職種その他2024.03.27

「今はもう未来ですか」

第103話
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
Akira Kadota
門田 陽

1976年だったか1977年。僕の地元福岡の天神にある金文堂だったか積文館のどちらかの書店(この2軒は徒歩10秒の距離にあります)で寺山修司のコーナーが設けられていてそこに平積みされていたのが「書を捨てよ、町へ出よう」でした。単行本ではなく文庫本だった気がしますが定かではないです。ただそのとき、中学生の僕が何を思ったのかははっきり覚えています。それは、「書を捨てよ」というタイトルの本を書店で宣伝しているのは矛盾しているよな、でした。当時覚えたばかりの矛盾というコトバを実感しました。なぜそんなことを思い出したのか。それは先日新宿で行きつけの本屋さんにふらっと入るとそこに寺山修司のコーナーがあったのです。そうなのです。今回も「書を捨てよ、町へ出よう」が平積みにされているではありませんか。何でもこの本の初版復刻本の発売記念のようです。福岡と東京、場所は離れていますし約半世紀前と令和の今。まるで状況は違いますが、あの日の光景が昨日のことのようにとは言いませんが完全に蘇りました。この感覚は何と言えばいいのでしょうか。

デジャヴ。ではないですよね。デジャヴは一度も経験したことがないのに、すでにどこかで経験したことがあるように感じる現象。だとするとこの感覚は単純に「二度目」ということですかね。48年ぶり2度目。で、中学生ではなく還暦のジジイになった僕が感じたことは、当時と同じく「書を捨てよ、町へ出よう」というタイトルの本を思い切りアピールする本屋さんの矛盾。しかも本の売れないこの時代にまったく何やってんだよ!?というものでした。一気に中学生の頃の僕が思った感情がそっくり体のどこからか溢れ出てきたのです。

この日は本屋さんのあと「笑いのカイブツ(滝本憲吾監督)」というハガキ職人を題材にした映画(すごくよかった!)を見たのですが、これでますます中高時代のことを思い出してしまいました。あの頃、映画大好き少年だった僕は開館から閉館まで一日中映画館にいたこともありました。当時の映画館は自由席で今のように一回ずつの入替えではなかったので居ようと思えばずっと籠っていてもよかったのです。また常連さんにはもぎりのおばさん(なぜかもぎりはどの館もおばさんでした)はやさしくて、お昼に外でラーメンを食べて戻って来ても料金を取らずに入れてくれました。あのおばさんたち、もしいま元気だったら100歳くらいかな?いや、僕が中学生だったからかなり年上だと思っただけで案外若かったのかも?など思い起こしてはまたしても当時のことが色濃く浮かび、気付くと新宿から渋谷に移動してセンター街や宮下パークで現役の中高生にまみれて歩いている僕がいました。

渋谷はすっかり変わってしまった、というほど渋谷のことに詳しくありませんが、田舎者の僕でも気付くほど最近の渋谷は未来化しています。しかしいつの時代もそのときの中高生たちはそんな変化には目もくれず早足でずんずん歩いていくのです。この日もまさに「ザ・未来」の前で立ち尽くしたのは僕だけでした。宮益坂下の交差点の横断歩道で信号待ちをしているとすぐ横で違和感を覚えました(※写真①)。「なんじゃこりゃあ」と心の中の松田優作が叫びましたが、周りを見渡してもみんな知らんぷり。エッ~~~~、ウソでしょ。流石にこれは驚くのが当たり前だと思うのですが、僕だけが知らない世界に紛れてしまったのかもしれません。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が日本で公開されたのが1985年ですから僕は当時大学生。主人公の高校生マーティが友人の科学者ドクの作ったタイムマシンに乗り時空を超えておこす様々な物語。今僕の隣にまさにあの映画のデロリアン(タイムマシン)が出現しているではありませんか。あとでスマホで調べたらずいぶん違っていましたがそれでもこれは未来の乗り物でしょ!信号が変わるとビュンと消え去りましたもん!!


写真①

これを誰かに告げずにはいられなくなり、すぐそばの「のんべい横丁(※写真②)」で馴染みの店に飛び込んで大将に話したところ「ま、お前さんも年取ったってことだよ」と至極当然のことを言われてしょんぼりしてしまいました。そういや中学生の頃、一日中映画を見ての帰り道。中洲の屋台の横を歩きながら、大人だったらきっと一杯飲んでから帰るんだろうな、と想像していたあの日。まさにその通りになっているよ、と中学生の僕に言いにデロリアンに乗りたいと思った夜でした。


写真②。

ところで、1976年といえば僕のマイブームはナディア・コマネチでしたという話はまたの機会に。

 

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プロフィール
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
門田 陽
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州、(株)電通を経て2023年4月より独立。 TCC新人賞、TCC審査委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

門田コピー工場株式会社 https://copy.co.jp/

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