「甲冑の解剖術-意匠とエンジニアリングの美学」 現代に生きる私たちと戦国時代の甲冑に共通すること

金沢
ライター
いんぎらぁと 手仕事のまちから
しお

金沢21世紀美術館で5月3日から、今期の大型展示第一弾となる「甲冑の解剖術-意匠とエンジニアリングの美学」が開催されている。

安土桃山時代から江戸時代の武将や侍たちが身にまとい戦へ向かった甲冑を、博物館や歴史資料館とは違った切り口で21美らしく「解剖」していく。

円形の展示室14では石川県立歴史博物館や井伊美術館、大阪城天守閣の協力を得て展示する6体の甲冑を見ることができる。

博物館や美術館では通常見られない背面や上部も360度すべて鑑賞できるケースを、兜のあたりと来場者の目線が同じ高さになるよう置いた。

展示空間のデザインを担当したナイル・ケティングさんは、「全体的なセノグラフィーとして、観ている人と観ているものとの関係性を意識した。台座に乗せ高い位置で展示するのではなく、ミニマムに見せることで現代的なセンスや感覚に近づけ、未来につながっていくことを表現している」と話す。

長方形の展示室6では11の甲冑や変り兜などを展示しながら、ファッションプロジェクト「HATRA」とフットウエアブランド「MAGARIMONO」が初コラボして3Dプリンターで制作したスニーカー3連作「AURA」、スタイリストの三田真一さんがスニーカーのパーツで制作した甲冑シリーズ「連続の断片」なども配置する。

三田さんは作品を400年以上経ってもなお戦いの生々しさが残る「錆朱塗碁石頭胴具足」の傍らに佇ませるように展示。

「男らしさもありつつ、女神を模写したような女性的な面も持ち合わせる未来から来た甲冑が敬意を込めて、刀傷の残る一人の武将の息絶えた甲冑を見つめるイメージ」と説明する。

真っ白な展示室に置かれた大型モニターには「ライゾマティクス」が甲冑をCTスキャンしたデータなどをもとに視覚的に表現した映像作品が流れ、甲冑の傍にはタピオカのようなものが入った器やキャップ、化粧品などが一緒に並べられている。

ナイル・ケティングさんは「誰かのワードローブやポップアップショップのような展示方法で、甲冑や作品を紹介している。当時の茶道や歌を詠むといった教養、戦闘の前に化粧を施す武将もいたという史実を現代的なイメージとあわせて伝えることで、内面の精神世界やどのようなものにトランスフォームしたかったのかが身近に感じられる」と語った。

今回、展示を観る前に率直に感じたのは、甲冑という男らしさの象徴であったり、歴史的な遺物だったりというイメージは、ジェンダーレスな現代社会や現代美術とは対極にあるのではという思いだった。

だからこそ、この展示が金沢21世紀美術館でどのような内容になるのか興味をかきたてられたのだが、実際に鑑賞すると「甲冑」という精神があらゆる脅威にさらされつつも、自分の命や身体を守るための装具にまで個性を滲ませなければ気が済まない私たち「性」のようなものと近いと気が付く。

たとえば、死を招くともいわれるウイルスから自分を守るためのマスクですら、カラフルだったり、柄だったり、時には個人の主張だったりを約18センチ×約10センチの綿や不織布で表現する。

同館長谷川祐子館長は展示にスニーカーを取り入れたことについて、「当時の甲冑は武将の力と誉を象徴し、憧れの的でもあった。現代のスニーカーもセレブがファッションに取り入れていたり、マイケルジョーダンのようにかっこいいヒーローを表したりするアイテム。現代社会を生き延びていくための装着具として最新の技術を結集し、個性を際立たせたり憧れの象徴であったりするスニーカーをキーワードに掲げることで、『未来へ装着せよ』という裏テーマを込めた」と話している。

戦国時代を生き抜いた武将たちも、兜や甲冑にその時代で最先端の美術や工芸を施し、かつ機能的に戦うためのエンジニアリングを詰め込んだ。

現代を生き抜く私たちの甲冑は、きっとそれぞれが違っていて、形も表現の様も大きく異なるだろう。

しかし、美と個性と技術を追求しながら自分の身を守る、甲冑の精神は今も日本人に染みついている。

プロフィール
ライター
しお
ブランニュー古都。 ふるくてあたらしいが混在する金沢に生まれ育ち、最近ますますこの街が好きです。 タウン情報サイトの記者やインターネット回線系のまとめ記事などを執筆しながら見つけたもの、感じたことをレポートします。 てんとうむししゃ代表。

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