エジソン最大のライバル、天才発明家ニコラ・テスラの生涯がミュージカルに

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和氏

海宝直人(左)と濱田めぐみ(右)(撮影:SHUN ITABA、提供:ホリプロ)

電気と言えば、トーマス・エジソンがすべての源流だと思い込んでいる人が多いが、そのエジソンが推進した直流方式に対して遠距離伝達性に優れた交流方式を確立して、米国における電力供給システムの覇権を最後まで争って勝利したのが、ニコラ・テスラ。現在のクロアチア西部にあたるオーストリア帝国で生まれたセルビア人電気技師で、いくつもの発明を果たしている偉人。現代ではその名はイーロン・マスクが設立した電気自動車メーカーの社名の由来として知られているものの、世界的な知名度はエジソンにはるかに及ばない。ヨーロッパで理解者に恵まれずに失意の淵にあったテスラが、米国で大成功していたエジソンの会社で働き始めた主従の関係がふたりの出発点だが、小さな成功を手にしてからもテスラの構想する革新的な未来がなかなか理解されずに事業化に必要な投資が得られず、失敗も数多く経験した。同じ天才発明家なのに「人々の記憶に残る」という点でこれほど残酷な差がつくのはなぜなのか。そんなテスラのミステリアスな生涯をたどったオリジナルミュージカル「ニコラ・テスラ~エジソンが恐れた孤高の天才~」が日本で上演され、話題を呼んだ。

脚本はロジャー・ディッパー、音楽・歌詞はニック・ブッチャー。共に英国などで注目を浴びている気鋭の演劇人2人と組んでいるのが、日本の演劇界で次世代を担うことが期待されている新進演出家で今回の翻訳も手掛けている下平慶祐(しもひら・けいすけ)だ。 この超高感度な制作陣のもとに集まって来たのが、海宝直人、成河(ソンハ)、濱田めぐみ、昆夏美の4人。「ジャージー・ボーイズ」「ノートルダムの鐘」「エリザベート」「アリージャンス~忠誠~」「レ・ミゼラブル」「メリー・ポピンズ」「ミス・サイゴン」とそうそうたるミュージカル作品でタイトルロール(主役)やプリンシパル(主要な役)を務めてきた、まさに人気と実力を兼ね備えた日本のトップミュージカル俳優の4人なのだ。
東京公演の会場がこぢんまりとした新宿の紀伊國屋ホールであることからも分かるように「ニコラ・テスラ」は大人数のキャストが入れ替わり立ち替わり登場するグランドミュージカルではない。大スターたちが少数精鋭で臨む実験的演劇でもある。ロンドンでのワークショップから始まり、こつこつとクリエイティブを積み上げてきただけに、演劇的手法を駆使した手作り感いっぱいの作品に仕上がっている。海宝こそテスラ役に専念するが、成河はテスラの父や友人、エジソンの部下ら、濱田は文通相手や母ら、昆にいたってはテスラの出産に立ち会ったナースをはじめ、男性役として電気学会の役員やテスラの兄、そしてエジソンとしても登場する奮闘ぶり。

物語は出生時の奇妙な出来事や、優秀だった兄に訪れた突然の不幸を経験した幼少時を含み、電気技師として一本立ちすることの苦労、米国で一気に花開く才能と長続きしない名声や成功も描かれ、天才がなぜ決して順調とは言えない人生を送らなければならなかったのかを感じ取るためのヒントとなる出来事を綴っていく。
もう分かっているように、これは偉人伝ではない。天才に学ぶ生き方のヒントでもないし、成功するために為すべきことの羅列でもない。ましてや、エジソンという電気界の巨人にトータルの成果としては負けた男の話でもない。
感じ取れるのは、テスラがあまりにも先進的過ぎて、同じ未来を見られる人がいなかったこと。エジソンはもう少し手前の未来を見ていて、人々がその構想や発明の成果にとっつきやすかったに違いないことは容易に想像できる。
「誰も見えなかった未来が見えた」という点において、後世、特に現代のトップランナーたちの中にテスラの信奉者がいることは合点がいく。
テスラは何度逆境に置かれても、そのたびに「自らがなすべきこと」を見つめ続けてきた。

クリエイティブ的に見ても、ホテルで一人暮らしをしていたテスラを訪ねて来た長年の文通仲間のキャサリンが、テスラに根源的な疑問をぶつけ、2人でテスラの人生を振り返っていくという物語のかたちを選択したことが功を奏している。「何のために生きるのか、何を成し遂げたいのか」と絶えず考えさせることによって、物語はどんどん深掘りされていく。
孤高の存在ではあったが、孤独ではなかったというテスラのプライドも感じさせる舞台表現も目立つ。
テスラが創り出した強力な電気をエネルギーとする「光」を演出のモチーフにしたことにもうなずける。華やかな光あふれる世界も幸福感に満ちているが、暗い中でほのかに灯る光もまた幸せのかすかな手掛かりのように思えて、いとおしい。光を仲立ちにしたことで、さまざまな表現が可能になったのだ。

それにしても、濱田と昆と成河のバックコーラスで海宝が歌い上げるミュージカルシーンをこんなに親しみやすい空間で楽しめる瞬間が経験できるとは。 何とも贅沢なごほうびに、観客たちがうっとりとした目で見つめていたのがとても印象的だった。

写真は、ミュージカル「ニコラ・テスラ~エジソンが恐れた孤高の天才~」の一場面。写真は、ミュージカル「ニコラ・テスラ」の一場面。海宝直人(左)と濱田めぐみ(右)(撮影:SHUN ITABA、提供:ホリプロ)

ミュージカル「ニコラ・テスラ~エジソンが恐れた孤高の天才~」は、2026年9月6~29日に東京・新宿の紀伊國屋ホールで、10月3~4日に大阪市の梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演された。公演はすべて終了しています。

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和氏
共同通信社で記者として従事した31年間のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家・インタビュアー、ライター、編集者として独立し、ウェブ・雑誌・週刊誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・食・メディア広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーや、ミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフレット編集、大手メディアの番組データベース構築支援、公式ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会・ナビゲート、作品審査(ミュージカル・ベストテン)や優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、メディア戦略や広報戦略、文章表現のコンサルティングも。日本レコード大賞、上方漫才大賞、ATP全日本テレビ番組製作社連盟テレビ記者賞、FNSドキュメンタリー大賞の元審査員。活動拠点は東京・代官山。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に26回、「先月最も多く読まれた記事」に5回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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