特別な存在だった三浦春馬に捧ぐ、「光」が見えた3つの舞台

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 何か特別なものを獲得した時に見える輝きがある。ここ5年間で観た三浦春馬の3つの舞台でそれを見た。想像を絶する苦闘の果てに、まるで自然にまとっているようにさえ見えるほどひそやかに輝く光だ。三浦は自らに重い課題を課すように、それを繰り返し、ある日突然、永遠になった。悲しみから逃れることができない人も、不思議なほど涙が出ない人も、今は三浦春馬という「表現者」が私たちの世界に残したものに柔らかな視線を注ぐことに集中しよう。

 「地獄のオルフェウス」で世界的な演出家、フィリップ・ブリーンの薫陶を受けたのは2015年。大竹しのぶとの共演舞台だ。古い人間関係が渦巻く田舎町で再生を目指す青年ヴィルを三浦は演じた。大竹が演じるのは夫に抑圧されてきた店主のレイディ。彼女との深まる関係の中でヴィルの瑞々しさとまがまがしさを同時に映し出す高度な演技を披露したばかりか、レイディと激情をぶつけ合うシーンでは、互いが互いの火の中に火をほうりこんでいくような激烈な演技を見せた。

 2016年は「キンキーブーツ」。市場は小さいが需要は確実にあるドラァグクイーン向けのブーツを製造しようと近づいてきた小さな靴メーカーの若き経営者と心を通い合わせながらも、拒否反応の強い工員たちとの距離を詰めていく過程が泣かせる物語。クイーンのローラを演じた三浦は確かな表現力で、彼女の性を超越した力強さを具現化し、しなやかなダンスと情熱的な歌を披露した。ピンヒールのブーツを履いているとは思えないステップワークも観客を魅了した。

 2019年にはブリーンの演出で「罪と罰」の主役に抜擢された。三浦は、正義のために人を殺すというある種特殊で、ある種どこにでもいそうな青年を見事なまでに同居させる。瞬間的に人柄が変わり狂暴性が増すというのではなく、どちらも同じ身体と精神から発する行動なのだということを感じさせる。そのことが、より恐ろしさを付け加えた。

 「キンキーブーツ」は再演され、今年12月にはミュージカル「イリュージョニスト」も待っていた。どんなに望んでも叫んでも戻ってこないが、彼は私たちにとって特別な存在だった。そのことだけは決して忘れないでおこう。

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・京都に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。パンフ編集やイベント司会、作品審査も手掛け、一般企業のリリース執筆や広報・文章コンサルティングも。今秋以降は全国の新聞で最新流行を追う連載企画を展開します。活動拠点は渋谷。Facebookページはフォロワー1万人強。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/ )

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