グラフィック2023.02.01

広告で地元・香川や業界を、UP!UP!UP! デザインを通じて伝える「株式会社人生は上々だ」

高松
株式会社人生は上々だ 代表取締役社長
Murakami Moriro
村上 モリロー

鉄道広告や漁師飯のパッケージ、家具屋のブランドロゴ。香川県高松市牟礼町(むれちょう)の株式会社人生は上々だは、前向きで面白みのあるデザインやブランディングで、見る人を独自の世界観に引き込みます。代表の村上 モリロー(むらかみもりろー)さんは、京都のカフェや海鮮料理屋など数々の職を渡り歩いた末に、念願だったクリエイティブ事業の起業に至りました。村上さんのこれまでの歩みや将来への展望をお伺いします。

「デザインの仕事をしたい」という6年越しの想い

人生は上々だを設立されるまでの、村上さまのキャリアを教えてください。

高校は地元のデザイン科に進み、京都のデザイン短期大学を卒業したものの、就職氷河期だったので希望していたグラフィックデザインの仕事には就けず、服飾メーカーの販売員になりました。
それでも「やっぱり自分はグラフィックデザインの仕事がしたい!」と強く思い、転職を考えるも、就職先がなかなか見つからず…。服飾メーカー退職後の3年間は、京都の有名なカフェで調理師や警備員、ライン工など15種類くらいの職を経験しました。
25歳の時に父が倒れ、実家のある香川県高松市に戻りました。弟が父から受け継いだ、実家の料理屋を手伝うためです。1年ほど実家の料理屋を手伝ったところ、立て直しも上手くいったので、自分の仕事を探し、念願の広告制作会社に就職することができました。
広告制作に関しては、全て独学で行いました。

設立の経緯を教えてください。

念願の広告会社に勤めていたものの、30歳を迎える2007年には「デザインで食っていくのは難しいのでは?」と思い始めていました。
その頃、世界金融危機が訪れ、全国的に広告業界が勢いを無くしていた時期です。不景気になると、広告費は真っ先にコストを削られてしまうため、広告のお仕事だけでなく、代理店そのものも減ってきていました。
地方である香川では特に、「広告という形の無いモノにお金を出す意味が分からない」とおっしゃる中小企業が多く、広告に予算を充てる意味を理解している大企業は、大手の広告代理店が仕事を受けていることがほとんどです。
「仕事が無くなるかもしれない…別の生き方を考えるべきだろうか?」。そんなふうに考えていたところ、広告会社のクライアントから「担当してくれている君がいなくなったら、うちの広告はどうするんや?」という声に心動かされ、フリーランスとして独立しようと決心し、単身で3年ほど活動しました。
しかし新規で実績のないフリーランスに、企業はなかなか仕事を振ってくれません。そこで、仲間を増やし「会社」を興して、仕事を増やそうと考え、2013年に「スクルト」という社名で会社を立ち上げ、営業を雇うことにしました。

人生は上々だの前身である「スクルト」の設立で、困難だったことはありますか?

「スクルト」に入社してくれた社員へ給料を捻出する必要があったので、必死でしたね。とにかく仕事をもらえないと、社員へ給料を支払えないが、仕事がない。しばらくは、自分の給料ゼロでまわしていました。
ひと月で100件営業に回るローラー作戦を実行するも、労力に対して効果はイマイチ。「広告だけで勝負するのは、無理かもしれない…」と思うようになり、別の切り口を探し始めました。
今でこそ「ブランディング」という言葉がよく使われていますが、10年前の地方では、まだそういった概念は理解されておらず、「そんなもの必要ない」とまで思われていました。そんな状況だったので、最先端のブランディングを学ぶため、東京のセミナーに積極的に参加しました。学んだ内容を、香川で受け入れられる形に落とし込めば、地方の中小企業に理解され、役立てられるかもしれないと考えたのです。
どうしてブランディングが必要なのかを紐解いて、コツコツと伝えていきました。そのおかげもあり仕事が増え、セミナーの依頼も来るようになりましたね。

自分たちの姿勢を示すために挑んだ、社会実験の「社名変更」

社名を変更したのはどうしてですか?

当初はデザインでブランド力を上げようとしていましたが、ブランディングによってブランド力を上昇させる方向に会社がシフトしていったのが理由です。
ブランディングをしていると、コンセプトによっては「社名を変えましょう、ロゴを変えましょう、見せ方を変えましょう」というご提案をすることになりますが、クライアントは急激な変化を恐れ、二の足を踏むものです。
大きく変えたことのない自分たちが「変えた方が良いですよ!」と説明しても、説得力に欠けているのではないか。そこで、「こうした方が上手くいく!」ということを、自分の会社で証明しようと考えました。肉を切らせて骨を断つ、いわゆるブランドアクションというやつです。
自社をリブランディングした結果、遥かに業績も知名度も上がりました。「ほら、変えた方がええやん?」という姿勢を示せた事例のひとつです。

業務内容を教えてください。

ここ3年くらい、ブランディングのお仕事がメインになってきました。元々の主力だったグラフィックデザイン、Webデザイン、パッケージデザインのご依頼も行っていますが、PR手法を考え戦略を練る…といった、ブランディング関連のお仕事が多いですね。
中小企業の基礎体力を付けるため、コンセプトや目指すべき目標を考え、その内容に沿ってロゴや企業名・商品名などのイメージを「覚えられたい姿」に変えていくお手伝いが得意です。

依頼の領域を超え、企業の良さを最大限に引き出す

株式会社ホリ「Manma」パッケージデザイン

関わったお仕事で、印象的だった内容を教えてください

「Manma」というブランドを作らせていただいた、天然の冷凍魚介を扱う「株式会社ホリ」のブランディングです。リブランディングの最初から関わらせてもらったので、どんな問題が起こって、どんなふうに対応したら、どんな変化が起こるか…全部見せてもらった仕事で、印象に残っています。
当初は「既存の取引先が減ってきたので、小売のWebサイトを作り、新規顧客獲得を目指したい」という、ECサイト制作のご依頼でした。
先方には、もうすでにECサイトの構想があったのですが、お話を聞いていたら「ちょっと待てよ」と。もちろん指示通りにECサイトを作ることは可能ですが、それではターゲット層に刺さらないのではないか?と感じたのです。
ターゲットとなる主婦層は、どんなことを考え、どんなことを求めているのか?それらを踏まえ、天然で無添加にこだわってきたその企業の「そのまんまがええんや」という先代の言葉を踏襲し、ブランドを「まんま」とするご提案をさせていただきました。
天然・無添加そのまんまの、まんま(母)が用意する、子どものまんま(ご飯)というコンセプトで、Webサイトも商品パッケージも全体的に柔らかく、丁寧でナチュラルな雰囲気をイメージしました。我が子には、できるだけ身体に良いモノを食べてほしいと思う主婦層に刺さり、これまでは99%が卸しだった売り上げが、今では、半分以上が小売りとなりました。
企業全体の売上高も上昇しており、リブランディングに成功した事例のひとつですね。
現在も引き続き、ブランディングコンサルティングのお仕事をさせてもらっています。

「伝える」と「伝わる」の違いを念頭に置いた「アイデアファースト」が主軸

クリエイティブにおいて、大切にされている考え方を教えてください。

「アイデアファースト」ですね。上司部下の立場も関係なく、たとえクリエイターでなくても「その場で一番優れたアイデアに従う」というのが、会社のポリシーです。
例えば手書きのPOPで売れるなら、それでOK!もちろんクオリティは大事ですが、アイデアが大事だと考えています。
あとは、「伝える」と「伝わる」の違いを理解して業務を行っていますね。
「伝える」はエゴで、伝わるかどうかは受け取り手次第。「伝える」をどれだけ頑張っても、伝わっていなければ、意味がありません。「伝わる」には、メリットを訴求するだけでなく、相手の感情をくすぐる必要があります。
我々の扱う「デザイン」というものは道具です。使用する側が、どういうものなのかしっかりと理解していなければいけません。ゲームに例えると、最強の剣であったとしても、非力なキャラクターでは扱えないですよね。そのキャラクターのレベルはどのくらいなのか?現時点で使える武器は何か?目的のために、別途どんな道具を作る必要があるのか?
それらを考慮したうえで、「人生は上々だ」でしか出せない「コアアイデア」を大切にしています。

一緒に働くスタッフに対して、会社としてどのようなことを求めますか?また、どんなクリエイターと働きたいですか?

大前提で、クリエイティブなことが好きな人ですね!また、クリエイターは究極のサービス業だと思っているので、クリエイティブで人の役に立ちたい!と思う人と一緒に働きたいです。
「どうやったら分かってもらえるだろうか?」「どういった考え方をしたら、先方の役に立てるだろうか?」。そういったことを常に考えながらアイデアを練り、制作しないと、伝わるものも伝わりません。クリエイターは、ホスピタリティが必要だと感じています。
クリエイティブな仕事は、良いものをつくることによって、人生を良くするところが面白いです。クリエイターが良くなれば、お客さんが良くなり、ユーザーも良くなる。また、自治体の仕事も多いので地域も良くなる。
自分たちの仕事で、色んな人が良くなっていくと嬉しいですよね。同じ志を持つクリエイターさんを探しています。

「デザインとは何なのか?」を考え、香川を底上げ

今後の展望をお聞かせください。

「デザイン・メディエイション」を目指しています。
「デザイン・メディエイション」とは、簡単に言えば、デザインと企業の仲介ですね。自治体や学生たちに、デザインの重要性を分かってもらうための活動です。
年々、制作だけではなく、ブランディングやコンサル、プロデューサーとして打ち合わせに入ってほしいという要望や、セミナーをしてほしいという要望が増えてきました。
「そもそも、デザインとは何なのか?を知ってもらい、広める活動が必要ではないか?」と感じたので、講演や講義、セミナーなどを行おうと思っています。デザイン起点で新しく事業を起こし、「デザインを作り、伝える」ということを考えてもらいたい。
事例のひとつとして、現在、社外10名くらいのクリエイターを集めて「瀬ト内工芸ズ。」というチームを作り、キャッチコピーを競う「平賀源内甲子園」を行っています。
審査には、東京で活躍しているプロのコピーライターを招き、一般はもちろん、中学・高校生にもキャッチコピーを考えるという概念が生まれる、素晴らしいイベントとして知られています。毎年注目されるようになり、今年で8年目を迎えました。香川県の業界の底上げ、業界を知ってもらうために行っていたのですが、社会・地域貢献にもなっていたようです。
また、この取り組みは弊社のブランディングとPR活動にも一役買っていました。「来年も開催してください!」という声も多いので、今後も続けていこうと思っています。

地元で働きたいと考えるクリエイターへ向けて、香川・四国で働く魅力を踏まえてメッセージをお願いします。

地方で仕事をする方が、カッコよくないですか?地方だと経営者さんと直につながるお仕事がほとんどなので、結果がすぐに分かるし、成功すると目立ちます。そうやってどんどん変えていけるのがうれしいし、楽しい!
実際、高松でも目立つ、面白い仕事がどんどん増えていますし、ウチの仕事が面白い!と声を掛けてもらうケースも多くなりました。
デザインの仕事は学生時代からずっと憧れていた仕事でしたから、業界そのものを変えたいと思っています。そのためにも、地方で頑張ってくれるクリエイターが増えてくれると、業界全体の活性化になってうれしいです。
難しいといわれる地方で抵抗して、面白いことをしでかした方がカッコいいですよ!こっち(地方)で成果をあげたら、もっと凄いよ!と思いますね。
現在は、クライアントに喜んでもらえる良いモノを作るのに、規模も、制作する場所も、関係ありません!ぜひ、地方も活動拠点の視野に入れてみてください。

取材日:2022年12月1日 ライター:山口 夏織

株式会社人生は上々だ

  • 代表者名:村上 モリロー
  • 設立年月:2013年9月
  • 資本金:223万円
  • 事業内容:ブランディング(企業/事業/商品/施設/店舗/地域)、デザイン(グラフィック/ロゴ/パッケージWEB/ムービー/プロダクト/ファッション/空間)、開発・プロデュース(事業/商品/施設/アート)、コミュニケーション(広告/PR/デジタル/SNS)、地域や行政機関などの課題解決、クリエイティブ領域における各種コンサルティング、セミナー・講演・講義、販路開拓支援事業、EC事業、MD事業
  • 所在地:〒761-0121 香川県高松市牟礼町牟礼261-2
  • URL:https://jinseiwajojoda.com/
  • お問い合わせ先:087-845-0007

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