ゴールデンカムイの謎 その10 「ヒンナ」は美味いという意味ではない?

北海道
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

ゴールデンカムイで有名になったアイヌ語
それが「ヒンナ」

 ゴールデンカムイ第一巻
リス肉のチタタㇷ゚(タタキ)を団子にして煮込んだ「つみれ汁」が煮あがる。
恐らくは初めてアイヌ料理を口にしたであろう杉元。
タタキ肉の団子を噛み締めれば、柔らかく叩きほぐされた肉の中の骨片が快く歯に触る。
飲み込む瞬間、木の実の滋味で育った小動物の肉の香気が喉の奥で香り鼻に抜ける

 杉元は叫ぶ
「うまい…ッ!!」

 対するアシㇼパはつぶやく
「ヒンナヒンナ」

ゴールデンカムイを代表するアイヌ語「ヒンナ」の初見である。

以降、アシㇼパも杉元も、ニシン蕎麦に行者ニンニクと北海道独自の珍味を口にするたびにヒンナの語を発する。

「ヒンナヒンナ」
「ヒンナだぜ」

ヒンナの語を発する両者の表情は、古典的な表現を用いるならば
まさに「ほっぺたが落ちそう」。

 読者は自然と、ヒンナの意味をこう理解することだろう。
「ヒンナ」は「美味」「美味しい」の意味だろう、と。

だが、残念ながら、そして当然ながらこれは誤り

 

「ヒンナ」は「美味しい」の意味ではない
正しい意味は?

ヒンナは「美味しい」の意味ではない。
「感謝」「ありがとう」の」意味である

 

食物を口に運ぶ際は、「いただきます」「ごちそうさま」の意を込めて
「ヒンナ」の語を発する。
実際、ヒンナの初登場時にアシㇼパは「食べ物に感謝する言葉」と、きちんと明言している。

 だが鮭に子持ち昆布、ウミガメにライスカレー、シャチのから揚げとグルメ場面んが展開されるにつれて「ヒンナ」「ヒンナだぜ」の語が繰り返されれば、自然と「美味い」の意だと誤解してしまうだろう。杉元が「ヒンナだぜ」の語を用いるあたり、彼自身も「感謝」ではなく「美味い」の意だといまだ誤解し続けているのではなかろうか。

 

それでは、「美味い」「美味しい」は、アイヌ語で何というのだろうか。
アイヌ語で「味」は「ケラ」。
それから派生して、「美味しい」は「ケラアン」(味がある)。またはケラピㇼカ(味が良い)である。

 食事の際は、「ヒンナ」「ケラピㇼカ」の意を理解した上で、
的確に使い分けてみたい。

 

※参考文献
・『日本の食生活全集48  聞き書きアイヌの食事』農文協 1992
・『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』中川裕 集英社 2019

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。2004年よりフリーライター。アウトドアや北海道の歴史文化を中心に執筆。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)、執筆協力に『アイヌの真実』(ベストセラーズ 2020年)など

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