グラフィック2020.07.22

沖縄生まれのキャラクターで世界市場に勝負する

沖縄
株式会社DOKUTOKU460 代表・アートディレクター
Hideki Shiroma
城間 英樹
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オリジナルキャラクター「RED BOOTS」

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オリジナルキャラクター「BUDOG」

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オリジナルキャラクター「bitter melon」

株式会社「DOKUTOKU460(どくとくヨンロクマル)」は、沖縄のアートディレクター、城間英樹(しろま ひでき)さんが率いるデザイン会社です。ジンベイザメやマナティなど海の生物をモチーフにした愛らしいキャラクター「RED BOOTS(レッドブーツ)」から、プロバスケットボールチーム「琉球ゴールデンキングス」のマスコットキャラクター「ゴーディー」、犬のキャラクター「BUDOG(ブドッグ)」など、一度見たら忘れられないインパクトのあるキャラクターを、変幻自在に生み出しています。最近では小学生の息子「ミラクルくん」もイラストレーターとして大人気。城間さんに、運命の出会いがもたらしたキャリアや、創作に対する思いを語っていただきました。

2つの衝撃的な出会いが運命を変える

アートの道に進んだきっかけを教えてください。

小さい頃から絵を描くことが好きでした。学校でいじめを経験しましたが「絵が上手なやつ」というポジションを確立すると徐々にいじめが減って自信も生まれ、絵の道を志すようになりました。中学卒業後はデザイン科のある高校へ進学し、その後九州の大学で油絵を学びました。教員免許を取得し、卒業後は沖縄に帰って美術の教師になろうと思っていました。そんな矢先、運命を大きく変えるものに出会ったんです。

どのようなものに出会いましたか? また、その出会いをきっかけに何か思い切ったことなどありましたか?

CGアニメ映画『トイ・ストーリー』です。まだ3DCGが一般的ではない時期に革新的な技術を使っていて「こういうものを作れる表現のプロになりたい」と思ったんですよね。その後、東京でデザイナーとして活躍していた親友の後押しもあり、思い切って上京しました。適当なデザイン会社に就職できるだろうとたかをくくっていたのですが、30社近く受けて全て不採用。

ある時、面接官に「なぜ採用されないのか」尋ねたら、「城間君は絵は上手だけど、パソコンを使えないのが致命的」の一言。当時はアイマック(iMac)などが発売されて、デザイン業界はアナログからデジタルへの移行期でした。

そこで、パソコンの専門学校に通いました。入学してみるとほとんどが経験者で、素人は私だけ。ただ、絵の基礎があったことと、人一倍のやる気のおかげで次第にいい成績を修められるようになり、結果、ゲーム会社にキャラクターデザイナー(アニメーター)として就職できました。そこでしばらく働いたのですが、またまた衝撃的な出会いがありました。

ターニングポイントが要所要所でありますね。その出会いとは何ですか?

コナミが作っていたコンシューマーゲーム「メタルギアソリッド2」です。

まるで映画のような完成度の高さに感銘を受けて、どうしてもその制作チームに入りたく思い、「僕を使ってください!」とメッセージを書いた作品集を送ったんですよ(笑)。そしたら、現場のデザイナーが認めてくれてなんとか採用され、『メタルギアソリッド3』のチームに入れたんです。小島秀夫(こじま ひでお)監督の下で、世界有数のゲームを作れたのはとても貴重な経験でした。そして、この経験からキャラクターをゼロから考え出す仕事をしてみたいと思うようになり、当時できたばかりの「平和アルファ」というオリジナルコンテンツ制作会社へ転職しました。

ところが2年ほど過ぎたころ父が倒れてしまい、実家の沖縄に帰ることに。退職するつもりだったのですが、社長が沖縄に支社を作ってくれ、地元で仕事を続けられました。しかし、100%自分の責任でゼロから作品を作りたいという気持ちから独立を決意し、2008年に『DOKUTOKU460』を立ち上げました。

中国の会社とのライセンス契約で、市場の拡大を目指す

御社の事業内容を教えてください。

キャラクターデザイン制作を軸に、ゲームやおもちゃ、アパレル、グッズ、アニメーションなどを展開しています。企業から発注を受けてキャラクターを作ることもありますが、注力しているのはオリジナルキャラクター制作です。現在は、4つの看板オリジナルキャラクターに特に力を入れています。

その4つのオリジナルキャラクターについて、詳しく教えてください。

一番歴史が長いキャラクターは、犬をモチーフにした「BUDOG(ブドッグ)」で、もう10年選手になります。これまで国内でも数々の商品化実績がありますが、現在は北京の会社とマスターライセンス契約をし、アジアからマーチャンダイジングの他に、展示会などの大型イベントも計画中です。

2つ目は「RED BOOTS(レッドブーツ)」という、水族館で生まれた魚の子供達がコンセプトのキャラクターです。こちらは上海の会社と契約し、中国ローソンとのコラボ企画でキャラクター起用された実績もあり、ほかにも色々な形で動き出しています。ゆくゆくは劇場公開アニメまで持っていきたいですね。ちなみに、プロサッカーチーム「FC琉球」のマスコットキャラクター「ジンべーニョ」は「RED BOOTS」の主人公「ロバート」の弟という設定なんです。

3つ目のキャラクターは「bitter melon(ビターメロン)」という緑色のクマのキャラクターです。英語でゴーヤーを意味する「ビターメロン」という言葉の響きがかわいかった事と、ゴーヤーという沖縄の方言が、沖縄を飛び出してグローバルスタンダードになっていることにあやかり、世界でも通用するコンテンツとなってほしいという思いから生まれました。こちらは上海と北京の会社と契約していて、主にアパレル展開をしています。

4つ目はアニメーション作品のキャラクターで「banapara♪(バナパラ♪)」といいます。「沖縄コンテンツファンド」という県の支援事業に選ばれまして、2013年にはフランスの「アヌシー国際アニメーション映画祭」と、カナダの「オタワ国際アニメーション映画祭」の2つに入選しました。こちらも北京の会社とライセンス契約し今後の展開を準備中です。

「香港の展示会に参加した時の、商談ブース」

いずれも中国の企業とライセンス契約をしているのは、何か理由があるのですか?

キャラクターを発表する大きな見本市が香港や上海で開催されることが多く、そこへ出展していることが理由として挙げられます。

弊社は国内よりも海外へ意識的に発表しています。東京よりも圧倒的に多くの人に見てもらえますし、アジアのキャラクター市場は拡大していて日本人作家は比較的人気があります。キャラクター市場はやはり欧米が本場だと思いますが、しっかりとしたパートナーと組むことで、アジアから欧米へ挑戦をすることが可能だと思っています。

海外に持っていくために、沖縄らしさを意識して創作されることはありますか?

特に意識しているわけでありませんが、生まれ育った沖縄が好きなので、自然と影響を受けているかもしれませんね。何しろ上京初日から「沖縄にいつ帰ろうかな」と考えていたぐらいなので(笑)。

ただ、私が一番影響を受けたと認識しているのは、『トイ・ストーリー』や『ミニオンズ』のような、アメリカのCGキャラクターによくいる「おバカなのに面白い」ものです。徹底的に作り込まれてクオリティーは高いのに、見ているだけで笑ってしまうようなものが好きです。

親しみやすさを生み出す、意図的な「アンバランス」

そのようなキャラクターを創作するうえで心がけていることはありますか?

以前キャラクター業界の大先輩に、「城間君の作るものは完璧に近い状態だと思うが、完璧すぎると人は手に取ってくれないよ」と言われた事があります。つまり私の作るものは、バランスが良く整っているかもしれないけど、きれいすぎて親しみがないということです。イケメン過ぎる人には話しかけづらいのと一緒でしょうね(笑)。

その先輩の言葉は当時の私に大きな衝撃を与えました。それ以降の作品はきれいに完成させた後に、あえて2割くらいアンバランスな部分をスパイスとして入れるため、意図的に壊すようにしています。その自分なりのルールを見つけたことで、キャラクターの採用率も上がり、現在ではそのやり方が間違いないと確信しています。

城間さんは、なぜ次々にさまざまなキャラクターを生み出せるのですか? 原動力を教えてください。

自分がやるべきこと、やりたいことを見極められたからだと思います。今まで油絵やゲームなどいろいろやってきましたが、「本当に自分が好きなことは、この世にないキャラクターを生み出すこと、0(ゼロ)から1(イチ)を作ること」だと分かりました。

さらに、キャラクターの中でも「リアル系」ではなく「デフォルメ系」が好きなんです。サンリオやディズニー、ピクサーのように、年齢、性別、国籍問わず、多くの人に愛されるようなキャラクターを生み出したいんです。そのためには、日常に落ちているアイデアの種を見逃さないよう日々アンテナを張り続け生活することが大切だと思っています。

ずっと考え続けることは、ときに疲れませんか?

全く疲れません。むしろ考えることを止めてしまったことで、面白いアイディアを見逃してしまったのではと後悔してしまいそうです。そんな、いつも面白いことを探しては描いて、それを見てニヤニヤしながら楽しんでいる私の姿を見ているせいか、私の3人の子供たちも絵を描くことに興味を持ってくれています。

息子が父親越え? 子供たちへ伝わる創作の精神

すてきですね! 皆さん絵の勉強をされているのですか?

はい。長女は芸術科のある高校に入学し、中学生の次女は将来ゲームデザイナーになりたいと画塾に通っています。小学6年生の長男は、実は父親の私よりメディア露出が多くなってきています(笑)。 彼の絵を私のSNSにアップしたところ話題になり、次々と仕事が舞い込んで「ミラクルくん」という名前で活動するようになりました。

たとえばお笑いコンビ「野性爆弾」の「くっきー!」さんが参加しているお菓子の新商品プロジェクトのデザイナーに選ばれ、パッケージデザインを描いたり、泡盛メーカーの忠孝酒造さまのお酒に彼が描いた疫病退散で話題になっている「アマビエ」のお守りがノベルティーで付いたりと。おかげで私は、彼のマネジメントをする格好になり、現在弊社にアーティストとして所属し活動しています。

他にも活動されていますか?

最近では、携帯電話のカバーなどを作る東京の「サムライワークス」という会社の代表が、SNSで息子の作品を見て声を掛けてくださったご縁で、サッカーの本田圭佑選手と対談までしました。その会社は本田選手とも契約していたようで、ミラクルくんの話をしたところ、本田選手側からオファーが来たと聞いています。これから彼はどのように成長するか分かりませんが、自分の仕事を通して親子の絆を作れたことは良かったと思います。

今後の夢を教えてください。

一人の作家としての大きな夢は、沖縄に、自分が作ったキャラクターをモチーフにした遊園地を作ることです。公園規模からのスタートでもいいので、いつか実現したいと思っています。

最後に、城間さんのようなクリエイターになりたい方へメッセージをお願いします。

沖縄に関して言えば、若くて優秀な方が多いと感じています。しかし小さな島なので、地元で展示会を開いても来てくれる人の絶対数は決まってしまいます。だからこそ、ぜひさまざまな機会を利用して、県外へと発信してほしいです。

また、異業種と関わることも大切だと感じています。ときどき若いクリエイターを集めて、僕の周りのマスコミやメーカーの方々との会食などを開き、何かしらのチャンスに繋がればと出来る範囲で応援をしています。実際にそこからチャンスをもらった若手デザイナーもいます。異業種と繋がる事でこれまでになかった化学反応がおきビジネスへ大きく発展することもあるんです。

同業種の仲間内で固まるのも悪くないですが、外へ外へと目を向けてアピールしていくことも忘れないでほしいと思いますね。

取材日:2020年5月22日 ライター:仲濱 淳

※オンラインにて取材

株式会社DOKUTOKU460

  • 代表者名:代表・アートディレクター 城間 英樹
  • 設立年月:2008年1月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:キャラクターコンテンツを中心とした、ゲーム・アニメーション・CM・グラフィックデザイン・3DCG・企画 他
  • 所在地:〒902-0074 沖縄県那覇市仲井真296-1
  • URL:http://dokutoku460.com/
  • お問い合わせ先:098-851-9770

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