思い通りにいかないこと、手に負えないこと、が好き

Vol.128
画家/絵本作家 ミロコマチコ(mirocomachiko)氏
Profile
1981年、大阪府生まれ。
京都精華大学人文学部人文学科 卒業。
アートスクール梅田造形デザイン(大阪)卒業。
2012年、『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)で絵本作家デビュー。同作で2013年、第18回日本絵本賞大賞を受賞、『てつぞうはね』(ブロンズ新社)で第 45回講談社出版文化賞絵本賞受賞、『ぼくのふとんは うみでできている』(あかね書房)で第63回小学館児童出版文化賞受賞。2015年、『オレときいろ』(WAVE出版)でブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)「金のりんご賞」を受賞。
弾けるような色彩で生き生きと描かれた動物たちの絵本が人気のミロコマチコさん。2015年秋に行われた世界最大規模の絵本原画コンペ、BIB(ブラティスラヴァ世界絵本原画展)で、彼女の作品『オレときいろ』が準グランプリの「金のりんご賞」を受賞しました。

BIBは、スロヴァキア共和国の首都ブラティスラヴァで開催される絵本の国際ビエンナーレで、毎回、各国から芸術性の高い作品や実験的でユニークな作品が集まります。うらわ美術館を皮切りにはじまる日本巡回展『BIB 50周年 ブラティスラヴァ世界絵本原画展 ―絵本の50年 これまでとこれから― 』を前に、受賞の喜びと創作活動について伺いました。

人形劇に感動して、人形劇団員に?

「金のりんご賞」トロフィーを見せていただきました

「金のりんご賞」トロフィーを見せていただきました

まずは、絵本作家になろうと思ったきっかけは?

小さい頃、家にたくさん絵本があって、毎晩、毎晩、父が読み聞かせをしてくれたので、もともと絵本は大好きでした。でも成長するにしたがって、だんだん読まなくなっていきましたね。 ある時、8歳年下の弟と人形劇をみに観に行って、「こんなに素晴らしいものが世の中にあったのか」とボロボロ泣くほど感動して、人形劇団員になりたいと思いました。その時に観たのが、京芸という京都の人形劇団によるミヒャエル・エンデの『モモ』という作品です。でも、その時、私は15歳でどうしたら人形劇団員になれるのかもわからず、とにかく人形劇をたくさん観ました。人形劇は絵本を原作とする作品が多くて、自然とまた絵本を読むようになりました。自分が想像していた以上に絵本がぶっ飛んでいて自由で面白いことに気がつき、お話を作ることが好きになりました。

大学では、児童文学を学ばれていたとお聞きしたのですが。

人文学部の中に児童文学という授業があった京都精華大学に入学しました。お話を作る授業があるように思って入ったのですが、実際には文学の歴史や評論といった授業ばかりで期待していたものとはちょっと違って……。 ちょうどその頃、友達の誘いで小さな人形劇団に入って、劇団の活動に没頭していきました。その後、同級生ばかりで人形劇団を立ち上げました。お話を作るのが好きだったので、台本を担当して、ずっと自分の作ったお話を演らせてもらっていました。

では、卒業後は人形劇の道を進むことに?

大学を卒業する頃には、友達はみんないつのまにか就職が決まっていて、人形劇はこれで終わりという感じでした。私はというと、卒業してからも幼稚園などで一人で演っていたこともあったのですが、4年間演ってみて、もともと人前に出ることも演技することも苦手であったことに気がつき、これは向いていないなと思って、それじゃあ何が好きかと考えると、お話を作るのが好きで絵本が好きだということに改めて気が付き、絵本作家になりたいと思ったんです。

23歳、大阪にあるスクールの「絵本コース」へ

そこで、いよいよ絵本作家を目指された。

まあ、ぼんやりですが。まずは自分で絵本を作ってみたりもしたのですが、どうやって絵本作家になったらいいのかがさっぱりわかりませんでした。絵を習ったこともなく、絵のことが知りたいなと思って、23歳の時にアートスクールという大阪にある学校に通いました。美大受験のためデッサンを学びに来ている人もいれば、趣味の人もいる、週1、2回くらい通うようなスクールの絵本コースです。

スクールでは、どんなことを学ばれたのですか?

すごく自由な学校で、まず「何がしたい?」と聞かれるんですよ。取らなければならない授業が決まっているわけではないので、「デッサンがやりたい」と言えばデッサンを、「スケッチに行きたい」と言えばスケッチに行って。私は「絵本をつくりたい」そのために「絵も知りたい」と思っていたので、自分が好きだった絵本を持って行って、「これと同じ絵の具を使いたい」と言ったり、教室で絵を描いている誰かと「同じ絵の具を使いたい」と言って、先生に1つ1つ教えてもらって、全部実践で学びました。

2015年 絵本の国際ビエンナーレで準グランプリ受賞

『オレときいろ』 ミロコマチコ (著) WAVE出版 2014年

『オレときいろ』 ミロコマチコ (著) WAVE出版 2014年

『オレときいろ』が、2015年 BIB(ブラティスラヴァ世界絵本原画展)の「金のりんご賞」を受賞されました。これはつまり、ミロコさんの絵が世界から認められたということだと思いますが、どんな気持ちですか?

驚きましたし、うれしかったですね。私の絵に世界の人にも感じる何かがあったんだなと思って、うれしかったです。 私が好きだと思う世界をみんなも好きだと思ってくれること、そんなことがあるんだなと思うと不思議でした。

受賞作の『オレときいろ』は、どんな風にして生まれたのですか?

『オレときいろ』は、ベランダがある前の家に住んでいたときに作ったお話です。うちの猫がモデルなんですけど、猫が毎朝ベランダに出たいというので出してあげていたんです。3月ぐらいでしたかね。これから春が来ようとしている時で、枯れ草ばかりだったベランダが芽吹いてきて、小さな虫とかが飛び始めて、春一番が吹いて、その様子に翻弄されていた猫の様子が面白いなあと思いました。何かが一斉に芽吹く時期、それがすごく眩しくて、この芽吹いてくるものすべてを表現出来ないかと思って、輝いているようなイメージの総称で「きいろ」と呼んで、この「きいろ」に翻弄されるオレ(猫)を描いて絵本にしました。 この絵本を描いた時は、テンションがむちゃくちゃ高くて踊りながら描きました。

その時一番ワクワクするものを膨らまして作る絵本

絵本を作るとき、お話と絵とどちらが先に出てくるのですか?

それが、本当にバラバラで。例えば、デビュー作の『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)は、絵が先でした。すごく風の強い日に前が向けなくて前かがみになって歩いている時に、オオカミが走り回っているような映像が浮かんだんです。すごく風が強いのはオオカミが走り回っているからだというイメージから、この絵本は出来上がっていきました。 反対に『ぼくのふとんはうみでできている』(あかね書房)は、「ぼくのふとんはうみでできている」というフレーズが先に浮かんで、これは面白い絵本になりそうだと思って、そこから膨らましていきました。 私の場合は、本当にバラバラです。こういう順序でいつも作っていますみたいなルールはあんまりないですね。ただ、いつも少しの言葉とちょっとした映像みたいなものはセットになっています。

お話は、いつも自然と沸いてくるんですか?

いつまでに見せてくださいと言われたら、結構そこまでに作ろうと思って作ります。 小さな種みたいなモノのは、いつもたくさん手帳にポロポロとメモしています。その時は、膨らまなかったりするんですけど、気に入った言葉とか、すごくワクワクした経験とかをメモっています。いざ作ろうって時に、5年前に思ったことが形になることもあるし、昨日思ったことが形になることもある。バラバラです。メモを見てその時に一番ワクワクするものを抱えて、散歩しながら膨らまして作ることもあります。

1冊作るのにどれくらいかかるんですか?

アイデアから練ったりする時間も含めたら、半年くらい。実際、絵を描くのは4、5日くらいです。絵を描く間に他の何かをするのは嫌なので、いつも「これしかやらない」と決めてやります。

年に1冊ペースで出版されていますが、次の絵本は?

『つちたち』(学研教育出版)を去年(2015年)の秋に出版したので、次の絵本も順調にいけば、それくらいになりそうです。 今、ラフが出来たところで、もうちょっと直しがあるかもしれませんが、本描きとかは少し先なので秋くらいを目標に作ります。 特に決めているわけではないんですけど、絵本以外の仕事もしていることもあって、ペースとしては、やっぱり1年に1冊ぐらいですね。

画家・ミロコマチコと絵本作家・ミロコマチコ

『オオカミがとぶひ』 ミロコマチコ (著) イースト・プレス 2012年出版

『オオカミがとぶひ』 ミロコマチコ (著) イースト・プレス 2012年出版

肩書きを画家・絵本作家とされていますが、これについてはそれぞれどんなふうに考えていらっしゃるんですか?

絵本作家としてのデビューが2012年で、それまでずっと長く、一枚絵ばかり描いていました。本当は、お話を作ることが好きだったのですが、アートスクールで絵をやり始めたら、絵を描く事もすごく楽しくて、ずっと展覧会ばかりをやっていました。私にとっては、絵本を作ることと同じぐらい、一枚絵を描くことも好きなので、肩書きを画家・絵本作家としているんです。 この2つをバランスよくやることが私にとっては体に健やかっていう感じがしています。絵本は多少こうしなきゃならないルールみたいなもの(型)があり、絵は全く自由で自分だけで完結できます。どっちもやることで、絵本も、絵も、両方面白いと思えるのです。どっちも片方だけだと、ちょっと嫌になる時期があったりもするので、両方をバランスよくやりたいと思っています。

展覧会では、巨大な作品も制作されていらっしゃいますが、大きな作品を描くのは楽しいですか?

大きい絵を描くことは、すごく好きなんです。なぜかというと、手に負えないこととかが好きなんですよ。大きいと自分がこう線を引きたいと思っても、思い通りに引けなかったりするじゃないですか。そういうことが結構好きで思い通りにいかないと、それを「どうしようかな。」とか思いながら作るのが楽しいです。ライブペイントもそうなんですけど、家ではなかなか大きな絵は描けないので、大きい絵が描ける時は、チャンスと思って描かせてもらっています。

思い通りにいかなくても、その絵はそれで良しとするということですか?

もともと、忠実にきれいに描くことが目標ではないですから。 例えば、オオカミを描くんだったら、私の想像するオオカミにしたいんです。ちょっと荒々しかったり、迫力が有ることが大事で、形が忠実であることはそんなに重要ではないんですよ。むしろ大きいと筆の運びもビューッと勢いが出るだろうし、そういう勢いのほうが大事というか。

ミロコさんが、絵で一番表現したいと思っていることって何ですか?

動物だったら、「ものすごく速そう」とか、「ものすごく意地が悪そう」とか、それぞれ動物にも性格とか個性があって、それをイメージしながら描いています。例えば、リスだったら、「せっかち」だとか。 この絵本『オオカミがとぶひ』は、まさにそういう絵本なんです。何年も、そう思いながら絵ばかり描いてきて出来た絵本です。 植物とかも、実際の色と掛け離れた色で描くこともあります。実際は緑なんだけど「赤紫な気がする」と思ったら赤紫で塗るのですが、実際の色と違ってもその方が自分の中では納得がいくんです。 まぁ。そもそも絵なのでね。私の描く絵は一度私の中を通って出てきたものなので、実際の形に忠実でなくていいと思っているんです。

描きたいものをどんどん出して描きまくれば だんだん自分の形が出来ていく

次に作りたい絵本や展覧会の構想は、すでにあるんですか?

今年は、ちょっと不穏な空気なんですよね。暗い中、何かがこっちを見ている。獣の目が光っているみたいな。(笑) 奇妙なというか、なにかザワザワするような絵本や展覧会を作ってみたいなと思って、計画中です。

最後に、クリエイターの皆さんに向けて、一言お願いします。

何かにとらわれず、やりたいことを素直に出していったらいいと思います。 例えば、何かに似てるねと言われる時期もあると思うんですけど、きっとみんな何か好きなものに影響されて、自分が出来てきたと思うので、そんな時でも、誰かのマネでもいいから、描きたいものをどんどん出して描きまくれば、だんだん自分の形とかって出来ていったりするんじゃないかなと思います。手を動かし続けることが、大事だと思います。

クリステメール読者のためにサインをしていただきました

クリステメール読者のためにサインをしていただきました

ありがとうございました。次の絵本楽しみにしています。 ミロコマチコさんには、 絵本『オレときいろ』(WAVE出版)にサインをしていただきました。 クリステメール読者の方、5名様に本をプレゼントいたしますのでクリステメール会員に登録して、ぜひ、ご応募ください。 (応募期間:2016年6月22日~7月26日) 【クリステメールプレゼント応募フォーム】 【クリステメール会員登録はこちら!】

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取材日:2016年4月11日 取材:クリステ編集部

ミロコマチコ(画家・絵本作家) 1606_miroco_plf

1981年、大阪府生まれ。 京都精華大学人文学部人文学科 卒業。 アートスクール梅田造形デザイン(大阪)卒業。 2012年、『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)で絵本作家デビュー。同作で2013年、第18回日本絵本賞大賞を受賞、『てつぞうはね』(ブロンズ新社)で第 45回講談社出版文化賞絵本賞受賞、『ぼくのふとんは うみでできている』(あかね書房)で第63回小学館児童出版文化賞受賞。2015年、『オレときいろ』(WAVE出版)でブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)「金のりんご賞」を受賞。

ミロコマチコ公式サイト http://www.mirocomachiko.com/

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