演出を手がけたAKB48や乃木坂46などのMVが、ファンの間で大好評だと伺いました。
初期の頃に演出をした『胡桃とダイアローグ』という曲は、今までのAKB48にはないスタイリッシュな映像に仕上げたところ、気に入ってくれたファンの方が多くて、とてもうれしかったです。AKB48をアイドルではなく、アーティストとして見てほしい、という思いを込めて作りました。
確かに中村さんの手がけるAKB48のMVは、アーティスティックな雰囲気のものが多いですね。
もともとキャリアのスタートは、MTVでした。MTVで映像のイロハを学んだので、その影響が大きいかもしれません。
MTVに入社されたキッカケは?
京都の美大で情報デザインコースに在籍していた頃、CG映像が世に広まり始めて、カッコいい!と仲間と一緒に雑誌を見たりしながらアフターエフェクトを使ってCGを作っていたんですよ。 就職を考える時も、漠然とグラフィックよりは映像がやりたいなと思っていました。 関西で内定をもらっていたんですが、たまたまたMTVで映像コンペが開催されていて、CGを使った映像を作って応募したら、特別賞を受賞したんですよね。それがキッカケでMTVのクリエイティブ担当の方から「会社に遊びにこないか?」と言われて、すっかり舞い上がってしまいました。そのまま東京に引っ越して押し掛けて、いつの間にか就職してしまった感じです(笑)。
「遊びにこないか?」だけで引っ越してしまうとは、勢いがありますね(笑)。
その社員の方は本当に「遊び」での誘いだったと思うので、引っ越しまでしてきて驚いたと思うんですけど(笑)、私にとってMTVは憧れの会社だったので、突っ走ってしまいました。 会社に入ったらアフターエフェクトを使える人がいなかったので重宝されて、早い時期にアシスタントを卒業してディレクターになることができました。
MTVでは、どのような仕事をしていたのですか?
局内で企画するイベントや特番の告知プロモーションビデオ(PV)をメインに、いろいろな映像を作りました。7年間在籍しましたが、MTVのクリエイティブ部は少ない人数だったので、1人の役割が広く、様々な映像に関するノウハウを学べる場でしたし、おそらく誰よりもMVを多く見ることができる環境でしたから、それも身になりましたね。
7年在籍したMTVから離れ、フリーになられたんですよね。
もう少し幅広い仕事をしたいと思い、独立しました。 フリー期間は、どちらかと言えば演出よりも編集寄りの仕事が多かったですね。 CMやPVを短時間で仕上げたり、CGの加工をしたり。
そこから再び社員としてKRKプロデュースに入社されたキッカケは?
たまたまスタッフ募集の告知を見かけたのがキッカケなんですけど(笑)。 当時のAKBは「ポニーテールとシュシュ」を出した頃で、今ほど注目を集める存在ではありませんでした。最初はプロデューサー補佐のような立場で仕事をしていたのですが、急にテレビ用にMVを撮らなければならなくなり、誰も引き受けないので、もはや「自分が手を挙げるしかない!」という状況になりまして。
誰も引き受けないということは、納期や条件が厳しい仕事だったんですよね?
1週間後に撮影、その1週間後には納品、というようなスケジュールでした。知り合いのスタッフに大急ぎで声をかけて、スタジオを抑えて・・・というコーディネートや仕切りから演出、そして編集まで、まさに寝る時間を削って何とか仕上げましたね。
演出とは別の立場にいながら、突然の演出の仕事ですよね? 引き受けるのに躊躇しなかったのですか?
正直なところ、フリーになって演出の仕事が思うようにできず、くすぶっていた部分が自分の中にありました。チャンスをつかむ嗅覚に優れている人が売れるのに、自分はチャンスに気づけずに頑張れなかった。後から考えれば、あの時はチャンスだったのになぜもっと頑張らなかったのか、という思いがあったので、プレッシャーはあったけれど、目の前に来たチャンスをつかむのに躊躇はなかったですね。
チャンスをつかんだ結果は?
作ったMVをプロデューサーの秋元康さんに評価していただき「カップリング曲のMVを作らせてみたら?」と、さらにチャンスが広がりました。さらに、AKB48派生ユニットや、乃木坂46のMVを作るチャンスに恵まれ、そのMVを見た広告代理店の人に声をかけてもらって、CM演出のチャンスもやってきました。一気に世界が変わりましたね。
様々な映像を手がけていますが、中村さんの作品の特徴は?
「女の子のかわいらしさの表現と、それを音楽に乗せてポップに表現する」ことです。 もちろん他の表現もできますが、今は女の子の出演するMVを中心に仕事をしていて、それが評価されて様々な仕事につながっています。自分に仕事が来た理由を考えて、それを裏切らない仕事をしたいですね。
自分の仕事に対する結果は気になりますか?
ものすごく気にしますよ。CMならば、売上などの数字が気になり、CMによって売上が増えたかどうか、必ず確認しています。MVならファンが求めているもの、メンバーが考えている今後の方向性、プロデューサーである秋元さんの思いを全部拾って、つないでいく仕事をしたいと心がけています。
次々と仕事のフィールドを広げている中村さんですが、今後はどのような仕事をしていきたいですか?
MVに関しては、徐々に取り巻く環境が厳しくなっていると思いますが、まだまだできることは多くあると思います。ドラマ仕立てのMVを作ったら、その先にショートドラマを作ったり、Google+などのSNSを絡めたり、新しい可能性を探っていきたいですね。 もうひとつ、社内的立場として、8人いる部署のリーダーでもあるんですよ。AKB48関連のMVはもちろん、様々な仕事を受けていく中で、しっかりと誠実な映像を作れる環境を整えていきたいと考えています。限られた予算の中で、最大限の結果を残していきたいです。
中村さんのようなクリエイターを目指す人へ、メッセージをお願いします。
今の若い人はとても真面目で、自分たちの頃よりずっと丁寧に仕事をしていますよね。 ただ、PCやインターネット環境が良くなるにつれて、いろいろなことができなくてはならないので、大変だと思います。大変だと思いますが、目標の実現に向けて、頑張っているのは当たり前のことなので、いつ来るかわからないチャンスのために、どれだけ経験値やアイデアのストックを蓄えられるかが勝負。チャンスをチョイスしていく嗅覚も大切ですが、それを見極める力も、それまでの努力の中で磨かれていくものだと思います。
取材日:2014年4月10日 ライター:植松
Profile of 中村太洸
1977年広島出身 MTV STATION-IDコンテストでジョン・C・ジェイ賞の受賞をきっかけに、MTV JAPANへ 入社。 現在はKRK PRODUCE所属。
主な監督作品