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グラフィック2019.11.13

今は、農家もクリエイターも「推し」になる時代!

新潟
株式会社FARM 8 代表取締役
Atsushi Kabasawa
樺沢 敦
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お菓子やジュース、調味料…食品売り場や土産物店の陳列棚には非常にデザイン性の高い食品がたくさん並んでいます。「いいものを作れば売れる」時代は終わり、さらにその見た目の良さに注目が集まる令和の時代。 それも「次の段階に来ている」と、新潟県長岡市で国内外問わず様々な地域資源や地域課題と市場をつなげるFARM 8の代表取締役・樺沢敦さんはおっしゃいます。 デザインの先、目には見えない「生産者の課題を解決できる仕組み」づくりをする中で必要とされるクリエイティブとは?推し農家を持つことが価値となり、推しクリエイターがメディアになる?求められるクリエイティブ力に迫ります。

農家と酒蔵の悩みを一度に解決!「ぽんしゅグリア」を開発

最初にFARM 8のお仕事について教えてください。

地元新潟県長岡市で「土を守る」をテーマに、[地域を食べる]仕組みづくりやソリューション型食品の開発などを展開しています。 いま、経済発展しているシンガポールや香港も流通の拠点であって、食料自給率は1%以下。貨幣経済が崩れたらここから自分たちで食料を供給するのはもう無理な状態です。FARM 8の拠点である新潟県長岡市でもカロリーベースでは27%です。そのことに危機感を持って、食料自給率アップを念頭に活動しています。 私の活動は課題ありきの課題解決型で、例えば農家の方が「販路がない」とか、酒蔵の方から「酒粕の使い方のアイディアはないか」という相談を受けて、商品開発を行っています。

具体的にどういった商品を開発されていますか?

単純に地産地消で食料自給率を上げようとしても、販路の問題や考え方の壁などにぶつかります。それで見方を変えてエンタメにしようと開発したのが、国産フルーツを使った日本酒カクテルのもと「ぽんしゅグリア」。全国のおいしい国産ドライフルーツと新潟名菓のハッカ糖がワンカップに入っていて、自分で好きな日本酒を入れて、オリジナルのカクテルを楽しめます。 もともと長岡には酒蔵が新潟県最多の16蔵もあり、前職で彼らの悩みを聞く機会が度々ありました。そしてフルーツ農家さんからの傷物の果物の相談も受けていました。それらの課題を解決したかったんです。

農家と酒蔵の課題が一度に解決できますね。

ただし、商品が売れることだけを目指しているわけではありません。商品を通じて、「こうやって課題は解決できる」というメッセージを世の中に送り、どんどん手法が広がっていったらいいなと思っています。その仕組みづくりがしたいんです。Webアプリでお酒や果物、ラベルなど、オリジナルのぽんしゅグリアを12個から作ることもできるんですよ。

好きな素材で作れるのはいいですね!

今は生産者の立場が弱く、一生懸命作っても利益がなかなか出ません。そこで農家の人が自分の果物でぽんしゅグリア作って売ったり、お孫さんの結婚式の引き出物に使ったり…本当に目指したいのは「生産者や消費者がメーカーをサービスとして使える社会」というところなんです。そうすれば農家さんのリスクも減りますしね。

車のディーラー、システムエンジニア、子育て支援、NPO職員…非・食品業界の経歴

商品を通じて仕組みを作っているんですね。前職も食品に関わられていたんですか?

いいえ、大学で名古屋に行き、そのまま車のディーラーに就職して表彰されるほど車を売っていました。ただ2004年に発生した中越地震で両親の出身地である旧山古志村(現・長岡市)が震度6を観測し、土砂崩れで集落が孤立し全村民が避難するほどの被害を受けたんです。それをきっかけに翌年、25歳の時にUターンしました。それからも計器やセンサーを開発するメーカーに勤めてシステムを作ったりして、食には携わってきませんでした。

現在のお仕事とは、全く違う業界ですね。

子どもが生まれて暮らしが変わったことが大きいですね。雪国の子育ては本当に大変なんですよ。それで30歳の時に入社した企業が、マーケティングと子育て支援に取り組んでいる企業。子育て支援はNPOが行っている場合が多く、マーケティングやマネジメントの面でNPO支援を実施している企業が当時はなくて、働く中で様々な相談や講演依頼を通じて地域が抱える課題を知りました。当時はマネジメントとマーケティングで課題解決できると信じていましたが、東日本大震災を経験してどうやらそれだけではダメだと気付いたんです。 特に当時、子どもの食がオモチャ化していることに危機感があり、力を入れていたテーマが「子どもの食」。この活動を広げていこうと退職し、NPOの中間支援をするNPOに所属しました。そしてNPOの課題解決にもっと企業が参画していくべきだと考えて立ち上げたのが、FARM 8です。

どのようにして現在のビジネスモデルが生まれたんですか?

今もそうですが、NPOの時代は多いと月に80件とか相談を受けていました。特に農山漁村の相談をたくさん受けて、その時に地域資源の流通が鍵だと提案をしても「できない」と言われてしまうことが多かった。そこで「一回販路を作るので、今後そこを活用してください」と自社で食品加工工場を作ったり販路を作るようになったんです。

「ぽんしゅグリア」以外にはどのようなプロジェクトを手がけられていますか?

酒粕を世界に発信するプロジェクト「Hacco to go!」を立ち上げ、酒粕のドリンクスタンドを長岡と東京の赤坂と吉祥寺で運営しています。酒造りで大量に出る酒粕を食べる習慣を提案しようと、酒粕を使ったスイーツやシェイクを提供しており、「このシェイクおいしいね、じゃあこの酒粕ができる元になったお酒もきっとおいしいんじゃないかな」と関心を高めていく動線を作りたいですね。 こうしてブランディングしたものをプラットフォームに使ってもらうモデルが一番いいなと思って、仕組みを作っている段階です。実際に1店舗目をオープンさせたところ、たくさん酒蔵さんから問い合わせが来ました。さらに今後も首都圏での出店が決まっています。

「推し農家」「推しクリエイター」がメディアになる時代がくる

好きな酒蔵を見つけたり、農家さんの存在を知ると「この蔵のお酒を買いたい!」「この人が作ったものを食べたい!」と思いますね。

そうなんです!生産者の顔を見ながら、食品を作れるのは新潟のいいところ。きっと今後は「推し」の野菜や果物があることが、価値になってくると思うんです。会社のお歳暮も「推し」の蔵ものを使った製品とか、そういう仕組みを作りたいです。クリエイターも同じで、「推しクリエイター」にならないといけない。今、クリエイターがメディアになる可能性がすごく高くて、今後「この人が作ったものだから買いたい」「この人が選ぶものを買いたい」となっていくと思っています。

私はアジア人6人で構成されている「アジアン・ラウンド・テーブル」という、アート系のチームメンバーにもなっており、今、そのネットワークを活かしてアジアのクリエイターと日本酒をつなげて、カップ酒のラベルを作るプロジェクトを展開中です。彼らを推すファンが買ってくれるし、彼らにとっても日本の伝統文化と繋がったことにはいい影響があります。今後はアウトプット=デザインから、もう一段階上に行くと思っています。

「もう一段上」を具体的に教えてください。

10年くらい前まではデザインの良さが差別化につながりました。しかし、今は日本のデザイナーたちが頑張って、全体的にクオリティが高くなり、その次を考える段階にきています。 例えば1000人に一人くらいお酒のラベルを集めている人がいて、その人のために裏に「Thank you」と書いておく。そうすると広告効果よりも高いバズりを生むことができる。そういう「心をくすぐるクリエイション」ができる人とのプロジェクトはすごく楽しいですね。「もう一歩抜けられる」そんな人と組みたいです。 食品業界の人は売り場に寄り添ってしまいがちなので、それが異業種出身の私の強みだと思います。

豊かな未来に向けて新しい価値を新潟から世界へ。それは大きな強みになっている

先ほどアジアのお話も出ましたが、世界にも目を向けているそうですね。

「アジアン・ラウンド・テーブル」のつながりからアジア各地を訪問して現地のトップクリエイターと出会い、食の現場を見せてもらうと、新しい可能性に触れられるので視野が広がります。そして海外の食品にも日本と同じように課題はあるんですよね。「会ってほしい」という人がいると海外でも会いに行きますね。それがすごい大事だったと今は思います。そのための交通費は惜しみません。行動すると新しい人との出会いが生まれて、それが本当に面白い。ポジティブな出会いから生まれた財産や価値観は相当あると自負していますし、人生を豊かにしていると思います。そしてこの経験を子どもに伝えていきたいですね。

FARM 8では、商品開発だけではなく、ショップを作ったり、クラウドファンディングを行ったり、アプリを開発したり、「仕組み」の形が多岐にわたっています。

システムエンジニアだったからアプリでできることはわかります。それにやったことがなくても、できるような気がするんです(笑)。課題が見えて解決策をイメージできたら、それがどんな手段であれ、やると決めてから勉強。これがライフワークみたいなもので楽しくてしょうがない。新しい価値を創造するってすごくクリエイティブなことで、それに対価が生まれるのは5年後か10年後かもしれないけど、自己満足ではなく誰かにとって有益なものになっているのかが大切なんです。

地方での活動に難しさは感じませんか?

10年前はネガティブな印象もあったかもしれませんが、今はむしろ「新潟でこれをやっているの!?」と注目されます。東京にいたら埋もれてしまうけど、地方でやると見つけてもらいやすいです。

今後の展望を教えてください。

新潟発で、フードベンチャーの成功事例になることです。既存の食品業界の方ではなく、業界に新規参入する人ってほとんどいないんです。食品のデザインやブランディングが得意な人はたくさんいますが、仕組化するところに重きを置いています。成功することで、後に続く人が出てくることを期待しています。

取材日:2019年9月27日 ライター:丸山 智子

株式会社FARM 8

  • 代表者名:代表取締役 樺沢 敦
  • 設立年月:2015年2月
  • 資本金:900万円
  • 事業内容:ソリューション型食品開発、[地域を食べる]仕組みづくり、 [米]×[発酵]×[雪] の研究所、地域資源プロデュース、リノベーション型 店舗運営 、自社商品の製造および販売
  • 所在地:〒940-1106 新潟県長岡市宮内3丁目3-19
  • URL:https://farm8.jp/
  • お問い合わせ先:0258-94-5518

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