「ゴミ」を「素材」に変えて作る1点モノ。アップサイクルブランド「buøy(ブイ)」の挑戦

Vol.217
株式会社テクノラボ buoyブランドオーナー、デザイナー
Sayumi Tadokoro
田所 沙弓

赤や黄色、緑や青、黒に白……。カラフルでポップな色合いのトレイやキーホルダー、コースターなどのプロダクトが並ぶ店内。目を惹かれて手に取ってみると、一つ一つ模様や風合いが異なるクラフト感に、心を奪われます。「buoy(ブイ)」と名付けられたこのブランドのプロダクトは、すべて海洋ゴミを原料に作られているのです。

産みの親は、プラスチック部品の開発製造を手掛ける株式会社テクノラボの社員たち。なぜプラスチック製品を作る企業が、海洋ゴミのアップサイクルに取り組んでいるのでしょうか。buoyのブランドオーナーでデザイナーでもある田所沙弓さんに、立ち上げの背景や、プロダクトに込めた想いを聞きました。

「脱プラ」の流れで、嫌われものになったプラスチックの価値向上を

buoyは、テクノラボの社員の有志が集まってスタートしたブランドだとうかがいました。どのようなきっかけで、何を目的としてbuoyは生まれたのですか?

私たちは普段、通信機器やIoTデバイスといった分野で、電気や無線を通しやすいプラスチックの特性を生かした部品などをデザインし、開発・製造しています。「このようなものを作れないか?」というお客さまの要望に応じて、一から新たな製品を作ることが多く、常に新しいニーズ、新しいデザインなどを追い求めています。そのため、社内に「挑戦しよう」という雰囲気があるんです。

私はデザイナーと広報を兼務していたことから、プラスチックの魅力をもっと深掘りして、発信していきたいという想いがありました。そこで、まったく新しいプロダクトを作ってみることにしたのです。

普段、密接にかかわっているプラスチックの特性や良さを再発見するプロダクトを作ることにしたのですね。

はい。ここ数年、お客さまから「最近、プラスチックって印象が悪いよね」と言われたり、「プラスチック製であることを隠せるデザインにできないか」と相談を受けたりする機会が増えていて。プラスチックが嫌われものになってしまったと感じていました。

もちろん、日常的にプラスチックを大量に使い過ぎていることに、問題意識を抱いていました。製造の特性上、たくさん作った方が安くなりますから、需要が高く、世の中にプラスチック製品があふれがちです。高度成長期でもない今、大量生産・大量消費・大量廃棄のサイクルを止めないといけません。プラスチックを否定することは簡単ですが、プラスチックを何か別のもので代替しただけでは、また別の問題が生じてしまいます。だから、多くの人がプラスチックゴミの問題を考えるきっかけを作るために、私たちなりに解決策やアイデアを提示しようと。それがbuoyの立ち上げのきっかけです。

田所さんが考える、プラスチックの魅力とはどのようなところでしょうか?

たくさんありますが、やはり自然物では出せないビビットな色合いですね。コロナ禍が長く続いて、家で過ごす時間が増えましたが、カラフルなものが一つ部屋にあるだけで、空間が華やかになりますよね。それに、鋭利には割れにくいこと。私は小さな子どもがいるので、プラスチック素材の食器やおもちゃなどが便利で、助けられています。

また、水に強いのも特徴。当社は医療や介護関係のお客さまも多いので、衛生面でもプラスチックだからこそ要望に応えらえる製品ができると考えています。私たちテクノラボの社員は、プラスチックがとても好きなんです。プラスチックの価値向上につながるような活動をしたいと思ったことも、ブランド発足の背景にあります。

リサイクルが難しい海洋ゴミにチャレンジすることが、自分たちの使命

世の中には、さまざまなプラスチック製品がありますが、なぜ海岸に流れ着いてくる「海洋ゴミ」のプラスチックに注目したのでしょうか?

海洋ゴミは最もリサイクルが難しい素材だったからです。プラスチックとひと口に言ってもいろいろな種類があって、通常はそれらを細かく分類しないとリサイクルはできません。種類によって溶ける温度が違うので、複数の素材が混ざっていると加工ができないのです。その上、海を漂流している間にフジツボがついたり、石が入り込んだりして、それらの除去も大変です。

参入しにくい分野ですが、プラスチックメーカーである私たちこそ、扱うべき素材だと思いました。ハードルは高いけれど、やってみる価値があると考え、挑戦することにしました。

素材となる海洋ゴミは、どのようにして集めているのですか?

北は北海道から、南は沖縄まで。日本各地のボランティア団体やNPO団体、企業とネットワークを結んで、現地で拾ったものを買い取っています。2022年の実績では、およそ1トンもの量が集まりました。

なるべく現地で洗浄や粉砕をしてから発送していただいていますが、その手間がかかっても「この先に製品に生まれ変わる未来があると思うと、ゴミを拾うやる気が全然違う」とおっしゃってくださいます。「製品の材料になると考えたら、ゴミが素材に見える」と。宝探しのように、「次はこの色を探してみよう」とか、「この色は珍しいから売れる製品が作れるはず」と、楽しんでゴミを拾っていると聞き、うれしく思っています。

地域によって、届く海洋ゴミに特徴があるのでしょうか?

そうですね。たとえば九州などの地域はアジアに近くて、日本以外のプラスチックゴミも流れ着くので、ピンクや紫など発色がいいものが多いですね。いちばん特徴があるのは、広島の呉です。カキの養殖に使われているプラスチックのパイプやリングが流れてくるので、ほかの地域とは違います。日本海側は大きなゴミが、太平洋側はアメリカまで流れて戻ってきた小さなゴミが多いことも、活動をはじめてわかりました。

ブランド発足当初は、自分たちで素材を拾いにいくことも検討していましたが、コロナ禍でそれができなくなりました。だからこそ、こうして多くの団体とつながって、海洋ゴミを買い取り、支援する仕組みができたのです。海洋ゴミが流れつく場所は、外から来た人間が簡単に探せるものではないですから、現地の皆さんと協力関係が築けたことは、とても良かったですね。

作り手も買い手も愛着がわく、1点ごとに異なる風合い

buoyのプロダクトは、パッと目を引くプラスチックの発色はありつつも、絶妙なニュアンスカラーが素敵です。どのように作っているのですか?

各地から集まったプラスチックを、地域ごとに色分けして重さをはかる作業は、福祉作業所に依頼しているんです。それを、当社の専門スタッフが作った金型に入れて、プレスをして成形しています。融点の異なる素材が入り混じっているので、加工は難しく、試行錯誤して技術を確立し、特許を取りました。

プラスチック製品は、発色が強すぎて安っぽく見えたり、家などのリラックスしたい場で派手な色味が浮いてしまったりすることがあります。しかし、buoyのプロダクトなら、同じ色でも濃淡やトーンの違う色が混ざり合っているので、色が濁ってニュアンスが出て、木製のインテリアやファブリックにも合わせやすいですよ。

身の回りに置いて普段使いしてもらえたらと、汎用性の高いトレイやコースターなどのアイテムを展開しています。海洋ゴミのプラスチックはもちろん人工物でありながら、流れ着いてきた自然物のような、不思議な素材だと感じています。

同じプロダクトの同じ色味でも、一つ一つ模様が違って、選ぶのが楽しいのもいいですよね。

融点が低い素材は、すぐに溶けて流れて花火のような模様になるんです。逆に、融点が高い素材は、流れずにドットのような模様になる。違う素材が混在しているので、プレスしてみないとどんな模様ができるかわかりません。ロットごとに適した温度や冷ます時間を調整しながら作っています。職人技が詰まった手焼きの工芸という感じです。

毎回いろいろな模様が出るので、金型を開ける楽しみがあって。紫外線で焼けてしまって白に見えていた素材が、溶かしてみたら黄色だったことも。普通のプラスチック製品の製作過程にはないおもしろさがありますね。普段作っている製品は、数値をしっかり合わせて、まったく同じ色で作ることを求められますが、buoyの製品は一つ一つ違う個性を生かしますから、その点もユニークです。

模様がどれも違うからこそ、じっくり選んでお気に入りを見つけてほしい。時間をかけて選んだものは、すぐに捨てないですよね。3カ月で捨てるのと、5年、10年使って捨てるのではゴミの量はまったく変わりますから、できるだけ手元に長く置くものを探してもらいたいです。だからいつも「何時間でも選んでいい」とお客さまには伝えているんです。

作って終わりではなく、その先を見据えたものづくりを

プロダクトを手に取ったお客さまからは、どのような声が届いていますか?

今までにない色や模様がかわいいと言っていただくことが多いですね。私たちは、「海洋ゴミのアップサイクル製品だから、環境のために買ってください」とは言いたくない。ストーリー抜きにしても魅力がある製品にしたいと思ってデザインをしているので、うれしい反応です。

一方で、ブランドの発足当初から、製品一つ一つが、「石垣島」「糸島」など、どこで拾った素材から作られたのかがわかることを大切にしてきました。それまで知らなかった地域でも、製品の購入をきっかけに、興味を持ってもらえたらいいなと思っています。

以前、キーホルダーを購入したお客さまが、「パッケージに書かれていた地域に足を運んでゴミ拾いをしてきました」と報告してくれたことがあり、とてもうれしかったですね。地域名を明らかにして販売することで、新しい接点や体験が生まれることを期待しています。

今後は、どのようなプロダクトを展開していきたいですか?

新商品の掛け時計は、これまでよりも大きなサイズのプロダクトへの挑戦でした。試験管を刺して使う花器も、複雑な形状のため、作り方がより難しい。どんどんいろいろな形状にチャレンジして、さらにラインアップを拡大していきたいです。

目的は海洋ゴミを減らすことなので、なるべく大きなものを作って、たくさんの素材をプロダクトに変えたいというのが、私たちの想いです。その点を考慮して、新製品の開発を行っています。

また、既存のプロダクトも、お客さまの声を聞きながらアップデートしています。たとえばコースターは、もともとフラットな形状でした。テーブルに張り付いてしまう、たまった水滴が落ちてしまうという点を改善して、今年リニューアルしたばかり。機能面にも目を向けて、手に取ってもらえる工夫を加えていくことが大切です。

「何かを生み出すこと」がクリエイターの使命であり、醍醐味だと思いますが、クリエイターは環境問題とどう向き合っていけばいいと思いますか?

私も以前は、生み出すことがゴールだと思って仕事をしていました。でも今は、生み出した製品がどう使われるのか、使われた後にどうなるのかを考えてものづくりをすることが重要だと思っています。

私たちの製品は、いらなくなったら送り返してくれてもいいとアナウンスしています。粉砕すれば別の製品にできますから。でも、どこで買ったものかがわからないと、買い手は送り返せないですよね。buoyのプロダクトに産地やbuoyのロゴを入れているのは、そのためでもあります。これまでは産地をパッケージに印字していましたが、新しい製品は、じかに刻印することにしたんです。捨てる前に作り手を思い出して、捨てる以外の選択肢を持てるようにするギミック(仕掛け)づくりも、クリエイターの役割ではないでしょうか。

私たちの目標は、ブランドが存続できないくらいに海洋ゴミがなくなること。5年後に100トン、10年後に3000トンの海洋ゴミを集めることが目標です。日本で最も海洋ゴミが流れ着く場所として有名な対馬では、年間3000トンの海洋ゴミが出ています。まずは対馬の海洋ゴミをすべて製品化できるくらいのブランドに成長したい。そのためにも「買いたくなる製品」をしっかりと作っていきたいです。

取材日:2023年6月1日 ライター:佐藤 葉月

 

海洋プラのアップサイクルブランドbuoy(ブイ)

[サイト] http://www.techno-labo.com/rebirth
[ECショップ] https://buoy.stores.jp/
[instagram]  https://www.instagram.com/plas_tech/
[facebook]   https://www.facebook.com/plastech.project/

<お問い合わせ先>
〒221-0057 神奈川県横浜市神奈川区青木町6-19マークレジデンス商用棟1階
株式会社テクノラボ 内 Plas+tech project

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