《東京国際映画祭》世界中の映画祭を駆け回り、作品選出のために時間を費やす市山プログラミング・ディレクター。「発見があるから続けられる」
世界中から集まる作品の中から、東京国際映画祭で上映する作品を選び抜くプログラミング・ディレクターという仕事は、単に映画を選ぶだけではありません。世界の映画動向を見極め、新たな才能を発掘し、映画祭の方向性そのものを形づくる重要な役割を担っています。
2026年、東京国際映画祭は国際映画製作者連盟(FIAPF)の最高位カテゴリーであるAフェスティバルに選出されました。クリエイターズステーション編集部は昨年にひきつづき、市山尚三プログラミング・ディレクターに、今注目している作品、そして映画業界を志す若いクリエイターたちに伝えたいことを伺いました。
Aフェス認定は通過点。「選ばれて当然」と語る理由
――東京国際映画祭がAフェスティバルに認定されました。率直なお気持ちを聞かせてください。
もちろん認定されたこと自体は良かったと思っています。ただ、正直に言うと「選ばれて当然」という感覚ですね。
ここ数年、国際映画製作者連盟が世界中の映画祭の運営実態を見直していて、映画祭が適切に運営されているか、どのくらい発信力があるかといったことを細かく調査していました。東京国際映画祭にも、ここ2年ほどさまざまな質問や確認が来ていました。
今回の見直しでは、単純にコンペティションの有無やジャンル別の区分ではなく、映画祭そのものが健全に運営されているかどうかが評価基準になりました。その結果として選ばれたわけですが、むしろ選ばれなかったら大問題だったと思います。
実際にはAから外れた海外の映画祭もありました。その点では東京国際映画祭がきちんと評価されたということですが、応募作品が急に増えるとか、何か劇的な変化があるわけではありません。応募数もほぼ例年通りですし、私たちとしてはこれまで通り映画祭を運営していくということになります。
――日本でFIAPF認定を受けている映画祭は東京国際映画祭だけなのですか?
そうなんです。ただ、認定を受けていないから映画祭ができないわけではありません。私が以前関わっていた東京フィルメックスや山形国際ドキュメンタリー映画祭も加盟していません。
認定のメリットは、映画祭と出品者の間でトラブルが起きた際に、国際映画製作者連盟が仲介に入ってくれることです。賞金の未払いだったり、上映素材の取り扱いだったり、そうした問題が起きた時に出品者を守る仕組みがあります。
無名の映画祭から突然招待が来ても、本当に信用していいのかわからないことがありますよね。でも認定映画祭なら一定の安心感があります。そういう意味で、新しい映画祭を開催する人たちにとっては認定の価値が大きいと思います。
――先日編集部は、なら国際映画祭でエグゼクティブディレクターとして陣頭指揮を執る河瀨直美監督の取材をしました。
なら国際映画祭は独自に運営されていますが、それは河瀨監督が国際的に信用があるからできること。加盟しなくても名前が轟いているので、作品が集まるんですよね。
過去を見つめて現在を描く。世界の映画が向かう先

――今年、東京国際映画祭に集まった作品はどのような傾向がありますか?
結果的に選ばれた作品を見て感じるのは、歴史を振り返る映画がとても多いということですね。
今年のカンヌ国際映画祭でも第二次世界大戦を扱った作品が何本も話題になりましたが、それと似た傾向があります。おそらく今、世界で紛争や移民問題、社会の分断などが起きている中で、人々が過去の歴史を参照しながら現在を考えようとしているのだと思います。
80年代の出来事を描いている映画でも、見ていると今の社会を映しているように感じる作品が多いんです。過去を語りながら現在を考えている。そのような作品が非常に目立ちました。そして、歴史や社会問題を扱う映画が増えている一方で、多くの監督はニュートラルな視点で描こうとしている。そこが今の映画の特徴だと思います。
――市山さんが日本の監督作品を選ぶ際に重視していることは何ですか?
基本は「面白いかどうか」です。ただ、それ以上に大切なのはチャレンジしていることですね。前作が評価されたから同じような作品をもう一度作るというのでは、監督として成長していかないと思うんです。
今年コンペティション部門に選ばれた日本人監督たちも、みな前作とは違う方向に進もうとしていました。前作を超えようとしている、新しい表現に挑戦している。その姿勢が見えた作品を選びました。
私はやはり、そういう監督を応援したいですね。
――日本在住の外国人監督の映画も増えていますね。
これは非常におもしろい流れですね。彼らは日本で生活しているので日本社会を理解しています。日本をベースに活躍しているんですけど、日本人監督が作るものとはちょっと違う視点を持っている。 そこはすごく面白いと思います。微妙な距離感から生まれる表現は、日本人監督だけでは出てこないものがあると思います。日本映画を外から見つめる視点が加わることで、新しい魅力が生まれているのではないでしょうか。
年間数百本の映画を見続ける日々。市山PDを支える“発見”の喜び
――フェローズが出資している『シルバー・エクスプレス』がNippon Cinema Now部門に選ばれました。選出理由を教えてください。
応募段階から非常に注目していました。田中未来監督は、短編作品がカンヌ国際映画祭でラ・シネフ部門で入賞して評価されていました。すごく独特な視点を持った監督だと思います。
『シルバー・エクスプレス』も普通のラブストーリーではなく、現代的な人間関係の在り方を描いていて、とても興味深かったですね。
もちろん新人監督なので完璧な作品というわけではありません。でも、それ以上にセンスの良さや将来性を感じました。これから大きく成長していく可能性がある監督だと思います。

©2026 silver express Film Partners
――プログラミング・ディレクターの一年間はどのようなスケジュールですか?
ベルリン国際映画祭がある2月から本格的に始まり、3月、4月と作品がどんどん届きます。カンヌへ行けばまた新しい作品が増え、その後も見逃していた作品や完成したばかりの作品が送られてくる。気付くと9月くらいまで土日も関係なく、ずっと映画を見続けています。 東京国際映画祭が終わって、11月とか12月に海外でちょっとした映画祭や映画イベントがあって招待が来ると、この時期なら安心して行けるっていうのがありますね。
――市山さんがプログラミング・ディレクターを続けられるモチベ―ションは何ですか?
やはり発見があるからですね。普通ならなかなか出会えない国の映画を見ることができます。今年は東京国際映画祭として初めてバングラデシュ映画がコンペティションに入りました。しかも非常にレベルが高かった。
私が映画祭を始めた90年代には想像もしなかった国から映画が届き、それが驚くほど面白いということが今は普通に起きています。毎年新しい発見がある。それがこの仕事の面白さです。
――若手で注目している監督はいますか?
コンペティション部門に選ばれた山本英監督ですね。
今回が3作目ですが、一作ごとに確実にステップアップしています。演出力も構成力も高いですし、今回初めて原作ものを撮っているんですが、自分のスタイルをそのまま生かして撮っているんです。原作がある作品を撮ると、どうしても平均的な商業映画に寄ってしまうことがありますが、この作品は違っていて、こういうものができるのか!と驚きました。将来が非常に楽しみな監督だと思います。

©2026「過怠」製作委員会
仲間を作り、新しい表現にチャレンジしよう!
――映像業界を目指すクリエイターへメッセージをお願いします。
東アジア全体で見ると、映画業界は決して楽な状況ではありません。
韓国では配信サービスに若い人が流れていますし、中国では縦型動画やTikTokが人気です。ところが日本だけは不思議と映画館へ行く文化が残っています。アニメだけでなく実写作品も一定の観客が集まっています。
だから私は映画業界自体がなくなるとは思っていません。ただし、映画だけにこだわる時代でもないと思っています。配信もあるし、SNSもあるし、新しいメディアも生まれています。映像をつくる力そのものは、どのメディアでも生かせるはずです。
映画だけにこだわるのではなく、新しい表現にチャレンジしてほしいですね。道は開けると思います。
そしてもう一つ大事なのは仲間です。
昔は学べる場所が限られていましたが、今は映画学校もワークショップもたくさんあります。もちろん学ぶこと自体も大切ですが、それ以上に同じ世代で、同じ志を持つ仲間と出会えることが大きい。
映画は基本的に一人では作れません。長く一緒に仕事ができる仲間を見つけることが、とても大切だと思います。
その仲間と切磋琢磨しながら、ぜひ新しい映画や映像表現に挑戦してほしいですね。
text:Kiyori Matsumoto photo:Mimi Nakamura
市山尚三プログラミング・ディレクター プロフィール
1963年生まれ。松竹、オフィス北野をベースに主に海外の映画作家の作品をプロデュースする。主な作品にホウ・シャオシェン監督の「フラワーズ・オブ・シャンハイ」(1998)、カンヌ映画祭審査員賞を受賞したサミラ・マフマルバフ監督の「ブラックボード」(2000)、カンヌ映画祭脚本賞を受賞したジャ・ジャンクー監督の「罪の手ざわり」(2013)等がある。また1992年から1999年まで東京国際映画祭の作品選定を担当。2000年に映画祭「東京フィルメックス」を立ち上げ、ディレクターを務めた。2019年、川喜多賞受賞。2021年、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターに就任。2024年より東京藝術大学大学院映像研究科プロデュース領域の教授を務める。
【開催概要】
名称:第39回東京国際映画祭
主催:公益財団法人ユニジャパン(第39回東京国際映画祭実行委員会)
共催:経済産業省
国際交流基金:(アジア文化交流強化事業)
東京都(コンペティション部門、ユース部門、ウィメンズ・エンパワーメント部門、アジア学生映画コンファレンス部門)
期間:2026年10月26日(月)~11月4日(水)[10日間]
開催会場:シネスイッチ銀座(中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、ヒューリックホール東京、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、LEXUS MEETS…、三菱ビル1F M+サクセス(千代田区)ほか、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
HP:https://2026.tiff-jp.net/ja/






