グラフィック2020.10.14

土はおいしい?! Earth Eaters @Cole Projects

Vol.100
London Art Trail
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

Hoxton253ギャラリー、Cole Projects による企画展示

東ロンドンのオーバーグラウンド、ハガストン駅を出てリージェントカナル沿いを西へ。ホックストンハイストリートに入るとまもなく、グレーの看板が見え、窓ガラスに黄色で書かれた「Earth Eaters (地を喰らうものたち)」というインパクトのあるタイトルが目に止まります。今回はCole ProjectsHoxton253のギャラリーコラボレーション展示です。

Psilocybin (The Sediments of Sentiments), 2020 ©Byzantia Harlow

すっかりお約束となった除菌ジェルで手を消毒、マスクをして中へ。まず目に入るのはこちら、まるで珊瑚礁で作られた竜宮城?作品はByzantia HarlowのPsilocybin (The Sediments of Sentiments), 2020。Psilocybin(シロシビン)とは 、マジックマッシュルームに含まれる幻覚剤。浦島太郎の海中のユートピアはキノコを食べた人の幻覚だったというと話がかなり変わってきます。

The Diamond Chips Thought It Was Possible, 2020 ©Charly Blackburn

こちらは珊瑚というより火山岩?鉱物資源の採掘というと鉱山を思いうかべますが、実は海底にも存在します。海底の火山活動により熱せられた海水が熱水となって海底から噴き出した際、海水に含まれる金属が冷却され、沈殿することで鉱床が形成されます。これは海底熱水鉱床と呼ばれ、銅、鉛、亜鉛などのベースメタル、金、銀などの貴金属、ゲルマニウムやカドミウムなどのレアメタルが含まれていることも。日本もこの海底熱水鉱床の研究に熱心で、2017年、経済産業省と独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、水深約1600mの海底で掘削作業に世界初で成功したことは記憶に新しいです。しかし採掘は深海の希少な生態系への直接的な影響だけでなく、採掘ゴミの処理や海水へ猛毒の重金属等の溶出などの問題を伴い、環境破壊は免れないのが現実です。そんな海底採掘に警告を鳴らし、海底熱水鉱床を再現した作品は、Charly BlackburnのThe Diamond Chips Thought It Was Possible, 2020。

Dürer’s Turf, 2010 ©Russell Webb

写実画のように見えるこの作品、実は木で作られた立体作品。細い草の部分は割り箸を使っているとか。ドイツの巨匠、Albrecht Dürerの水彩画 Great Piece of Turf (1503)をそのまま3Dに再現した作品Russell WebbのDürer’s Turf, 2010。表現されているのはベント芝、セイヨウオオバコなど10種類ほどの北ヨーロッパの野原に500年前も今も変わらずに生えている野草。

Untitled Bog(Container #2) ©Timo Kube

なんかその辺の沼みたいな…。泥炭(ピート)って聞いたことありますか?泥炭とは植物の遺骸が蓄積し、短い時間で炭化されたもので、石炭が形成される最初の段階にあると考えられています。世界の湿地帯の60%が泥状の炭で覆われた沼地である泥炭地、ピートランドだそう。燃料としては不純物が多すぎるし、農地としても使い物にならないし、地盤が悪すぎて建物も立てられないといったやっかいもの。とはいえ質の悪い燃料であるものの、安易に手に入るため、古くから各国が燃料として使用してきました。園芸用の肥料やウィスキーへ利用なども。ところが近年、泥炭の採掘による地球温暖化加速が顕著になり、その生態系の重要性やCO2吸収源としての役割が見直され、泥炭地を保護する運動が盛んになりつつあります。さて、話を作品に戻すとTimo Kubeはそんな沼の水とピートをチューブに入れミニ泥炭地を自分のアトリエに作って育てています。作品のUntitled Bog(Container #2) は2年もののアトリエの自然光で育てられた小さなエコシステム。当初は無かった水藻や水草が生え始め、なんとミジンコも泳ぎ始めています!

Conduit, 2020 ©Natasha Bird

壁にどっしりとぶら下がるのはコンクリートのチューブ、ホース?地層のサンプルを掘り出してきた塊のようにもみえます。実は新聞紙でできていて、多くは駅などで通勤者用に無料配布されるフリーペーパー。新聞は人から人へ手渡され(コロナ禍においては置いてある新聞を拾って読むのはためらわれますが。)まるで通勤者のようにフリーペーパーは旅をした後、リサイクルされ、またパルプに戻って旅を続けます。作品はNatasha BirdのConduit, 2020

Will.je.suis, 2020 ©William Cobbing

目も鼻もない粘土で固められた頭を持った人が少しずつその頭を細いワイヤーでスライスしていくと…。やがて目と口が現れ、青菜をたらふく食べて育った青虫を潰したら出てくるような鮮やかな緑色の液体があふれ出し、まるで地球が泣いているようです。パフォーマンス映像作品はWilliam CobbingのWill.je.suis, 2020。

Petrichor, 2020 ©Tasha Marks, AVM Curiosities

なんかこの写真、土くさい? 匂いの元は「大地の臭い」を意味する、ゲオスミン。写真はゲオスミンのアロマのつけられた布に印画されていています。ゲオスミンは地中の微生物によって産生され、それらが死んだときに放出されます。雨によって土中から大気中に拡散するため、雨上がりのにおいのもとになるそう。作品はTasha Marks, AVM CuriositiesのPetrichor, 2020。

The Dance, 2020 ©Hannah Walton

土を喰らうものといえばやっぱり、ミミズ!こちらの日本一大きいハッタミミズほどの大きさの踊るミミズはRussell WebbのThe Dance, 2020。ミミズは「目見えず」からメメズになり、転じてミミズになったとも言われる、頭も目も鼻も手足もない動物。下等な動物と思われがちですが、実は進化の過程で地中生活への適応としてこれらの器官を排除したという説が有力です。ダーウィンが進化論の中で「植物が生えている土はミミズの体を何度も通ってきている」といっているようにミミズは目鼻を捨て地中と地上の管状の架け橋になったのです。重金属や農薬などの薬剤に汚染された土壌、捕食者が死ぬような汚染濃度の土壌にも生存できるミミズ。英国では近年、有害廃棄物をエサにする進化した“スーパーミミズ”が発見されていて土壌浄化への期待が高まっています。まだまだ紹介したい作品がありますが、長くなってしまったのでこの辺で。第100回目のコラムを読んでいただいてありがとうございます。また来月!

 

プロフィール
London Art Trail
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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