第6回 FFF-S 最優秀賞 村主匠人さん「評価されることを恐れないで」

Vol.228
第6回 FFF-S 最優秀賞
Takuto Muranushi
村主 匠人

未来を担う学生クリエイターのための短編映画祭「フェローズフィルムフェスティバル学生部門(以下、FFF-S)」。国内の学生を対象にしたこの映画祭では、毎年さまざまなジャンルの映像作品が集まり、賞に選ばれた作品はテレビ番組を通じて広く世に発信されます。

2024年7月1日より、第7回FFF-Sの募集が開始されます。今回のFFF-Sでは、作品規定が従来の「4分間」から「4分以内」に変更。より映像の自由度が高まりました。最優秀賞作品はBSデジタル放送の番組にて全国放送されるほか、賞金50万円が贈られます。

今回は、第6回FFF-Sで最優秀賞を受賞した村主 匠人(むらぬし たくと)さんにお話を伺います。116の応募作品の中から選ばれた、村主さん監督の『Pur(ピュア)』。作品との向き合い方を、詳しくお聞きしました。FFF-S挑戦を考えているクリエイターにメッセージもいただきました。

FFF-Sに3回応募。最後の挑戦で最優秀賞を獲得

本日はよろしくお願いいたします。まずは、第6回FFF-S最優秀賞、本当におめでとうございます! 最優秀賞に選ばれた瞬間は、どのような気持ちでしたか?

ありがとうございます! 最優秀賞に選ばれた瞬間は、やっぱり驚きました。そして、それ以上によろこびでいっぱいでした。

今回応募した作品は、ナレーションを主体にして物語にあいまいさを加えたものです。一般的には、明確な起承転結があるほうが評価されやすいと思います。でも、FFF-Sは学生の想像力の幅を重視してくれました。この作品で賞を取れたことが、とてもうれしかったです。

村主さんは、FFF-Sに3回応募していますよね。大学1年生で優秀賞を受賞し、大学2年生で観客賞を獲得しました。そして、大学4年生でついに最優秀賞を受賞。応募を続けた理由は、なにかありますか?

最初に応募した時から、「最優秀賞を取りたい!」という気持ちが強くあったんです。今回、学生最後のチャンスで最優秀賞を受賞できたことは、自分の人生の節目になりました。

あとは、シンプルに受賞発表の場にまた行きたかったんです。FFF-Sは学生のための映画祭なので、映像作品と向き合っている同年代が集まります。その人たちと交流できることは、僕にとって刺激になるし、単純に話していて楽しいんですよね。

大学1年生、2年生、そして4年生と応募を続けて、結果的に最優秀賞を獲得したことは本当に努力の結晶だと思います。

大学3年生の時も、応募の意欲はありました。ただ、その時期、自分の人生の中ではじめての経験が多くあって。人間関係や友人との死別、生きることに対しての葛藤と直面した結果、自分自身や映像作品とゆっくり向き合う時間が必要だと感じたんです。

1年間、この世の真理は? 生きる意味は? など、自分の心と真正面から向き合いました。普段は読まない本を読んだり、いろいろな国に足を運んだり。思考を巡らせるうちに、人それぞれ抱えているものは違っても、感情の部分で共感できるところはあるんじゃないかと思って……。考え続けて得た思いを、今回の作品にすべて注ぎ込みました。

作品作りと距離を置いた結果、より作品に深みが増したんですね。村主さんが監督を務めた『Pur(ピュア)』は、映像美も審査員に高く評価されていました。

映像の中には、海外に足を運んだ際に撮り溜めていたものもあります。作中で出てくる川は、インドのガンジス川。「美しいな」「いいな」と思ったものを、形に残しておくことが多いんです。もちろん映画のために新しく撮影したシーンも多くありますが、それに加えて、過去に撮影して自分が心を動かされた映像も適宜挿入しました。

一次審査の通過作品は、渋谷ユーロライブでスクリーン上映されました。劇場でご自身の作品を見た時は、どう感じましたか?

今回の作品は、朝日が昇るまで何度も撮影をやり直したり、天気に恵まれるまでトライしたりと、妥協をひとつもせずに取り組みました。おかげで、大きなスクリーンであらためて見ても、自分としては恥ずかしいところのない作品に仕上がったと思います。

大学在学中から、映像クリエイターとして活躍

村主さんは、ストリートブランドのプロモーション映像を撮るなど、大学に通いながら映像クリエイターとしても活躍していました。学業と仕事の両立は、大変ではなかったですか?

それが、意外と大変ではありませんでした。僕の大学生活は、ちょうどコロナ禍と被ってしまったんです。授業もオンラインがメインになって、時間に余裕もできました。「せっかく入学したんだから、必要な知識は吸収しよう」と授業にはまじめに取り組んでいたけど、クリエイターとしての仕事をする余裕も十分にありました。

映像関係の仕事を受けるようになったのは、大学に入ってからですか?

面識のない企業の方から仕事を依頼していただけるようになったのは、大学生からです。ただ、知り合いの紹介などで、映像の仕事自体は高校生のころからしていました。

FFF-Sを知ったのも、仕事中の出会いがきっかけです。たまたま渋谷で、アパレル会社のプロモーション動画のディレクションをしていて……。撮影中に、チラシ配りをしていたYouTuberの2人組と偶然仲よくなったんですよね。

当時の仕事とは無関係のYouTuberの方たちと、渋谷で偶然出会った?

そうです、渋谷のスクランブル交差点で。それぞれ撮影をしていたので、自然とお互いのことが気になったんですよね。目が合って、相手から話しかけてくれて。自分の手で映像を撮るもの同士、すぐに親しくなれました。

いろいろと話すうちに「一緒に映像を撮りたいね」と話がトントン拍子に進んで、そこで相手側が「2週間後に締め切りだけど、FFF-Sが開催中だよ」と調べて教えてくれたんです。

締め切り2週間前となると、だいぶタイトなスケジュールの撮影でしたね。

そうですね。FFF-Sに出すことを決めた1週間後には、もう撮影に入っていました。ありがたいことにその年に応募した『怒哀(どあい)』という作品が優秀賞をいただき、そこから最優秀賞を獲得するために翌年も応募する……という流れです。

現在、YouTuberの2人組は活動していませんが、当時の出会いにはすごく感謝しています。

「機材のレベルに頼らずに、作品の本質と向き合う」

納得できる作品を作るために、村主さんの中で意識していることはありますか?

作品の本質と、できるだけ向き合うようにしています。自分はどんな映像を撮りたいのか? 作品を通してなにを伝えたいのか? を、とことん掘り下げていくんです。

正直、撮影の技術は後から付いてくると思う。今は撮影機材のレベルが上がっているので、なんとなく撮ったものがいい感じに見えてしまうんですよね。でも、深く考えずに撮るだけだと、見てくれた人になにも伝わらないと思うから。

作品の本質を捉えようとする姿勢は、昔からですか?

昔からだと思います。子どもの時から、父親の携帯電話を借りて写真や動画を撮っていました。当時は機材の性能に頼ることが難しかったので、「どんな内容の映像を撮りたいんだろう?」と深く考える癖が付いたのかもしれないです。小学5年生の時にサンタさんにお願いして、はじめて大人が使うようなカメラをゲットしました。

サンタさんに! 子ども時代のかわいらしいエピソードですね。小学生の子に本格的なカメラを買い与えるとは、ご両親の柔軟な発想を感じられます。

子どものやりたいことを、そのまま応援してくれる親でしたね。好奇心を潰されず過ごせたおかげで、なにか作りたいと思ったら、躊躇せずにチャレンジできていました。

小学校の担任の先生も、厳しいながらも理解のある人でした。自主学習の宿題が出た時に、みんなが文章や図でまとめている中で、僕は映像を保存したSDカードをノートに貼り付けて提出したんです。

SDカードを提出……。学校側のルールとしては問題ない?

いや、本来はダメでしたね……。(笑)電動スケートボードを作る様子を、映像でまとめたものだったんですけど。先生はきちんと中身も見てくれて、作品を評価してくれたんです。

ルールを守るという点では、怒られても仕方のない行動だったかもしれません。でも、先生の対応のおかげで「自分が作る映像は、人になにかを伝える手段になるんだ」と思えました。あの時感じた気持ちは、今の創作活動にもつながっていると思います。

「落ちても失うものはない」映画祭を活用する姿勢

学生さんの中には、作品を映画祭に提出することに不安を感じる人もいるかと思います。FFF-Sに応募する際、村主さんはどのような気持ちでしたか?

そこまで、思い詰めてはいませんでした。受賞できなかったら、もちろんショックだけど……。しばらく落ち込むだけです。選考に落ちても、失うものはないと思いますよ。

落ちるかもしれない不安を理由に応募をやめるのは、もったいないです。作品を誰かに見てもらう経験自体が、その後の創作活動の力になると思うから。

「選考に落ちても失うものはない」という言葉には、気持ちを前向きにする力があるように感じます。とはいえ、作品の評価をされる不安を拭えない人もいる気がして……。その不安や緊張感と、どう向き合ったらいいと思いますか?

結局は、怖くても挑戦するしかないんだと思います。人生において、周囲の評価は付いてくるものだから。怖さを乗り越えるからこそ、その行動が自信につながるんじゃないでしょうか。不安を払拭できたら、苦しい記憶が、楽しい記憶に塗り変わることもあると思う。

自分の行動に対して、周りが理解を示してくれないことは僕にもありました。ただ、そもそもすべての人に認めてもらうのは難しいと思うんです。落ち込むより、当時は「自分のやりたいことを形にして見返してやろう」と思っていましたね。

「怖さを乗り越えるから、自信になる」というのは、本当にそのとおりだと思います。その経験すら、作品作りに活きてきそうですね。

そうですね。映像を作る人の中には、普段の生活で上手に言葉にできないことを、作品に反映させている人も多い気がします。日常では言語化できないことを、映像という形で世の中に発信することは、自分の人生にもプラスになると思います。

本日はありがとうございました! 最後に、今後FFF-Sに挑戦したい学生さんに向けて、なにかメッセージをお願いします。

映像作品は、その時の自分の感情によって作品の色が変わると思っています。人に言われて傷ついたことや、うれしかったこと。幼いころに感じていた気持ちや、思い出の風景。昔を思い出そうとしても、まったく同じ感情にはなれないですよね。新鮮な気持ちを忘れないうちに映像という形で保存できたら、自分にとっても大切な作品になると思います。

FFF-Sなどの映画祭は、完成した作品を有効活用する場だと思えばいい。あまり気負わずに、せっかく作ったのなら勇気を出して応募してほしいです。

取材日:2024年4月26日 ライター:くまの なな

 

第7回フェローズフィルムフェスティバル 学生部門(FFF-S)

株式会社フェローズが主催する学生のための「短編映画祭」では、国内の学生を対象に4分以内のショートフィルムを募集しています。
応募期間:2024年7月1日(月)~9月30日(月)

詳細はこちら→https://www.fellow-s.co.jp/fff-s/

プロフィール
第6回 FFF-S 最優秀賞
村主 匠人
日本大学 芸術学部映画学科 卒業
第3回フェローズフィルムフェスティバル学生部門 優秀賞
第4回フェローズフィルムフェスティバル学生部門 観客賞
第6回フェローズフィルムフェスティバル学生部門 最優秀賞
Official Site:https://www.muranushitakuto.com/
Instagram:https://www.instagram.com/muranushitakuto/

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