールや古材を与えたら何をつくるかの調査などをしたワークショップでの体験が大きかった。ポスターデザインや本のレイアウトより、自分のつくったものを使う対象者を常に頭の中に置いて進めるデザインのほうがおもしろいと確信しました。そういう志向を実践する場としては、パッケージデザインは理想的だったのかもしれません。

売り場での商品の見え方を確かめたくて、 保冷ケースを買ったこともあります(笑)。

自分の手がけた商品が店頭に並ぶと、売れ行きをのぞきに行ったりします?

もちろん、します。売れる瞬間を目撃すると嬉しいですが、それだけでなく、ライバル商品の横に並んでどんな見栄えがするかとかもちゃんと見たい。だから、必ず店頭の視察には行きます。

なるほどね。ライバルと並んだ時の見栄えなども、計算するのか。

コンビニの保冷ケースに並べられた時の見え方を確かめたくて、保冷ケースを買ったこともあります(笑)。リサイクルショップを何軒か探してやっと見つけました(笑)。

本田さんにとって、パッケージデザインとは?

「パッケージデザイン・イズ・マイライフ」と言いたいところですが、まだまだその域に至っていません(笑)。

でも、いつかは言えるようになりたい?

もちろん。そうなれるよう、もっとがんばらねば。

やるならとことんやる。 そういう姿勢の人にチャレンジしてほしい。

取材風景

パッケージには、環境問題への貢献も期待される時代だと思います。

パッケージも、いわゆる持続可能な社会を実現するための重要な責任を負っています。僕も、仕事をする上ではかなり意識しています。今後は、たとえば同じ飲料でも、すぐに飲み干されるものとストックされるものでは印刷方法などを変えていく必要があるでしょうね。あらかじめ「Reduce」の視点を持ったつくり方も必要です。ただ、それはパッケージデザイナーが単独で実現できるものではありません。クライアントさんの意識と協力はもちろんですが、購買者の意識もそっちを向いていなければならない。一朝一夕にできることはないですが、取り組む必要は絶対にあります。

環境問題がクローズアップされるようになって、本田さんの仕事にも変化が生まれている。

生まれていると思います。ただ、みなさんご存じないと思いますが(笑)、僕たち1950年代生まれは思春期に環境問題への洗礼は受けているんですよ。「宇宙船地球号」という概念は、1970年代には生まれている。だから心構えとしては、何の問題もないし、ショックもない。理解もできるし共感もできる問題意識なので、十分に対応できていると思っています。

では最後に、パッケージデザインをめざす若者たちに、エールを贈ってください。

パッケージデザインを、セールスプロモーションの一部と考える人々も確実にいます。パッケージは、広告の延長線上にあるものだという考えですね。もちろん、それはそれであってしかるべき考えですが、本腰を入れてやってみれば、広告コンセプトだけですべてが賄えるほど底の浅い世界ではないとわかるはずです。 少なくとも僕は、ここまで30年やってきて、それでもまだ勉強すべきことが山ほどあると感じている。パッケージデザインは息の長い仕事ですし、知っていなければならないことも多い仕事。これからこの世界をめざす人に言葉を贈るとしたら、それは、「ずっと、やってくれ」(笑)。やるならとことんやる。そういう姿勢の人に、チャレンジしてほしいと思います。

取材日:2008年7月24日

Profile of 本田和男

profile
  • 1952年 東京出身
  • 1978年 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。同年、本州製紙株式会社(現:王子製紙株式会社)入社、パッケージングセンター・デザイン室勤務
  • 1985年 退職し、事務所開設
  • 1988年 有限会社フェイスデザインワーク創設
  • 1999年 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科非常勤講師として後輩にパッケージデザインの指導を始める

(社)日本パッケージデザイン協会会員(1983年入会)・展覧会委員

【受賞】

  • 1985年 ジャパンパッケージコンペティション日本印刷工業会会長賞
  • 1985年 「年鑑日本のパッケージデザイン1985」販売戦略的パッケージ奨励賞
  • 1987年 「年鑑日本のパッケージデザイン1987」入選1点
  • 1991年 「年鑑日本のパッケージデザイン1991」入選4点
  • 1993年 「年鑑日本のパッケージデザイン1993」入選3点
  • 1997年 「年鑑日本のパッケージデザイン1997」入選2点
  • 2003年 ジャパンパッケージコンペティション日本包装技術協会賞

【その他】

  • 1999年 竹尾ペーパーショウ100人のクリエーターによる「DUST100」に作品参加
  • 2001年 竹尾ペーパーショーケース「ショッパーズ展」企画・構成
  • 2004年 竹尾ペーパーショーケース「ショッパーズ展 PART2」企画・構成
  • 2007年 竹尾ペーパーショーケース「Pack Unpack展」作品参加
  • 2008年 GEMART「ヒラク展」作品参加

有限会社フェイスデザインワークHP:http://www.face-dw.co.jp/

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