学生ならではの強みを生かし“広島おこし”で起業。地域を盛り上げるためにメタバースを活用

広島
株式会社ドラッグアンドドロップ 代表取締役
Tatsuya Matsuo
松尾 龍弥

インターネット上に構築された3次元の仮想空間「メタバース」を活用し、広島という地が抱える課題解決を通じて地域おこしに取り組んでいるのが、株式会社ドラッグアンドドロップ。代表取締役の松尾 龍弥(まつお たつや)さんが、広島工業大学情報学部(以下、広工大)の4年生になった年に起業し、コロナ禍の街を盛り上げようとメタバース空間で商店街を再現するなどして、地域の活気づけに尽力しています。現在も同大学大学院に在籍する松尾さんに学生起業の経緯や、広島で事業を行う理由、そして学生起業家がこの先にめざすことなどを伺いました。

コロナ禍で思いがけず生まれた空き時間。ビジネスについて考える余白が生まれた

広工大情報学部在学中に起業されたと伺いました。学生のうちに起業したいという思いは以前からあったのですか。

会社を作ろうと考えていたわけではないんです。大きなきっかけとなったのは、コロナ禍の自粛期間。最初の緊急事態宣言が発出された2020年春は2年生から3年生に上がるころでした。自粛期間中はやることがないというか、何かしたくともできることは限られていました。ただ、幸いにも役所は機能していたので、この機会にビジネスについて考える期間を設けてみよう、と。

これまでに広工大在学中に起業した方は?

聞いた話ではゼロです。私自身は「いた」と聞いて始めたのですが、よくよく聞いてみると実際は「起業を考えている人がいた」ということだったみたいで(笑)。あとで知って驚きました。

会社の立ち上げは1人で行ったのですか?

大学の仲間を含む知り合い4人で立ち上げました。進学や就職を機に一度は2人にまで減り、現在は新たに1人加わり3人で活動しています。

「メタバース」×「地域おこし」。地方でIT事業に取り組むことに価値がある

最先端のことに取り組むなら東京や大阪などの都市で、とは考えなかったのですか。

今の時代、逆に都市でやる意味はだんだん薄れてきているように思います。地方だからって何か不便に感じることはまったくありません。
最先端のことを東京でやるって普通で、あまりおもしろくない。一方、地方で何かIT系のことをやってみる、地方と協力することにはそれなりの価値があるんじゃないかと私は考えています。
広島は観光名所がたくさんあり、ポテンシャルは高いはずなのに、ほかの都道府県に追い抜かれている印象があります。魅力をうまく伝えきれていないな、と以前から感じていました。従来の方法にとらわれず、いろんな方向からアプローチして検証していくことが大事なのではないかと考えました。

それが「メタバース」×「地域おこし」の発想につながったのですね。

そうですね。私は大学1年生のころから「メタバース勉強会」に参加していて、もともと興味があった分野でした。メタバースに詳しい先輩とのつながりもあったので、メタバースで何かできないかな、と考えていました。そんななか、コロナ禍でシャッター通り商店街が増えているという問題を耳にして、商店街を盛り上げるためにメタバースを活用できるのでは、と。

VR空間で商店街を再現し、雑貨を販売。メタバースは「地域の魅力を伝えるツール」

22年3月に、VR空間に実際の商店街を再現して雑貨を販売する実証実験を行ったそうですね。手ごたえはいかがでしたか。

広島県が進める産官学連携の取り組み「ひろしまサンドボックス」という、デジタルを活用して地域課題解決にチャレンジする実証実験の場があります。私たちは、その一環である社会課題解決・イノベーション創出プログラム「RING HIROSHIMA」に採択され、「VR広島クリエイターズ商店街」を実施しました。広島の雑貨クリエイターによる作品の3Dモデルを制作し、再現したVRの商店街に展示。そして、ECサイトと連携し、3Dモデルと実際の雑貨を販売する、というものです。
私が当初思い描いた、広島の商店街をそのまま再現するという大規模なものにはできませんでしたが、アドバイザーの下定弘和さん(株式会社BRAVE UP)の伝手で一点ものの雑貨クリエイター複数名の協力を得て、実現できました。
VRで雑貨を販売するというのは、おそらく初めてのこと。そういう点では意味があることだったと思います。もう一つ、当時はメタバースが爆発的に普及しているわけではありませんでした。そんななかで、もともとこういう世界に興味を持っている人ではなく、パソコンを普段あまり触らないとか、高齢の方とか、そういった方が興味を示してくれたことも大きな成果だと感じています。VRって最先端技術でもエンタメ寄りなので、それが消費者の興味を引く要素になっている部分もあると体感しました。ゲームの要素をそれ以外の物事に応用する「ゲーミフィケーション」のような感じですね。

オンラインで交流して、商品を見ながらリアルタイムに買い物ができるという点ではライブコマースに近いように思いますが、それと比較してどんな魅力がありますか。

どちらもコミュニケーションツールを活用している点が共通していますが、違うのは2次元か、3次元か、という点。ライブ配信は2次元的な会話、メタバースは3次元的な会話ができると解釈しています。
ライブ配信はどうしても配信者対大多数の視聴者という構図になりますが、メタバースの場合は「あそこの人と話してみよう」と思えば近づいてあいさつできるし、「今度はあっちの人と話してみたい」と思えばまた移動して話をすればいい。メタバースは現実世界とほとんど変わらない形でコミュニケーションをとれることが魅力なので、地元住民しか知らないような地域の魅力を伝えるツールとして、メタバースの特長が大いに活躍すると考えています。

時代に合わせて社会の価値観は変わっていくもの、それに合わせて事業も変えていく

そのほかに、事業ではどんな取り組みを行っていますか。

会社の事業としては、個人から3Dモデル開発を請け負ったり、ドローンで空撮したり、そのほかITに関する細々とした相談事を受けたりとさまざまです。「こういうことをしたいけど、どうすればいかわからない」という疑問や悩みを聞いて、こちらで提案して制作したり、改善したりしています。
ただ、大きなプロジェクトとなると実証実験が多いです。23年には同じく「ひろしまサンドボックス」に参加し、LOMBY株式会社の配送ロボットの実装実験として、公道で走行テストを行いました。また、廿日市市の地域課題解決型DX実証実験「Hatch(ハッチ)」では、中山間地域の魅力をVRで伝え、関心を持つ人材を増やすための取り組みも。
基本的には実証実験をメインとする会社で、どんどん稼いでいこうというスタンスではないんです。利益を目的としないスタイルは、まだ学生だからできることかもしれません。

人とのつながりを大事に。でも「主体は自分」だと忘れないで

会社経営や事業を通じて、一番大切だと感じたことは?

起業するとなった時から、大学の先生や友達に出資してもらうなど、周囲の人とのつながりを意識しなかったことはありません。今広島県はDX推進に力を入れていて、「VRでやってやろう」「新しいことやろう」という人がたくさんいる環境があったのも追い風になりました。多分、これが5年前なら起業できていなかったかも。だから、タイミングと人には本当に恵まれました。
プロジェクトを通じて出会った方々は本当に親切で、相談すると「いいじゃん、やってみよう!」と多くの時間と労力を割いてくれました。すべて私1人では成し得なかったことです。

同じように新しいことにチャレンジしようと考えているクリエイターにメッセージをお願いします。

クリエイターはすでにいろんなことに挑戦していると思いますが、自分の作品を作ることだけでなく、人と関わることにも意識を向けてみると、もっとチャンスが広がるはずです。とにかく動いて言葉にしてみる。すると何かしらつながりができて、アイデアがわいたりするものです。
ただ、頼もしい人とのつながりができても、頼り過ぎないこと。自分の軸を見失いかねません。あくまでも主体は自分。つながりはできるだけたくさん作って、いろんな声を聞いてみるといいと思います。「この人に聞いても意味ないな」とは思わないで、とりあえず聞いてみたら何かしら発見はあるものです。
極端なことを言えば、技術はなくても気持ちと確固たる考えさえあればいいんです。鉛筆のようにどんどんとがらせていけば誰かに必ず刺さり、その人が何かを描いてくれる。モノや技術、アイデアも大切ですが、人とつながりはいろんな可能性を秘めています。その価値に気づいて、外にももっと目を向けてほしいと思います。

取材日:2023年10月17日 ライター:東 滋実

株式会社ドラッグアンドドロップ

  • 代表者名:松尾 龍弥
  • 設立年月:2021年4月
  • 資本金:50万円
  • 事業内容:ソフトウェア開発、販売
  • 所在地:〒731-3167 広島県広島市安佐南区大塚西7丁目8-28
  • URL:https://www.drag-and-drop.jp/
  • お問い合わせ先:080-2939-0012

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