プロデューサーとディレクターは好奇心旺盛!

Vol.29
株式会社フェローズ マーケティング セクション 兼 アニメセクション アドバイザー シニアプロデューサー
Yuoh Sekita
関田 有應

こんにちは。
フェローズ マーケティング セクション 兼 アニメセクション アドバイザー シニアプロデューサー 関田有應(せきたゆうおう)です。

29回目のコラムは
「プロデューサーとディレクターは好奇心旺盛」というテーマでお話をさせていただきます。

前々回は『序』で、前回は『破』です。
ということは今回は『Q』です。
では『シン』はあるのか!
書いてみないとわからないのがこのコラム!

皆さんはプロデューサーとディレクターがどのように仕事を進めるのか、ご存じでしょうか。
プロデューサーは作品全体に責任を持ち、ディレクターは作品内容に責任を持ちます。
プロデューサーとディレクターは役割や責任の所在が違います。

テレビCM制作の場合、広告代理店(依頼主)がCM制作プロダクションに制作発注を行います。
CM制作会社の「プロデューサー」が、広告代理店からクライアント(広告主)の
ご依頼内容(=CMを作る目的。商品を売るためなのか、ブランディング目的かなど)のオリエンテーション(オリエン)を受けます。
また、CM制作の工程は大きく3つに分けることが出来ます。

1.プリプロダクション…企画・構成・予算・絵コンテ・制作体制の骨格を形成する
2.プロダクション…撮影・収録・録音の制作現場
3.ポストプロダクション…仕上げ工程・EED(Electrical Editing:映像編集)・MA(Multi Audio:音編集)
*これはすべての映像制作(番組・アニメ・映画etc.)において共通する工程です。

その中でも、プリプロダクションはとても重要なパートになります。
プロデューサーは、広告代理店から受けたオリエンを元に、どのようなCMにするのかを考えます。
当然、制作費には限りがあります。
限られた予算内でどのようなCM制作を行うか。
企画優先で制作見積りを出す場合と、予算を伝えられた上で、企画を考える場合があります。
どちらのケースもありますが、多くはオリエンを受け、その後に予算・制作費を伝えられるというのが一般的なケースです。

私が現役のCMプロデューサーだった頃は、
クライアントから売りたい商品のオリエンを受けて、サンプルをお預かりして社内で情報共有を行い、
プロダクションマネージャー(PM)に納品日から逆算したスケジュールの作成と、制作収支、「ディレクター」の選出を行うというのが
定番的な仕事の進め方でした。

今回のCMに一番向いているディレクターはだれか。
クライアントの課題解決(商品を売る)をどのような映像表現で行うか。
限られた制作費の中で最高のクオリティを引き出すための企画をどのようにまとめるか。
いろいろなことが頭の中でよぎります。

ディレクターを決めて、いよいよ企画を練り始めます。
ここからがディレクターの腕の見せどころです!

ちなみに、CM業界の場合、ディレクターが決まるとカメラマンが決まります。
カメラマンが決まると照明技師が決まります。
さらに加えるとディレクターが決まった時点で編集エディターも決まります。
このような構図、人脈とでも言いましょうか。CM業界特有のチーム編成です。
なぜかというと、ディレクターは自分の絵の構図や映像表現を理解して撮影に挑むカメラマンを指名するからです。
続いてカメラマンが照明技師を指名します。
自分が撮りたい絵の明かりの扱い方を知っているからです。
プロダクション(撮影現場)のメインスタッフがディレクターを選んだ時点で決まる。
さらにポストプロダクションの編集エディターもディレクターが指名します。
これは30秒・900フレームの扱い方、ディレクターの演出意図を汲んで思い通りに編集してくれるエディターだからです。
CM制作での編集作業は、1カットが1フレーム違っても、見え方がまるで変わります。
だからディレクターは編集エディターを指名します。

プリプロダクションの段階でプロダクションのメインスタッフが決まり、
ポストプロダクションでの編集エディターまで決まるのがCM業界ならではかもしれないですね。
レギュラーのテレビ番組でもほとんどの場合、シリーズごとに同じメンバーで番組制作を行いますが、
CM制作と比べると技術スタッフはもう少し柔軟です。

演出プラン・方向性が決まったら続いて絵コンテ制作。
クライアントのご要望を確認しながら演出プランを固め、並行して予算収支・実行予算組みを行っていきます。
また、タレントを使う場合はスケジュール確認・競合の縛りがあるかどうかなどの確認も並行して行います。

CM制作にかかわるすべてのスタッフひとりひとりが、自分の役割を果たしながら、30秒(900フレーム)のCM制作に挑みます。

各パートを受け持つPM(プロダクションマネージャー)も、主体的に仕事を進めていかないと精度が落ちることを、
レベルが上れば上がるほど体感しています。
手を抜くどころか、当たり前のことを当たり前に、さらに精度を上げながら淡々と進めて行きます。
これぞまさに、プロフェッショナル!
優秀な個の集団として最高のパフォーマンスを発揮するためには何をしたら良いのか!
オールスタッフで向き合い挑みます。

そしていよいよ大詰め。
最終確認のためのPPM(プリプロダクションミーティング)を行う段階まであと1歩のところで、ディレクターが言い始めます。
これは何度も経験しました。

ディレクター「このCMで、大型クレーンを使いたいんだけど、どうかな!」
プロデューサー「たしかに!ダイナミックな構図になるよね」
ディレクター「でしょう。大型クレーン使いたい!」
プロデューサー「取り急ぎ、特機(大型クレーンなどの特殊機材を扱う会社)にスケジュール聞いておくね」

こんな会話です。

制作予算にはまらないな!とわかっていてもその場では否定しません。
まして制作費がないから無理!なんて口が裂けても言いません。
なぜなら、大型クレーンを使うことで、ディレクターの考えた演出プランがさらに、ダイナミックな映像になることがわかるからです。
しかしながら、大型クレーンを撮影に使用するほどの予算はありません。
ではプロデューサーとしてはどうするか。

私は代案を用意します!
それも予算内に収まる代案で、なおかつディレクターが納得する代案です。

その時に出した代案は、ドローンを使いCCD(小型カメラ)で収録するという提案です。
ドローンでの空撮がまだ市民権を得る前で、撮影ではほとんど使われておらず、規制も緩く、それだけ新しさと未知の魅力がありました。
仕事仲間に新しいモノ好きのカメラマンがいて、ドローンで撮影を行った話を聞いたり撮影素材を見せてもらったりしていたので、
レベル的には問題なく「これだったら」と思い提案しました。

結果、ドローン採用!
当日の撮影現場では、ラジコンで動くドローンは非常に珍しく、スタッフをはじめ、クライアントも広告代理店も大盛り上がり。
出来上がったCMのクオリティも上々で、評価も高く喜んでいただきました。
商品も売れ、クライアントの宣伝部でも話題に上がり次のCMもご発注いただきました。

ディレクターとその後に、このCMについて話をする機会がありました。
ドローンの提案、実は自分がしようかと思っていたそうで。
しかし、まだプロユースに達しておらず大型クレーンだったら確実と思い提案した!とのことでした。
うまい具合にディレクターの策にハマったのは、私の方だったようです。

お互いにお互いの役割を理解し、切磋琢磨しながらCM制作を行うことで自身のキャリアを積み上げていく。
新しいことにチャレンジしながらもプロフェッショナルとしての水準は落とさず自分を磨く。
クリエイティブには正解も終わりもありません。
だから面白い。
何が飛び出すかわからない。

プロデューサーとディレクターとは役割や責任の所在が違います。
それを理解した上でCM(コマーシャルメッセージ)制作、クライアントの課題を、映像技法を使い解決する。
商業映像の基本であり、そこにはクリエイターでしか味わえない醍醐味があります。

クリエイティブ(創造的・独創的)表現には正解はないということ。

もしかしたら、マンガ雑誌のCMでドローンを使ったのは私達が初めてかも!

ここまで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次回。

 

※記載されている名称は各社の登録商標または商標です。

プロフィール
株式会社フェローズ マーケティング セクション 兼 アニメセクション アドバイザー シニアプロデューサー
関田 有應
大学を卒業後、テレビ局直系制作会社に入社。
アシスタントプロデューサーを経て、プロデューサーに昇格。企画、番組制作、イベント映像、PV、VP制作を行い、その後CM制作を中心に実写業界でのキャリアを積み、その後大手出版社グループでデジタルコンテンツ系の映像・音楽制作会社の設立を機に転職。
設立メンバーとして映像制作・音楽制作を中心に、子供向け作品、テレビシリーズ・OVA・劇場版・音楽制作・マーチャンダイジングと、キャラクタービジネスの世界で製作プロデューサーを行う。代表作は、平成の名物キャラと言われる主人公がハムスターのアニメ作品。
その後、株式会社フェローズにてアニメセクションの立ち上げをお任せ頂き、現在はマーケティングセクションにて全国の映像系学校でのセミナー講師を始め、人材育成、映像業界へのご就業を希望される未来のクリエイターの皆さまに向けたキャリアアドバイザーを行っている。
息子も大手広告代理店直系の制作プロダククションのPM「親子鷹」である。
無類の音楽好きで、40年ぶりに大学時代のバンド復活!活動中!

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