映像2023.05.08

映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第23回『怪物』

Vol.23
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美

『怪物』

▶静かで美しいのに強烈なメッセージ性!余韻から抜け出せなくなる度:100

是枝裕和×坂元裕二!日本を代表するストーリーテラーのコラボレーションに痺れたい人にオススメ!

©2023「怪物」製作委員会

観賞後3日間、醒めない夢をみているような余韻の中にいました。
この映画の原稿を執筆するにあたり、生まれた言葉たち。
そのどれも映画の本質を表現できていない気がして、何度も何度も書き直しました。
生まれた言葉が、こぼれ落ちていくような感覚がありました。
日本が誇る怪物級のキャストとスタッフによって送り出された映画『怪物』は、心震える傑作です。

監督・是枝裕和 × 脚本・坂元裕二。日本屈指の映像作家&ストーリーテラーによる夢のコラボレーションが実現。そしてそれを、先日亡くなった坂本龍一さんが手がけた繊細な旋律が彩ります。坂本龍一さんにとって、本作は遺作映画となったことでも、やはりスクリーンという最高の環境で見届けたい1作であることは間違いありません。

あらすじ
大きな湖のある郊外の町。
息子を愛するシングルマザー、
生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。
それは、よくある子供同士のケンカに見えた。
しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、
大事になっていく。
そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。

緻密な三幕構造からなるこの映画は、構成としては2回見ることでよりわかる作品になっています。少しずつ、食い違っていく大人と子供の言い分。
「何が真実なのか」を追いかけながらも、学校で起きた問題がメディアを巻き込むほどの一大事になっていく。展開が読めない、上質なサスペンスに惹き込まれていきました。

©2023「怪物」製作委員会

観賞後、おもわず誰かと映画について話したくなって「もう観たか」と友人の映画ライターたちに突発的に連絡をしていました。
月並みな感想ですが、誰かと語らずにはいられなくなる映画です。
解釈がいくつか出るタイプの作品だと思います。

そして、とにかく是枝さんと坂元さん、才能と才能ががっちりとハマっている。
”足し算ではなく、掛け算になった”とどこかのニュースで読んだ気がしますが、是枝作品の要素がありながらも、これまでのどの作品とも異なっていました。
セリフを重ねていくごとに、何度も心の琴線に触れて、気づいたらもう他人事にはできない話となっていた。エモーショナルすぎる。
身近に起きた、知り合いの話のように思えてしまう。そうだ、これこそが坂元裕二さんの脚本だ。

是枝さんはご自身の映画は自分で脚本を書いてきた人ですが、「もし誰かと組むなら誰と組むか?」と言う問いに対して必ず「坂元裕二 !」と即答してきたそうです。
クリエイターとして抜群の相性の良さも感じられた作品になっていました。
さらに、坂本龍一さんの音楽は言うまでもなく素晴らしく、感情を大きく揺さぶってきました。

そして、とにかく役者たちのお芝居がすごい。凄まじい。
前半では安藤サクラ、永山瑛太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子らの実力派キャストたちが物語を強い力で引っ張っていきますが、後半は黒川想矢と柊木陽太という注目の2人の子供たちがとにかく魅せます。
子供の演出に長けた是枝さん。そこを忘れてはいけない。
子供たちの純粋無垢な表情は、哀しさも美しさも内包しています。
海の水面に陽光が反射してきらめいているような、そんな眩しすぎる子供たちの姿。
最後には、情緒がもはや追いつかなくなっていて、気づけば涙していました。

©2023「怪物」製作委員会

この作品は『万引き家族』(2018年)でパルム・ドールを受賞できたときと同様に、カンヌ国際映画祭への出品が決まっています。“コレエダさん”の名前だけでなく脚本の坂元さんやこのキャストたち。日本の才能がたくさん世界に届く機会になると信じています。

大切な人が苦しんでいる。生きづらくしている。
それに気づいた時、気がつけた時、どのくらいまで踏み込める覚悟があるのか。
人は、意外とやさしい。だから「大丈夫?」と声をかけることはできる。その苦しみに共感する姿勢も見せることはできる。
でも、それだけでは残念ながら足りなくて、もっともっと踏み込まないと救えないものがあるのです。
共感してあげることはできるかもしれないが、その一歩先へとどうしたら進めるのか。を考えさせられました。人間はどうしても自分の見たいように物事を見てしまう習性がある。それは仕方ないこと。
でも自分を諦めずに、対峙する力を、もっともっと養いたいと思いました。

鑑賞後の余韻の中で、もう1度この映画のポスターを見た。
子供たちは怯えているのか。諦めているのか。恐れているのか。それとも、何かの覚悟を決めたのか。
とにかく、ぜひスクリーンで見届けてほしいと思う。

 

『怪物』
6月2日(金) 全国ロードショー

©2023「怪物」製作委員会

 

■キャスト:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 / 高畑充希 角田晃広 中村獅童 / 田中裕子

■監督・編集:是枝裕和『万引き家族』

■脚本:坂元裕二『花束みたいな恋をした』

■音楽:坂本龍一『レヴェナント:蘇えりし者』

■企画・プロデュース:川村元気 山田兼司 

■製作:東宝、ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.、分福

■公式サイト:gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/

■公式twitter:@KaibutsuMovie

■公式instagram:@kaibutsumovie

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。 映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。 映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。

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