WEB・モバイル2021.08.25

ImpressDXで社会課題を解決! ソフトバンク・梅津しおん氏が示す“求められるクリエイター”になるための羅針盤

Vol.190
ソフトバンク株式会社 デジタルトランスフォーメーション本部クリエイティブディレクター
Shion Umetsu
梅津 しおん

「課題先進国」といわれる日本。デジタル化が加速する現代においてデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、すべての企業にとって喫緊の課題となっています。

ソフトバンク株式会社は2017年、パートナー企業との共創による社会課題の解決のためデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)本部を新設。2019年にはクリエイティブチームが発足し、クリエイティブによるDX推進という新しい取り組みが注目を集めています。

そのチームを率いるのが、クリエイティブディレクターの梅津しおん(うめつ しおん)さんです。

UX(ユーザーエクスペリエンス=サービスで提供するユーザー体験)の考え方が一般に浸透する以前から、ユーザー体験に着目して活躍。現在は同社サービスの情報設計やクリエイティブを幅広く担当されています。今回、ご自身のキャリアに触れながら、DX本部の取り組みやDX時代に活躍するクリエイターのあり方などを伺いました。

 

「納得できるものをつくりたい」とクリエイティブの道へ

クリエイティブ業界を志したきっかけを教えてください。

最初に就職したデジタルコンテンツビジネスの会社で、サイト運営に携わったのがきっかけです。当時、私はクリエイティブではなく、営業や経営戦略の設計を担当していましたが、仕事を任されるようになり「もっと自分が納得できるものをつくりたい」という思いが強くなっていきました。

しかし、リクエストした機能が実装されなかったり、開発にかかる時間や予算が想定と違ったり。私の伝え方が不得手だったためか、クリエイティブサイドからは、イメージ通りの成果物がなかなか上がってきませんでした。私は次第に「だったら自分でつくれるようになろう」と考えるようになりました。それで働きながらスクールに通い、Adobe Photoshop(※)やAdobe Illustrator(※)などのデザインツールだけでなく、Webサイトやアプリケーションのプログラミングやデータベース設計などについても基礎から勉強を始めました。

※Copyright © 2021 Adobe. All rights reserved.

その後、制作会社に移られ、本格的にクリエイティブを経験されたそうですね。

はい。制作業務がある程度できるようになると、より専門的な仕事を経験したくなりますよね。そこで制作会社へ転職し、デザイナーからアートディレクターまで幅広くデザイン職を経験しました。また、クリエイティブユニットを結成し、個別活動も始めました。映像制作からデジタルデザインまで、さまざまな制作業務に関わり、プロジェクトごとにチームを組んで働く機会が増えてきたのです。

クリエイティブユニットでのプロジェクト運営では、デザイン業務だけでなく、ビジネス戦略やマーケティングなど、より広範囲な制作業務にも携わるようになりました。

もともと「デザインそのものを極めたい」というよりは、「サービスやプロダクトを改善して多くの人に満足してもらいたい」という考えでクリエイティブ領域に踏み込んだので、プロデューサーやディレクターとして全体を俯瞰する役割を経験できたのは、今の自分にとって非常に意味のあることでした。

 

口説かれ続けた派遣時代。「三度目の正直」で入社を決意

ソフトバンクにはどういう経緯で入社されたのですか?

いわゆる大手企業のクリエイティブを経験するため、クリエイティブユニットの活動と並行しながら、派遣社員としていくつかの企業で働いていました。

ソフトバンクはそのうちの1社です。当初は、コンシューマー向けサービスのバナーやランディングページ制作といったデザイン業務が中心でしたが、ありがたいことに、次第に企業の成長戦略に関わる重要なプロジェクトにアサインしていただくことが増えました。

例えば、まだ米国で発売されたばかりのiPadが日本に上陸した際に、どういうサービスを展開するかなど、企画の段階から携わることができました。初めて見るタブレットに触れ、これでどうやってコンテンツを表現するか、ユーザビリティを含めどのようなユーザー体験が実現できるかなど、ゼロから模索しました。また、Android OSを搭載した新しいデバイスの導入時も、UI/UX設計を担当させていただきました。

100人以上が関わる大きなプロジェクトで、派遣社員でありながら裁量のある立場を任せていただけたことは、強く印象に残っています。非常にやりがいを感じるプロジェクトばかりでした。

それで正社員になろうと考えたのですね。

それが紆余曲折あって。実は、派遣社員になって約半年後に「社員にならないか」と言っていただけたのですが…断りました。その後のお声がけも断り、入社を決めたのは3回目のお誘いをいただいたときです。というのも、当時のソフトバンクは副業禁止だったからです。私はクリエイティブユニットの仕事もあったため、「ソフトバンク1本には絞れません」と断っていたのですね。

しかしある部長に熱意を持って説得され、そこまで言ってもらえるならと、クリエイティブ系の仕事を続けたいということを伝えた上で、三度目の正直で入社しました。それ以来、入社から約10年が経った今でもクリエイティブを中心とした業務を任されています。これは本当にありがたいことですね。

それはクリエイター冥利に尽きますね!どうやって、そこまでの信頼関係を築けたのでしょう?

分かりません(笑)。ただ、私は以前から「ユーザーが実際に使いやすいもの、満足できるものを作りたい」という信念を一切ぶらさずに仕事をしてきました。それは今でも変わっていません。

今でこそUXという考え方は当たり前になりましたが、私が入社した2012年頃はまだ一般的ではなく、社内でもすんなりと理解してもらえることは少なかった。そのような時代でも、ユーザーファーストの設計を一生懸命に訴える私の姿勢が評価されたのかもしれませんね。

 

大規模プロジェクトの上流から関わり、チャレンジを継続

 

正社員になってからは、どういったお仕事をされたのですか?

派遣社員のときから、新しいプロジェクトが立ち上がると「とりあえず梅津に声をかけろ」とチームにアサインされることが多かったので、正社員になったからといって業務内容が変わることはありませんでした。肩書だけが、派遣社員から正社員に変わったという印象ですね。

ただ、正社員になって1年半ほどで、課長代行として課を任せられる立場に切り替わり、大規模なプロジェクトの上流工程から関わることが徐々に増えていきました。BtoC向けサービスの開発では、プロジェクトの最初の段階から全般的に関わることが多かったですね。

具体的にはどういったプロジェクトに関わったのでしょうか。

たくさんあります。一例を挙げると、スマートフォン向け音楽・映像定額配信サービスのUI・UXデザイン全般、スティック型メディアストリーミングデバイスのインターフェースの設計などですね。ほかにも、教育ICT支援やフィンテックなど、さまざまな分野の新規プロジェクトに関わりました。

顧客基盤推進本部へ異動後は、UX企画課でソフトバンクが提供するサービスの情報設計やクリエイティブ全般を担当しました。その一環で行ったのが、公式サイトのリニューアルです。私はプロジェクトリーダーとしてリニューアルを推進しました。

それまでの公式サイトは数年前にリニューアルしたものを長らく使い続けていたため、デザインだけでなくユーザビリティなども抜本的に見直して改訂する必要がありました。リニューアルでは情報過多の部分を整理したり、導線を分かり易く設計し直したり、情報設計だけでも約1年を費やしたでしょうか。

そのうえで昨今のデザイントレンドも踏襲し、大幅なリニューアルを行い、そしてリニューアルプロジェクトが終了したすぐ後に、発足して間もないDX本部に2019年4月に移り、現在に至ります。

 

誰が使うサービスか、本当に価値があるのかを常に考える

DX本部はどのような事業を行う部署なのですか?

超高齢化社会や社会保障費の増大、労働人口減少、社会インフラの老朽化など、現代の日本において各業界や自治体はさまざまな社会課題を抱えています。これらさまざまな社会課題に対し、ソフトバンクとして何ができるかを企業や自治体と一緒になって考え、解決していこうというのがDX本部の取り組みです。

幸いにも、ソフトバンクには多くのグループ企業があり、それらのアセットを組み合わせるだけでもスピーディにサービス提供ができます。また、企業同士のシナジーによる新たなソリューションも提案できます。こうした仕組みを活用し、パートナー企業との「共創」で新規事業を生み出すことに取り組んでいるのがソフトバンクのDX本部です。

そして、その中でも、企業がデジタル化を進めるうえで生じる障壁をクリエイティブの力で取り除くのが、私の率いるクリエイティブチームに課せられたミッションと考えています。

これまでどういった社会課題を解決されたのか、事例を教えてください。

例えば、東急電鉄さんに導入いただいている「SecuLight(セキュライト)」というサービスがあります。近年は駅だけでなく車両内にも防犯カメラが設置されるようになっていますが、鉄道車両への防犯カメラ設置は、長期間に渡る工事の間車両を休止させなければ ならないことや、新たな配線を車両内に敷設する等の工事により多額のコストがかかってしまうといった課題がありました。

そこで株式会社MOYAI さんが開発したLED一体型高機能ネットワークセンサー「IoTube(アイオーチューブ)」を活用し、IoT防犯カメラサービスの提供を開始しました。「IoTube」は4Gデータ通信機能を備えているため、遠隔地から録画映像を確認することが可能です(※)。また、事件や事故の際には管理画面から、必要な期間の録画データだけを抜粋して関係機関に提出できます。さらに、蛍光灯を交換するだけで導入でき、特別な設置工事や配線工事は不要というメリットもあります。

※映像データの所有者は導入企業であり、ソフトバンクは映像データを閲覧することはできません

サービス開発にあたって、UI・UXデザインの観点で気をつけていることはありますか?

私は必ず「誰が使うサービスなのか」「本当に価値があるのか」を常に考えるよう、チームのメンバーに言っています。サービス内容や事業規模の大小に関わらず、ターゲット設定は間違っていないか、使い手が満足できるものになっているか、本当に使われる良質なサービスになっているかという部分は、しっかりチェックしています。UI・UX設計はその先につながっていくものです。

言ってしまえば、それ以外は何でもいいとさえ思っています。デザインであれば、サービスのイメージにふさわしい色は様々な手法で導けますが、赤がいいか青がいいかというのは結局人の好みであって、十人いたらそれぞれ違います。

しかし、「どういう流れでゴールまでユーザーを導くのか」という情報構造や操作性の部分は、使う人に合わせて徹底して設計しなければ、良質なものはつくれません。ターゲットごとに当然、リテラシーは異なり、求められるユーザビリティも変わってきますから、そこは間違えないようにしっかり見るようにしています。

 

共創パートナーの先にいるエンドユーザーまでハッピーに

 

今、どのような人材を求めていますか?

私のチームでいえば、UXディレクターとUXデザイナー、体験設計のスペシャリストであるエクスペリエンスアーキテクトです。採用にあたっては、面接などを通してまず私たちのチームで働く姿を想像しますね。

会話の要所要所で性格や適正も分かってきますし、チームでやっていけそうか、当社のマインドに合っているかなどは、当然見ます。やはり能力と働く姿勢はポイントになりますね。加えて、経験も判断材料にします。

当社のDXによる課題解決の取り組みでは、それぞれのプロジェクトの特性に合わせた各種検討、対応が必要になります。そのため、デジタルだけではなく、IoTプロダクトやAI、時にはアナログなど、さまざまな手法が求められるため、幅広い知識や経験があると活躍の幅も広がります。

ですので、例えばWebサービスやアプリをつくるにしても、Webデザイナーの経験だけしかない人より、もっと汎用的なマインドや経験のある人のほうがフィットしやすいのです。もちろん、履歴書やポートフォリオを見て、光る可能性を感じれば別ですけどね。

今後、DXでどのような世界を実現したいとお考えですか?

当社は「情報革命で人々を幸せに」という経営理念を掲げています。私たちのチームに当てはめると「社会課題を解決して人々にハッピーになってもらいたい」というスローガンになり、その思いはチーム全員が共通して持っています。

ですから、ソフトバンクとして社会課題の解決にしっかり貢献できるものを提供していく。これが私たちの実現すべきことだと考えています。ただ、社会課題の解決で共創パートナーだけがハッピーになればいいというわけではなくて。その先にいらっしゃるエンドユーザーの方々が使うサービスもより良くしていかなければなりません。

私たちからすれば「toB」も「toC」も、同じことなのです。そのためには、やはり「使い手にとっていいものを提供し続ける」ことに尽きると思っています。

DX時代に活躍したいクリエイターにメッセージをお願いします。

今はクリエイターの仕事の幅がますます広がっています。デザイナーのバナー制作を例にすると、どういう人が見るのか、刺さる表現や言葉は何かを考えてデザインすることで、はじめてCVRやCTRの向上につながる。つまり、昔のように絵がかけるだけのデザイナーではだめで、人の行動に基づいた情報の流れも理解していないと今は通用しにくいのです。

それだけではなく、「どういう人が利用しているのか」の分析までできるのがベターで、それにはアナリティクスやマーケティングの知識も必要です。DXであれば、テクノロジーとビジネスの知見も必要でしょう。少し前には「BTC型人材」という言葉がありました。

これはビジネス・テクノロジー・クリエイティブを統合したスキルセットを持つ人材という意味ですが、今後はそのようなバックグラウンドを持つクリエイターが求められ、活躍の場を広げていくのだろうと感じています。

クリエイターの方は「自分の表現をどういうテクノロジーで実現し、ビジネスとしてどう成立させるのか」という考え方ができるようにして、スキルを鍛えておくと役立つと思いますよ。

取材日:2021年7月27日 ライター:小泉 真治 スチール撮影:橋本 直貴 ムービー撮影:村上 光廣 ムービー編集:遠藤 究

 

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プロフィール
ソフトバンク株式会社 デジタルトランスフォーメーション本部クリエイティブディレクター
梅津 しおん
2012年ソフトバンク株式会社中途入社。iPadやAndroid端末など新端末の日本初上陸時や、音楽、スポーツ、映像配信などコンシューマー向け新サービス導入時のUI/UX設計・クリエイティブに携わる。その他にも新会社や新サービス立ち上げ時のブランディングやクリエイティブをリード。現在はデジタルトランスフォーメーション本部にて、クリエイティブを通じた社会課題の解決を推進する。

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