映像2024.05.01

むつき潤「バジーノイズ」映画化でJO1川西拓実がライブセッションで役にシンクロ

Vol.63
『バジーノイズ』 監督
Hiroki Kazama
風間 太樹
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大ヒットドラマ「silent」(22年フジテレビ系)や「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(略・チェリまほ、20年テレビ東京系)などを手がけた風間太樹監督が描く青春音楽映画『バジーノイズ』。DTM(Desk Top Music)にのめり込み、友達も恋人もいない海野清澄(きよすみ)をJO1の川西拓実、清澄の音楽を多くの人に届けたいと願う岸本潮(うしお)を桜田ひよりが演じた。

頭の中に流れる音を形にできればそれでいいとひとり音楽に没頭する毎日を送っていた清澄。ある日、清澄の音楽を聴いて感動した潮が清澄の前に現われ、世界が一変。仲間と音を作り出す喜びに目覚め始める。

キャラクターのリアルな心理描写や現代の音楽界がリアルに詰まっていると人気の、むつき潤による同名のコミックが原作を、人の機微などを丁寧に映像化した風間監督に、コミックならではの表現方法が満載の本作をどのように映像化したのか、現場で大切にしていることなどを聞いた。

モノローグはできるだけ入れず、音楽や佇まいで心情を伝える

原作は読まれていたのですか?

出版当初に書店で見つけて読んでいました。自己意識的に閉じこもっていた清澄を潮が接近限界を超えてグイグイと連れ出そうとする、二人の関係性に惹かれました。また同時に、音が広がっていく様子を幾何学模様や流れる線などを使って視覚的に表現しているのも面白いと感じました。音は聞こえていないはずですが、読み始めると自分なりの清澄や清澄が組んだバンド・AZURの音が自分の中で鳴る感覚があって……。驚いたことに、最初、清澄が一人で鳴らしていたときと誰かと一緒に鳴らしたときの音の変化が、視覚的に伝わってくるんですよ。音の表現に魅了された原作でした。

映像化をする際、こだわったところを教えてください。

個からグループになったときの音の変化を大切にする音楽映画にしました。そのため清澄やAZURが奏でる音楽はとても大事で。読者それぞれの頭の中で鳴っている音楽をどう具体化すればいいか悩みました。最終的には、自分の中で鳴っていたアンビエントな音楽というイメージを核にしながら、Music concept designとしてお力添えいただいたYaffleさんの知識や考え方を通じて、清澄とAZURの音楽を作っていきました。最初こそ悩みましたが、Yaffleさんがいたことで、一緒に音楽を作るという期待感と楽しみの方が大きかったです。

具体的にどのようにして映画を作っていったのですか?

シナリオがある程度形になった段階で、Yaffleさんと音楽を作り始めました。原作には清澄の葛藤や不安を綴ったモノローグがありますが、映像化するにあたりモノローグはできるだけ入れず、清澄の心情は音楽や彼の佇まいで伝わるような構成にしたいと思いました。そのためには音楽にシナリオ上の心情表現をどれだけ託していくかのさじ加減が必要で……。清澄の心情が一歩前に進んだり他者を受け入れていく過程で、どのような音が鳴りフレーズがどう変化していくのかなど細かくYaffleさんと相談しながら、シナリオを作っていきました。

清澄が作り出す音楽は唯一無二の音楽になりましたね。

日本だけではなく、海外の音楽も視野に入れつつ、モダンさを意識しています。「清澄の音楽はルーツ不明」と原作にも書かれているのですが、誰かをモデルにするのではなく、さまざまなエッセンスをいただきながら作っていった形に近いです。Yaffleさんの感覚と知識、僕のイメージを中和させながら作っていきました。

原作を読んで感じたことを自分というフィルターを通して表現

映像化するにあたり、原作者のむつきさんとはどのようなお話をされたのですか?

撮影に入る前のシナリオを作っている段階でむつき先生にお会いしました。その際に、「大切にしたいと感じたことを大切にしていただければいいです。監督にお任せします」と言っていただいて……。だからこそ、自分のフィルターを通して作品を見つめること、登場人物たちの心の振り子に自分がどれだけ寄り添えるかを確実に掴みながら、映像と音に解け合わせていく。そんな風に映画を作れたら、と思いました。

監督が原作を読んで魅了された漫画だからできる表現方法を、どのように映像化されたのですか?

清澄が悩んでいるときや複雑な感情を表すときに、原作では黒いモヤモヤを線にして表現していたので、映像ではどのように表現しようかと悩みました。その感覚を実写化においても視覚的に提示できたらいいなと考えていて……。ある日、編集所に入って音の編集をしていたら、オシロスコープ(レコーディングスタジオなどで音の広がり方を見る電子計器)に表示されている波形を見つけたんです。これだと思いましたね。デジタルなのに音を手で描き起こしたようなアナログっぽさもあるし、波形が生きているように動いていて画としてスクリーンに登場したら面白いのではないかと。デジタルなので清澄がパソコンと向き合う孤独さみたいなのも上手く表している。実際に、清澄の音楽をオシロスコープに通してできた波形を使ってみたら上手くマッチして、このアイデアはよかったなと思いました。知らない人から見ればただのモヤモヤですが、実はいろいろな思い入れがあるモヤモヤなんです。

波形という視覚的な演出も音が関係していたんですね。

僕の中では、本作は音楽映画でありながら音映画にしたいという思いがありました。音響効果的な環境音や日常の生活音にも意味を持たせ、フォーカスしていけたらと。今回は、清澄やAZURの音楽だけではなく、この作品に関わるすべての音がキャラクターの心情を表すものになっています。

清澄が潮をはじめとしたさまざまな人と出会い変化していく姿が描かれていますが、一人でいたことを否定的に描いていないのが印象的でした。

個でいることも誰かと一緒にいることも、どちらも否定したくないと考えました。人は誰もが自分自身の在り方に迷いながら生きていますし、”こうありたい”という気持ちも日々変わっていきます。上手に生きようと考えを尽くしていてもつまずくこともありますし、傷つくこともある。いつの間にか不安になって自分の心を閉じてしまうこともあると思うんです。そういう気持ちの不安や緊張の線を少しほぐすような、寄り添える映画になればと思っています。

登場人物、それぞれの立場があります。みんな人間くさいのもリアリティがあります。

レコードレーベルの人間など、ある種、清澄たちを利用しているように見えますが、別の角度から見ると清澄の作家としての才能を生かすために考えた行動をとっているんです。一概に悪役はおらず、それぞれの立場で清澄と関わっていくときの最適解を探しています。人と人、すべての関係性に名前が付けられる訳ではないと思っていて、だからこそ本作の登場人物達は人間関係の普遍的な場面で思い悩んでいます。この映画ではその宙ぶらりんな関係性そのものを見つめたいと思いました。

演者と監督の意見をすりあわせてよりよいキャラクターを作りたい

清澄という難しい役どころを演じた川西拓実さんは映画初主演でしたが、どのように役を固めていったのですか?

最初、「演じる上で何か不安なことはありますか?」と聞いたら、「全部」と言っていて。清澄は自己表現が真っすぐでもないし、内なる葛藤を表情に表すタイプでもない。内生に閉じこもっている、それこそ心の内に黒いモヤモヤを貯めているキャラクターなんです。だから僕自身も清澄とはどういう人物なのかを探求するつもりで川西くんと話し合いながら決めていきました。

今回は、ほぼ順撮りで撮影を進めていったのですが、清澄がAZURの音楽を掴んでいったように、次第に川西くんが清澄にシンクロしていったのは印象的でした。とくに清澄が陸(栁俊太郎)とライブでセッションするシーンは、緊張感から高揚感、楽しむ気持ちに変わっていくのが川西くんの気持ちにリンクしている。ライブシーンを撮り終えた後、我々スタッフも共演者たちも嬉しい気持ちになりました。こじつけみたいですが、川西くんの中で誰かと一緒に映画を作る楽しさが生まれた瞬間だったのかもと思っています。

監督はほかのキャストとどのような話をされたのですか?

キャラクターの内省を掴んで、自分自身の感情に昇華して演じて欲しいと伝えました。そのために僕自身がキャラクターに対して思うことや考えていることを差し出すし、キャストにも考えていることを教えてもらいたい。コミュニケーションをとるのはどの現場でも大事にしています。

キャストと話をすることで見えてくることもありますか?

自分で考えているものはどうしても自己中心的なものになってしまうんです。あくまでも主観で見ている世界なので。僕はキャストがどのようにキャラクターを捉えているのか、どう表現したいのかを受け取りたいと思っています。そしてただ受け取るだけでなく、自分の考えと溶け合わせてアイデアに充てて欲しいと考えています。干渉はしたいけど、その人の表現を殺したくないというか……。すべてを委ねるのではなく、みんなでディスカッションして、一緒にすりあわせていくのが理想的。今回もそれができていたと思います。

これからも人の内側にある葛藤に目を向けて描いていきたい

映画監督になろうと思ったきっかけを教えてください。

元々、映画やドラマが好きだったことで、演者として表現したいと思っていた時期がありました。それから撮影者であるカメラマンも面白そうと考えるようになり、初めて映画を撮ったんです。そこで演者になりたかった自分と、撮影者になりたかった自分の、どちらの目線にも寄り添えるのは監督という存在だと気づきました。フレームの中のことに興味はあったけれど、機材にはそこまで興味がなかったりと、いろいろなものが削ぎ落とされた結果が今なんです。

「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」や「silent」などマイノリティーを個性として捉えて作品にしていますが、人を描く上でのこだわっていることは何ですか?

どのような人も自分の在り方に葛藤しているし、どれだけ懸命に生きていてもつまずくことだってある。マイノリティーを描く時には、個としての葛藤に紐付いてくる環境に着眼しなければならないと思うのですが、作品作りのスタートラインに立ったとき、まずはその人が大切にしていることを見つめたいと思っています。これまでの人生で身に付けてきたもの、削ぎ落としてきたもの、様々な出来事があり今の自分が立っていられること。それぞれにその力や個性があって、知らず知らずのうちに根付いていると考えます。その人の内側を眼差しながら、外側にある葛藤に気付き、触れる、ということをいつも大切にしています。

クリエイターとして大事だと思うことを教えてください。

好きな小説を持っておくとか、今の自分にとって大切な映画があるとか、いつも今の自分に合うものを貪欲に探すことです。そして見つけたもの、例えば本。その本に合ったブックカバーをかけて、カバンに入れて、いつでも取り出せるところに置いておく。本は今の自分の心持ちが書かれていることがあるので、そういう出会いを大事にしたいというか。自分の作品も誰かにとって今の心持ちを表現する大切な1本になれば……。ちなみに今は、植本一子さんと滝口悠生さんの往復書簡「さびしさについて」(ちくま文庫)をカバンの中に入れています。今の自分に気付きをくれる1冊です。

取材日:2024年2月20日 ライター:玉置 晴子 動画撮影:小田原 光史 映像編集:布川 幹哉

『バジーノイズ』

©むつき潤・小学館/「バジーノイズ」製作委員会

5月3日(金・祝)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

出演: 川西拓実(JO1) 桜田ひより 井之脇海 栁俊太郎
円井わん  奥野瑛太 天野はな 駒井 蓮 櫻井海音 馬場園梓
佐津川愛美 テイ龍進

原作: むつき潤「バジーノイズ」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
監督: 風間太樹「silent」「チェリまほ」
music concept design:  Yaffle
主題歌: 「surge」 清澄 by Takumi Kawanishi(JO1) ©LAPONE Entertainment
製作: 映画『バジーノイズ』製作委員会
制作プロダクション: AOI Pro.
製作幹事・配給: ギャガ

公式HP https://gaga.ne.jp/buzzynoise_movie/
X: @BuzzynoiseMovie  
Instagram: @buzzynoisemovie 
TikTok: buzzynoisemovie

ストーリー

友達も恋人も何もいらない。頭の中に流れる音を、形にできればそれでいい。そう思っていた清澄は、DTMでひとり作曲と演奏に没頭する日々を送っていた。清澄と同じマンションに住む潮は、好きなこともやりたいこともなく、他人の「いいね」だけを追いかけて生きてきた。そんな潮が初めて心を震わせたのが、下の部屋から聴こえてきた「寂しくって、あったかい」清澄の音楽。たくさんの人に清澄の音楽を届けたいと願った潮の破天荒な行動が、清澄を無理やり外の世界へと連れ出す。潮に導かれバンドを組んだ清澄が、仲間と音を創り出す喜びに目覚めた時、突然、潮が消えてしまう。さらに、清澄の才能を高く買うプロデューサーが現れ、清澄は自分自身の音楽の“形”をどうするか迫られる……。

プロフィール
『バジーノイズ』 監督
風間 太樹
1991年生まれ、山形県出身。17年に「帝一の國~学生街の喫茶店~」(フジテレビ系)でドラマ演出デビュー、19年『チア男子!!』で長編映画監督デビューを果たす。20年には“チェリまほ”の愛称で親しまれたテレビドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレビ東京系)の演出を担当。BLという枠に留まらない人間ドラマとしてアジアを中心に人気に。22年には『チェリまほ THE MOVIE』として映画化され話題を呼んだ。22年には、ドラマ「silent」(フジテレビ系)がSNSなどで話題になり、全11話における見逃し配信の再生数累計は7300万再生を記録。最年少で第9回大山勝美賞を受賞したほか、東京ドラマアウォード2023演出賞などを受賞した。

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