ゲーム2021.08.25

名立たるビッグタイトルを手掛けるデザインスタジオ・キャラバンズの強みに迫る! 「感動体験を作る」って何?

東京
株式会社キャラバンズ 代表取締役
Yasutaka Kaneshige
金重 保貴

現在9期目のゲームグラフィック制作会社「株式会社キャラバンズ」。そのWebサイトにある制作実績には、任天堂の「Ninjara」や、セガの「新サクラ大戦」、スクウェア・エニックスの「NieR Replicant」など、ビッグタイトルがずらりと並びます。

現場では各社からの依頼が重なり、仕事を受けられないことも少なくないそう。その人気の秘密は何なのか。そして、キャラバンズが社是として掲げる「感動体験をデザインする」とは何かを代表取締役社長の金重 保貴(かねしげ やすたか)さんに迫りました。

 

CGを含めた”体験”を納品できる、明確な他社との差別化

株式会社キャラバンズを立ち上げるまでは、どんなお仕事をされていましたか?

CG業界に来る前は、家具メーカーで設計の仕事をしていました。でもバブルが弾けて、家具が売れなくなったときに、積み上がった在庫(家具)を目の当たりにして、実在する材料を使ってものづくりすることに限界を感じ、デジタルの業界に飛び込んだんです。

最初は映像業界に入って、CM、映画やテレビ番組のCG制作にたずさわりました。でもそこで分かったのは、今の仕事ではその先に私が目指したいキャリアがないことでした。

つまり、映像業界のCGデザイナーは、CGパートのディレクターや責任者にはなれるけど、全体を演出する監督やプロデューサーにはなりづらかったんです。そんな壁を感じていたとき、ゲーム業界からお声をかけてもらいました。当時、ゲーム業界はまだ歴史が浅いこともあったのか、「やる気があるのであれば、明日から演出をやっていいよ」って言っていただいたんです。二つ返事でゲーム業界でチャレンジすることを決めました。

そうして、ゲームパブリッシャーで働き始めたのですけど、残念ながらその会社は倒産してしまったんですね。

当時、私はデザイン部門の責任者になっていて、そのデザイン部門には所属デザイナーが約60人いたんです。

せっかく多くのデザイナーと知り合えたのに、このまま離れてしまうのはもったいないと考え、会社が倒産すると判ったときに、当時の社長と話して、新しく会社を設立したい、そして辞めていく社員の中で、希望者を受け入れさせて欲しいとお願いしました。最終的に、私がキャラバンズを起業した後、そこに10人ほどのデザイナーがジョインしてくれました。

現在の事業内容をお教えいただけますか?

主にゲーム業界の3Dデザインの受託開発業務を行っています。それからもうひとつ、オリジナルコンテンツの開発販売業務があります。

まず3Dデザイン受託開発業務についてお伺いします。現在は、名立たるゲームメーカーのビッグタイトルを手掛けていらっしゃいますよね。言葉が悪いかもしれませんが倒産から、大きく活躍する企業への転身はなぜ成しえたのでしょうか?

私たちの強みは、単にCG素材を納品しているのではなく、CG素材を含めた”体験”を納品していることです。

例えば、普通、CGの受託制作業務はクライアントから仕様書を提供されないと作業に取り掛かれないと思うんですが、私たちはデベロッパーやパブリッシャー出身者が多いので、この仕様書制作も仕事として受注できるるんです。つまり、顧客に「便利だな」と思ってもらえる体験を用意しているんです。

もちろんこれは体験の一例で、キャラクターのルックやワークフローの提案が必要であれば提案しますし、ツールが必要であれば、ツール制作も行います。プログラマーやプランナーと連携し、外部委託会社としてではなく、ゲーム制作チームの一員として、立ち回ることもできます。

つまり、ゲーム制作の中で(従来クライアントで行わなければいけない業務を含め)、デザインに関する業務のほとんど全てを引き受けることができるのです。そこが差別化であり、私たちがお声がけいただける大きな要因のひとつかなと思います。

もうひとつ理由を挙げるなら、横のつながりが大きいです。元同僚たちが様々な会社で活躍しています。彼らは、私たちがどのようなスキルや能力を持っているのかを知っているので「キャラバンズ」なら任せられると思ってもらっているようです。

信頼があるんですね。

そう思いたいですね。当時同じ会社にいたときは、クオリティの高いものを作りたい私たちは、予算を管理している彼らとよく揉めていたのですが、今となっては、そのものづくりに対する姿勢を評価していただいているのかもしれません。

 

「顧客の求める体験を提供できるか」でジャッジする

受注案件の優先順位は、どのように判断するのでしょうか?

まず案件を受けるか決めるとき、クライアントやユーザーがそのゲームに何を求めているのかをヒアリングさせてもらいます。

私たちの最終目標はCG素材を納品することだけではありません。制作環境を整え、ゲームのアセットを制作し、それが適切で面白く、きちんと販売に寄与し、それがまた次回作につながって、ユーザーやクライアントに喜んでもらえる連鎖を作ることです。

そう考えてプロジェクト全体を俯瞰視したときに、クライアントやユーザーの求める体験を提供しづらいと判断したときには、魅力的な仕事であっても、お断りすることがあります。

キャラバンズの社是は、「感動体験をデザインする」こと。それを実現するために、クライアントやユーザーが何を求めているのかを必死に考えること、そしてそのための適切な努力をすることが大切だと思うんです。社内でもそういう教育や、雰囲気作りを重要視しています。

プロジェクトをグラフィックだけでなく、総合的に捉えていらっしゃるんですね。

私たちは、できる限りゲームの企画書を見せてもらっています。ターゲットが誰で、いつ発売で、どんな展開をしていくのかを教えてもらうんです。
本当はキャラクターモデリングの仕事なら、キャラクターのデザイン画と仕様書があればできるはずなんですよ。
だけど私たちはゲームについてできる限り全部聞く。そのうえでより良くできるところがあれば、提案もしているんです。

提案もされるんですか?

実は提案型の仕事を望まれることが少なくないんです。ゲームパブリッシャー・ディベロッパーでは、簡単にゲームを発売できる訳ではなくて、決裁権がある人たちに向けて、まず企画のプレゼンテーションをして、それを元に試作品を制作し、それぞれの規定をクリアしたものだけが、業務としてライン化されていくことが一般的です。

私たちは、その試作品の作成からお手伝いさせていただくことも少なくないんです。そして、この試作品作成時には、まだ決まっていないことが多いので、必然的に提案型の仕事を求められるのです。

クライアントさんと密接なお付き合いをされているというか、ワンチームになる印象を受けますね。

そうかもしれないですね。コミュニケーション能力が高いスタッフは、お客さまのところに入り込んでいってくれます。

そうすると、次回からはそのスタッフに指名で仕事がくることも多いんですよ。うれしいですね。私たちは技術はもとよりそういった「クリエイターの個性」も「体験」として提供しています。キャラバンズでは、「個のチーム化」と呼んでいるのですが、チームワークとともに優れた個性の集まるスタジオを目指しています。

 

キャラクターを一番輝かせる「プラットフォーム」を作りたい

オリジナルデジタルコンテンツの開発販売業務についてお聞きします。デザインスタジオが、オリジナルコンテンツとして「先端技術を使った遊べるもの」を開発販売されているのは珍しいのではないでしょうか?

開発を決めた理由のひとつは、とあるテーマパークのライドアトラクションの待ち時間でした。例えば2時間並ぶにしても、そこにイメージキャラクターがいてくれたら、写真をとったり、簡単なゲームをしたりすることで、待ち時間が待ち時間じゃなくなると思うんです。リアルにキャラクターを登場させるのは、色々と難しいと思うのですが、デジタルだったら、可能だと思うんです。

現在、弊社のデジタルアトラクションはいくつかのショッピングモールに設置されています。今後は、ゆるキャラなど、既にキャラクターが存在している会社や自治体にも提案したいですね。

例えば、親御さんが市役所で手続きをするあいだ、子供たちの興味を引くためのコンテンツであったり、キャラクターショップに定期的にスペシャルゲストとして現れ、ショップの集客に寄与するためのコンテンツを目指しています。

つまりコンテンツに使うのは、御社のキャラクターじゃなくても良いんですね。

例えばサンリオさんがキティちゃんでやりたいって言ってくれたら、願ったり叶ったりです。弊社はキャラクターを作りたい企業だとよく勘違いされるんですけど、それは正しくないんです。私たちは「体験」を売りたいので。ただ、企業や団体の中には自分たちのキャラクターを持っていない方も多いと思います。

キャラバンズという名前の由来は、「キャラクターバンクス」――キャラクターをいっぱい作って、色々な楽しいことができると良いよねという願いです。だからキャラクターがいない場所には、私たちのキャラクターを使って頂けるように用意しているのです。

私たちは、キャラクターを一番輝かせる「プラットフォーム」を作りたいんです。そして、キャラクターとともにある「体験」を作りたいんですよ。

 

ポートフォリオの構成も見て人柄を想像する

CGで体験を作り、さらに先端技術も扱うなんて求人が難しそうです。一緒に働くスタッフに対して、どんなことを求めていらっしゃいますか?

最初からクライアントやユーザーの立場になって物事を考える力を求めるのは、なかなか難しいですよね。

私たちが考えるのは、ちょっと感覚的な話になってしまうのですが、最低限の技術力を満たしたうえで、その人と一緒に働きたいと思えるかどうかです。あとは、誠実に仕事をしてくれるかどうかですかね。

会話だけでは分からないので、ポートフォリオからも誠実さを計っています。実は私たちは技術点だけじゃなくてポートフォリオの構成も見ているんですよ。

例えば、募集職種にふさわしい順番に作品が並べられているのか、私たち読み手が読みやすいような工夫がされているのかどうか等を評価しているのです。

ちなみに弊社では、新卒も中途も最初の1年間は契約社員でしか採用していません。これは、「実際に働いてみたけれど、キャラバンズが合わなかったら、契約更新をしなくてもいいよ」というポイントというか節目を作っているんです。ポイントを作らないと、1年目の新人は言い出し難いと思うんです。

私たちは自分たちの技術力を信じているし、新人教育もしっかりしていると自負しています。おかげさまで今のところ、新入社員の100%が1年後に正社員になってくれています。

1年目の離職率が0%ということですね。驚きです。

良く言えば手厚く、悪く言えば甘いのかもしれませんね。新人用のプロジェクトを用意して、納品物がある仕事をしてもらっています。

ちょっと実力的に心配な面があっても、まずはやってもらいます。裏で先輩が同じものをやっていたり、通常よりスケジュールを増やしたり、必要なケアをしながら進めています。

ずばり、今欲しいのはどんな人材ですか?

私が思うに、最近は良くも悪くも作りたいものがない人が多いんですよ。

「なんとなくゲームが好きだから、この業界を受けてみました」みたいに、職業の一つとしてCGデザイナーを選んでいる感じなんです。だから職業として仕事をする人よりも、面白いものを作りたい、すごいCGを作りたいみたいに、何か作りたいものがある人と仕事がしたいですね。

作りたいものがしっかりあって、しかも個性あふれる人だと尚いいですね。個性あふれる人は、オリジナリティあふれるものづくりをしてくれそうです。(ただし、最低限のコミュニケーション能力は求めますが。)あとは長く弊社で働きたいと思ってくれる人に来てもらいたいです。

 弊社では、早い人は新卒から2~3年目でマネジメント業務をし始めるんですよ。もちろんクオリティやスケジュールのバランス感覚や、コミュニケーション能力も求められるので、全員がマネジメント職につける訳ではないですが。逆に30歳40歳になっても現場で仕事をしたい人は現場で活躍できる環境があります。

希望に応えてもらえる社風なんですね。今後どのような会社にしていきたいと考えていますか?

私たちはデザインが持つ魅力やパワーを最大限に引き出したいと考えています。でも、ゲーム業界のデザインスタジオって、ただリソースを作るスタジオになってしまいがちなんです。

なので、まずリソースを作るだけのスタジオにならないように、体験を作ることに、より一層フォーカスしていきます。

そして、最終的に自分たちをブランド化していこうと考えています。例えば、アニメ製作会社だと自分たちのIP(知的財産)じゃない作品でも、その製作会社が神格化されることがありますよね。

そんな風に会社をブランディングして、ユーザーやクライアントに「キャラバンズが関わっているゲームは良い」と認知してもらえたら、ゲームクオリティや売り上げにもっと貢献できると思うんです。

私たちは「体験」は作っていくけれど、今のところゲームパブリッシャーやデベロッパーになろうとは考えていません。これからもできる限りデザインという手法にフィーチャーして、キャラバンズブランドを高めていきたいですね

直近の具体的な目標はありますか?

弊社は現在社員30名弱のスタジオなので、多くの案件を受注できる訳ではありません。現状ではせっかくの仕事依頼を断ることも少なくありません。

そこで直近の目標は、2025年までに社員を50人程度に増やすことです。おそらくこれくらいの規模になれば、今よりも多くの体験を作ることができ、次のチャレンジができるはずだと考えています。

だからまずは人数を増やしながら、次にできる施策を考えていきたいですね。

取材日:2021年7月9日 ライター:渡辺りえ

 

株式会社キャラバンズ

  • 代表者名:金重 保貴
  • 設立年月:2013年6月
  • 資本金:10,000,000万円
  • 事業内容:ゲームグラフィックス受託制作(2/3DCG、ドット、演出等)/オリジナルコンテンツ受託制作/ムービー、Web、ゲーム等、オリジナルコンテンツの企画、制作、ライセンス事業/キャラクター開発、ライセンス事業
  • 所在地:〒103-0016 東京都中央区日本橋小網町9-3 CANAL TOWER 6階
  • URL:https://www.charabans.co.jp/
  • お問い合わせ先:infoweb_cbs@charabans.co.jp

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