グラフィック2020.07.08

「始める・続ける・出会う」の積み重ねで、上古町商店街を拠点に新潟をクリエイト

新潟
合同会社アレコレ 代表
Kazunari Sako
迫 一成
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「日常を楽しもう」というコンセプトにもとづいて様々な物やコトをクリエイト

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新潟県新潟市上古街商店街にある元酒屋さんを改装した築90年木造2階建ての店舗

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新潟らしいお土産や雑貨を中心に販売中→http://h03tr.shop-pro.jp/

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新潟市美術館ミュージアムショップ 「ルルル」

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浮き星:金平糖のようでそうでない、新潟の伝統菓子

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にいがたドリップコーヒー:トキなど新潟ならではのイラストがパッケージ

2001年から新潟市で幅広くデザイン制作をしているクリエイト集団「hickory03travelers(ヒッコリースリートラベラーズ)」は、合同会社「アレコレ」に在籍しているメンバーで構成されています。「日常を楽しもう」のコンセプトにもとづいて、地元のものを土産品にリパッケージした雑貨、オリジナル商品などを企画制作し、チームと同じ名のショップで販売も行っています。老舗と新店舗が共存する個性的なエリア「新潟市上古町(かみふるまち)商店街」を拠点に活動を展開する、合同会社「アレコレ」代表の迫一成(さこ かずなり)さんに地方のデザインの可能性について、お話をお聞きしました。

お店って楽しい、街と関わるって面白い

迫さんは県外のご出身と伺っているのですが。

ええ、福岡です。新潟大学に進学して以来ずっと新潟で暮らしています。

新潟大学を選んだ理由は何ですか?

なんとなく…ですね。遠いところに行ってみたかったのと、福岡から新潟に行く人はほとんどいないので「珍しくて良いかな」と思ったこと、あとは学びたい「行動科学」(社会学や心理学)の分野があったので。

デザインに興味を持たれたのはいつ頃ですか?

大学で学びの「難しさ」に直面する一方で、「分かりやすさ」という点で絵本に興味を持ったのがきっかけです。新潟の冬は悪天候で悶々(もんもん)としますし、小学生の頃に絵を習っていたこともあり、週末に東京の絵本のスクール「パレットクラブ」へ通うことに。著名な先生方(※)から、絵本作りやこれまでの体験、今考えていることなどのお話を聞けました。同時にデザインのスクールも聴講し、デザインの仕事にも惹かれるようになりました。

憧れるような絵本作家さんやグラフィックデザイナーに共通していたのは「始めること」「続けること」「出会うこと」この3つが、技術よりも大切で、自分にも可能性があると感じたのです。

※絵本作家:長新太(ちょう しんた)さん、スズキコージさん、荒井良二(あらい りょうじ)さんなど

駆け出しの頃は、どんな仕事をしていたのですか?

大学生の頃はアイロンプリントでTシャツを作っていました。徐々にアドビのイラストレーターを使ったり、シルクスクリーン製版を導入したり、まだまだ趣味の域でしたが、スクールで出会った静岡出身の遠藤在さんや、服飾系に進んでいた先輩に声をかけて、大学卒業後の10月に3人で新潟市中央区にある西堀ROSA(ローサ)のチャレンジショップに出店。作って売ることの楽しさを知りました。 この出店が「hickory03travelers」(以下ヒッコリー)を結成のきっかけです。1年半チャレンジショップを経験し、後の「カミフル」こと「上古町商店街」に店舗を構えました(当時は上古町という名称はありませんでした)。

ヒッコリーの名前の由来と、コンセプトについて教えてください。

ネーミングの理由は良く聞かれるのですが…ノリと響きですね。ヒッコリーは、カタカナ語辞典で見つけた樹木の名前であり、縦ストライプの名称でもあり、なんとなくしっくり来たので。「日常を楽しもう」のコンセプトは結成時に掲げました。バブルも崩壊して「大きな夢なんて持たない方が良い」という時代でしたが、小さな楽しみはたくさんあると思っていて「自分たちが良いと思うものを、自由な感性でのびのび楽しんでいけたらいいな」と。

今思えば何もできないくせに「クリエイト集団」なんて、大胆で、恐縮です。「若かったな〜」と思いますが、逆に専門の知識がなかったので、「とりあえずやってみよう」と先入観なく取り組めたことが功を奏したのかもしれません。

カミフルに店舗と作業場を構え、拠点にした理由は?

店舗の住所は「新潟市中央区古町通3番町」ですが、当時4番町に住んでいたのでなじみがありました。老舗と若者向けのおしゃれなお店の両方があって、いい街だなと。

その後、上古町商店街振興組合を作ることになり、皆さんのお役に立つことができればと思い、理事に就任させていただきました。商店街のマークやマップ制作などは、誰に頼まれたわけでもなく、自発的にやったことです。それが褒められ、街の印象がアップし、全国からも注目してもらうことも増えて、うれしく思っています。店舗という発信場所が常にあり、楽しさがありますし、地域との関わりもやりがいに満ちています。

30点を70点にすることがポイント

日本の地方都市「新潟」だからできることを幅広く、やわらかく創作しています。

ワークスタイルについての心掛けはありますか?

「新潟だからできること」を「楽しみながら感謝する」姿勢で、「好きなことを継続する」が基本です。最初から大きなことをやろうと意気込むのではなく、試しにやってみて少しずつ改善していく方が、「依頼者」も「制作者」もお互いに少ない負担でより良いものを目指せるのではないかとも。

他の人と少し違った視点で提案したことが、地域のお役に立てるなら何よりだと思っています。

ヒッコリーの目指す方向性と、チームメンバーに求めることは?

大々的な目標のようなものはあえて掲げていませんが、今まで同様、人との出会いを大切に、楽しみながら自己実現していってほしいと思っています。一緒に活動する仲間として、のびのびと成長できることが理想です。

「この案件は、このデザイナーが合いそう」というフィーリングで仕事の分担を決めたり、やりたい人が挙手をする場合もあります。メンバーの働き方を含め、個人がイキイキとやりがいを持って好きなことができる環境を提供できればと思っています。

ブライダル関連のデザイン制作、地元企業との商品のブランディング、街づくりのプロジェクトなど、実に幅広く活動されていますが、転機になったお仕事は?

振り返ると転機だらけですよ。見よう見まねで始めたことが、多くの人との出会いによって大きな成果を得ている。本当にありがたいです。特に印象的だったのは、あられに糖蜜をかけた新潟の伝統的なお菓子「浮き星」(うきほし:ゆか里)の商品開発とパッケージデザインが、県外のお客さまの人気を集め、売り上げが増加したこと。

浮き星を器に入れて湯を注ぐと砂糖が溶けてあられが浮いてくるのです。他の地域には存在しない新潟の伝統菓子を全国に向けて発信し取引先の開拓も担いました。結果的にデザインを活用して企業の活性化(復活:後継作り)につながった良い事例です。

地方のクリエイティブの面白さって、「30点を70点にする」ことにあるような気がしています。今あるものの足りない点を見つけて、補強することがポイント。デザインだけ100点を目指しても無理があるので、大前提として「売り方」を考えて、そこに必要なデザインをプラスする考え方がマッチするのではと思います。

マネジメント業務はご自分に向いていると思われますか?

マネージャーか、プレーヤーで言うと、自分としてはプレーヤーでいたいです。2012年に合同会社アレコレを立ち上げましたが、その理由は、ヒッコリーのメンバーが増えたことで彼らにとっては個人事業より会社の方がいいかな、というくらいです。別に経営者になりたかったわけではなく…。とは言っても、何年も活動と経営をしていて、事業規模や内容が広がっていくと、売上高も上がるわけで、経営視点も大切にしています。

僕たちが楽しそうな活動やデザインができる背景には、ご依頼主や作り手ははもちろん、ヒッコリーのメンバー、アルバイトの方、パートの方の小さな作業の積み重ねがあるわけなので、これからも継続できるように会社としての計画、ビジョンも持ってはいます。臨機応変ですが。個人的には勢いで始めたヒッコリーに愛着と感謝の気持ちがありますし、もともと素朴な絵やかわいいデザインが好きなので、その気持ちに忠実に活動していきたいという思いがあります。

これまでの実績を自信に変えて

2019年、新潟のクリエイターの課外クラブであるNADC(新潟アートディレクターズクラブ)の会長になられてからクラブをいろいろ改革しておられますね。

作品のジャンル分けや審査の票の入れ方など、仕組みの部分は、いろいろなご意見を参考にしながら変えてきました。もちろん、私が、というよりもみんなで。今年(2020年)は「多くの人の目に触れ、残るもの」として「デザイナーズBOOK」を作りたいと考えています。

商店街の組合理事として、街を今後どのようにしようとお考えでしょうか?

こちらも、NADCやその他の活動と考え方は同じです。良いものは残す、時代に合っていないものは変える。

もちろん、世代によっていろいろな考えがあるので、皆で相談してバランスを取りながら。デザインもそうですが、大きすぎる変更は無理が来るので、言葉として表現するなら「整える」ことを大切にしています。明るい未来に向かって。

これまでの活動で得た学びを、どのように生かしていきたいですか?

思いがけず県内外の方から評価をいただくことが多く、それが自信につながってきました。個人的には、「新潟らしい」「新潟だからできる」ことがまだたくさんあるのではないかと思っています。

一方、新潟で話題になった事例をもとに、他県でアレンジすることも可能なので、あまり領域を決めず、今後も「始める・続ける・出会う」を信条に、発想力と行動力を鍛えながら取り組んでいきたいですね。

今後取り組みたい分野やプロジェクトについて教えてください。

どこか1つの分野に限定せず、多面的な取り組みを行っていきたいです。近年では、新潟市美術館内のリニューアルや障害者施設の取り組みにも多く関わらせていただき、貴重な経験となりました。何事も「まずはやってみよう」の精神で。やってみて初めて分かることもたくさんありますから。

若いクリエイターや業界を目指す若者へメッセージをお願いします。

すでにクリエイターとして活動されている方は、志を共にする仲間を増やすことをおすすめします。グループのメンバーで協力し合うと、単発・単体の仕事でも相乗効果が期待できます。自分にないものを補ってくれる、仲間の存在は貴重ですよ。

業界を目指す方には「地方の仕事は楽しい」ということをお伝えしたい。若い感性が素晴らしい事例を作ることもあります。自由な発想で新しい時代を作りあげていってほしいです。

取材日:2020年5月21日 ライター:本望 典子

合同会社アレコレ

  • 代表者名:代表 迫 一成
  • 設立年月:2012年10月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:デザイン制作(グラフィック、イラスト、印刷物)、店舗運営、グッズ作成のほか、地元企業と共同で商品開発、Tシャツや雑貨の受注生産なども
  • 所在地:〒951-8063  新潟県新潟市中央区古町通3番町556
  • URL:http://h03tr.com/
  • お問い合わせ先:025-228-5739

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