映像2023.04.28

映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第22回『1秒先の彼』

Vol.22
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美

『1秒先の彼』

▶構成がおもしろい!時差(タイムラグ)を巧みに使った新感覚度:100

すでに知られている物語を”新たなお話”に甦らせたいクリエイターにオススメ!

監督・山下敦弘と脚本家・宮藤官九郎が初のタッグ!
2020年製作の台湾映画『1秒先の彼女』をリメイクしたラブストーリーです。
舞台を京都に移して男女のキャラクター設定を反転させ、周囲よりワンテンポ早い男性とワンテンポ遅い女性の“消えた1日”をめぐる物語を描きます。人よりワンテンポ早い彼とワンテンポ遅い彼女、少しの“時差”から生まれる、風変わりだけども愛おしいラブストーリーです。

あらすじ
郵便局の窓口で働くハジメは、何をするにも人よりワンテンポ早い。ある日、彼は路上ミュージシャンの桜子に出会い、彼女のまっすぐな歌声にひかれて恋に落ちる。必死のアプローチの末にどうにか花火大会デートの約束を取りつけたものの、目覚めるとなぜか翌日になっていた。やがてハジメは、郵便局に毎日やって来るワンテンポ遅いレイカが“消えた1日”の鍵を握っていることを知る。

台湾映画『1秒先の彼女』は、2年前に日本でも公開されていて、公開当時からトークイベントに登壇させていただいたので、とても印象に残っていました。
しかし、今回の『1秒先の彼』を見て、まず驚いたのは台湾版に愛を捧げた”忠実なリメイク”であったにもかかわらず、”全く別の物語”となっていたこと。

この映画は、はじめて観る人はもちろん楽しめるし、同時に一度この作品に出会ったことのある人にとっても新鮮な感動を与えてくれるはず!知っている物語でありながらも、ちゃんと新しい。
この優れたバランス感覚に非常に感心してしまいました。

リメイク作品に今後挑戦するクリエイターにとって、どうすれば、同じ物語でも新鮮な感動を与えられるか、のヒントに触れられる映画となっています。

また原作である『1秒先の彼女』は、台湾のアカデミー賞とも言える金馬奨で最優秀作品賞も受賞しているのですが、実は”とある仕掛け”が隠されている物語なのです。

そして、それがこの物語を、誰も見たことのない唯一無二のお話にさせるポイントでもあるのです。
詳しくは書けないのですが対人コミュニケーションにおいて何よりも”共感”を大切にする女性ならではの視点が日本版では活かされていて、これまで以上にこの物語が好きになりました。男女の役割を逆転させたことで、恋愛だけでなく、家族愛が物語の強度を高めていました。

また、この映画の1番の魅力は”今の自分を好きになれること”にあると思います。
ここは特に言いたい!
恋愛映画の中では、人が恋をして葛藤することで、自分の内側を見つめ直し、変化していく姿を描きます。

しかしながら、あえて言います。この映画では、この男女は大きく成長するわけではない。
でも、それこそがすごく良いんです。
ハッとするような躍進はないけれど、だからこそちょっとだけ前進した物語に自分を重ね合わせることができる。

昨今のSNS時代はどうしても他人と自分の持っているものの差が露わになる。
自己肯定感は何かと低くなるばかりで、そんな自分への焦りに駆られた現代を生きる私たちに、この映画はこんなメッセージをくれる。
「焦らなくて良い。君のままでいい。じゅうぶんに愛される素質がある!
ただ、ちゃんと周りをよく見てみて!あなたの存在を大切に思っている人がいるかもよ!」

こんな爽やかで優しくて”イマの自分”を包み込んでくれる映画はなかなかない。
だからこそ苦しいとき、薬みたいに何度でも摂取してほしい映画に仕上がっていました。

台湾版では中心部の景色から海の街まで登場して、旅気分を味わえましたが
今回の舞台は京都。
京都の景観と、京都弁の居心地の良さ。ショートトリップ感が際立ちます。
『夜は短し歩けよ乙女』(2017)や『本能寺ホテル』(2017)や『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)など「京都ならどこかに時空の歪みがあるかもしれない…」と思わせる作品をあげたらキリがないですが、この場所でなら時空にまつわる不思議な魔法がかかってもおかしくない気がします。

そして、思い切って原作を男女逆転させた物語であるがゆえのキャスティングも面白い。
『ドライブ・マイ・カー』(2021)などの岡田将生がワンテンポ早い男子・ハジメ役を、『線は、僕を描く』(2022)などの清原果耶がワンテンポ遅い女子・レイカ役で主演を務めました。
キャスト発表のニュースを見たときにどちらかといえば、しっかりした女性像のイメージがある清原さんだったからこそしゃかりきしたワンテンポ早い女の子を演じるのかと考えていましたが実際は反対。そんなミスリードをさせるキャスティングも興味深かったです。

スクリーンに、二人の幸せを願う。映画館を出た後に、奇跡の訪れに目を細めている自分がいた。

 

『1秒先の彼』
7月7日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

 

岡田将生 清原果耶 荒川良々 福室莉音 片山友希 加藤雅也 羽野晶紀 しみけん 笑福亭笑瓶 松本妃代 伊勢志摩 柊木陽太 加藤柚凪 朝井大智 山内圭哉

監督:山下敦弘 脚本:宮藤官九郎 

原作:『1秒先の彼女』(チェン・ユーシュン)

製作:映画『1秒先の彼』製作委員会

制作プロダクション:マッチポイント

制作幹事・配給:ビターズ・エンド

2023年/日本/カラー/DCP/5.1ch/ヨーロピアンビスタ/119分

https://bitters.co.jp/ichi-kare/

©2023映画『1秒先の彼』製作委員会

【公式SNSリンク】

Twitter: https://twitter.com/ichikare_movie

Instagram:https://www.instagram.com/ichikare_movie/

Facebook:https://www.facebook.com/IchikareMovie/

 

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。 映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。 映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。

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