映像2025.04.25

豊島圭介監督がミステリー小説を実写化「大森元貴・菊池風磨は、演技のアプローチが違って面白かった」

Vol.74
映画『#真相をお話しします』監督
Keisuke Toyoshima
豊島 圭介
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豊島圭介監督が結城真一郎の同名小説を映像化した『#真相をお話しします』。本格的な演技が初めてのMrs. GREEN APPLEの大森元貴と、timeleszの菊池風磨がW主演を務める。

とあるビルの警備室に置かれたパソコンの前にいる警備員の桐山(菊池)とその友人である鈴木(大森)。2人は、多額の報酬をかけた暴露チャンネル「♯真相をお話しします」の生配信開始を今か今かと待ちわびていた。

関係ないと思われる物語が、次第にある一つの大きな物語になり、思いもよらなかった結末を迎える。先が見えないストーリー展開をみせる本作。2人に待ち受けている真相とは…。 豊島監督に、大森さんや菊池さんとどのように話し合っていたのか、映画監督として大事にしていることなどを語ってもらった。

原作を一度解体し、情報を見せる順番を再構築して大切に作っていった

原作小説は短編が連なる作品でしたが、読んだときの感想を教えてください。

どうやったら人の気持ちをひっくり返せるかということを、現代的なアイテムを使ってさまざまなパターンで考えている思考実験みたいな小説だと思いました。

そのような短編を映画では1本の作品に仕上げていますね。

通常の映画だと、世界観が1つ、多くても2つぐらいなんですよ。日常のドラマを描いていたら1つだし、日常生活を描写しながら地獄に落ちた後も描く…みたいな話なら2つ。そんな中、本作は短編を組み合わせているので、5つほどの世界観がある。そのため、話の組み合わせが大事になると思いました。

どのようにして組み合わせていったのですか?

映画やドラマで大事なのは、観客の心を動かしていくこと。それには、情報をどういう順番で見せていくかが大事になります。

原作をまず自分なりに分解して考え、映画としてどうやってまとめれば面白くなるかを俯瞰し、カードを切る順番を決めていきました。今回、本当の真相にたどり着くまでには、いくつも「あれっ? これって?」と思わせる違和感を散りばめています。違和感は気になりすぎてもいけないですが、スルーされてもダメなので、そのバランスは気をつけています。

そして今回、「生配信」「暴露チャンネル」といったアイテムが散りばめられているのもイマドキの映画だと感じました。

デジタルネイティブ世代にとって、SNSでの見られ方が人間関係の大きな部分を占めています。例えば高校に入るとき、これまでのSNSを整理して自分の見せ方を考えないと友達作りが難しかったりするようです。そんなデジタルネイティブ世代からすると、この映画で描かれる一挙手一投足が自分の身に降りかかる現実だと思います。僕らおじさん世代も怖いと感じましたが、若い人にとっては僕らが思っている以上にこの物語が現実に近いはず。そういった人たちにも刺さるよう、デジタルの世界を理解しながら作っていきました。

コミュニケーションが複雑になった今だから描ける物語なんですね。

5年前に『三島由紀夫vs東大全共闘~50年目の真実~』(2020年)という映画を撮りました。これは1969年に行われた三島由紀夫と東大全共闘との討論会についてのドキュメンタリーなのですが、実は今作と同じテーマで、どちらもコミュニケーションのあり方について描いているんです。

『三島─』ではお互いが名乗りあい、目の前で意見を交換し合う姿を映すことで匿名のコミュニケーションとは違う姿を見せ、今作では匿名の恐ろしさを描いています。映画を通じて、コミュニケーションとは何なのかを考える機会になればと思います。

Mrs. GREEN APPLE・大森元貴に感じた“トリックスター性”

主人公のひとり、鈴木役を演じたのは、アーティストとして活躍しているMrs. GREEN APPLEの大森元貴さん。初めての映画出演とは思えないお芝居でしたが、どのような話をして役を作っていったのですか?

最初はどれくらいのポテンシャルがあるのか分からなかったので、まずライブを見させていただきました。そしたらステージの上で輝いているんですよ。何万人を相手に挑発したりしてパフォーマンスをしていて、そこにトリックスター性を感じました。同時に、この人を演出するのは大変そうだなって思いました(笑)。まぁこれは要らぬ心配になったのですが。それ以降も、MV撮影を見に行ったり、ワークショップ的なリハーサルをやったりと少しずつお互いの距離を縮めていきました。

実際にどんなお話しをしたのですか?

大森君はこれまで本格的に演技をしたことがなかったので、現場の作法が分からない場所に行くのが一番の不安だったようです。だからまず台本を読みながら、キャラクターや作品の解釈の仕方やディテールについて話し合いました。彼が安心できる空気感をきちんと作ることに注力しました。

キャラクターについていろいろ書いたしおりのようなものを作ったと聞きました。

僕はどの作品でも、演じるヒントになるようにキャラクターの来歴や作品の解説をまとめたしおりを作るんですよ。今回は映画内のトリックの解説や大森君と話し合ったキャラクター像を書いたりして、他のキャストやスタッフにも渡しました。これは、全員が一緒の認識を持って現場にいることができる最善のアイテム。これがあると現場でブレがなくなるんです。

あともう一つ理由があって、立派なしおりを作ると、「このチーム、ちゃんとしている」と思ってもらえる(笑)。実はこれ、クリエイターとして大事なことで。初見の人に、このチームを信用してもいいんだと思わせる初めの一歩でもあります。もちろん、あえてそういうことをしない監督もいますが、僕は現場の空気づくりを大事にするためにも、きっちり準備したいんです。

実際の大森さんのお芝居はいかがでしたか?

上手ですよね。チョケた感じから始まって最後は違うところに持っていく、その計算がきっちりとできていました。大森君は芝居に対して貪欲で、普通に俳優としてコミュニケーションを取りながら芝居の会話ができるのが印象的でした。

ちなみに後半で大森君の演じる鈴木が(菊池)風磨君が演じる桐山に下品な言葉を使って詰め寄るシーンがあるんですが、あれ、実は大森君のアイデア。あの一言により「この人ってどんな人生を送ってきたんだろう?」と観客に思わせ、役に奥行きが生まれています。頭のいいスマートな人に映っていた鈴木が何者か分からなくなる…。素晴らしい仕掛けでした。

timelesz・菊池風磨が見せた初めての表情

大森さんと菊池さんとの対比も面白かったです。菊池さんとはどのような話をされたのですか?

風磨君とはこれまでも作品を共にして、求められたことをフルスロットルでやってくれることを知っていたので、今回はドロドロでボロボロになっていく桐山を演じてほしいと伝えました。そしたらすぐに「承知しました!」ってメッセージが返ってきて、軽いなって(笑)。

とはいえ、演技は相変わらず素晴らしかったです。中でも、桐山がはにかんでいるようななんとも言えない顔をするシーンは印象的でした。あれは共演者の大森君と本気でコミュニケーションが取れていないとできない表情です。また、桐山が話しているときに鈴木にグッドサインをして見せたうれしそうな顔も秀逸で…。かなり役に没入していたことが映像から伝わり、さすがだと思いましたね。

現場での2人はいかがでしたか?

大森君はいつまでも現場にいたい、風磨君はとにかく早く撮影を終えて帰りたいと真逆でした(笑)。現場でみんなといろいろ考えたいクリエイター気質な大森君と、表現者として瞬発力のある動きを見せる風磨君という違いが出ていたんだと思います。それぞれのアプローチの仕方があって面白かったです。

スタッフの才能を信じて任せるのが僕の仕事だと思う

監督はいつごろから映画監督を目指したのですか?

高校のときから映画ファンで、大学で東京に出てきて浴びるように映画を見たんです。当時はミニシアター全盛期で、シネVIVANT六本木なんかがまだあった頃です。そんな中、先輩に自主映画を撮っている人がいて、その手伝いをしていたら自分も撮りたくなって…。

そうやって撮った自主映画を「ぴあフィルムフェスティバル94」に送ったら入選をして、「あれ、才能あるのかな?」と思い、気づけば30年(笑)。早かったです。ちなみにそのときのグランプリが『キングダム』シリーズの佐藤信介さん、ほかにも『ニライカナイからの手紙』(2005年)の熊澤尚人さんがいて。今も第一線で活躍している人がいるのは刺激になっています。

ホラーやアイドル映画、近年はドキュメンタリーも撮影するなど、作品が多ジャンルなのも特徴ですよね。

フリーランスなので“来た仕事は断らない”をモットーにしているのが大きいです。でもやっていないジャンルもあり、いわゆる感動モノはやったことがない。お化けとか人が死んだりする作品の方が楽しいです。

ドキュメンタリーに関しては、『三島─』が初めてで。最初は僕にこんなジャンルが…と驚きましたが、やっていくにつれてフィクションとノンフィクションには垣根がないと知りました。それこそ今作も同じですが、どういう順番で情報を見せていくかに尽きるというか。もちろん、1箇所に何年も住んで、ある事象を追っていくというタイプのドキュメンタリーは、そこまでの根気がない自分には無理です。ですが基本、どんなジャンルも考え方は同じだと思っています。そしてどんなジャンルであろうと、やってみたらその都度発見があるんですよ。だからあまり仕事を断らないようにしています。

映画を撮る上で大事にしていることは何ですか?

この年になっても自分が映画を観ていて感動するときがあるんですが、その感覚を忘れないことです。そのために自分の心がどう動いたのかメモして、その感動を自分の作品でも表現したいと思い参考にしています。

どのような映画が好きなのですか?

洋画はかなり観ることが多く、ずっと好きなのはスタンリー・キューブリック監督の作品ですね。『時計じかけのオレンジ』(1971年)とか『アイズ ワイド シャット』(1999年)とか好きです。彼のように計算されたカットは普通、撮れないんですよ。僕自身、撮影しないタイプの監督なので余計に憧れがあります。

カメラマンにはどれくらい撮りたい画を伝えるのですか?

アングルはあまり伝えないです。これは映画作り全体に言えますが、設計図を作ったら、あとはみなさんに解釈してもらいたいと思っていて。もちろん取捨選択はするけれど、現場の力を借りて作っていきたいタイプです。

そのような考えになったのは、『明るい場所 square the circle』(1997年)を撮影したとき、『萌の朱雀』(1997年)や青山真治監督作品を撮っている田村正毅カメラマンとご一緒したことが大きくて。大ベテランの田村さんにお願いしたとき、自分でファインダーを覗くことが恐れ多くてできなくて。指示通り撮ってくれているので大丈夫だと思い安心していたのですが、ラッシュが上がってきて映像を見たら僕が想像していたレンズ感とまったく違ったんですよ。思っていたよりずっと広かったり、ずっと寄っていたり。最初はヤバイと思ったのですが、編集をしていったら田村カメラマンの撮った画の方が作品を面白くしていて。これだと思いましたね。それ以降、その人の才能を信じるのが僕の仕事だと思うようになりました。

クリエイターにとって大事なことを教えてください。

どんなときでもそのことを考える。これは自戒の意味でもあります(笑)。もちろん毎回できるわけではないですが、自分はなるべく映画のことを考えるようにしており、それは作品に入っていないときも同じです。僕は何を撮りたいんだろう、今やりたいことはなんだろうと考える時間が重要な気がします。

そして刺激をもらうことも大事です。僕は天井まで本に囲まれた生活をするのが夢で、気になる本は読む時間がなくても買っているんです。時間ができたときに読むと、新たな出合いがあったりするんですよ。いまの楽しみの一つです。

取材日:2025年3月17日 ライター:玉置晴子 動画撮影:浦田優衣 動画編集:指田泰地

『#真相をお話しします』
2025年4月25日(金)公開

監督:豊島圭介
出演:
大森元貴 菊池風磨
中条あやみ 岡山天音
伊藤英明

原作 :結城真一郎『#真相をお話しします』(新潮文庫刊)
企画・プロデュース :平野隆
エグゼクティブプロデューサー :大脇拓郎
脚本 :杉原憲明
主題歌 :「天国」Mrs. GREEN APPLE (ユニバーサル ミュージック / EMI Records) 
制作 :ツインズジャパン
配給 :東宝

©2025 映画「#真相をお話しします」製作委員会

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プロフィール
映画『#真相をお話しします』監督
豊島 圭介
1971年生まれ。静岡県出身。大学在学中の頃から自主映画を製作、「ぴあフィルムフェスティバル94」に入選。大学卒業後、ロサンゼルスのアメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)の監督コースに留学し1999年に帰国。2003年、怪奇ドラマ「怪談新耳袋」シリーズで監督デビュー。『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』(2010年)、『花宵道中』(2014年)、『森山中教習所』(2016年)、『三島由紀夫vs東大全共闘~50年目の真実~』(2020年)といった多岐に渡るジャンルの映画を監督。また「妖怪シェアハウス」(2021年テレビ朝日系)「新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~」(2022年日本テレビ系)といったドラマ作品も多く手掛けている。

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