40年培った技術でつくる最高峰の立体展示物。3Dプリンター活用で新たな領域へ
北海道札幌市を拠点に、博物館や科学館の展示模型を全国へ納入し続けて40年。株式会社ウェザーコックは、立体造形の世界で独自の再現力を磨き続けてきた老舗企業です。2024年10月、IT会社の経営に長く携わってきた山崎記敬氏がM&Aを通じて代表に就任しました。まったく異なる業界から飛び込んだ山崎氏が見抜いたのは、一朝一夕には真似できない職人集団の技術でした。博物館の立体展示物だけにとどまらないIPコンテンツや産業機器領域への進出や3Dプリンターの可能性を見据えた挑戦について伺いました。
IT業界からの転身。自分でなければ意味がない仕事を求めて
山崎さんはどのようなキャリアを経て、ウェザーコックに参画されたのでしょうか。
公務員からスタートし、経営コンサルタントへ転職しました。一番長く携わったのは自治体向けクラウドサービスを提供するIT会社(株式会社HARP)で、経営管理全般を任されていました。会社が軌道に乗ってくると、事業は仕組みで回るようになるため、自分としては新しくチャレンジできる事業を模索していたところです。
そこで三つ軸を持って転職を検討し始めました。これまでの経験が生かせる、技術系BtoBの業種であること。まったく経験したことのない業種であること。最後に、自分でなければ意味がないと思える仕事であること。
安定だけを求めるなら当時の仕事を辞める必要はなかったので。建設、運送、内装工事、自動車整備などさまざまな企業を検討するなかで、三つの軸を叶えられたのがウェザーコックでした。
博物館分野は「立体造形の最高峰」。設計図のない仕事に挑む技術力
御社の事業内容を教えてください。
主に博物館や科学館に置かれる展示模型を企画・制作しています。現在、売上の7〜8割がこの博物館関係の仕事で、株式会社乃村工藝社や株式会社丹青社といった大手ディスプレイ会社がメインのお取引先です。そのほか自治体や大学、一般企業などからも依頼を受け、店頭展示やイベントプロモーション用の展示模型を制作しています。
この業界自体がかなりニッチで、同じ仕事をしている会社は全国に約120社しかありません。30年前は約250社ほどあったはずなので、業界としては半分くらいに縮小しています。展示物そのものへのニーズがなくなったわけではなく、立体物は手間がかかり、コストも上がる。動画やパネルなど予算を抑えられる選択肢が増えたことで、立体物が選ばれる場面は昔より狭まっているというのが実情です。
そうした状況のなかで、御社ならではの強みはどのような点でしょうか。
博物館の展示物には、たいてい設計図はありません。古い資料や写真をかき集めて、そこから立体物として組み立てていきます。完成までの制作過程では、設計から造形、加工、塗装、素材選びに至るまで、また3Dプリンターの活用も含め、いくつもの技術を場面に応じて組み合わせる力が必要です。設計の技術だけ、3Dプリンターの技術だけでもこの仕事は成り立ちません。
長年の積み重ねで培われた、精度の高い技術と、最先端の技術を組み合わせる力。これは一朝一夕には真似できないものです。
これが当社の一番の強みであり、新しい分野に挑戦していくうえでも大きな武器になっています。立体造形物をつくる仕事のなかでも最高峰と言われる博物館分野で通用するクオリティが出せるということは、ほかのどの分野に持ち込んでも品質的に十分通用します。実際、博物館の仕事だけにとどまらず、この技術を別の市場へ展開していく取り組みも始めています。
博物館分野で培った再現力を、IPコンテンツや産業機器の領域へ

博物館の技術を別の分野に展開していくとのことですが、具体的にはどのような取り組みをしていますか。
今、可能性を感じているのは大きく二つの分野です。一つはIPコンテンツの分野で、アニメやマンガ、ゲーム、エンタメといったコンテンツ領域です。
IPコンテンツ分野では、フィギュア製作会社は市場に多数存在しますが、大型造形物などの展示模型を手掛ける会社は多くありません。しかし、人気のIPコンテンツではイベントや展示などが企画されており、大型造形物やフォトスポット、展示模型のニーズは一定数あると考えています。そこで今後は博物館や科学館の技術を生かしつつ、IPコンテンツ分野でニーズのある大型造形物の制作や制御装置を組み込んだ展示模型などを手掛けていきたいと考えています。
もう一つはどのような分野で、どのような実績がありますか。
製品模型の分野で、プラント設備や空調設備といった産業機器の領域です。空調設備として使用されるチラー模型(冷却装置)模型を制作しました。例えば商談などで製品説明をしたくても、動画では伝わりにくいし、実機は大きすぎて持ち出せません。そこで、内部の配管まで再現した模型を作成したところ「中身も含めて見せることができる」とメーカーの担当者に喜んでもらえました。このようなニーズはまだまだあると思うので、実績ができれば他社・他業界にも広げられる可能性があると感じています。今はいろいろ試して種をまいている段階です。

そうした可能性を踏まえて、今後特に力を入れていきたい取り組みを教えてください。
3D技術の活用を、これまで以上に進めていきたいと考えています。3Dプリンター自体を使いこなしている会社は珍しくありませんが、展示模型の分野で3D技術を本格的に活用している会社は、ほとんどありません。 展示模型分野は造形職人の熟練技術が中心ですが、そこに3D技術を融合させていくことで、新しい事業領域への適用も生まれると考えています。
当社でも3Dプリンターや3Dスキャナなどは導入を進めていますが、IPコンテンツや製品模型のような分野では、すでに3Dデータ化されているキャラクターや製品が多く、展示物そのものへの活用の幅をさらに広げていける余地があります。
3D技術をフル活用して、コスト削減や納期短縮の取り組みを進めていくことで、これまで立体物を導入できなかった領域でも、イベント展示物やフォトスポットなど立体物を活用した導入提案が生まれるものと考えています。
求むは「変態レベル」の立体物好き
採用面では、どのような苦労がありますか。
展示模型を仕事としてつくったことがある人自体が、世の中にほとんどいないという点で苦労しています。
社員は現在約11人、アルバイトを含めると14人で、ディレクションを担う部隊と制作部隊に分かれています。決して大きな会社ではありませんが、長くこの仕事に向き合ってきた職人たちが会社を支えています。
採用にあたって、重視していることは何でしょうか?
実績や経験よりも熱量です。「立体物が好き」「ものづくりが好き」という熱量です。ただ、好きという気持ちにも程度の差があると思っていて、「好き」という人はたくさんいますが、「変態レベル」で好きでなければ、この仕事は長く続けられないというのが実感です。本当に好きな人は、語りきれないくらいの思いや経験を持っているもので、そういう人を見つけられるかどうかが採用の鍵になっています。
「好き」の中身も人それぞれです。フィギュアが好きな人もいれば、自動車が好きな人もいる。形をつくること自体が好きな人もいれば、本物そっくりに仕上げていく工程が好きな人もいる。対象や工程は何でも構いません。とにかく立体物に強くひかれている人であることが条件です。

最後に、今後の組織づくりやご自身の役割についてのお考えを教えてください。
自分自身が何かをつくるというより、技術を持っている人たちに思う存分、力を発揮してもらう環境を整えることが役割だと考えています。前職でもITの技術者と関わることが多かったのですが、それぞれ得意分野も考え方も違う人たちが集まっていて、その人たちが力を発揮できる状態をつくることが、結果として組織の価値につながると考えてきました。
この会社でも同じで、当社の技術者たちが持っている力は非常に高い。だからこそ、その力をどう引き出すかが重要だと考えています。個々の「好き」やこだわりを起点に技術を磨き続けられる環境をつくることが、ほかには真似できないクオリティにつながっていくはずです。そうした積み重ねが、これから新しい分野に挑戦していくうえでも土台になっていくと考えています。
取材日:2026年6月15日 ライター:小山 佐知子
株式会社ウェザーコック
- 代表者名:山崎 記敬
- 設立年月:1984年5月
- 資本金:1,000万円
- 事業内容:展示模型の企画・制作・工事等
- 所在地:〒003-0006 北海道札幌市白石区東札幌6条4丁目1-11
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