すべてのアイデアにロジックがあるのが広告だ。 広告を考える筋肉は、すべての創造に役立つ

Vol.167
TBWA\HAKUHODO CCO(チーフクリエイティブオフィサー)
Kazoo Sato
佐藤 カズー

国内外の広告賞を数多く受賞。広告やメディアの枠を超えたクリエイティブを次々と生み出す、日本のトップ広告クリエイターのひとりであるTBWA\HAKUHODOのシニアディレクター佐藤カズー氏の登場です!実は、キャリアのスタートは音楽業界。広告業界に転じたキッカケやアイデアの生み出し方、若手クリエイターへのメッセージなど、貴重なお話をたっぷりと伺いました!

音楽を通して、映像やグラフィックの面白さに気づく。 クラブ仲間の誘いで、広告業界へ。

 

佐藤さんの社会人としてのスタートを教えてください。

学生時代は日本と海外で法律を学んでいました。その一方で、音楽が好きで、曲を作ったり、DJをしたり、MIX TAPEを売ったり、音楽の記事を書いたりして、そこそこ学生時代から稼げていたんですよ。就職については、最初は学んできた法律を活かした就職先を考えていて、インターンにも行ったのですが、その結果、法律を仕事にするのは向いていないのかな、と。モノづくりのほうが自分には合っているから、音楽で食べていこうと考えました。
とはいえ、就職活動を全くしないで音楽で食べていく、というのは、ロースクルールまで行かせてもらった親に対して、ちょっと通用しませんよね。親を納得させる意味もあり、いちおうひとつくらいは就職試験を受けようと、レコード会社のSME(Sony Music Entertainment)を受けました。当時は、CDが100万枚、200万枚と売れるのは当たり前で、レコード会社にとっては一番良い時代。SMEも数万人受けて、14〜5人しか受からない超人気企業でした。どうせ受かるわけないだろうと、オーディション気分で受けに行ったら、なんと内定が出てしまったんですよ。両親はもちろん、特に祖母がものすごく喜んでくれて。僕はおばあちゃん子だったので、おばあちゃん孝行になると考え直して、入社を決めました。
当時のSMEは、体育会系の社風が色濃く残っている時期でしたが、1年もすれば慣れてきて、新人アーティストを任されるようになったり、新人発掘のためにライブハウスを回ったり、宣伝プランを練ったりと充実していましたね。

広告業界に入ったキッカケは?

レコードオタクでいろいろな音楽を聴き漁っているうちに、1960年〜70年代のサントラ盤が面白いと思い、集め始めたんです。サントラ盤を集めていると、映画を見るようになり、映像に興味を持つようになりました。また、レコードジャケットに使われている写真やタイポグラフィなどグラフィックデザインについても、毎日眺めているうちに次第に興味を持っていました。仕事で担当アーティストのジャケット作りに関わったりして、音楽を通して、音楽以外のモノづくりの面白さを感じるようになっていました。
そんな時に、自分がDJをしていたクラブに遊びに来ていた外資系広告代理店のレオ・バーネット(現ビーコン・コミュニケーションズ)の役員と知り合い、仲良くなったんですよ。こちらは「タイアップが取れないかな?」と腹黒く狙っていたところもあったんですが(笑)、その役員から「うちに来ないか?」と誘われたんです。
実はその頃、広告代理店に対しては、制作会社が作ったモノを右から左に動かして手数料という上澄みを得ているだけ、という偏見を持っていまして(笑)。広告に興味はないし、経験もないからと断ったのですが、1年くらいかけて何度も誘ってもらいました。その間に、レオ・バーネットは広告をゼロから作っていることもわかり、SMEという巨大船舶に安住するよりも、タグボートに乗って荒波に飲まれるほうがエキサイティングだなと思い、転職しました。

すべてのアイデアにロジックがあるのが、広告。 音楽を武器に、広告以外のフィールドも手掛ける。

 

広告業界に入って新鮮に感じたことや、気づいたことはありますか?

すべてのアイデアにロジックがあるのが広告だ、と思いました。転職して最初の打ち合わせで、自分のアイデアを出したのですが、単なる思いつきで。面白ければいいよね?的な内容だったので、先輩やチームからはとんでもないアホを採用してしまったという顔をされました(笑)。全く的はずれなものだったんですよ。アイデアを生むためのロジック、つまり広告の知識や経験が全然足りていないことに気づき、この差を埋めようと必死に努力しました。フォトショップやイラストレーターなど定番ツールを使いこなせるようにしたり、自分で編集してみたり、世界中の広告を見まくったり、2-3年は仕事の後に毎日勉強してました。このタイミングで広告を学んだんです。突拍子もないアイデアに見えても、すべては各企業のマーケティング活動、時代の背景、生活者のインサイトなどから、ロジカルに組み立てられている。そこが根本にあり、その上で、いかに人に印象づけるか、惹きつけられるか、アイデアにデザインや言葉などの表現を付加して勝負していることに気づきました。

転機となった仕事は?

自分の武器である“音楽”を活かすことができたヴィダルサスーンの仕事ですね。安室奈美恵さんとコラボレーションしたのですが、広告だけにとどまらず、ライブツアーの演出、ツアーグッズの企画、MVの企画などを手掛けました。安室奈美恵という音楽を介したクリエイティブと、広告が一体となった時、相乗効果で何倍ものパワーが生み出せることを実感しましたね。音楽という自分の武器を、アイデアや表現につなげて、具現化していく面白さ、ダイナミズムを体感できた仕事でした。

ビーコン・コミュニケーションズ(レオ・バーネット)、で順調にキャリアを重ねていた佐藤さんですが、なぜTBWA\HAKUHODO へ?

広告業界に転じて5年ほどで、どんな球でも優れたクリエイティブで打ち返せるようになったかな、という手応えを感じられるようになりました。そして、10年経つと、一言でいうと天狗になってたんです。かっこ悪いですよね(笑)。やりがいのある仕事が指名で来るようになり、順風満帆だったんですけど、この状況に少し甘んじているかな、という自覚もありました。
そんな時、TBWA\HAKUHODOの役員から声をかけてもらいました。野球選手やサッカー選手などプロスポーツ選手が、どのチームのどんな状況でも結果を出したり、移籍して「どれだけできるの?」と斜めに見られている中で活躍したりできるのは、真の実力があるからですよね。自分もどこに行っても結果を出せることを証明しよう、チャレンジしよう!と思い、TBWA\HAKUHODOに移ることを決めました。
ここでの最初の仕事は、2009年秋のアディダス・ジャパンの「SKY COMICプロジェクト」です。2010年サッカー・ワールドカップ南アフリカ大会に出場する日本代表選手を応援するためのプロジェクトでしたが、話題になりましたし、カンヌ国際広告祭で受賞することもできて、幸先よく結果を出せました。それからもいろいろ作り続けて、今はCCOという立場になりましたが、現場主義は変わっていません。個人の専用室もあるのですが、すぐに打ち合わせできるようにオープンな会議室のような作りにしています。

アイデアは、ロジカルに考え抜いて生まれる。 記憶、世の中を見立てる力、人脈が大切。

 

佐藤さんは次々と新しい広告クリエイティブを生み出していますが、そのアイデアの源泉はどこにあるのでしょう?

先ほどもお話しましたが、アイデアは降ってくるものではなく、ロジカルに考え抜いて生まれるものです。
最近手掛けたユニクロのCMを例にすると、このCMは女性がピッチャーとしてマウンドから見事なカーブを投げています。「”美脚の概念を変える”カーブパンツを着用した女性がヒーローになる」というコンセプトで、球種のカーブに引っ掛けたダジャレなんですが(笑)。
このアイデアは、海外のハイブランドが20年ほど前に、ラグビーと女性を組み合わせた写真を展開していた記憶が根底にあります。スポーツと女性とファッションの組み合わせは直感的にアリだと思っていたので、「“カーブパンツ”の広告なら、野球のカーブに引っ掛けてはどうか?」とアイデアが生まれました。アイデアは記憶からしか生まれないので、多くの広告やクリエイティブを見て、ストックとして心に留めておくことが必要です。
また、自分なりに今の世の中を見立てることも必要。このCMでは、投球フォームの美しさは、新しいファッションの軸になりそうだな、という自分なりの見立てがありました。この見立ては、“今”の世の中の動きだけでなく、これまでのマーケティングの流れなども加味して、何が生活者の心を動かすか、ロジカルに計算して導き出されるもの。これは、広告クリエイターならではの機能です。

ロジカルに考えられたアイデアを、広告クリエイティブとして具現化していくために、必要なこととは?

広告制作は、ひとりではできません。この見立てをどう表現するか、映像、デザイン、言葉など、が付加されていく過程で、プロフェッショナルなスタッフたちと一緒に仕事をします。そうなると、重要なのが人脈です。
30代の頃は、いろいろな場に顔を出して飲みに行ったり、個展に行ったり、積極的に新しい人と組んで仕事をしたり、人脈を広げる努力をしてきました。今は、この人脈の中で誰と組めば、どんな方向性の仕上がりになるか、イメージできます。
仕事をしていく中で、記憶は増えていくし、世の中の見立ても敏感に感じ取れるようになったし、人脈も広がっていくので、まだまだ作りたいものがいっぱいあるんですよ!映画も撮ってみたいし、クライアントワークでもチャレンジしたいことが山ほどあります(笑)。

広告を考える筋肉は、すべての創造に役立つ。 広告は、素晴らしいクリエイティブ道場!

 

これからの佐藤さんが作り出すクリエイティブを楽しみにしています!一方で、佐藤さんは広告賞の審査員を努めるなど、若手の育成にも関わっていますが、最近の若手クリエイターの作品にはどのような印象を持っていますか?

器用ですよね。作品を作る技術、クラフト力は以前よりも上がっていると思います。ですが、表現のモチーフ、テーマ、手法など、すべてに若干の既視感があることも確か。 人や社会を自分なりに見て、どう考えているのか、その結果何を表現したいのか?アイデアが出るまで、とことん粘っているのか?そこがちょっと疑問ですね。「○○っぽい」と感じたら、もうそのアイデアはボツ!「○○っぽい」は禁止、くらいの勢いで考え抜いてほしいです。
考えて考え抜かれた作品は、アウトプットの時間がなくてクラフトの完成度が低かったとしても、やっぱり光っています。器用に作ることに時間を割くのではなく、根本的なところに時間をかけて突き詰めてほしいですね。

日常業務に追われることが多い若手クリエイターにとっては、広告賞へのチャレンジは負担になることもあると思うのですが、広告賞に応募するメリットとは?

絶対にチャレンジしたほうが良いですよ!客観的に自分の仕事が評価されることは、自信につながります。考えて考え抜いたアイデアを、広告の専門家に認められて自信が付くことは、その後の仕事に間違いなく好影響を与えます。
また、海外の大きな賞を受賞すれば、ビジネスにつながりますね。大きな競合案件に呼ばれるようになり、これまでとは規模が違う仕事ができるようになります。

すごく心強いお話ですね!ありがとうございます。では最後に、若手クリエイターにメッセージをお願いします。

広告を考える筋肉は、すべての創造に役立ちます。広告で付く筋肉は、世の中を見立てる嗅覚。求められていることがわかる筋肉なんです。発明家になりたい時も、飲食店をオープンしたい時も、映画監督になりたい時も、どんな時もすべてのフィールドに役立ちます。 広告ほど素晴らしいクリエイティブ道場は、他にありません。いま自分が学生なら、迷いなく広告の道を目指しますね。だからこそ、若いクリエイターは考えて考え抜いて、広告の筋肉を鍛えてください。

取材日:2019年8月26日 ライター:植松織江 スチール:橋本直貴 ムービー:(撮影)王奔 (編集)遠藤究

プロフィール
TBWA\HAKUHODO CCO(チーフクリエイティブオフィサー)
佐藤 カズー
1997年 Sony Music Entertainment 入社。Leo Burnett を経て2009年 TBWA\HAKUHODO入社。メディアの枠を超えた Big Ideaで、カンヌライオンズ金、CLIO金、D&ADイエロー、NY ADC金、文化庁メディア芸術祭など、これまでに200以上の賞を受賞。また2012年カンヌライオンズフィルム部門審査員、2017年カンヌライオンズプロダクトデザイン部門審査員をはじめ、デザイン、デジタル、プロモーションといった多領域に渡る国際賞の審査員をつとめる。2011年 JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト。2013年Campaign誌 Japan/Korea Creative of the Year 受賞。趣味は広告のパトロール。

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