WEB・モバイル2024.02.07

カバン店なのに商品を売らないイベント、動画では他社紹介?収入ゼロから武道館を目指すまで

高松
株式会社カワニシカバンプロダクト 代表取締役
Atsushi Kawanishi
川西 功志

ワイシャツ、ネクタイにエプロン、ジャケット、そしてメガネがトレードマークの川西 功志(かわにし あつし)さん。そんな川西さんが設立した株式会社カワニシカバンプロダクトは、香川県高松市の住宅街に工房兼店舗を構えます。カバン職人が人気ブランドのバッグを解説する企画など、笑顔とカバン愛があふれるYouTubeチャンネル「カワニシカバンの休日」も開設しており、登録者数は4万8400人超(2023年12月現在)。顧客をとりこにしてしまう、カバンづくりへの情熱を伺いました。

魅力的な社長がきっかけでカバンづくりの道へ。妻とともに事業をスタート、収入ゼロの時代も

カバン職人になるまでの経緯をお教えください。

工芸高校を卒業後、自動車整備士、古着屋、iモードの営業、Webデザイナーなどを経験し、現在の仕事は8職目。その間に「この人のもとで働きたい!」と思ったさぬき市(香川県)のカバン工場の社長に出会ったのですが、「人が足りているからむりやなぁ」と一度は断られたんですよ。しかしそのあと、カバン工場の社長から連絡があり、2006年にカバン工場に入社しました。
社長は常に東京で仕事をしていて、私は香川で企画から納品まですべての生産管理を任されたんですけど、そりゃ大変で。私はカバンのことは何も知らずに入ったわけですよ。年配の縫製職人さんからは何度も怒られていました。

独立したのはいつですか?

11年の震災があった年からだんだんと消費が冷え込んで、カバンづくりも暇になっていきました。平日はカバンの仕事、土日に自分の古着屋を経営し、二足のわらじでやっていました。
またちょっとずつカバンづくりがいそがしくなって、15年に下請け会社という立場で現在の前身となる会社を設立しました。妻が縫製を手伝ってくれて2人でのスタートでした。職人といわれる仕事以外にもカバンづくりには必要な工程がたくさんあって、例えば、糸を焼き切ってもらうなどの作業を、内職として妻の友だちに手伝ってもらっていました。当時の内職さんは今もここで働いてくれています。

苦労したことはどんなことですか?

収入がゼロになった時ですね。「自社ブランドでやっていこう」と意気込んでいた時期でもあったので、地獄でした。
これまでお求め安さを重視して価格を設定し、カバンを販売していましたが、利益はとても少なかったのです。量販型の製法と違って、材料費がかなりかかりました。そこで悩んだ末、加工代を上げることにしました。それに伴い、商品代を値上げするとカバンは売れなかったんです。ダメ出しもされましたね。いろんな方に頭を下げて下請けの仕事をもらおうかと悩んだと同時に、どんなカバンをつくれば売れるのかを考え直しました。

クラウドファンディングの活用で切り抜けた暗黒時代。マザーズバッグのターゲットは父親世代?

どうやって売れない時代を切り抜けたのですか?

17年に、わらをもつかむつもりでやったのが、購入型のクラウドファンディング(資金を出してくれた人にその対価として実際の商品を渡す形式)です。1万円のバッグが30個売れました。当時はうれしかったですね。
インターネット販売は設立当初からやっていましたが、ほかにもフリーマーケットに出店したり、イベントに参加したりして販売しました。セレクトショップに置いてもらうのは敷居が高い気がして(笑)。その結果、新しいスタッフも入社させることができました。

当初の商品やターゲット層は?

「お父さんにマザーズバッグを持たせよう」と考えました。マザーズバッグはかわいらしいものが多いので中性的なかっこよく持てるバッグをつくりたいなと。
販売価格は1万2000円ぐらいで、興味のある人に買ってもらいたいという気持ちでした。現在の商品としても大きめなトートバッグは残っています。

今、社長おすすめのバッグを一つ挙げるとしたらどれですか?

リュック「seowU(セオウ―)」です。リュックって取り出したいものがどんどん下の方になっちゃうでしょ。だから真ん中に仕切りを入れて、上段と下段の2階建てに分けました。ファスナーも下まで広く開くから下のものも取りやすいです。お財布を取り出すにもバッグを肩から下ろさなくていいので便利。このバッグだけでも熱弁できるぐらい、どの商品もこだわりがつまっています。

バッグの魅力を知っているからこその“提案”。「お客さまが描いている以上の未来へ」

 


リュック「seowU(セオウ―)」

他社との違いやモノづくりのこだわりをお教えください。

まず私たちは「提案型」なんです。素材や製法の一つ一つにこだわりを持っていて、自社の商品が本当に好きだからこそ、この商品はこういう機能があるから、こう使ってほしいという想いでモノづくりをしています。
例えば「かっこいい」などの「見ばえがいい」だけでなく、「どんな人に、どんなシーンで、どんな風に」使っていただくかを常に考えています。お客さまのフィードバックも大事ですが、お客さまの意見をそのままカタチにしてもその人が思い描いている未来にしか連れていけない、「それよりこっちの未来の方がええやん!」という気持ちで提案しています。そこに興味を持ってくれた人に買ってもらえればいいというスタンスです。

1人の「熱狂」が大事。ネガティブなフィードバックがヒット商品を生む

ヒット商品であるサンリオさんとのコラボバッグ

スタッフさんとの仲も良さそうですね。現在スタッフは何人ですか?

7人です。長い人は内職時代からついてきてくれています。「なんでこの会社で働いているか」って?そりゃ社長が優しいからじゃない?(笑)
サンプル製作・縫製・納品もこの場所で行っています。それから裁断はお世話になったカバン工場の場所を借りていますし、今でも下請けもやっている間柄です。

商品開発の会議はスタッフ全員で行うのですか?

はい、そうです。例えばこのサンリオさんとコラボのバッグ。スタッフが提案してくれたバッグは、帆布の手提げバッグにキティちゃんのリボンが小さく刺繍してあるだけで、私は「ぱっと見てサンリオ商品だって分からないやん、せめて内側に大きくサンリオキャラをプリントしよう」と反対意見を言いましたが、スタッフは「これが大人の女性に受けるはずです」と一歩もゆずりませんでした。スタッフを信じて商品化してみると、その言葉通り、大人の女性向けとしてヒットしました。すごいですよね。
いつもスタッフの提案には最初、私はネガティブな発言をします。「これコストかかるよね」とか。ウチの会社の商品会議では、1人の「熱狂」が会社を動かすんです。

 

バッグの刺繍。キティちゃんのリボンが小さく刺繍してあります

カバンを紹介するYouTubeチャンネルも運営。顧客の目の前でオーダーメイドバッグを制作

YouTubeチャンネル「カワニシカバンの休日」を拝見しましたが、自社のバッグを紹介するだけでなく、他社の商品を紹介したり、職人のバッグの中身を紹介したりするなどおもしろい企画ばかりですね。
YouTubeを始められたきっかけは何ですか?

最初は案件をスタッフが持ってきました。YouTubeはカメラが得意なスタッフが撮影してくれます。
Instagramのライブもしかりですが、私たちがまずやるべきことは、お客さまとのつながり作りだと思うのです。

では、ほかにお客さまとのつながりを作るためにどんなことをしていますか?

今やっているのは「カワニシカバンの出張」というイベントです。この間は東京のひっそりとした場所のカフェの2階を借りて行いました。
商品は持っていきますが、そこで商品は販売しません。イベントでは主に、カバンをつくる姿を目の前で見てもらいます。色やサイズなども選んでもらってその場でオーダーメイドカバンをつくり、手渡します。1日に6個限定で、価格は1万5000円。
商品を並べるだけのイベントでは10分くらい見て帰っちゃう場合もあるけれど、うちのイベントは人の滞在時間が長く、カバンを縫っている作業を3時間くらい眺める人もいました。開催前は人が集まるのか不安でしたが、4日間のイベントで、初日は100人ぐらい来てくれました。オーダーカバンは革を使ったので、場所代、交通費を払ったらマイナスですけどね(笑)。だから私1人で東京に行くのですが、片づけ作業もお客さまが手伝ってくださって感謝でした。
イベントでは対面でカバン作りの作業をみてもらったり、お話ししたりするなど、直接コミュニケーションをとることで、お客さまとの距離もぐんと縮まりました。

将来は武道館でイベントを。「すごい!」と言われたい

これからやってみたいことや、今後の展望をお教えください。

やってみたいのは500人ぐらいの規模のイベントです。それを大きくしていって、最終的には武道館でやりたいんですよ。
ウチのカバンが並んでいて、その前でモデルさんがファッションショーをやるなど、楽しめるイベントにしたいですね。
でも、「あの人、ホンマに武道館でやったで」ってネタになれば楽しいです。私がカバン工場の社長に出会った時の衝撃のように、周りから「すごい!」と言われたいです。最初は私が言われたいという思いでしたが、今は周りのスタッフが「すごい!」。そして、イベントの片づけまで手伝ってくれるお客さまも「すごい!」。これからもそういうつながりの連鎖ができるといいです。

これからクリエイターやモノづくりを目指す人にメッセージをお願いします。

Webデザイナーでも、モノづくりでも、とにかく「やってみればいい」と言いたいです。モノづくりで陥ってしまう失敗の多くがサンプルや試作品ばかりつくっちゃうこと。表に出さないと何もフィールドバックがない。やれば、誰かが何かを言ってくれる。
ただ、人の意見を聞いた方がいい時期と、流されずに自分の意志を持つ時期も必要です。ここも難しいところですね。私もこの振り子のような状況を何度も繰り返してきました。
それでもサンプルをつくっているより結論が出る。どんどんチャレンジしてほしいです。

取材日:2023年12月13日 ライター:宮脇 久代

株式会社カワニシカバンプロダクト

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