「コレクション展1 それは知っている:形が精神となるとき」世界の変革期に形から感じる精神とは

金沢
ライター
いんぎらぁと 手仕事のまちから
しお

金沢21世紀美術館では2023年度前期のプログラムとして、「コレクション展1 それは知っている:形が精神となるとき」を開催中です。

金沢21世紀美術館が有する約4,000点の収蔵作品の中からテーマに沿ってピックアップした現代美術を展示する「コレクション展」。今回は「形と精神の関係」に注目し、6つの展示室でそれぞれのストーリーに沿った43作品を紹介します。

担当学芸員の黒沢聖覇さんによると、「形」は物質的な形だけでなく人間の表情やシステム、自然の原理など広義を指し、また「精神」は心や感情だけでなく関係性やネットワークといったつながりも意味しているとのこと。

展示室2の「惑星的な結びつき」では写真家の川内倫子さんがアイスランドや北海道で撮影した壮大な風景と、パンデミック後に自宅周辺で撮影した映像を組み合わせた映像作品[M/E]などを上映し、「Mother Earth(母なる地球)」と「Me(私)」を意味するタイトルとあわせて「一見遠く離れた環境も地続きにつながっている」という関係性を表現しました。


川内倫子《無題》2020 年
金沢21世紀美術館蔵
© Rinko Kawauchi

展示室4「幽霊の形/形の幽霊」では5人の作家が時間や存在といった形が幽霊的に崩れていく様を訴えます。

中川幸夫さんの作品[聖なる書]ではカーネーションの生花がガラスに押しつぶされ花液が画仙紙ににじみ出た様子を通して、生と死への移り変わり、形が精神へ移行していく瞬間を見ることができます。


中川幸夫《聖なる書》1994(プリント:2004)
金沢21世紀美術館蔵
© NAKAGAWA Yukio

沖潤子さんの[ひばり][つばめ]はヴィクトリアンジャケットの袖の部分を胴体部分から解体し、細かい刺繍を施しています。

切り離された両袖によって目に見えないそこにあったはずの身体を思い起こさせる不思議な作品でした。


沖潤子《ひばり》2015年
金沢21世紀美術館蔵
© OKI Junko
photo: KIOKU Keizo

展示室4前の通路に存在する[人々の国際連合 武装解除時計]を制作したのはメキシコ人作家のペドロ・レイエスさん。

メキシコ国内で不法所持者から押収された銃を時計などと組み合わせ、15分ごとに音が鳴る楽器に変化させました。

暴力的な物体が平和的な精神に置き換わっていく。この時代や時勢に対する希望とも言えるシンボル的な作品です。


ペドロ・レイエス《人々の国際連合 武装解除時計》2013年
金沢21世紀美術館蔵
© Pedro REYES
photo: KIOKU Keizo

全面ガラス張りの展示室5では「熱と重力」をコンセプトに、ヴラディーミル・ズビニオヴスキーさんと招へい作家の田中里姫さんのガラス作品を展示。


ヴラディミール・ズビニオヴスキー《石の精神》2001年
金沢21世紀美術館蔵
© Vladimir ZBYNOVSKY
photo: SAIKI Taku


田中里姫《切々、憧憬》2022 年
作家蔵

田中さんは「自然光溢れるガラスの展示室に作品を置くのは初めてだが、展示する場所や日光の当たり方によって見え方が変わる自身の作品をどう感じてもらえるか興味深い」と期待を寄せます。

「泣き笑いの知性」と名付けられた展示室6では、入ってまず巨大なインスタレーション[The Big Flat Now]が目に飛び込みます。

「コレクション展1 それは知っている:形が精神になるとき」展示風景、金沢21世紀美術館、2023年
中央:松田将英《The Big Flat Now》2022年
左:トニー・アウスラー《ピンク》2003年、金沢21世紀美術館蔵
右:トニー・アウスラー《エッロ》2003年、金沢21世紀美術館蔵
撮影:顧剣亨

世界でもっとも使用されている絵文字を取り入れた松田将英さん(招へい作家)のバルーン作品で、泣いているのか笑っているのか、受信者と送信者の関係性で読み取り方が違うアイコンそのものが意思を持っているように空間を支配しています。

表題の「それは知っている」は展示室1「つながり合うパターン」で紹介するリジア・クラークさんの作品[動物]シリーズからきています。


リジア・クラーク《動物ー二重の蟹》1960年
金沢21世紀美術館蔵
© “The World of Lygia Clark” Cultural Association
photo: SAIKI Taku

金沢21世紀美術館では実際に触ることはできませんが、本来は観覧者が自分の手で自由に動物のようなパターンを生み出せる作品だったとのこと。

観る人・触る人によって無数に形があるこの作品について、作者自身がそのバリエーション数を「私にはわかりません。あなたにもわかりません。でもそれ(「動物」)は知っている……」(リジア・クラーク『動物1960』より)と言ったことから引用し、それぞれの展示室や作品の意思を鑑賞者それぞれの感性によって自由な感性で読み取ってほしいという企画の狙いを表しています。

確かに形や精神とは非常に不確かなもので、自分自身のことすら「絶対に移り変わることはない」と言い切れることは一つもないのかもしれません。

今回のコレクション展を通じて、「形ひとつとっても一人一人それぞれの見え方や感じ方が違う」ということへの肯定と、それでも「同じ作品を観たという共通の精神(関係性)」を私なりに得たように思いました。

大きな変化が立て続けに起きたこの世界で、あなたはこの作品たちからどのような精神を感じるでしょうか。

コレクション展1 それは知っている:形が精神になるとき
会期 2023年4月8日(土)~11月5日(日)
休場日 月曜日(ただし7月17日、9月18日、10月9日、10月30日は開場)、
5月14日(日)、7月18日(火)、9月19日(火)、10月10日(火)、10月31日(火)
開場時間 10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
※観覧券販売は閉場の30分前まで
会場 金沢21世紀美術館 展示室1~6
出品作品数 43点
料金 一般 450円(360円)/ 大学生 310円(240円)/ 小中高生 無料 / 65歳以上の方 360円
※( )内は団体料金(20名以上)
主催 金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]

画像提供・取材協力:金沢21世紀美術館
(石川県金沢市広坂1丁目2-1、TEL 076-220-2800)

プロフィール
ライター
しお
ブランニュー古都。 ふるくてあたらしいが混在する金沢に生まれ育ち、最近ますますこの街が好きです。 タウン情報サイトの記者やインターネット回線系のまとめ記事などを執筆しながら見つけたもの、感じたことをレポートします。 てんとうむししゃ代表。

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