人間なんて

Vol.168
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

 

小学校の低学年の頃

可愛い女の子が2人、僕に近寄ってきて、モジモジしながら交換日誌をやらないか?といった。

肥満気味で文句ばっかり言う人気のない少年だった僕は、友達がニワトリと亀しかいなかったので、

そんな話がくるとびっくりして嬉しくて舞い上がってしまいました。

 

もう1人、小池くんという爽やかな少年を加えて4人で交換日誌をしたい。

せっかくやるんだから立派なノートが欲しいよね。お金出し合って買おうね。とか話し合ってる。おお、なんかいい感じ。

 

そんな中、やっちゃんという同級生が、「あんな奴らにお金出さないほうがいいよ」と言いにきた。

いい気分の俺になんでそんなこと言うのかわからなかったので、腹が立ち、やっちゃんに怒った。

関係ないだろうお前には。羨ましいのか?と。

やっちゃんは冷めた感じで去っていった。

 

女の子がノート代として150円徴収に来て、なけなしの小遣いからそれを払い、

期待に胸を膨らませて交換日誌が始まるのを待っていた。

どんなことを書いたら喜んでくれるかなあ?とか。

どっちの子が僕のこと好きなんだろう?とか。変な期待もしていた。

 

でも、いつまで経っても交換日誌は始まらなかった。

急かすのもカッコ悪いと思ったのか、聞くのが怖かったのか覚えてないが、

ずいぶん経ってから「どうなった?」と女の子たちに聞いてみた。

そしたら気まずそうに黙っている。

「やらないなら無理してやらないでいいよ」って余裕を見せたフリして言ってみたら、

ちょっと気が楽になったようなので「お金はどうしたの?」って聞いた。

そしたら、お金をもらってすぐに小池くんも入れて3人でお菓子を買って食った。という。

そもそも交換日誌なんかやるつもりはなかったんだ、と。

 

お菓子を買うお金を騙し取られただけだったのだ。

やっちゃんはそれを知っていて忠告してくれていたんだ。恥ずかしいけどやっちゃんに謝った。

女の子たちは泣いちゃって。で、お金は返ってこなかった。

 

小学校の低学年の頃

「あしゃん」と、「としゃん」という2人組の友達が近所に住んでいた。

ある日「あしゃん」と「としゃん」に呼び出されて、

としゃんの家に行くとお菓子の入っていたブリキの缶を持ってきて、タイムカプセルを作ろう。という。

 

大切にしているものや、未来の自分への手紙を書いたり、

秘密にしている好きな女の子の名前を書いたりして入れて、20年後に掘り出そう。

20年後のこの日にまたここに集まって掘ろうね。

という話だった。

未来かー、面白いなあ、と思ってワクワクした。未来のことなんか考えたことがなかった。

 

あしゃんもとしゃんも真剣に手紙を書いたりしてるし、僕も真剣に未来の自分へ手紙を書いて缶の中に入れて、3人で埋めた。

なんかすごい、未来ということに期待が持てたし新しいことをやっている気がした。

未来を共有できた気がして彼らと特別な絆ができたような気がして嬉しかった。

 

何日か経って、学校で、あしゃんととしゃんがゲラゲラ笑いながら

「ヒカルの好きな女の子は〇〇~」「ヒカルの好きな女の子は〇〇~」

と大声で言いふらして回っていた。

 

は?なんでそんなこと知ってんの?っていうか、なんでそんなことするの?とすぐには気づかない。

 

あ、タイムカプセルか。

 

20年後の未来なんて全然嘘。

僕がどの女の子が好きなのかを吐かせるために巧妙に作られたイベントだったのだ。

奴らは真剣に手紙を書いたりしていなかった。クスクス笑っていたのだ。

タイムカプセルは、僕が帰るとすぐさま掘り起こされ、書いたものは笑われながら読まれ、

大事にブリキの缶に入れた宝物のスーパーカー消しゴムはかっぱらわれていた。

 

今思うとちょっと行きすぎてる感もあるけど、微笑ましい子供の意地悪。

だけど当時は結構傷ついて悔しくて部屋で布団をかぶって泣いた思い出がある。

この件で結構、他人が嫌いになった。この二つの出来事で簡単に人を信用しなくなった。

 

子供って残酷である。意地が悪い。社会性がなく本能のまま動く。

やったらいけないことをよく知らないし罰を受ける感覚も薄い。

でも一般に今の大人のしていることはこれと大差ないのだ。

 

まあ、所詮、人間なんて着てるものや立場を全部ひんむいてしまえば「欲」しか残らない。

飯が食いたい、金が欲しい、地位が欲しい、異性にモテたい、人を出し抜きたい。

全然うまくいかない毎日が頭に来て、自分よりうまくいかない人を見つけて見下し、安心する。

自分と違う種類の人間を理解しようとせずに差別する。俺はお前より上だ、と思いたがる。

騙したりはめたり嘘をついたり。やった事をやってないと言い張ったり。いかに自分のことしか考えていないか。

 

アメリカのドラマ「ウォーキングデッド」の世界である。

変な病気が流行って、世の中がみんなゾンビになってしまって

数少ない生き残った人間がゾンビに食われないように生きていく。

そんな世界では、ゾンビより生身の人間の方が怖い。

せっかく生き残ったのに助け合うどころか殺し合う。

足を引っ張り合う。

このドラマは人間の本性の表現として的を得ている。

 

今はなんというか大人の社会の方が子供じみて見える。

嘘ついたり隠したり、都合の良いことばっかり表に出して嫌な世の中だ。

その片棒を担いでいる大人の一人が自分なのだ。生活のために見て見ぬ振り、黙っている。

 

そういうこと、人間の汚さや愚かさは、実はもうみんな身に染みてわかっていて、今更取り立てていうことじゃないよ。という気分でもある。

そういう汚いものをヒステリックに攻撃しても何も生まれない。自分にも身に覚えがあったりするんだし。

新型コロナウイルスでの騒動はこの人間社会の中でずいぶんそれを洗い出し加速させたのだ。

 

世の中がどうしようもないピンチになると人間はイライラして、嫌な奴やバカな奴が本性を表す。

今は世界中みんな平等に死にさらされている。

コロナだけじゃない。

気候の変動でずいぶん、「命を守る行動を取ってください」という危険な状態になってきたし、

山から人里に野生の動物も降りてくるようになった。一触即発の戦争の危険もそこにある。

 

最近は5年くらいであっという間に状況が変わる。良い方に変わることは少ない。

それに気付けないとあっという間に置き去りにされてしまうようなスピード感だ。

その現実もめちゃくちゃ怖い。変化についての説明も、その最中には丁寧に話されない。

変化が早すぎて予想がつかないし予想もしなかったようなことも起きる。

そういったテクノロジーの変化や、気候・環境の変化、経済状況の変化、などのストレスで

ついていけなくなって元気をなくす人がずいぶんといるように思える。

 

 

それを目の当たりにして、やっと、次のちゃんとした新しい建前を作って人間の欲を規制しましょうよ。

これじゃダメだ。という新しい世界への移行は世界規模では始まって動き出している。

 

こういう時、元気でいる方が変に見えるけど、心を壊されないでいるためにはちゃんとした教養みたいなものが必要になってくる。

 

よく考える癖をつける。とか、答えのないことに答えを自分の意思で出す。

答えのないことを自分のことなら答えはこれだろうと予想をつけて、それに向かって行動を起こす。とか。

今、身の回りにあるものを使って難局を乗り切る。とかとか。

そのアイディアを導き出すための、社会全体で危険に対応する情報を、それぞれが身につける必要があるんですね。

 

つまりは、何も着ていなかったら剥き出しの動物なんだけど、

社会の一員としては社会性を身につけながら成長していくのが人だとすると、

社会の変化、環境の変化が過酷な方にシフトしている現実の中で、

新しい社会性という服で剥き出しの野生を封印して人間の欲を制限しながら、新しいアイディアで困難と立ち向かう必要がある。

 

アメリカのBLMやLGBTQ+などのムーブメントを受けて、

日本の中での差別の問題にまで言及され始めているし、

昭和のおじさんたちの立ち振る舞いもずいぶん粛清されてきましたね。

感染の予防など、協力し合わないとコロナの危機は乗り切れないですね。

 

だから、このコロナの騒動が収束したら、今、大人をやっている僕らは、今のまま人を騙して金をちょろまかしたり、

嘘ばかりついて大事なことを封印したりしない。

人種差別や性差別に対する、今世界中で起きている意識の変化と同じレベルで、

人間生活も政治も綺麗事や建前ではなくそれを意識するべきだ。

 

新しい価値観をちゃんと理解して、20年後の世の中のために、

自分たちの身勝手でやってきたことへの、散らかしっぱなし汚しっぱなしの自然環境や、

疲弊した人間の精神や人種や人間の関係性の掃除をして少しでも環境をよくする。

そうやってから子供の世代に渡さないと、後世に「あの頃のバカどものせいで」と軽蔑され恨まれる世代になってしまいますね。

 

とかなんとか言っても、何かが嫌だから行動を起こすんじゃなくて、何かが大好きだから問題を解決するために動く気分でいた方がやっぱり健全でいられると思いますけどね。

 

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

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