プロダクト2022.08.03

地元・宮城の地域材を使い「生活に寄り添う家具」をつくる 持続可能な社会を目指す職人たち

仙台
株式会社 クラスコファニチャー代表取締役
Tomohide Shimanuki
島貫 友英

宮城県仙台市の西部、温泉郷や自然豊かな景勝地で知られる秋保町に、家具工房とショップ&ショールームを構える「株式会社クラスコファニチャー」の代表取締役・島貫友英(しまぬき ともひで)さん。地元である宮城県にUターンし、地域材を使ったオリジナルの家具や道具づくりに取り組んでいます。2005年に1人で家具の製作・販売を始めて、現在は従業員16人を抱える会社に成長。人と会社を育てながらグローバルなスタンスで持続可能な社会の実現も目指すなど、新たな挑戦を続ける島貫さんにお話を伺いました。

海外旅行で見た山間の工房に憧れて、家具職人を目指す

家具の製作を仕事にするきっかけを教えてください。

大学を卒業してから約2年間ヨーロッパ、アジア、中東、アフリカなど40カ国ほど旅をしました。旅の中では、ベトナムやバリで家具工場を見たり、ニュージーランドの田舎でヒッチハイクをしたときに知り合ったイスラエル人が自分の工房を案内してくれたりと、山の中の工房でさまざまな国籍の人が働くのを見て「かっこいいな」と思い、私もいつかこんな工房を作りたいと思いました。
そして帰国後、そろそろ仕事を探そうとハローワークに行くと、たまたま家具作りの基本を学べる公共職業訓練校のチラシを見つけて、ぜひこの分野を学びたいと思ったことがきっかけです。
手先は器用ではありませんでしたが、好きなことを仕事にしたい気持ちがありましたし、職人のように何かをコツコツ作ることに憧れがあり、家具職人になりたいという気持ちが芽生えたんです。

会社員時代は枠にとらわれない社長の元で、基礎を身につける

職業訓練校で学び、家具作りの仕事に就いたのですね。

大阪にある職業訓練校で1年間基本を学んだ後は、もっと修業したくて家具作りの仕事を探しました。場所にこだわりはありませんでしたが、地元の仙台市で店舗の内装や家具を製作する「有限会社OGATA(オガタ)」に就職が決まり、Uターンしました。
最初は、先輩の家具職人が作った椅子の表面を研磨するサイディング作業など、補助的な単純作業からスタートし、何度も同じことを繰り返して基本技術を習得しました。手取り足取り教わるより見て覚える時代でしたが、明るくて面白い人がいっぱいいる良い環境で学ぶことができました。
特にOGATAの社長には、精神面ですごく影響を受けました。私は、ここまでしかできないと限界や枠をつくってしまう性格でしたが、社長はなんでも作れるという考え方だったんです。木工に限らず鉄でもステンレスでも何でも使う、家具屋なのに家まで作ってしまうくらいチャレンジ精神が旺盛で、尊敬しています。

一人で気楽に始めた家具の製作。今は16人の従業員を抱える会社に

その後、独立して会社を立ち上げたのですか。

その会社で3年ほど技術を磨いた後、独立することが当初の目標でした。自分が思い描いた作品を手作りする木工作家になりたかったんです。そして2005年に、宮城県名取市に拠点を置いて一人で家具の製造・販売を始めましたが、今のような組織になるとは想像もしませんでした。
私は一つのことを始めると長続きする性格なので、家具作りは一生やり遂げる仕事だとは思っていましたが、毎月15万円程度、自分が食べられるだけ稼げればいい、あとは好きなときに休んで、たくさん海外旅行をしたいと思っていました。
また、当初は無垢材を使って自分の好きな家具を作りたいと思っていましたが、商売としてはなかなか難しく、甘い考えだと分かりました。店舗の家具や陳列家具といった什器を作り始めると、会社が軌道にのり始めました。それに伴い、毎年1人ずつスタッフが増えるようになると、できることが増えて、2012年に7人位になったタイミングで社会的信用も考えて法人化しました。

2015年には現在の秋保町に移転されましたね。

さらにスタッフが増えたので、秋保町に工房を移転しました。敷地が広く、今は従業員が16人います。秋保はイメ―ジしていたよりアクセスが良く、便利で緑が多い街です。同じようにモノづくりをしている作家が多く、モノづくりに適した場所だと思います。毎日こういう場所にいて仕事ができることは、とても幸せです。
工房の隣にはショールーム兼ショップを作って、木の器や鳴子こけし、樺細工、ジュースやジャムなど、東北の作家さんが手がけた「東北の手仕事」の商品も販売しています。それほど有名ではないけれど、丁寧にしっかり作り込んであり、ある程度の量を供給できるような……。私たちと似たようなスタンスの商品をセレクトしています。
工房をもう一つ作ったのは、観光客に来てもらって、木工を体験してもらいたいと思ったからです。秋保町のモノづくりとのコラボを増やしたいし、やりたいことはたくさんありますね。

無垢材の家具もフラッシュ家具も作れる強み 「今あるものになじむ」家具を

現在の主な事業、御社の強みを教えてください。

事業のメインはフラッシュ家具という合板を使った家具の製造です。工業製品なので、自然条件に左右されずに品質が均一化され、量産が可能ですし、コストを抑えることができます。そんな商売の現実的な面とは別に、無垢の素材感なども大事にしています。一点ものなど、オリジナルデザインで作家感、特別感を醸し出し、クラスコファニチャーらしさを出しています。
今は、一般住宅やマンションの新築、リフォームが8割、店舗が2割くらい。無垢の家具だけ、フラッシュの家具だけ、店舗の家具だけを製作している会社は他にもありますが、無垢の家具もフラッシュ家具も店舗の家具も作って、ある程度の規模がある会社は宮城県では弊社ぐらいでしょうか。また、この規模でデザイナーがいる会社は少ないと思います。
家を作ってほしいと言われることもありますが、家具屋であることにこだわりたい。丈夫で耐久性が高いものを作るのは当たり前で、デザイン性にも優れた家具を作りたいですね。ただし、芸術品ではなく、生活に寄り添う家具をテーマに、奇をてらわない、今あるものになじむものを作っています。
強みは、それぞれ特技を持った職人がいるので、お客さまからの要望に対応できるバリエーションが広いことですね。

どんなときにやりがいを感じますか?

好きな仕事をして、お客さんに喜ばれる。仕事を通してスタッフが成長し、その報酬を元に設備投資をする。そういった循環をつくれるのはやりがいを感じます。
また、法人、ハウスメーカー、工務店といったお客様に繰り返し仕事をいただくことは、気に入って評価していただいている証だと思いますし、やりがいにつながりますね。
以前、ある家具屋さんに客として買い物をしました。そのときに接客してくれた方から初めて、“家に合わせた家具作り”を依頼されました。それまでは他社がプランニングしたものを手がけていましたが、生活スタイルをヒアリングした上で、いちからプランニングして、造作収納などを製作したらとても喜ばれたことが印象に残っています。

仕事での課題はありますか?

課題の一つは、仕事の平準化です。受注の波が季節によって激しいため、引っ越しシーズン前には仕事が増えて受注に追いつかず、創業当時は徹夜しながら作ることも多くありました。
今は働き方改革で長時間の残業ができません。外注する方法もありますが、ちょっとしたミスがお客さんにとっては致命的になることもあり、クオリティを保つためにも自社で作りたいんです。そのために人を増やして受注の波に左右されない体制を作ろうと考えています。
もうひとつも平準化につながりますが、今私がやっている仕事をできる人、後継者を作ることが課題です。普段は設計や取り付けを担当していて、忙しいときは家具作りもできるような人をどんどん育てていかないといけない。次々と新しい課題や障がいが生まれるので、手探りでやっています。

地域材やヴィンテージ家具の活用で持続可能な社会を目指す

今、新たに取り組んでいることはありますか?

宮城県の材料、工房で家具を作りたいというニーズはすごく多いのですが、宮城県はそこまで林業が盛んではありません。スギなどの針葉樹はありますが、家具作りに欠かせない広葉樹は粉砕されて紙の材料やチップ、薪になってしまうことが多いのです。私たちから見たら、非常にもったいないこと。どうしたらいいかと探していたときに、登米森林組合と出会い、宮城の木材で家具を製作できるようになりました。同じデザインでも、アメリカ産ではなく宮城県産を使うのは地産地消という意味でも価値があります。 また、新たな取り組みとして、ヴィンテージチェアの取り扱いを始めました。仙台市にある、主に北欧のヴィンテージ家具を輸入して直している業者さんと知り合ったのがきっかけで、価値がある美しいヴィンテージの椅子と弊社で作ったテーブルを組み合わせて販売しています。良いものを修理して使い続けることが、持続可能な社会を実現する手助けになると思います。

平均年齢30歳前後の若いスタッフさんに期待することは?

若手は何事もトライ&エラーです。必ず同じようなことで失敗しますが、何度もアドバイスをします。その後は失敗の経験を活かして、成長していくことを期待しています。 スタッフの採用基準は、家具作りに意欲がある人、美大卒やデザインや設計などの経験者が主です。家具作りというとすてきなイメージを持つ人もいますが、実際やってみると大変なこともあります。スタッフは、22歳~35歳くらいが多いですが、長く働いてもらえるように機械のデジタル化なども取り入れていこうと思っています。

これからはプライベートも謳歌する時代 やりたいことにチャレンジできる会社へ

これからどんな会社にしていきたいですか?

自分がいなくても持続可能な会社にしたいです。自分が修業したときは、忙しくて休みが取れず、子どもの授業参観にも行けず、つらいこともありました。しかし今は時代が違うので、休むときは休んで人生も楽しむ、オンとオフのバランスは大事だと思っています。なおかつ、やりたいことにチャレンジできる会社にしたいです。 1人でやるよりも、組織が大きくなって、みんなでやった方がいろいろな意味で充実した人生を送れると思います。そんな“公の器”みたいな形になればと思っています。

最後に、クリエイターを目指す方にメッセージをお願いします。

クリエイターは、職人の力とは違った価値を与えてくれる存在。私たち職人が作るものは機能的なものですが、そこにクリエイターが加わることで、機能的で美しいものができます。職人が1人増えると9が10になるとしたら、クリエイターが1人加わると10が20になるくらい、想像もしない広がり方をするんです。今後も、そういう方々の採用を増やして、一緒に家具作りに取り組んでいきたいと思っています。 簡単なことではありませんが、まずはやってみる。そして、やめないで続けていくことが大事です。やめなければ失敗ではないので、うまくいかないことがあっても続けて、最後に笑えればいいと思いますね。

取材日:2022年6月28日 ライター:佐藤由紀子

株式会社クラスコファニチャー

  • 代表者名:島貫 友英
  • 設立年月:2012年10月(2005年創業)
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:家具の製造・販売、建具・造作家具の製造、取り付け工事
  • 所在地:〒982-0242 宮城県仙台市太白区秋保町境野字上戸33番6
  • URL:https://www.classoco.com/
  • お問い合わせ先:022-724-7869

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