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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

まず、「そうですね」って言え。

番長プロデューサーの世直しコラム Vol.140
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木 光

プロデューサーとして駆け出しで売り出し中のころ、
カンヌ広告祭に行く機会に恵まれました。

カンヌに着いてホテルのロビーにいたら
その当時メチャクチャ売れてて、いい仕事していて、威張っている感じの
他の会社の名物プロデューサーに声をかけられました。
「おう、お前が櫻木か、最近名前聞くなあ、生意気なんだって?」

プロダクションのプロデューサーは、実は他社のプロデューサーとの
横のつながりはあまりありません。
引き抜きやプロダクション間の移籍の疑いがかけられるし
いろんな機密を持っているので、他の会社の人と仲良くするのは
よくないとされていました。
コンプライアンスにうるさくなった今でもそうですが。

そういう意味で、他社のプロデューサーの話を聞ける機会は
飲み屋でたまたま出会うか、日本から遠く離れたカンヌ広告祭ぐらいしかありませんでした。
カンヌでのプロデューサーの役割は、建前は広告の勉強ですが、実は営業です。
勉強しにきている広告代理店のクリエイターの世話をする。というのが
ほとんどの目的です。夜に活躍するのを期待されています。

泣く子も黙るプロデューサーと聞いていたMさんに声をかけられて
これはチャンスだと思いました。
「Mさん、会社違ってやりにくいとは思うんですけど、
カンヌにいる間、Mさんに付いて回ってもいいですか?」
と頼んでみました。何をどうするか豪腕プロデューサーの行動を見たかったからです。
「お、いいよ。うちの会社にそんな事言う奴いないからついてこいよ」

その日から、ずっとその人の付き人みたいになってついて回りました。
期待した通り、いろんな人と会わせてもらい、情報の収集の仕方をみせてもらい
その情報の使い方まで見せてもらい、
そして毎日朝までどこかのホテルのバーで飲み明かしました。

そこで、いろんな人と飲むなか、Mさんがどんな事を話題にしてどんな調子で
人と接するのかじっと観察していました。
なるほどそういう言い方するのか。とか参考になる立ち振る舞いが沢山あって
ワクワクする毎日でした。
観察するだけだとつまらないので、いろんな自分の意見も積極的に言って
話題が盛り上がるように頑張ってみました。
何というかMさんと話す人はみんな饒舌になり、Mさんは話題を振ると
そのあとは聞き役に回り人から話を引き出すのが上手い人だなと思っていました。

そうやって数日過ごし、何日か経った日の夜に
「おう、今日は二人で飯食おう」とMさんが言いました。
ご飯を食べながら、Mさんが「どうだ?なんか参考になってるか?」
と聞きました。
「はい、もちろん。いろんな人との会話の流れで、ああ、こういう話し方
すればいいんだなあ。とか色々わかってきました。ありがとうございます」
「その割には、お前、進歩しないよな」
「え?」
「お前さあ、自分の悪いとこがわかってないだろ。俺はお前と数日過ごしてみて
お前のいろんなことがわかったよ。お前はいろんな事をちゃんと知ってて
自分の意見もはっきりいうし、トゲがあって結構おもしろいんだけど、
そういう人間が一番気をつけなきゃいけないことがポッカリ抜けてんだよ」
「はあ?」

「解んないか?じゃあ教えてやろう。
お前の悪いところは、人の意見が自分と違った時に、違いますよ、とか
そんな事ないですよ。とか、顔をしかめながら、すかさず言うよね。
まずそれを全部やめろ。
人がなんか言った時の最初に言わなきゃいけない一言は。
『そうですね』だけでいいんだよ。
人の言った事をすぐに否定して自分の持論を展開すると、誰もお前の意見
なんか聞いてくれないんだよ。聞きたくねえし。
人はな、自分の意見を否定されるのが大嫌いなんだよ。
お前に自分の意見を否定された奴は、お前なんか若造に否定される覚えはない
と思ってお前と話したくなくなるんだよ。逆にお前が自分の意見を
「そうですね」って聞いてくれた時は、若くてもプロのお前が自分のいう事を受け
入れてくれたって嬉しくなるもんよ。
わかる?立場を自分に置き換えてみればわかるだろう?

だから、お前は、人がなんか言ったらまず一言目に「そうですね」って言え。
反対意見がある時は「そうですね」って言った後に一呼吸入れろ。
それができないと、お前、ただでさえアクが強いんだから、あの野郎って
嫌われて終わっちまうぞ。

ショックでした。おっしゃる通りだ、と思ったからです。

Mさんと数日過ごして自分が感じたMさんの印象は、何でも見透かしたように
怖いけどとっても話しやすい人だなあと思っていました。
それが何なのかもわかりました。
僕が何を言ってもMさんは、一言目はまず「そうなんだよ」だったからです。
それが嬉しくてベラベラ喋ったんです。そうか、そういうことか。
みんながMさんには嬉しそうに話をする。
僕が口を挟んでも盛り上がらないことがある。
最初は、Mさんは名前があってこの仕事も長いからみんな一目おくんだろう。
俺なんか駆け出しだしなめられてるんだろうなあ。と思っていました。

そういう具体的じゃない違和感がありましたが、それすら勘違いだった。

お前は、人がなんか言ったらまず一言目に「そうですね」って言え。

この言葉は、一瞬で僕の人格を改造できるくらいの破壊力がありました。
そう言う発想がありませんでした。突っ張らかっていたのでしょう。

東京から遠く離れたフランスのカンヌで、他社のプロデューサーに指摘された
コミュニケーションのやり方の間違い。
その後のプロデューサー人生で、どれだけこの言葉に救われてきたか
言うまでもありません。
仕事にかかわらず、誰に対しても気をつけなければいけなかったからです。
自分の子供さ加減を思い知らされた一言でありました。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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