映像2024.03.06

冷酷な殺人犯・岡田将生を脅す羽村仁成ら子供たちの狂気「日本にない発想で日本映画を作る」

Vol.61
『ゴールド・ボーイ』 監督
Shusuke Kaneko
金子 修介
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中国のベストセラー作家・紫金陳(ズー・ジンチェン)の小説「坏小孩」(悪童たち)を原作にした金子修介監督のクライム・エンターテインメント『ゴールド・ボーイ』。

義父母を崖から突き落とす男の姿を偶然にもカメラで捉えた少年たち。複雑な家庭環境の問題を抱える彼らは、ある目的のために犯行に及んだ実業家の婿養子である男を脅迫するように。それぞれの思惑が入り交じり、殺人犯と少年たちの駆け引きは二転三転する。

殺人犯の男、東昇を岡田将生、殺人犯を脅す少年、安室朝陽(あむろあさひ)を羽村仁成、朝陽に特別な感情を抱く少女、上間夏月を星乃あんな、朝陽の小学校の同級生・上間浩を前出燿志が演じる。

商業監督デビュー40年を迎える金子監督に、若手俳優の演技指導について、クリエイターとして大事なことなどを聞きました。

原作にも通じる社会の矛盾点を映画に取り込めた気がする

原作である紫金陳の小説「坏小孩」(悪童たち)の感想を教えてください。

映画化を念頭に入れて読み始めたのですが、予想もつかない展開とリアルでハードな面が多く、日本の小説にはないものがあり面白いと思いました。ただ同時にどのようにしたらこの小説を日本の映画にできるのか?という疑問も出てきて……。

やはり大きな違いを感じたのは社会のシステム。中国と日本ではかなり違うんですよ。警察のシステムも違うし、貧富の差においての過酷さも違う。競争意識に関しても異なるところだらけでした。だからこそ、どのように脚色をするのかはチャレンジだと感じました。

原作では子どもたちが東昇(岡田将生)を脅す理由として「お金」がありますが、日本だとあまり現実的ではないですよね。

もちろん日本でまったくないとは言えないですが、日本の社会はどこか病んでいるんですよ。そこはきちんと描きたいと思いました。原作にも社会批判が含まれていますが、本作にも必要かなと。今回、日本社会の矛盾点みたいなところを映画に取り込めた気がします。

また、脚色する段階で気づいたのは、これは戦争ではないかなと。戦争は利己主義からスタートして、相手を倒すとそこから坂道を転がるように、予測不能な連鎖反応が起こって、最終的には勝者も敗者もわからなくなる。舞台となった沖縄は、本土より戦争が近い存在で、いまだに戦争の空気が漂っているところも映画の雰囲気と合っていました。

なぜ、沖縄が舞台になったのですか?

原作では、きっかけとなった殺人が断崖絶壁の景勝地で行われますが、日本だと人目があってリアルではないんですよ。義父母を連れて行って怪しまれない場所てどこなんだろうと考えました。そこで出てきたのが海、海となると沖縄かなと。

単純に決まったわけではないですが、そこから始めたら、先ほど言った戦争の影のようなものもマッチしていったという感じです。沖縄で撮影に適した崖を探したのですが殺人を許してくれる場所がなかなか見つからなくて困りました(笑)。協力していただけた場所が私有地で、なぜその場所に義父母が来るのか……といろいろ考えて脚本を作っていった感じです。

説明しなくても伝えられるセリフに助けられた

今回は『百年の時計』(12年)でもタッグを組まれた港岳彦さんが脚本を担当されましたが、どのようにして作っていったのですか?

原作を読んですぐに信頼を置ける港さんにお願いをしました。小説のエッセンスを2時間にするのはすごいプレッシャーだったのか、さすがの港さんも最初は3時間ほどの脚本を上げてきて……。その台本も非常に面白くて、カットするところはまったくない状態でしたが、説明的なところを少しずつカットして現在の形になりました。

どのようなところをカットしたのですか?

たとえば、朝陽と離婚した父親が会ったときに「コーヒー飲めるようになったのか」というセリフだけで時間の経過を表せるので、2人がどれくらい会っていなかったのか、説明ゼリフをカットできたり……。港さんはこのような、何気ないけど意味を含むセリフを捕まえるのがすごく上手なんですよ。

それでも、もう少し説明した方がいいのではないか。と思って相談した部分はありました。たとえば、撮った動画を見て朝陽が「殺人だよ」と言うところです。朝陽がなぜそう思ったのか理由を伝えた方がいいのではないか。と僕は思ったんですよ。2人同時に落ちていないから供述と異なるので殺人と断定できるのですが、ただそれについて伝えようとすると長くなる。そこで、今回は一言「殺人だよ」と言わせています。

一言つぶやく方が朝陽の凄みも出ますね。今回は港さんの脚本の力を感じることが多かったのでしょうか?

今回、クライマックスなどで「マーラーの5番」(交響曲第5番)を使用していますが、最初から台本に書いてあったんですよ。「直感なので変えてもいいですよ」と言われたのですが、調べると作風に大変マッチする。「マーラーの5番」といえば、映画的には『ベニスに死す』(71年)で使用されて有名ですが、その部分は朝陽のデートのシーンで使用したり。セリフだけではなく港さんとだから作られた作品になったと思います。

原作の日本語タイトルは「悪童たち」ですが、本作のタイトルが『ゴールド・ボーイ』になった理由はあるのですか?

「悪童たち」だとストレートすぎてちょっとイマイチな感じがして(笑)。“ゴールド・ボーイ”とは東昇と朝陽の両方のことを指しています。かつての黄金少年が現在こうなっている。今の黄金少年はこれからどうなるのか?という。

いろいろなタイトルの可能性があったのですが、“ゴールド・ボーイ”がぴったりでしたし、あらためていいタイトルだと思います。

動画を使ったリハーサルで子どもたちの演技力を引き上げる

クライム・エンターテインメントを撮るのは初めてだったんですよね。

このジャンルは初めてです。撮っていて、予測不能な物語に引っ張られてどんどん空気が不穏になっていく……というのは初めての感覚でした。もちろん台本もあるんですが、目の前の芝居を予想がつかないように撮っているので、どこか気持ちが焦ってきて落ち着かないんですよ。当然、これでいいと思って撮っているけど、心のどこかで、本当にこれでいいのか?としこりがあるような……。芝居と現実、物語の登場人物たちの芝居合戦、ウソの境界線みたいなものがわからなくなっていく感覚に撮っていて非常にドキドキしました。

殺人者・東昇を演じた岡田将生さん、東昇を脅す子どもたちを演じた羽村仁成さん、星乃あんなさん、前出燿志さんらの演技は圧巻でした。

如実に台本以上のことを見せてくれた俳優さんたちの力には驚きました。期待はしていましたがここまでやってくれるとは……。見ていてダマされっぱなしでした。

岡田さんとは撮影前どのようなお話をされたのですか?

岡田くんは最初、自分が座長のような立ち位置でいなければいけないかと大変気にしていました。主役として彼らの演技を引っ張っていかなければいけないという気持ちはありつつ、彼の中では子どもたちが主役という印象があったようで。僕は自分のことを最優先に、子どもたちのことは引っ張らなくてもいいと伝えました。

そのように伝えた理由はなんだったのですか?

子どもたちはオーディションで選ばれて、その後、撮影に入る前まで映像を使ったリハーサルをしていたんです。すべての場面を事前に演じて動画に撮り、本人たちに見せるという。そこで自分たちの演技を客観的に見てもらって……。

実はこれでまでも新人の俳優さんを起用することが多く、みなさんの演技が劇的に変わるのが、次の作品からなんです。おそらく作品をトータルで演じて、その映像を自分で見ることで成長している。ならば、それに近いことをリハーサルの段階でやったら、(撮影時に演技が変わり)いいのではと思い、今回、この形でやらせてもらいました。

リハーサルで芝居を作り、それを現場で大人にぶつける、これがいいんですよ。大人の俳優さんたちは意表をつかれながら、その場で演技を返すという形になっていって……。子どもも大人も演技をぶつける。いわば子どもと大人の戦争を描いたこの作品にはぴったりなやり方だったと思います。

このようなリハーサルの方法は以前からあるものなのですか?

フィルム時代にはできないので、動画が気軽に撮れる近年ならではのやり方だと思います。昔はフィジカルに鍛えていましたが、今はそういう時代でもない。伸ばす土壌を作ってあげることに注力しました。

羽村さんをはじめとした子どもたちの演技はいかがでしたか?

役になりきっている感じが良かったんじゃないかと思います。お芝居をすることから役になりきるまで実は結構距離があって、なかなか到達できないものですが、彼らはそれがしっかりできていた。現場でも素晴らしい演技をしていました。あらためて、俳優のみなさんは狙い以上、想像以上の演技を見せてくれたと思います。

自分が監督した作品を観て監督になろうと思った

そもそも監督を目指すきっかけは何だったのですか?

高校1年生のときに文化祭の出し物としてクラスで映画を撮ったんです。それまで映画なんて撮ったことはありませんでした。1年上の先輩が映画を出し物にすると盛りあがると言っていたのを聞いて、「映画を作る!」って頭がいっぱいになっちゃって(笑)。で、文化祭の前日に完成した作品を見たら、「僕には映画を作る才能がある!」と思えた。そして、そこから映画監督になりたいと思うようになりました。よく映画監督が「ある作品を観たのがきっかけです」と言ったりしますが、僕は自分の映画を観たのがきっかけなんです。

どこで才能があると感じたのですか?

最初に作ろうとしていたイメージと完成した作品がそこまで違っていなかったからだと思います。絵コンテを描いたりしながら作ったのですが、ある程度自分の思い描いたとおりに形になって。その前には漫画を描いて投稿したりしていたんですよ。でもそれはまったくダメで…。それでどこか自分には才能がある、映画監督になれると思ったのだと思います。

怪獣映画などが好きと聞いていたので、そこからかと思っていました。

怪獣映画は子どものころ好きでしたが、高校のころはリアルな青春映画が好きでしたね。怪獣映画に注目をしたのは監督になってからです。日本から世界に通用する映画は何だろう?と考えたときに出てきたのは怪獣映画で。今考えると正しかったですね。そういう時代になりましたから。

今回はクライム・エンターテインメントという新たなジャンルに挑戦されましたが、今後やってみたいことはありますか?

僕は何でもやりたいんですよ。とはいえ年齢的に、どんどん新しいことをやっていくという感じにはならないかもしれないですが。

今回描いた家を乗っ取るような犯罪は日本では結構珍しいらしいです。戦国時代だと斎藤道三とか結構いたのですが…。日本ではあまりない発想を映画にすることで、海外にも通じる作品にしたいという気持ちはありました。

監督は、クリエイターにとって大事なことは何だと思われますか?

社会のさまざまな現象を知ったり感じたりすることや他の監督の映画を観るといった、外部の人たちと触れることを心がけています。同時に自分を見つめることも大事かなと。自分を見つめるために他の人の作品を観ているのかもしれないです。

取材日:2024年2月20日 ライター:玉置 晴子 スチール撮影:幸田 森 映像撮影:布川 幹哉 映像編集:指田 泰地

『ゴールド・ボーイ』

Ⓒ2024 GOLD BOY

2024年3月8日公開

岡田 将生 黒木 華
羽村 仁成 星乃あんな 前出 燿志
松井 玲奈 北村 一輝 江口 洋介
企画 許 曄
製作総指揮 白 金 (KING-BAI)
監督 金子修介
原作 小説「坏小孩」(悪童たち)by ズー・ジンチェン(紫金陳)
プロデューサー 仲野潤一
脚本 港岳彦
音楽 谷口尚久
撮影 柳島克己(J.S.C)
照明 宗賢次郎(J.S.L)
美術 野々垣聡
録音 小松崎永行
アクション監督 香純恭
特機 奥田悟
音響効果 柴崎憲治
編集 洲﨑千恵子
助監督 村上秀晃
キャスティングディレクター 吉川威史
装飾 山田好男
スタイリスト 袴田知世枝
ヘアメイク 本田真理子
スクリプター吉田久美子
製作担当 間口彰/大田康一
配給: 東京テアトル/チームジョイ
公式サイト:https://gold-boy.com
公式X(旧Twitter): @goldboy_movie
Ⓒ2024 GOLD BOY

ストーリー

事件は、海に突き出した崖の上で起きた。死んだのは沖縄の有数企業・東ホールディングスの会長夫妻であった。目撃者はおらず、 夫・啓治が高脂血症の薬を常用していたことから、その副作用によるものと結論づけられようとしていた。しかし、朝陽の家に戻って撮った写真を眺めていた子供たちは、気づいてしまう――ニッコリとレンズに向かって微笑む夏月の肩越しには、夫婦2人を崖から突き落とす男の姿が映り込んでいたのだ。

死んだ2人が有名企業の会長夫妻であったこと、現場にいたのがその娘婿・昇であったことをニュースで知った朝陽は、決定的な瞬 間を押さえたこの動画を餌に、昇から大金をせしめる計画を立てる。しかし、物語はとんでもない方向に転がり落ちていく……。

プロフィール
『ゴールド・ボーイ』 監督
金子 修介
1955年生まれ、東京都出身。78年に日活に入社。81年にテレビアニメ版「うる星やつら」の脚本を手がける。84年に日活ロマンポルノ『宇能鴻一郎の濡れて打つ』で商業監督デビュー。95年に『ガメラ 大怪獣空中決戦』で第38回ブルーリボン賞監督賞、96年に『ガメラ2 レギオン襲来』で第17回日本SF大賞を受賞。『あずみ2 Death or Love』(05年)、『デスノート』(06年)など話題作を多数手がける。22年、『信虎』がマドリード国際映画祭2022で外国語映画部門 最優秀監督を受賞。

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