映像2022.07.06

新進気鋭の学生監督・大野キャンディス真奈「脳内で考えたことが現場で変化していくのが楽しい」

Vol.41
『愛ちゃん物語♡』監督
Ohno Candice Mana
大野キャンディス真奈
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野キャンディス真奈(おおの・きゃんでぃす・まな)が手がけたポップでラブリーな人間ドラマ『愛ちゃん物語♡』。毒親パパに束縛され、自由を知らずに成長した16歳の愛ちゃん(坂ノ上茜)が、生きてきた文化も生活も異なる聖子さん(黒住尚生)さんと出会い、家族のようで友達のような関係をつくっていく。 その独特な世界観で、2021年のぴあフィルムフェスティバルでエンタテインメント賞(ホリプロ賞)と映画ファン賞(ぴあニスト賞)、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて審査員特別賞を受賞するなど各地の映画祭を席巻し「超Happy!」な新進気鋭の学生監督に、映画のつくり方や監督のバックボーン、クリエイターにとって大事なことについて語ってもらいました。

映画は「あなたはどう思う?」と問いかける気持ちでつくっている

『愛ちゃん物語♡』のテーマは家族ですが、なぜこのテーマを選んだのですか?

私はいつも「あなたはどう思う?」と問いかける気持ちで映画を作っているのですが、今回は身近な存在である家族をテーマにしました。自分の家庭が少し不安定なときに名前もいらないと思ったし、“家族”という括りや言葉自体にもちょっと疑問を持って……。“普通”って何だろうと考えたのがこの映画のきっかけ。周りにいる人たちは家族大好きという感じだったけど、海外に行くとまた違う形があって。そういう姿を見て、家族の形態はひとつじゃない、何でもいいんだと思いました。そして血のつながりとか関係なく、周りにいる人たちが家族なんだと気づいたというか……。家族の存在の大きさを感じました。

映画という形に落とし込むためにどのような作業をしましたか?

家族というテーマは普遍的で、簡単そうだけど難しいところもあると思って書き始めたら意外と集中しスラスラ書けました。「こういう感じかな?」と頭の中で想像して自分の中で正解を出して、つくった感じ。もちろん、ストーリーの起承転結みたいなものは先に作って、その中でキャラクターを動かしていき、キャラクターの性格はどんなだろう? エンデイングでこの子は何をしているんだろう?と設定を決めたら、いつの間にかキャラクターは自由に動いていったかな。細かいことは、後で足したり引いたりして。キャラクターがどんどんリアルになっていった感じです。

キャラクターも型にハマっておらず魅力的でした。

みんな実は自由そうに見えて統一感がなさそうに見えますが、実は“愛”という共通点があります。誰かを好きだからこそ強く行動をとったり、傷つけたり、見守ったり……。“愛”の良い面と悪い面の両方を入れたつもりです。形の違う愛があるのと、人間、不器用だからあまり上手に伝えられないけど愛が詰まっている。映画って人間ドラマですから、キャラクターが魅力的に映ったのならうれしいです。

主人公の愛ちゃんがカメラに向かって話したり、急にダンスを踊ったりと、感情表現が大胆だったのもこの作品ならではですね。

大好きなアニメやティム・バートン監督作品のような、「オーバーリアクション」をどうしても入れたかったんです。日本の映画でアニメみたいな表現方法って意外とないと思うんですよ。それをやってみたいなって。

アニメを見ていると感じるのですが、“オーバーリアクション”のような過剰な表現方法は意外と感動や感情が伝わりやすいと思います。もちろんリアリティを追求しても届くと思いますが、オーバーにすることで見る人に届きやすくなる。アニメのようなカルチャーが好きなので、意識して入れたところはありました。アニメを見て育っているから、私の中では、かなり自然な表現方法なので、無意識のところもあります(笑)。映画としては、リアリティがなく全てがオーバーな表現だと見る側が冷めてしまうこともあるので、塩梅には気をつけました。

ポップカルチャーが好きなのは映像の細部から伝わってきました。

明るい印象の映画や作品を見ると自分の気持ちも明るくなるので、人を元気にする作品をつくろうと決めていました。画像の色味もカラコレ(カラーコレクション※映像の色彩を補正する作業)とかで結構こだわり、大好きな80年代の映画のように少し古びた感じの色調も入れつつ、レトロな感じだけどちょっと明るい色みとかを調整したり……。撮影が終わった後も、こだわり続けました。ちなみに編集は1年半くらいやっていて、とことん突き詰め過ぎて脳内でゲシュタルト崩壊が起きていました(笑)。

頭で考えた作品が現場で変わっていくことが面白かった

これまでの作品では自ら出演することもありましたが、今回は監督・脚本・プロデュースと出演はせず。キャストのみなさんとはどのようなことを話しましたか?

作品についてはあまり話しませんでしたが、どんな風に演じて欲しいということは細かく言いました。あとは「甘いもの好き?」とか、そういう日常の会話です(笑)。愛ちゃんを演じてくれた(坂ノ上)茜ちゃんは、自主制作の映画への参加が初めてで、私たちのわちゃわちゃしているところに最初のうちついて来れていない感じがしたので、一度、時間をとって話し合いをしました。

私だけの意見でつくるのではなく、他の人の意見も欲しいとお願いして。それからは、「ここの演技はこうしてみる?」とか「効率を考えてこのシーンを先に撮りませんか?」とかみんなが提案してくれるようになって。みんなで一つのシーンをつくっている感じになりました。そうして生まれたいいシーンも多いんですよ。

聖子さんを演じた黒住(尚生)さんもたくさんアイデアをくれて……。学生時代の聖子さんが海に飛び込むシーンがあるのですが、あれも黒住さんの案。目の前に海があったから、「ここから飛び込んだら面白い? オレ、飛び込めるよ」って言ってくれて。じゃあ飛び込んでもらおうと急いでセッティングして撮りました。このときの撮影は楽しかったです。

自分の思い描いていたシーンが現場で変わっていったんですね。

そうです。やっぱり映画ってそこが面白いんですよ。私は大学で油絵を専攻していますが、個人で制作する絵だと一対一なんですよ。それに対して、映画はみんなの手が入ってくるので、つくり上げていくという過程があって……。自分とは違う発想があったり、専門的な目で作品を見てくれる安心感もあったり、すごく頼もしくて不思議な感覚でした。これは全部一人でやっていたら分からないことでした。

監督はチームの長という立場ですが、気をつけていたことはありますか?

自分が思い描いていたイメージやディテールはそれぞれの担当にじっくり話しました。これが一番大事だと思いますね。自分のイメージとズレるときっと作品としても気持ち悪いものになってしまうし、みんなも納得して動いていないと微妙な違いが出てしまう。イメージを形にするのは大変。でも今回は、自分が思い描いていた画は全て揃えられた気がします。

改めて映画制作のどこが面白いと感じましたか?

仲間が増えていく感じが面白い。一人で漕ぎ出した船にキャストやスタッフが乗り込んできて、撮影が終わったら「バイバイ」って降りていってしまう。対して私は船長だから、この船を映画館まで届けなければならなくて……。映画って楽しいですよ。

多くの人に観て感じてもらいたいから劇場公開にこだわりたい

企画から2年越しの公開ですが、劇場公開にこだわった理由を教えてください。

今、スマホやカメラの性能もよく、誰でも撮れるので、自主映画は撮ろうと思えば誰でも撮れるんですよ。ただ、俳優さんやスタッフさんに十分なお金を払えないのが自主映画で……。それならせめて劇場で観てもらって、俳優さんや作品を多くの人に知ってもらいたいという気持ちがありました。

だから今回は最初から“劇場公開する!”という目標を決めて、「簡単にできるっしょ」「配給つくでしょ」と軽いノリで始めたのですが、かなり考えが甘かったです(笑)。

映画館で公開するためのノウハウが全くなくて、もうどうしたらいいの?状態。かなり焦りましたし、大変でした。でも次からはできると思うし、できれば最初から公開を見据えた作品を作りたいです。

今後も劇場公開にはこだわっていきますか?

やっぱり映画館って、音響も素晴らしいし、臨場感が特別だと思います。そういうところで流れるのはうれしいし、特別な気持ちになります。お客さんの反応が面白いんですよ。みんなで笑ったり驚いたり……。映画館って、気持ちを共有している感じが楽しいです。

それに映画はこちらが込めた想いが伝わりやすい。長尺や余韻も残るので、感情が動かされやすいというか。ダイレクトに伝わるところが好き。大変なこともあると思うけど、今後は商業監督として映画をつくっていきたい、つくり続けたいです。

映画は周りからの反響が大きいのも特徴のひとつですが、多くの方から感想を言われることについてはいかがですか?

言ってもらえるのはうれしいです。今回、LGBTは主題ではありませんが、人間の描き方として色々な意見をいただいています。そういう意見を見ると、自分ももっと勉強しなきゃという気持ちになります。自分の世界にいると気づかなかったことを気づかされるというか。自分があまり知らないことを扱うなら、もっと学んで自分の中に落とし込んでいかなきゃって。

自分の思いが伝わらないこともありますよね。

色々な角度から観る人がいて、自分の趣旨と違う受け取り方をされることも多いのが映画ですが、それも面白いと思います。自分の想いが伝わったときはもちろんうれしいですが、思ったのと違った捉え方をされても、「あなたの考えはそれだね」って。まずは見てくれたことにありがとうの気持ちでいっぱいというか。何かを感じてもらえるだけでうれしいです。映画を含めてアートは自分の意思や気持ちを込めても、見た人に全く違う感情が生まれたり意見が出たりするものなので。その人が感じたままでいいんじゃないかな。好みなんて人それぞれですし。

本作は、ぴあフィルムフェスティバルでエンタテインメント賞と映画ファン賞、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞などを受賞しましたが、映画祭で評価されることはやはりうれしいですか?

超ハッピーって感じ。もううれしさしかないですよ!

撮影方法を勉強中。ひとつずつ超えていった先に何があるのか楽しみでしかない

いつ頃から映画監督に憧れがあったのですか?

意識したのは高校生のころです。でもなぜかつくっていなかったんですよ。藝大や美術学校に行きたいと思い、絵の予備校に通って油絵を学んでいて、多分、忙しかったんだと思います。大学に入ったら自由な環境で、映画をつくりたい!と思うようになって、『歴史から消えた小野小町』(2018年)をつくりました。

昔から頭の中にあるものを形にするのは好きだったかも。子どものころから物語をつくるのが好きで、机にたくさん落書きをしていたし、絵を描くのも表現ですし。自分が普段生活して感じたことなど脳みその中にあるものを形に出すことがすごく楽しいと感じるんです。もちろん形にするまでは苦しいこともありますが、できたら「超いいじゃん! エクスタシー感じる!!」みたいな感じ。映画も同じです。

子どものころから映画は好きでしたか?

父の影響で映画を観ていましたが、観ていたのは超有名な作品ばかり。ハリウッド映画やアクション映画が多く、『キル・ビル』(2003年)、『バイオハザード』(2002年)、『スパイダーマン』(2002年)とか大好き。コアな映画ファンというより、すごくフラットな映画ファンでした。

先ほどおっしゃっていましたが、ティム・バートン監督も好きだったんですよね。

ティム・バートン監督はリスペクトな感じです。絵や絵本などアートな作品だけでなく、商業的にヒットする映画もつくれるところがすごいというか。アートと大衆にウケる商業的なものが結びつかない人も多いですが、ティム・バートンは自分のアートワークが商業的なものとつながっている。ものすごい素敵なアーティストだと思います。あんな風になれるといいですね。

撮影方法など技術的な面はどのように勉強したのですか?

基本、独学で……。“つくりたい欲”が先に勝っちゃってつくった感じで(笑)。キャストも集めずに撮った『歴史から消えた小野小町』は、自分が13役も演じる羽目になって(笑)。あのときに比べたら、少しは成長しているかな。

日々、勉強して経験しながら学んでいる感じです。ただ、何も知らなかったからできたこともあると思います。想いだけで突っ走るなんてことは、今後どんどん減っていきそうですから……。これからは知識を入れつつ、その中で何かを壊したり積み上げたりしながら自分の映画のつくり方を試していきたいです。

またどんな作品を生み出すのか楽しみにしています。

私も楽しみ。ひとつずつ超えていった先に何があるのか。 ネタに関しては実は結構貯めていて、日常生活で思ったことや感情をメモ書きしています。それを引っ張り出したり、ディグったり。まだまだネタがあるから映画はつくっていきたいです。

これから、この映画の公開準備のため2年間休学していた大学を卒業して、社会に出たらどう変わるか……。ただ最近はもっと勉強したい欲が出てきました。外の世界を知って映画と向き合ったからこそ、考えを深めたいと思ったり、学校の活用方法が見えたりした気がして。これ、高校生には声を大きくして言いたいかも。無理に10代で大学に行くのではなく、一度、社会に出て自分が何をしたいのかを見つけてから学んだ方がいいと思う。その方が絶対に真面目に勉強するし、勉強の面白さに気づくと思います。

クリエイターとしてあえて意識していることを教えてください。

元気のないときはめちゃくちゃ食べる。体が弱っているとクリエイトしたくてもできないし、心も不安定になってしまうからこれは絶対です!

あとは踊る。無我夢中で踊っていると、悩んでいたことが解決したり、ハッと気づかされたりするんですよ。瞑想に近いのかな? 考え過ぎちゃうことも多いから、一度、頭の中を空っぽにするのも必要だと思います。

クリエイターとして大事なことは何だと思いますか?

つくり続けることと頭の中のものを吐き出すこと。私はすごくシャイなので、思っていることを人に伝えるのが下手で、それを映画や絵に託して発散しています。そして想いを託した作品を世の中に出して知ってもらうことも大切だと思います。そこで自分のことが見えてきたりしますから。

取材日:2022年6月7日 ライター:玉置 晴子 ムービー:村上 光廣

『愛ちゃん物語♡』

©「愛ちゃん物語♡」作品チーム

7月29日(金)より全国順次公開

出演:坂ノ上茜
黒住尚生 松村亮 森衣里 林田隆志 西出結
上埜すみれ 竹下かおり 山根真央 大門大洋
及川欽之典 心結 保土田寛
監督・プロデューサー・脚本・編集:大野キャンディス真奈
撮影:澤木宥吾 小島翔 呉大雅俊 小畑智寛 田村悠
助監督:Ryo Matsumura 竹井啓悟
制作担当:山口小百合
録音:小畑智寛 野木亮太朗
美術:博徒出陣さほこ
スタイリスト:髙橋あみ
音楽:石川柚太 中島直樹 須藤佳帆
ポスターデザイン:古瀬彩香
アソシエイトプロデューサー:Monica 久米修人
共同プロデューサー:和田有啓
製作:「愛ちゃん物語♡」作品チーム
配給:Atemo
2021年/ビスタ/5.1ch/DCP/88分
公式サイト:https://aichan.atemo.co.jp/
公式SNS: Twitter(@lovelylittleai) Instagram(@lovelylittleai)
©「愛ちゃん物語♡」作品チーム

 

ストーリー

愛ちゃん(16)は、仕事人間であり毒親の父、鉄男に過度に束縛され、自由を知らずに成長した。父とは一緒に食事もせず、メールだけの仲。友達もおらず、オシャレも知らない愛ちゃんは、ある日偶然、聖子さんと出会う。文化も生活も異なる2人は一緒に過ごすなかで、家族のようで友達のような関係になっていく。しかし、聖子さんにはある秘密があって… 普通って何?家族って?愛って?ひとりぼっちだった愛ちゃんが見つけた「♡」とは?


 

クリエイティブRoad|オンラインセミナー

現役大学生がなぜ映画を全国公開できたのか!?大野キャンディス真奈監督がその道のりを解説!

~終了しました~

プロフィール
『愛ちゃん物語♡』監督
大野キャンディス真奈
1998年生まれ。2017年にデビュー作『歴史から消えた小野小町』を監督。カナザワ映画祭や東京学生映画祭で話題に。現在は、東京藝術大学油画科に在学しながら、映画監督として SHINPA など出演、活動。またMV (アニメーション)、絵画制作活動、幼稚園でのワークショップなども開催している。

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